ロビンの観劇日記

芝居やオペラの感想を書いています。シェイクスピアが何より好きです💖

「対話」

2023-02-28 16:25:02 | 芝居
2月21日俳優座スタジオで、デヴィッド・ウィリアムソン作「対話」を見た(俳優座公演、演出:森一)。



調停人ジャック・マニングが今回取り組むのは、既に結審した事件の、加害者家族らと被害者の両親との修復――「心を癒すのではなく
摩擦を減らす」試みだ。服役者スコットの母親と弟妹、伯父、かつてのセラピストと被害者家族――の7名が出席。

オーストラリアを舞台に、日本ではまだ馴染みのない「修復的司法」を紹介しつつ、人間関係の修築と、その先の希望を描いて
好評を博した『面と向かって』(2021年)に続く「ジャック・マニング」シリーズ第2弾!
加害者・被害者の狭間で、マニングは如何に耳を傾けるのか(チラシより)。

過去にも何度かレイプ事件を起こしたスコットは、数か月前、20歳のドナをレイプ、しかも全身に暴行を加えて殺した。
舞台上手には、被害者ドナの父デレク(斉藤淳)と母バーバラ(安藤みどり)夫妻。
下手に加害者スコットの母コーラル(山本順子)、伯父ボブ(河内浩)、姉ゲイル(天明屋渚)、弟ミック(辻井亮人)が座る。
中央に調停人ジャック・マニング(八柳豪)とスコットのセラピストだったローリン(佐藤あかり)。
この8人が、これから話し合いをすることになるわけだが、両者の歩み寄りは非常に困難なことは目に見えている。
だからみんな、いやいや、あるいは仕方なく集まって来ていた。
この会を開いて欲しいと頼んだのは、スコットの母親だった。
彼女は、加害者の家族である自分たちもどんなに心を痛め、苦しんでいるかを伝えたかった。
デレクは「この会にどんな意味があるんだ!?」とジャックに食ってかかる。
彼は当然ながら、加害者の一家に憎しみと恨みをぶつけてやろうと思って来ていた。

スコットの一家は貧しく、母はシングルマザーで3人の子を育て、夜も仕事で忙しかった。
彼女は長男スコットを溺愛した。彼は人を笑わせるのが得意で、人の真似もうまい。
だが生まれた時から乱暴で、欲しいものは腕づくで自分のものにした。
忙しい母は、中小企業の経営をしている自分の兄に、スコットの父親代わりになってくれと頼んでいたが・・。
姉ゲイルは一家で一人だけ大学卒。
弟の起こした事件の背景には、社会問題も一つの要因として存在する、と主張する。
オーストラリアにも格差があるらしく、彼らは貧困層の住む地域に住んでいる。
一方、被害者一家の家は富裕層の多い地域にある。
弟は学歴もなく、将来の見通しもなく、欲しいものは力で奪い取るしかなかった、と彼女は言う。

バーバラは、娘ドナの思い出を語る。
ドナは小さい頃から人気者で、大勢の友人に囲まれていた。
自分と娘の関係も最高によかったと言い出すが・・・。

スコットの弟ミックは、小さい時から兄スコットにいじめられていた。
彼から見れば、兄は生まれながらのワルだ。
事件当時、彼ら兄弟は同じスーパーで働いていた。
その店に客として来ているドナに、兄が目をつけているのに気づいていた。
兄にやめろ、と言ったが、兄は「おれの言うことなんか聞かない」。
ドナに忠告しようとしたが、ドナは「おれの服としゃべり方を見て」軽蔑の目を向けて去った・・・。

セラピストとしてレイプ犯スコットと何度も面談していたローリンも話し出す。
何十回も面談して報酬をもらっていたくせに事件を防ぐことができなかった、とデレクに責められた彼女は、これまですべてのケースでうまくいってきました、
この件だけなんです、うまくいかなかったのは、と主張するが・・・。

ここにいる全員が、深く傷ついていた。
バーバラは教師の仕事を辞めた。
ローリンも、現在、治療のための休暇を取っているが、もうセラピストの仕事を続ける気はないと言う。

ここに集まった一人一人が、語るべきことを持っていた。
この忌まわしい事件は、各人の、小さな、本当にちょっとした言葉や行動で、未然に防ぐことができたかも知れない。
そのことが、次第にわかってくる。
その、雲が晴れてゆくような芝居の進展が面白く、集中力が途切れることがない。
非常によくできた戯曲だ。

役者たちは、みな驚くほどうまい。しかも熱演。
バーバラ役の安藤みどりがうまいことは知っていたが、他にもデレク役の斎藤淳、セラピスト役の佐藤あかり、など皆さん好演。
キャスティングもいい。
伯父役の河内浩と末の弟役の辻井亮人も、的確で味のある演技を見せる。
俳優座は本当にレベルが高くて素晴らしい。
ただ、今回みんな、ちょっと泣き過ぎではないだろうか。

この劇作家の『面と向かって』を2021年に見た(森一演出、俳優座劇場)。
あれも面白かったが、女性の描き方がステレオタイプで古臭く、いささか辟易した。
幸いこの作品は、そんなことはなかった。
設定があまりに暗く重苦しいので、一体これが本当にどうにかなるのか、と疑問に思ったが、後味もいいし、驚くべき名人芸のような書きぶりだ。

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