All photos by Chishima,J.
(ジョウビタキのオス 2006年12月 群馬県伊勢崎市)
本州にいた時分には割と身近な存在だったのに、北海道に来てからすっかり疎遠になった鳥たちがいる。ブラキストン線に分布を隔てられて、北海道には生息していないアオゲラ、キジ、オナガ、セッカ、コアジサシ等がその代表格であるが、中には北海道で記録はある、或いはいることになっているものの、あまり出会えなくなった鳥もいる。
アオゲラ(メス)
2006年12月 群馬県伊勢崎市
本州~九州では普通種だが、実は日本固有種。
たとえばホトトギス。新緑に萌える初夏の山の、晩を夜明けをけたたましいまでの歌で高らかに覆い尽くすこの夏鳥は、道南には普通に渡来するが道東では稀で、この10数年間にたった一度声を聞いたに過ぎない。道央以南では比較的普通のヤマガラも、日高山脈の東側では時折、申し訳程度に1、2羽がカラ類の群に見られる程度。シロハラも道東では珍鳥。トモエガモは元来西日本に多い鳥なので、群馬にいた時もそう頻繁に見ることは無かったが、こちらに来てからますます見なくなった。
シロハラ(若鳥)
1999年1月 沖縄県与那国町
トモエガモ(オス)
2006年12月 群馬県前橋市
オシドリやヨシガモと並んで極東の美しいカモ類だが、近年数を減らしている。
このように例を挙げてゆくと限が無いが、本州での身近さと比較した時に寂しさを覚える筆頭は、やはりジョウビタキを置いて他にあるまい。移住前は、1983年に上士幌町糠平で繁殖記録があることは知識として知っていたので、おそらく本州並みあるいはそれ以上に沢山渡来していて、その一部が高標高地にとどまって繁殖したのだろう程度に思っていた。ところが、実際には北海道ではかなり数の少ない冬鳥である。どのくらい少ないかというと、十勝地方では一冬に1~数回観察できればラッキーで、まったく見かけない年もある。しかも、単独で短期間しか滞在しないことが多いので、声を聞くことも無く、今一つジョウビタキらしくない。
ジョウビタキ(メス)
2006年12月 群馬県伊勢崎市
オスの鮮やかさは無いが、つぶらな瞳が魅力的。
そう、ジョウビタキといえばあの声だ。関東地方の平野部。暦は10月の20日過ぎ。日中はまだまだ麗らかだが、朝晩の空気はひんやりとしてくる頃だ。朝6時過ぎ、朝刊を取りに玄関を開けると、眩しい朝の光の中、冷気が脳を覚醒する。ふと、隣家の屋根にあるテレビアンテナから「ヒッヒッ、カタカタ」と高い声が早朝の静寂を破る。「嗚呼、今年も来たんだなぁ」の感慨に秋の深まりを確信する。どこまでも澄んだ青空を2羽、3羽、カケスがふわふわと飛んでゆく。半ば忘れかけている、ジョウビタキをその年初めて見る朝は、そんな印象である。
到着からしばらくの間、ジョウビタキは雄も雌も活発に鳴く。時には争いが生じることもある。越冬のための採食縄張りを確立しているのだ。やがて、各々が冬を越す場所が決まると一気に静かになる。ただ、縄張り内をめぐって木の実等を採餌しているので、姿を見ることは難しくないし、警戒心の薄い鳥なので、こちらがじっとしていれば近距離で観察することもできる。
ジョウビタキ(オス)
2006年12月 群馬県伊勢崎市
そんなわけで私は最近、冬の帰省時にはこの小さな紋付鳥との出会いを心から楽しみにしている。翼の白斑をぱっと閃かせながら枝先に飛びつくような採餌や、橙色の映える尾を上下させて縄張りを巡回する様など、見ていて飽きることが無い。
銀髪の紋付き鳥(ジョウビタキ・オス)
2006年12月 群馬県伊勢崎市
2つの白斑は、冬枯れの景色の中ではよく目立つ。
飛び立ち(ジョウビタキ・オス)
2006年12月 群馬県伊勢崎市
ところで、本州でかくも普通なのに北海道でこうも数が少ないのは何故だろうか?ウスリー地方には普通に分布しているようなので、日本海を飛び越えて一気に本州に入るのかもしれない。また、九州では渡来当初に小群で見られるというから、朝鮮半島や東シナ海ルートもあるのだろうか。分布と関連して、日本の多くの図鑑ではサハリンや千島列島が本種の繁殖域に入っているが、これはどうも怪しい。ネチャエフ博士の「サハリンの鳥類」によれば、サハリンでは迷鳥である。千島列島も、日本語で読める数少ない幾つかの文献を見る限り、迷鳥もしくは分布していないと思われる。もし、この両方、あるいはどちらかに分布しているのなら、北海道でもう少し観察されても良さそうなものである。
薄日に照らされて(ジョウビタキ・メス)
2006年12月 群馬県伊勢崎市
初冬の柔らかな光が、メスの姿を更に可愛く見せる。
(2007年1月7日 千嶋 淳)
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