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巡洋戦闘艦タイガーウィンドゥの航海 第6回 決着

 鎧袖一触。緒戦で勝負がついたと思われた。タイガーウィンドゥの主砲イト、ハラ、トリの砲撃で多大な損害をスワローテイルに与えたが、撃沈にまではいたらなかった。
 その後。タイガーウィンドゥとスワローテイルは並走して交戦するが決着はつかない。
 長い海戦になった。3門あるタイガーウィンドゥの主砲の1門。ハラの砲撃が効いた。スワローテイル撃沈。
 タイガーウィンドゥはなんとか航路を元に戻し、母港コシエンに進路を取った。コシエンには宿敵巨大戦艦ナベツネジャインが待ち構えているのだ。
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スペシャルエクスプレス虎風号 復路篇 虎風号大爆破

阪鉄電鉄のプレミアム電車スペシャルエクスプレス虎風号は、定刻の午前10時に三宮駅を出発した。昨日、梅田からの往路の客を降ろした虎風号は、一晩かけて車内清掃と車両の整備をおこなった。神戸の三宮から大阪の梅田に向かって復路の旅に出る。
神戸、芦屋、西宮、尼崎、大阪と、阪神間を東へと走る。床には虎の皮が敷き詰めてある。天井には伊藤若冲の虎の絵。接客員は阪鉄タイガースの選手と宝塚歌劇団の団員があたる。200人の乗客はこれから3時間の旅を満喫するはずであった。
「はい。こちら虎風号運転室。チバです」
「運転司令室ウツイだ。チバくんよく聞け。虎風号に爆弾が仕掛けられた」
「わかりました。いま、春日野道を過ぎたところです。岩屋で停めますか」
「電車を停めてはならん。その爆弾は時速10キロになれば爆発する」
「梅田に着けばイヤでも停めなくてはなりませんよ」
「時速15キロを維持しろ。時間を稼ぐんだ。それまでに爆弾を発見する」
「どんな爆弾ですか」
「生物兵器爆弾だ。爆発するとマイコラス菌が半径50キロに散布される。この菌に感染するとマイオコラス肺炎になる」
「どんな病気です」
「この病気に罹患すると100パーセント読切シャイアンツのファンになる」
 関西の経済は阪鉄タイガースのファンが支えている。それが全員読切シャイアンツのファンになると、大まかな試算では65兆円の経済的損失。関西は壊滅する。ひいては日本の壊滅となる。
「この電車は都合により梅田まで停まりません」
「おい、どういうことだ。途中のイベントを楽しみに、この電車に乗ったのに。停まらんとはなんだ。カネ返せ」
「停まらんということは、ずっとこの電車に乗っててもええねんな。ラッキー」
「おい、ワシはアマで途中下車する予定やったんやぞ。ほかはどうでもええけどアマで停め」
「どうでもええとはなんや。ワシのつれあいが芦屋で乗る予定やったんやぞ。つれあいは芦屋マダムや。きょうは4月1日や。つれあいがビゴでポアソン・ダブリル買ってきて、いっしょにここで食うつもりやったんやで」
「運転指令室。運転指令室。ウツイ室長。車掌のリュウです。乗客が騒ぎ始めました」
 虎風号は岩屋を通過した。時速15キロののろのろ運転である。それが乗客のイライラをますますつのらせた。
 大阪府警曽根崎署に対策本部が設置された。府警の腕っこきが集められた。
「虎風号の梅田到着予定時間は午後9時。それまでなんとしても爆弾を除去しなくてはいかん。そのためには一刻も早く犯人を逮捕するべし」
 本部長の訓示が終わった時、対策本部の専用電話がなった。
「阪鉄の『お客さま問い合わせ室』からです。爆弾犯を名のる男から電話だそうです」
「こっちに転送しろ」
「はい府警本部のスズキ」
「一度しかいわないからよく聞け。西宮の満池谷墓地の手ふり地蔵の下に、トラッキーのぬいぐるみを置け。持って来るのは阪鉄タイガースのイトイだ。イトイ一人で来るんだ。イトイとぬいぐるみを確認したら爆弾の処理方法を教える」
「不思議な要求だな」
「警視、目的はぬいぐるみではなく、イトイではないですか。イトイを拉致するんですよ」
「身代金か。なぜイトイなんだ」
「今のタイガースからイトイがいなくなるとどうなる」
「大きな痛手です」
「タイガースの次の試合は」
「明日から、甲子園でシャアンツ戦です」
「判った。犯人は関西のシャイアンツファンだ」
 関西にもごく少数シャイアンツファンは存在する。タイガースファンに囲まれて息をひそめるようにして生きている。もしシャイアンツファンであることがバレれば関西では非常に生き難い。
「室長。爆弾が判りました。これは夙川の鉄橋を虎風号が通るとき、下から撮影した動画です。ここを見てください。床下に円筒形の物体があるでしょう」
「ここはどこだ」
「3号車です」
「そこの鉄板は切断可能か」
「7ミリです。可能です」
「アセチレンと酸素のボンベ、ガス切断器を用意しろ」
「容疑者がわれました」
 神戸市長田区。パトカーの音が聞こえる。廃工場の中に男が3人。壁には帝王ナベツネの御真影。「3」と大書された寄せ書きの旗。
「オレたちゃ、もともとみじめな生き物だったんだ」
「だれも死なないだれも殺さない完全犯罪をもくろんだんだが」
「生まれたところが悪かったんだ。親の代からのシャイアンツファンだ。おれは子供のころからさんざんイジメにあってきたんだ」
「こちら警察。お前たちは包囲した。おとなしくお縄につけ」
「うるさい。お前たちに関西のシャイアンツファンの気持ちが判ってたまるか」
「うわっ。ホシが変身したぞ」
 3人の関西のシャイアンツファンは、小さな兎に変身したのである。そこにはメモが残されていた。

「爆弾は取り外したか」
「はい」
「メモによると、円筒形の爆弾の頂点に衝撃を加えば信管が無効になる。ここだ。ここに時速150キロ以上のスピードでまっすぐに物体を当てればいい」
「で、どこでやる」
「武庫川の鉄橋」
「だれがやる」
「シンタロウ」
「あいつはコントロールがない」
「アンドウ。コントロールはいいが150キロもでない」
「だったらだれがやる」
「みんな、そんな責任重大なことはダメと尻ごみしてます」
 虎風号の最後尾に円筒形の爆弾が置かれた。その車両の前部に一人のピッチャーが立っている。キュージだ。結局、今までいちばん修羅場を経験したピッチャーということでキュージが選ばれた。
 キュージ、振りかぶって投げた。球は正確に爆弾の頂点に当たった。
 
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