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最終兵器

 わが国もかの国も、根っこは同じなんだろう。ソネ食い民族なのだ。主食がソネで、大好物がソネなのだ。
 かってはソネは両国で最も豊富に収穫できる穀物だった。栽培面積も広く、多くの国民がソネ作に従事し、国の最も重要な産業だった。
 ひと口にソネといっても、いろいろな品種がある。農A五号という昔からの品種を好む人もいれば、ウワメヅカイという新しい品種を好む人もいる。わが国得意とする品種もあるし、かの国産の方がおいしい品種もある。 両国はソネの取引で、交流を深め、大の友好国だった。世界で最も仲の良い二国だった。国境を接する国どうしこんな仲の良い二国は歴史上かってなかったといわれた。
 それが今では、泥沼の戦争をしている。いつ終わるともしれない戦争。かの国の存在はわが国の存在を否定する。かの国も同じだろう。
 全地球的な気候変動がすべての災いの元だった。両国の年間平均気温が三度下がった。 ソネは比較的温暖な気温を好み、特に開花期に数度でも気温が低いと開花しない。両国はソネの栽培に向かない土地になってしまった。
 晩秋になると、全土で黄金色のソネの実がたわわに実り、両国で大収穫祭が盛大に催された。それが年々収穫量は減り、ソネは貴重品となった。人々はソネの代わりにアジアから伝来したイネを食べて飢えをしのいだ。
 一カ所だけ、昔どおり、ソネが豊富に収穫できる場所がある。両国の国境地帯。そこは気流の関係と、豊富にある温泉によってソネの好む気温が保たれている。両国はその場所の領有権を主張し始めた。

「将軍、博士からお電話です」
「私だ。すぐ行く」
「例のアレ、完成ですか」
「そうだ。ヤツには苦労させられた」
「博士は戦争絶対反対でしたね。よく協力してくれましたね」
「戦争するしないは、われわれ軍人や政治家に任せておけばいいんだ。科学者は命じられた兵器をだまって開発すりゃいいんだ」
 M重工K工場。博士の設計した兵器を試作した工場である。軍の車が駐車場にすべり込んだ。
「あいさつは抜きだ。すぐ実物を見たい」
 将軍が小走りに工場に入る。十トンの天井クレーンが長さ五メートルほどの円柱を運んできた。白髪の初老の男がクレーンのペンダントスイッチを操作している。
「やあ博士よくやった。博士自らクレーン操作か」
「デリケートな物です。私が移動させて将軍にお見せしようと思ってました」
 円筒は静かにパレットの上に置かれた。
「すぐ実験だ」
「実験はできません」
「なぜだ」
「完成品はこれだけです。この一発作るのが精一杯でした」
「ではぶっつけ本番か」
「はい」
「よし、ただちにミサイルに搭載してあいつらに打ち込め。これで本当に戦争が終わるんだな」
「間違いありません。平和が訪れます」

「大統領、大変です」
「あいつらが最終兵器を完成して、わが国に打ち込もうとしてます」
「なに」
「でも、ご安心ください。開発担当の博士を買収して設計図を手に入れてます。わが国でも同様の兵器を完成させてあります。究極の兵器です。やつらを皆殺しにして戦争を終わらせます」
「よし、連中が撃つより先に撃て」

 わが国の基地から一発のミサイルが発射された。かの国の基地からも発射された。二発のミサイルは国境ですれ違って二国の上空で炸裂した。
 爆風はなかった。そのかわりにパラパラと植物の種が落ちてきた。ソネの種だった。晩秋になった。久しぶりにソネの大豊作だった。
「とすると博士は兵器の開発してなかったのですか」
「ワシは戦争は絶対にイヤだ。兵器なんかワシは作らん。友達の農学博士や植物学者に頼んで、低温でも収穫できるソネを開発しとったのだ」
 二国は再びソネが豊富に実る国になった。人々はおいしいソネをお腹いっぱい食べた。
 もちろん戦争は終わった。二国はまた昔の友好を取り戻した。
 
 
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