雫石鉄也の
とつぜんブログ
老人とロボット
かって大型冷蔵庫であった金属の塊をクレーンで棚の上に置く。動かなくなったフォークリフトを壁にぴったりつける。廃車になったフォークリフトに充電なんかできない。ハンドブレーキを外して、人力で動かす。
老人は一人でこのスクラップ置き場を管理している。3トンのフォークリフトを一人で押す。かなりの重労働だ。渾身の力で1メートル移動させた。これでなんとかスペースができた。荷役機械は5トンの古い門型クレーンがあるだけ。フォークリフトはかなり前に動かなくなった。会社はスクラップ置き場などにコストをかけてくれない。人員も老人を一人配置しているだけ。
購買係長から、明日、中古ロボットが入荷するから、置き場所を作っておくようにとの連絡があった。
身長190センチの建設用人型ロボットだ。昨日空けたスペースに収まった。
スクラップの山の中に、大型ロボットが足を投げ出してポツンと座っている。部品取りに使われるとのこと。製造中止になったロボットでも、まだまだ現役で稼働している。ところが、修理用の部品はメーカーは造ってない。このような使わなくなったロボットから部品を取って修理に当たる。
「ボク ゲン。北海道リニア新幹線ノコウジゲンバデ ハタライテマシタ」
「お前、まだ生きてるのか」
「ハイ。バッテリーガ スコシダケノコッテイマス」
こういう部品取りに使われるほどの老朽機はバッテリーもAIも抜き取られているのが普通だが、何かの手違いがあったようだ。
右目用受光素子のリクエストがあった。三星エレクトロンのH556ーDX。ゲンの眼球を取り外し、眼底に装着されている受光素子を見る。テネシーのT556ーDX。コンパチだ。日本製とアメリカ製だが互換がきく。「すまんな。お前の右目を取るぞ」
「ドウゾ。ボクハ ソノタメニイルノデス」 雨が降っている。所々で煙りが立つ。何か化合物が水と反応して発熱しているのだろう。ときどき発火して炎が上がるが、消火はしない。自然に消える。消火器を設置する予算もない。
このスクラップ置き場が全焼しても、別にかまわないと会社は考えているのだろう。そうなれば、ガラクタの撤去費用が助かる。跡地は有効に活用できる。ただ、後に何を建設するかの計画がない。計画が固まるまでこのままで放置しているのだ。
雨の降りが強くなった。ゲンの上にも雨が降る。大きな身体だったが、だいぶん小さくなった。目はもう両目がない。右腕、左足もない。バッテリーの残もかなり少なくなったのだろう。めったに口をきかなくなった。
老人はブルーシートの切れ端を持ってきてゲンにかけた。ゲンの胸の部分だけがシートに覆われた。防水塗料がはげ落ち、所々に錆が出ている。内部の配線や基盤にまで、水滴がかからないように、胴体の筐体は密閉されているが、老朽化がひどい。水滴が内部に入りショートしたり、コネクターの端子が錆びればロボットにとっては致命的となる。「屋根のある所に持っていってやりたいが、ワシの力ではお前は重い。これでしんぼうしてくれ」
老人はゲンの胸をポンポンと軽くたたいた。
「アリガト」
「ワシは寝る。おやすみゲン」
「オヤスミナサイ」
老人は事務所建屋に入った。建屋といってもかろうじて雨露をしのげる掘っ建て小屋だ。老人はここで寝泊まりしている。
夜中に物音がした。今まで数度泥棒に入られた。スクラップ置き場をあさって金目のものを盗んでいく。
パイプレンチを持って外に出た。目の前に賊がいた。いきなり鉄パイプで殴りかかられた。かろうじてパイプレンチで受けた。老人は衝撃で倒れた。賊が鉄パイプを振りかぶった。
金属の塊が飛んできて賊に激突した。賊ははね飛ばされて倒れた。起きようとしたが、起きられない。金属の塊が賊の横に転がっている。ゲンだった。残った左手で賊の腕をつかんでいる。
足一本と、わずかに残ったバッテリーの電力でジャンプして賊に体当たりしたのだ。
「ゲン。おかげで助かった」
「ヨカッタ」
ゲンはそれだけいうと、黙った。胸に点灯していた青いLEDがきえた。バッテリー残量がゼロになった。
老人は賊を警察に引き渡した後、ゲンに合うバッテリーユニットを求めてスクラップ置き場を探し回ったが、そんな古いタイプは無かった。老人はただ一人の友だちをなくした。
