6月24日新国立劇場小劇場で、クシシュトフ・キェシロフスキ作「デカローグ 7 ある告白に関する物語」を見た(演出:上村聡史)。
国語教師と女子高生の娘との間に生まれた子供を
密かに自分の子供として育ててきた母親の真実。
両親と同居している22歳のマイカは、最終学期中に大学を退学。彼女は6歳の妹アニヤを連れて
カナダに逃れたいと考えていた。実はアニヤはマイカが16歳の時に生んだ子供で父親は
マイカが通っていた学校の国語教師ヴォイテクであった・・・(チラシより)。
夜、寝ているアニヤが泣き叫び続けるので、そばで寝ていたマイカは背中をさするが、泣き止まない。
すると別室からマイカの母が来て、アニヤを抱き上げ、やさしく「大丈夫よ、また狼の夢を見たのね、
狼なんていないのよ・・」と背中をさすりながらなだめ、寝かせる。
母はマイカを見て冷たく、「できないんなら、しようとしないで」と言い放つ。
その冷たさにはぞっとする。
マイカが「どうして狼だと分かったの?」と尋ねるが、母は彼女をじろっと見ただけで答えずに去る。
マイカはパスポートを取りに行く。
自分のは取れたが、妹のは母親の同意書が必要で、それと引き換えでないともらえないという。
マイカは幼稚園にいるアニヤを呼び出し、「誕生日おめでとう。今日は遊園地に行くんでしょ?」
「うん、ママと行くの」
「私も行ってもいいかな?」
「うん」
「その後、とっても楽しいことしよう。ママに内緒で」
遊園地で母とアニヤはショーを見ている。
アニヤはスタッフと一緒に踊り出す。
母が目を離したすきに、スタッフに化けたマイカがアニヤを連れ去る。
マイカはアニヤの父・ヴォイテクの部屋に行く。
突然のことにヴォイテクは当惑して、「この子が・・・あの子?」。
彼は亡父の部屋に住み、ぬいぐるみを作っている。
夜、仕事に出かけるようだ。
アニヤは疲れて寝る。
マイカとヴォイテクが話すうちに、これまでの経緯が判明。
母親は校長。ヴォイテクはその学校の新任教師。マイカは16歳だった。
マイカの妊娠が分かると、母は彼に「私に任せて。このことが知られれば、あなたは学校にいられなくなる」と脅した。
でも彼は、まさか母親がアニヤを自分の子として届け出るとは思ってなかった。
彼はマイカの荷物の中からパスポートを見つける。
マイカはアニヤに「ママって言って!」と何度も言うが、アニヤはどうしても「マイカ」としか言わない。
マイカは彼に「母を脅して来る」と言い、公衆電話から実家に電話する。
母は遊園地でアニヤがいなくなってパニック。
帰宅して夫と警察に行く。
それから夫が(妻に指示されて)あちこちに電話する。
ヴォイテクにも電話するが、彼はまったく知らないと、とぼける。
その後、マイカから電話がかかって来る。
マイカ「アニヤといる」
母 「ああ!よかった!今どこ?」
マイカ「あなたは私からすべてを奪った。二人でカナダに行く。同意書が必要なの」
母 「待って!」
マイカ 「2時間後にまた電話する」
母は夫に「あなたは何もできない。教会のオルガンを造るだけ」と罵る。
マイカはヴォイテクにこれまでのことを話す。
アニヤが赤ん坊の頃、マイカが林間学校か何かに行き、帰宅すると、母親がアニヤに自分の乳首を吸わせていた。
ヴォイテク「出ないだろう?!」
ヴォイテクはマイカに、ここにいつまでもいてくれてもいい。俺は引っ越す、と言う。
彼はアニヤとも仲良くなる。ぬいぐるみを作ってみせる。
一方自宅では、母が夫に言う。
「こんなことになるなんて。マイカがアニヤを誘拐するなんて!
