Photo by Chishima, J.
(海岸に咲くツリガネニンジン 2010年8月 北海道厚岸郡浜中町)
(FM JAGAの番組 KACHITTO(月-木 7:00~9:00)のコーナー「十勝の自然」DJ高木公平さん 2015年9月8日放送)
夏の終わりから秋の原野を彩る花の一つにツリガネニンジンがあります。高さ40cmから1mくらいのキキョウ科の多年草で、釣り鐘状の青紫色の花をぶら下げるように付け、朝鮮人参に似た根を持つことから、その名があります。十勝では7月から9月前半に花を咲かせ、海岸から山地の草原、湿地、林の縁など幅広い環境で見ることができますが、海岸で海霧や湿った海風にしっとりと濡れて、それでも健気に紫の鐘を吊る姿に格別の愛着を感じます。
若い芽は「トトキ」の名で山菜として親しまれ、お浸しや和え物、天ぷらなどに用います。アクがほとんどなく、食べやすいそうです。茎もきんぴらや漬物になります。「ムケカシ」の名で呼んだアイヌは芽よりも太い根を好み、生食や煮て食べました。また、茎を折ると白い乳液が出るのにあやかって、母乳不足の母親に与えたりもしたそうです。
ツリガネニンジンの花は雌雄異熟(しゆういじゅく)といって、同じ花でもオスの時期とメスの時期とがあり、最初のオスの時期にめしべは先端が閉じた棍棒状で、受粉できないようになっています。アブの一種などが訪れて、花が咲く前に付いた、すなわち同じ花からの花粉をほとんど持ち去るとめしべの先が割れ、受粉が可能なメスの時期に移ります。どうやら、めしべにはセンサーがあって、同じ花からの花粉を感知し、それによって同じ花同士で受粉してしまう自家受粉(じかじゅふん)を避けているらしいのですが、詳しいメカニズムや、どのように進化したかなどはまだわかっていません。
(2015年8月30日 千嶋 淳)