老人は一人でこのスクラップ置き場を管理している。3トンのフォークリフトを一人で押す。かなりの重労働だ。渾身の力で1メートル移動させた。これでなんとかスペースができた。荷役機械は5トンの古い門型クレーンがあるだけ。フォークリフトはかなり前に動かなくなった。会社はスクラップ置き場などにコストをかけてくれない。人員も老人を一人配置しているだけ。
購買係長から、明日、中古ロボットが入荷するから、置き場所を作っておくようにとの連絡があった。
身長190センチの建設用人型ロボットだ。昨日空けたスペースに収まった。
スクラップの山の中に、大型ロボットが足を投げ出してポツンと座っている。部品取りに使われるとのこと。製造中止になったロボットでも、まだまだ現役で稼働している。ところが、修理用の部品はメーカーは造ってない。このような使わなくなったロボットから部品を取って修理に当たる。
「ボク ゲン。北海道リニア新幹線ノコウジゲンバデ ハタライテマシタ」
「お前、まだ生きてるのか」
「ハイ。バッテリーガ スコシダケノコッテイマス」
こういう部品取りに使われるほどの老朽機はバッテリーもAIも抜き取られているのが普通だが、何かの手違いがあったようだ。
右目用受光素子のリクエストがあった。三星エレクトロンのH556ーDX。ゲンの眼球を取り外し、眼底に装着されている受光素子を見る。テネシーのT556ーDX。コンパチだ。日本製とアメリカ製だが互換がきく。「すまんな。お前の右目を取るぞ」
「ドウゾ。ボクハ ソノタメニイルノデス」 雨が降っている。所々で煙りが立つ。何か化合物が水と反応して発熱しているのだろう。ときどき発火して炎が上がるが、消火はしない。自然に消える。消火器を設置する予算もない。
このスクラップ置き場が全焼しても、別にかまわないと会社は考えているのだろう。そうなれば、ガラクタの撤去費用が助かる。跡地は有効に活用できる。ただ、後に何を建設するかの計画がない。計画が固まるまでこのままで放置しているのだ。
雨の降りが強くなった。ゲンの上にも雨が降る。大きな身体だったが、だいぶん小さくなった。目はもう両目がない。右腕、左足もない。バッテリーの残もかなり少なくなったのだろう。めったに口をきかなくなった。
老人はブルーシートの切れ端を持ってきてゲンにかけた。ゲンの胸の部分だけがシートに覆われた。防水塗料がはげ落ち、所々に錆が出ている。内部の配線や基盤にまで、水滴がかからないように、胴体の筐体は密閉されているが、老朽化がひどい。水滴が内部に入りショートしたり、コネクターの端子が錆びればロボットにとっては致命的となる。「屋根のある所に持っていってやりたいが、ワシの力ではお前は重い。これでしんぼうしてくれ」
老人はゲンの胸をポンポンと軽くたたいた。
「アリガト」
「ワシは寝る。おやすみゲン」
「オヤスミナサイ」
老人は事務所建屋に入った。建屋といってもかろうじて雨露をしのげる掘っ建て小屋だ。老人はここで寝泊まりしている。
夜中に物音がした。今まで数度泥棒に入られた。スクラップ置き場をあさって金目のものを盗んでいく。
パイプレンチを持って外に出た。目の前に賊がいた。いきなり鉄パイプで殴りかかられた。かろうじてパイプレンチで受けた。老人は衝撃で倒れた。賊が鉄パイプを振りかぶった。
金属の塊が飛んできて賊に激突した。賊ははね飛ばされて倒れた。起きようとしたが、起きられない。金属の塊が賊の横に転がっている。ゲンだった。残った左手で賊の腕をつかんでいる。
足一本と、わずかに残ったバッテリーの電力でジャンプして賊に体当たりしたのだ。
「ゲン。おかげで助かった」
「ヨカッタ」
ゲンはそれだけいうと、黙った。胸に点灯していた青いLEDがきえた。バッテリー残量がゼロになった。
老人は賊を警察に引き渡した後、ゲンに合うバッテリーユニットを求めてスクラップ置き場を探し回ったが、そんな古いタイプは無かった。老人はただ一人の友だちをなくした。
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