ずっと思ってた、マイカがどこか遠くに行ってしまって、アニヤとずっと一緒に暮らせたらって」
夫「お前はマイカに自分の理想を押しつけた。着るもの、習い事、成績・・・」
母が言い返そうとすると、「あの子を一度でも褒めたことがあるか?」
母は絶句。
マイカはまた母に電話する。
マイカ「2時間たったわ」
母 「パパがあなたに家を買ってあげる。週末にアニヤと遊園地に行ってもいい。・・に行ったり・・
それでどう?」
マイカは全く動じない。
マイカ「同意書をくれないと、一生アニヤには会えない。5、4、3・・」
母 「わかった!同意書を書くわ!」
電話は切れる。
ヴォイテクは、帰宅してマイカたちがいないのに気づき、マイカの実家に電話する。
「二人はさっきまでここにいました。まだ遠くへは行ってないはずだ」
3人は、線路の北側と南側を手分けして探すことにする。
マイカはアニヤを連れて、駅に着くが、日曜なので、始発の電車が出るまでまだ2時間あるという。
係の女性はマイカを見て「男から逃げて来たのね?」と言う。
寒いから、と親切に待合室の中に入れてくれる。
2人はそこのベンチで寝る。
両親が駅に着いて、係の女性に尋ねると、彼女はそういう二人連れが来たけど、あっちの方に行った、とごまかしてくれる。
だが、母親の声に気がついたアニヤが「ママ!」と叫んで出て来る。
母親はアニヤを抱きしめる。
マイカは荷物を持って3人の前を通り過ぎようとし、母が彼女の手を取って引き留める。
マイカはゆっくり母の手をはずし、走って始発電車に飛び乗る。
去ってゆく列車にアニヤが「マイカ!」と叫ぶらしいが、声は聞こえない。幕
~~~~~~~ ~~~~~~~
結局、この恐るべき母親の願い通りになったかと思うと腹立たしいが、今のマイカには子育ては難しそうだ。
ヴォイテクが言うように、彼女は未熟で衝動的。感情のままに行動し、理性的になることが難しい。
それもやはり、幼児期からの母親との関係の不全が原因だろう。
アニヤとの関係も、まだ希薄だし。
大学中退の身で、何の資格もなく、難民でもないのに、いきなりカナダに行って、どうやって生活するつもりなのか。
哀れなマイカ。
この6年間は、この世のどこにも居場所がない、まるで悪夢のような暮らしではなかったか。
母親の愛を得られず、寂しさを埋めるため、教師と深い仲になるが、妊娠によって彼との間も裂かれてしまう。
そして生まれた子供までが、母に奪われ、自分の実の子なのに母親として接することもできなかった。
十戒の第7戒は(カトリックでは)「盗んではならない」。
このテーマから、この芝居を思いつくというのが、とにかくすごいとしか言いようがない。
国語教師と女子高生の娘との間に生まれた子供を
密かに自分の子供として育ててきた母親の真実。
両親と同居している22歳のマイカは、最終学期中に大学を退学。彼女は6歳の妹アニヤを連れて
カナダに逃れたいと考えていた。実はアニヤはマイカが16歳の時に生んだ子供で父親は
マイカが通っていた学校の国語教師ヴォイテクであった・・・(チラシより)。
夜、寝ているアニヤが泣き叫び続けるので、そばで寝ていたマイカは背中をさするが、泣き止まない。
すると別室からマイカの母が来て、アニヤを抱き上げ、やさしく「大丈夫よ、また狼の夢を見たのね、
狼なんていないのよ・・」と背中をさすりながらなだめ、寝かせる。
母はマイカを見て冷たく、「できないんなら、しようとしないで」と言い放つ。
その冷たさにはぞっとする。
マイカが「どうして狼だと分かったの?」と尋ねるが、母は彼女をじろっと見ただけで答えずに去る。
マイカはパスポートを取りに行く。
自分のは取れたが、妹のは母親の同意書が必要で、それと引き換えでないともらえないという。
マイカは幼稚園にいるアニヤを呼び出し、「誕生日おめでとう。今日は遊園地に行くんでしょ?」
「うん、ママと行くの」
「私も行ってもいいかな?」
「うん」
「その後、とっても楽しいことしよう。ママに内緒で」
遊園地で母とアニヤはショーを見ている。
アニヤはスタッフと一緒に踊り出す。
母が目を離したすきに、スタッフに化けたマイカがアニヤを連れ去る。
マイカはアニヤの父・ヴォイテクの部屋に行く。
突然のことにヴォイテクは当惑して、「この子が・・・あの子?」。
彼は亡父の部屋に住み、ぬいぐるみを作っている。
夜、仕事に出かけるようだ。
アニヤは疲れて寝る。
