goo

64


   横山秀夫 文藝春秋

 警察小説の名手横山秀夫の7年ぶりの新作。600ページを超える大作である。そして傑作だ。面白さに引きつられて一気に読まされた。
 昭和64年D県で誘拐事件。7歳の少女が誘拐された。身代金は奪われ少女は死体で発見された。D県警が初めて手がけた誘拐殺人事件だ。それから14年。犯人は未だに捕まっていない。この事件はロクヨンと呼ばれてD県警の警察官たちのトラウマとなっている。
 主人公はD県警の広報官三上警視。公私ともに悩みごと多し。家では一人娘が家出。妻は外出できない症候群。警察では記者クラブと、事件当事者の名前を匿名にするか実名を公表するかで対立。そうこうしていたら、警察庁長官がD県を視察するとのこと。ロクヨンの専従捜査班の激励と遺族の慰問、殺害現場への花束献花が目的。なんでいまごろ。警察はあの事件を忘れていないぞとのPRだと思われるが。はたしてどうだろう。
 組織内が舞台の小説である。組織内における個人対個人の対立と葛藤のさまを見て楽しむ小説だ。かような組織内闘争の最終的な解決方法は組織を抜けることだ。白土三平の忍者なら、組織を抜ければカムイのごとく追っ手に追われ、下手すりゃ命を取られる。ところがこの小説の場合、悩める主人公三上広報官は、そんなに苦しいんなら警察を辞めればいい。警察は別に刺客を差し向けないから命に別状はない。
 デカの面目を守りたい刑事部と東京の本庁の意向を気にする警務部の対立。警察の沽券を守りたいのか、できるだけ情報を出したくない警察。警察はなんで本当のこといわないんだと不信感をつのらせ取材ボイコットする記者クラブ。
 納税者、新聞読者とすれば、おまえらアホか。警察は犯罪を防ぎ犯罪者を取り締まることが本分だろう。本庁の顔色をうかがい、警務と刑事が意地の張り合うことが仕事じゃないだろう。そんなことで税金払ってるんではない。新聞記者は真実を報道するのが仕事だろ。警察の鼻を開かすことではないだろ。そんなんのために新聞代はってない。
 と、こういうことを読者に思わせてダメだ。そんなことを思わせないで勢いでもって、グイグイ物語の中に引きずり込んで、いったん引きずり込んだら、余計なこと考えさせないで、三上をはじめとする登場人物に感情移入させなくてはならない。そのことはおおむね成功している。おおむねね。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )