鳥キチ日記

北海道・十勝で海鳥・海獣を中心に野生生物の調査や執筆、撮影、ガイド等を行っています。

メジロ

2011-10-23 16:12:37 | 鳥・秋
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All Photos by Chishima,J.
メジロ 2006年10月 北海道帯広市)


(2011年10月3日釧路新聞掲載 「道東の鳥たち31 メジロ」より転載 写真・解説を追加)

 生物はみな、種固有の分布を持っています。例えば北海道のヒグマやエゾライチョウは、津軽海峡を越えた本州には生息していませんし、本州に住むムササビやヤマドリは北海道にはいません。そうした種の分布は通常、地史や気候、近縁種との競争等を通じて長い年月をかけて作り上げられてきたもので、われわれがその変化を目の当たりにできる速度ではありません。しかし、中にはごく短い時間でその分布を変化させゆく種類もいます。北海道の鳥では、メジロがその一例です。

紅葉の中のメジロ
2009年10月 北海道河東郡音更町
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 全長12cmとスズメより小さく、「うぐいす餅」のような黄緑色の体をしたメジロ(ちなみに鳥のウグイスは、餅と違って茶色い体です)は、日本や朝鮮半島南部、台湾、中国南部等に生息します。名前は、目の周りの白い羽毛(アイリング)に由来します。本来、温暖な常緑広葉樹の林を好む南方系のメジロは、道内では戦前は道南で見られたものの、札幌近郊では珍しい鳥だったそうです。1960年頃には札幌周辺でも生息が確認されるようになり、その後も範囲を広げてゆきました。十勝では、1990年代半ばまでは主に秋の渡り時期に少数が見られる程度でしたが、それ以降記録が増え、現在では比較的普通の夏鳥として4月下旬から10月まで生息します。網走地方からも十勝と同様の傾向が知られています。ところが、同じ道東でも根室在住の方によると、根室では一時よく観察されるようになったものの、最近はむしろ減っているとのことです。どうやら、十勝と根室ではメジロにとって何かが異なり、この2地方間に北海道のメジロの、東側の境界があるようです。約70年の間に道南から道東の一部まで分布を拡大した要因は、分かっていません。元々メジロの仲間には、群れをなして大陸から離れた大洋の島に渡り住む習性があり、タスマニア(オーストラリア)に住む近縁種が、2000km離れた、メジロ類のいないニュージーランドに移住した例もあります。そんな開拓者的気質が一役買ったのかもしれません。世界に約100種いるメジロ科の大部分は熱帯、温帯に定住し、寒い地方まで分布を伸ばしているのはメジロと、大陸のチョウセンメジロ2種だけです。


巣材を集めるメジロ
2007年5月 北海道河西郡芽室町
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 平地から低山の林に生息し、林縁部や河畔林、疎林でよく観察できます。「チィー」という地鳴きや、繁殖期には朗らかな囀りも発見の手がかりとなります。樹上生活を主とし、枝先の二股になった部分に椀型の巣を作ります。餌は昆虫やその幼虫、果実等、暖地ではツバキやサクラの花蜜も大好物です。枝上に2羽かそれ以上のメジロが体を寄せ合って止まり、互いに嘴で頭を掻き合う「相互羽づくろい」が観察されることがあります。この様子から、多くのものが込み合って並ぶことを「目白押し」と言いますが、実際に体を密着させて止まるのはつがいか、ヒナのいる家族内だけのようです。


相互羽づくろいする2羽のメジロ
2006年10月 北海道帯広市
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 声が良く昔から飼い鳥として人気があり、かつては鳴き合わせ会も盛んでした。多くの野鳥の飼育が禁止される中、メジロは1世帯に1羽の捕獲・飼育が都道府県の許可のもと認められてきましたが、密猟や違法飼育が横行していることから、環境省は来年4月より捕獲・飼育を原則として禁止することを決定しました。


南の島のメジロ2点
離島を中心に亜種分化が進み、国内では6亜種が知られている。

亜種リュウキュウメジロ
2009年1月 沖縄県国頭郡国頭村
南西諸島に分布する亜種で体下面の褐色みに乏しい。1月に咲くヒカンザクラの花を訪れたところ。
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小笠原諸島のメジロ
2011年7月 東京都小笠原諸島母島
元々生息していなかったが、1900年代に人為的に持ち込まれた亜種イオウジマメジロと同シチトウメジロの交雑個体群とされる。現在では最も優占する陸鳥の一種。
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(2011年9月27日   千嶋 淳)