マイカとヴォイテクが話すうちに、これまでの経緯が判明。
母親は校長。ヴォイテクはその学校の新任教師。マイカは16歳だった。
マイカの妊娠が分かると、母は彼に「私に任せて。このことが知られれば、あなたは学校にいられなくなる」と脅した。
でも彼は、まさか母親がアニヤを自分の子として届け出るとは思ってなかった。
彼はマイカの荷物の中からパスポートを見つける。
マイカはアニヤに「ママって言って!」と何度も言うが、アニヤはどうしても「マイカ」としか言わない。
マイカは彼に「母を脅して来る」と言い、公衆電話から実家に電話する。
母は遊園地でアニヤがいなくなってパニック。
帰宅して夫と警察に行く。
それから夫が(妻に指示されて)あちこちに電話する。
ヴォイテクにも電話するが、彼はまったく知らないと、とぼける。
その後、マイカから電話がかかって来る。
マイカ「アニヤといる」
母 「ああ!よかった!今どこ?」
マイカ「あなたは私からすべてを奪った。二人でカナダに行く。同意書が必要なの」
母 「待って!」
マイカ 「2時間後にまた電話する」
母は夫に「あなたは何もできない。教会のオルガンを造るだけ」と罵る。
マイカはヴォイテクにこれまでのことを話す。
アニヤが赤ん坊の頃、マイカが林間学校か何かに行き、帰宅すると、母親がアニヤに自分の乳首を吸わせていた。
ヴォイテク「出ないだろう?!」
ヴォイテクはマイカに、ここにいつまでもいてくれてもいい。俺は引っ越す、と言う。
彼はアニヤとも仲良くなる。ぬいぐるみを作ってみせる。
一方自宅では、母が夫に言う。
「こんなことになるなんて。マイカがアニヤを誘拐するなんて!
ずっと思ってた、マイカがどこか遠くに行ってしまって、アニヤとずっと一緒に暮らせたらって」
夫「お前はマイカに自分の理想を押しつけた。着るもの、習い事、成績・・・」
母が言い返そうとすると、「あの子を一度でも褒めたことがあるか?」
母は絶句。
マイカはまた母に電話する。
マイカ「2時間たったわ」
母 「パパがあなたに家を買ってあげる。週末にアニヤと遊園地に行ってもいい。・・に行ったり・・
それでどう?」
マイカは全く動じない。
マイカ「同意書をくれないと、一生アニヤには会えない。5、4、3・・」
母 「わかった!同意書を書くわ!」
電話は切れる。
ヴォイテクは、帰宅してマイカたちがいないのに気づき、マイカの実家に電話する。
「二人はさっきまでここにいました。まだ遠くへは行ってないはずだ」
3人は、線路の北側と南側を手分けして探すことにする。
マイカはアニヤを連れて、駅に着くが、日曜なので、始発の電車が出るまでまだ2時間あるという。
係の女性はマイカを見て「男から逃げて来たのね?」と言う。
寒いから、と親切に待合室の中に入れてくれる。
2人はそこのベンチで寝る。
両親が駅に着いて、係の女性に尋ねると、彼女はそういう二人連れが来たけど、あっちの方に行った、とごまかしてくれる。
だが、母親の声に気がついたアニヤが「ママ!」と叫んで出て来る。
母親はアニヤを抱きしめる。
マイカは荷物を持って3人の前を通り過ぎようとし、母が彼女の手を取って引き留める。
マイカはゆっくり母の手をはずし、走って始発電車に飛び乗る。
去ってゆく列車にアニヤが「マイカ!」と叫ぶらしいが、声は聞こえない。幕
~~~~~~~ ~~~~~~~
結局、この恐るべき母親の願い通りになったかと思うと腹立たしいが、今のマイカには子育ては難しそうだ。
ヴォイテクが言うように、彼女は未熟で衝動的。感情のままに行動し、理性的になることが難しい。
それもやはり、幼児期からの母親との関係の不全が原因だろう。
アニヤとの関係も、まだ希薄だし。
大学中退の身で、何の資格もなく、難民でもないのに、いきなりカナダに行って、どうやって生活するつもりなのか。
哀れなマイカ。
この6年間は、この世のどこにも居場所がない、まるで悪夢のような暮らしではなかったか。
母親の愛を得られず、寂しさを埋めるため、教師と深い仲になるが、妊娠によって彼との間も裂かれてしまう。
そして生まれた子供までが、母に奪われ、自分の実の子なのに母親として接することもできなかった。
十戒の第7戒は(カトリックでは)「盗んではならない」。
このテーマから、この芝居を思いつくというのが、とにかくすごいとしか言いようがない。
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