Photo by Chishima, J.
(ヘラシギ幼鳥 2010年9月 北海道中川郡豊頃町)
(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年9月14日放送)
生き物の世界には一般的な姿かたちで、幅広い餌を食べる何でも屋さんが多くいる一方、独特の形態や習性を持ち、他の種が利用しない資源をたくみに利用しながら生きるスペシャリストも存在します。水鳥のシギの仲間にも多くのスペシャリストがいます。その特殊さは、餌を食べる器官の嘴によく表れます。砂の中に差し込み、中にいるカニを捕えるため大きく下に曲がったチュウシャクシギの嘴、小石をひっくり返して餌を探すノミのようなキョウジョシギの嘴などは、食生活の特殊化に適応したものです。
中でもひときわ変わった嘴を持つのがヘラシギ。スズメくらいのこの小さなシギは、その名の通りのヘラのような嘴を浅瀬や波打ち際にひたして、あるいは左右に振りながら、小動物を効率良く捕えます。ちなみに、ヒナは生まれた時から既に、ヘラ型の嘴をしているそうです。
特殊な生活を選んだ生き物はたいてい、分布が狭かったり、数が少なかったりしますが、ヘラシギも地球上でロシアの北東端にあるチュコト半島からカムチャツカ半島の北部でのみ繁殖します。40年ほど前に5000羽以上いた個体数は2000年以降急減し、2013年の調査では約100ペアしか確認されず、地球上で最も絶滅の危険が高い鳥とされます。
近年の激減には、地球温暖化などによる繁殖地の環境変化、中継地である東アジアでの干潟や湿地の埋め立てや開発、越冬地のミャンマーやバングラデシュでの狩猟や環境消失が複合的に作用していると考えられ、解決を難しくしています。それでも、世界中の保護関係者が関心と情熱を注ぎ、人工増殖の試みも始まるなど希望も見え始めています。
十勝では少なくとも5回記録があり、うち2回は大樹町歴舟川河口、残り3回は以前このコーナーでもご紹介した豊北原生花園周辺からです。豊北で2010年9月に数日間、1羽滞在したのが一番最近の記録です。
(2015年9月4日 千嶋 淳)