鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

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一斉換羽

2010-09-01 00:36:39 | 海鳥
Photo
All Photos by Chishima,J.
換羽中のウミスズメ 2010年8月 北海道東部)


 岬から望む太平洋は、陽射しこそ強いものの沖から絶え間なく到来する海霧によって、視界は皆無な状態が続いている。ただ一ヶ所、岬のすぐ裏側の海域だけは、霧が海蝕崖に遮られて侵入できないためか見通しがきき、かつ高空の青空を映して夏の海の様相を呈している。その海面に1羽のウミスズメを見付けた。冬に漁港に入って来たのを、あるいは海上にいるのを船で近距離から観察すると、思いのほか重量感のあるこの鳥も、崖の上からでは小さな点で、「スズメ」という名が妙に似つかわしい。

 それでも、折からの退屈を紛らわしてくれるには格好の相手だ。望遠鏡を通して、しばしその行動を観察しよう。発見した時から何か歪というかアンバランスな感じがしていたのだが、遊泳から羽づくろいに転じ、身を起して羽ばたいた時、その理由が判明した。両翼とも風切羽がごっそりと抜け落ち、ペンギンの羽のように細くなっていたのだ。


換羽中のウミスズメ2点
2010年8月 北海道東部

Photo_2

Photo_3


 一般に鳥類は、風切のような重要な羽は徐々に、連続的な換羽を行い、そのため換羽時期でも飛べなくなることはない。しかし、カモ類やツル類、一部のクイナ類などは一斉に換羽を行い、一時的に飛べなくなってしまう。ウミスズメ類も種によってはそのような換羽を行うが、どうやらウミスズメもそれらしい。同時期に何ヶ所かで出会ったウミスズメたちもやはり、翼やその周囲の羽毛は著しく磨滅するか、抜け落ちていた。一時的とはいえ飛翔力を失うことは、鳥にとって大変危険なことではあろうが、コストの大きい換羽を短期間で終えてしまうことの利益がそれを上回るのだろう。ウミスズメより小型のヒメウミスズメでは、同時換羽は繁殖後、越冬地まで長距離の渡りをする前に素早く換羽を終えるためとの考えがある。


ウミスズメ
2010年8月 北海道東部
上記とは別日時、地点のもの。やはり翼周辺は換羽中のようである。
Photo_4


 観察していると、ウミスズメは時折ふいと潜り、そのまましばらく姿を消す。移動のための潜水なのか、採餌や捕食者からの回避のためなのかわからないが、かなり長い時間潜り続け、行方不明になってしまうこともあった。やや間を置いて再発見した時には、「こんな所まで!?」と驚いたものだ。ウミスズメ類は水中を、翼を使って「飛び」ながら潜水することに特化したグループであるが、目の前のウミスズメの長い潜水時間を見ていると、風切羽が概ね抜け落ちていたところで、潜水に大きな負の影響はないように思われる。だからこそ繁殖後の短期間に一斉に換羽するといった、大胆なやり方が進化したのかもしれない。


水中を「飛ぶ」ウミガラス(飼育個体)
Photo_5


 そんなことを考えていたら、オオセグロカモメのつがいがけたたましく鳴き交わすのに思考を破られた。「アーッ、アーッ、アーッ!」。こちらに睨みを利かす2羽の足元に幼鳥の姿はない。既に巣立った後か、あるいはオジロワシに襲われてしまったか…。岬の台地を彩るアキタブキやツリガネニンジン鮮やかな花は、よく見れば盛りは当に超えている。海は少しばかり視界が回復したような気もするが、ウミスズメは何度目かの行方不明中であった。


オオセグロカモメ
2010年8月 北海道厚岸郡浜中町
Photo_6


(2010年8月31日   千嶋 淳)

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