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も、いいんじゃない

 入口のプレートには「海神」とあった。間違いない。ここだ。
 シャッターが並ぶ商店街の一角にその店がある。店名を書いたランタンが、小さな灯を灯している。
 バー海神。マスターが一人でやっている小さな店だ。三〇年ぶりだ。このS市には三年住んだだけだった。S市にはM電機のS工場があった。私はその工場で三年間資材の仕事をした。その後、関東のK市に転勤になり、そこで昨年定年となった。
 親戚の結婚式で神戸に来ていた。神戸で一泊し、ふと思い立ってS市にやってきた。神戸から電車三〇分ほどでS市だ。 
 S市にいたころは、毎晩のように海神に寄った。決して愛想の良い店ではない。女の子がいるわけではない。中年のマスターが一人でやってる店だ。
今、その海神の入口の前に立っている。懐かしい。あのころ私も若かった。女房、いや、今は元女房というべきか、彼女と出会ったのはこの店だった。
 
 先客は女性客が一人。彼女の二つ隣の席に座る。この店で女性客はめずらしい。
 視線があった。軽く黙礼する。彼女の目尻で何かが光った。涙かな。
 それが元女房だった。小さな角度でも道程が長いと大きな角度となる。三〇年という歳月は、知らない間に大きくなった角度に気づかせるには充分な時間だ。
 別に理由はない。「も、いいんじゃない」というのが理由だった。子供がいなかったのが幸いだったのか。彼女が私と同じぐらい収入があったのが、私を安心させたのか。お届け物の伝票に印を押すように離婚届けに印を押した。
 
 私も歳を取った。商店街を吹き抜ける風が冷たい。海神に入った。
 先客がいた。初老の婦人だ。
「久しぶり」
「私たちにとってこのお店は入口ね」
「も、いいんじゃない」 
 再婚した。理由は別にない。
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ナゴヤドームの呪いは生きとんのんか

ナゴヤドームを鬼門とか呪いの館とかゆうのんは、去年までのことで、弱わなった今年の中日相手にはそんなんあらへん思うとった。ところがきょうはナゴヤドームの呪いがでよった。その呪い先発スタンリッジにかかった。ボール先行でごっつい球数が多い。打線にもかかった。中日先発大野を打ちあぐねる。良太のホームランと鳥谷のタイムリーの2点だけ。
 巨人が負けとうか勝っとうか知らんが、もうどうでもええやん。巨人にマジックは遅かれ早かれ点灯すんねんから。それにワシ、クライマックス・シリーズなんてもんは反対やから、あとは虚心坦懐に阪神タイガースの野球を楽しも。
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