ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「斜交」

2018-01-17 20:07:05 | 芝居
12月9日 草月ホールで、古川健作「斜交」を見た(演出:高橋正徳)。

東京オリンピックの興奮冷めやらぬ昭和40年。日本中が注目する誘拐事件の容疑者の取り調べが始まった。刑事に許された期限は十日間。
三度目の取り調べとなるこの機会を逃したら、もうその男を追求することはできない。警視庁がメンツをかけて送り出したこの刑事の登場に
取り調べ室は最後の格闘の場となった(チラシより)。

戦後最大の誘拐事件と言われる「吉展(よしのぶ)ちゃん誘拐事件」(昭和38年発生)。容疑者拘留の最後の日、劇的な展開で解決に至った
この事件を、劇団チョコレートケーキの古川健が戯曲化した。
この事件は、身代金の受け渡しが行われたのに犯人を取り逃がすという警察側の大失態と、二年後、迷宮入り寸前と思われる中、呼ばれた
平塚八兵衛が自供を引き出し、遺体発見、死刑判決、処刑に至るという劇的展開で有名である。

結局、供述の「裏を取る」という初歩の初歩を怠った以前の二度にわたる捜査の失敗のために、三塚(作中の平塚刑事の名)は苦労したのだった。
二度の警察の失敗を見て、木原は自信をつけ、「あんな化物になってしまった」。しかも当時、容疑者の人権保護が叫ばれ始め、刑事としては
それまでよりやりにくくなったという時代背景もあった。

あることからそんな木原が油断して自慢話を始め、その内容が発端となって、ついに彼のアリバイが崩れてゆく。事態の意味を悟り、彼は
ガタガタ震え出す・・・。
自白後はナレーションのみだが、木原は人が変わったように素直にすべてを語ったという。
自供と遺体発見は、殺された4歳男児とその両親にとってせめてもの救いであると同時に、犯人である彼自身にとっても大きな救いだったことが
分かる。貧しさと足の障害もあって道を踏み外してしまった彼は、現世で人生をやり直すことはできなくなったが、その代わり、今度こそ「真人間
として」生まれて初めて清々しい気持ちで残りの日々を生きることができるようになったのだ。
彼は教誨師に短歌を教わり心の平安を得られたという。本当によかった。

犯人木原役の筑波竜一が驚くばかりの名演。
木原の母親役の五味多恵子も適役で、素晴らしい味わい。
刑事三塚役の近藤芳正は、いかにも昭和30年代の刑事らしい雰囲気を出していた。
若い刑事石橋役の中島歩は、とにかく声がいい。

客席には吉展ちゃん事件を知らないような若い女性が多い。脚本家古川健のファンなのか、あるいはイケメン中島歩目当てなのだろう。

タイトルの意味が分からない。読みもしゃこうでなく、しゃっこうだという。

木原が愛人に向かって、手で、ある仕草をしたことが彼を追い詰める一つの材料になっている。
わが愛する「カラマーゾフの兄弟」で、長男ミーチャが三男アリョーシャに対して、自分の胸の、首の下あたりを指差す仕草をしきりとしていた
ことを思い出した。それが一つのきっかけとなって、アリョーシャは兄の(父親殺しの件での)無罪をますます確信するのだった・・・。

    
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