Photo by Chishima,J. (増水で濁流と化した十勝川 2005年9月)
西日本を中心に甚大な被害を与えた台風14号が、北海道を駆け抜けた。北海道では、かなりの雨量で公共交通機関などに影響も出たものの、幸い人的被害は無かったようだ。
台風がオホーツク海へ抜けた今朝、帯広近郊の十勝川や札内川へ繰り出してみた。以前にも書いたように、台風の通過後は思いもかけぬ珍鳥が現れたりするからである。海岸部まで行く時間、気力もないので内陸部の中流域だが、この辺りにも風雨が強くなり始めた昨日の午後には、普段見られない
オオセグロカモメやアジサシの群れが降り立っていた。オオセグロカモメは、8月下旬以降、おそらく遡上するサケを追って中流域でも見られるようになるが、50羽近い群れは珍しい。
台風で内陸に飛来したオオセグロカモメ
2005年9月 北海道十勝川中流域
Photo by Chishima,J.
河川は濁流と化し、然程の珍鳥も見られなかったが、中州をほぼ飲み込まんばかりの増水に正直少々安心した。こう書くと不謹慎に聞こえるかもしれないが、近年はダムや堰堤が発達したおかげで、河川の大規模な増水は桁違いに少なくなった。それがどのようなことをもたらすかと言うと、水を被らないために川原に草木が侵入して繁茂する。こうなると、礫の川原で巣を作って繁殖する
イカルチドリやコチドリは、繁殖に適した場所が無くなってしまうのである。チドリ類ほどではないにしても、露出した礫の川原で採餌する
セグロセキレイをはじめとするセキレイ類や
イソシギなどの鳥類にも当然影響があるだろう。川原に草木が入ってきて繁茂することは、一見自然の営みの一部であるかのように思える。しかし、元来は定期的な増水のため植物の生育できなかった環境に、ダムなどの人為的な影響によって物理的な障壁が取り除かれ、植物が侵入してくるのは、本来の自然の姿とは言えない。自然界を構成する生き物たちの、環境に対する要求は多様かつデリケートなものであり、このような川原の定期的な「リセット」に依存して、今日まで生き永らえてきた種も確かに存在するのである。
イカルチドリ
2005年9月 北海道十勝川中流域
Photo by Chishima,J.
セグロセキレイ
2005年5月 北海道十勝川中流域
Photo by Chishima,J.
イソシギ
2005年9月 北海道十勝川中流域
Photo by Chishima,J.
洪水を起こせとは言わない。せめて定期的に、治水に支障のない範囲でダムなどを放水して、撹乱を起こすことによって河川の自然をより本来の姿に近づけることはできないものだろうか。
もっとも、このようなことが実現可能になっても川原で繁殖するチドリたちにはもう一つの、さらなる脅威が存在する。それは、RV車で浅瀬を渡って中州に乗りつけ、縦横無尽、我が物顔で無神経に走り回る「勘違いアウトドア野郎」どもである。こちらの方は、ちょっとやそっと増水が起こったくらいでは解決しないから厄介である。
ノビタキ
2005年9月 北海道十勝川中流域
ほかの小鳥が姿を隠しがちな秋の川原でも、ひときわ目立つ存在である。
Photo by Chishima,J.
カワアイサ 幼鳥
2005年9月 北海道十勝川中流域
吹き返しの風に揉まれながら採餌を試みていた。
Photo by Chishima,J.
秋の夕暮れ
2005年9月 北海道中川郡豊頃町
このような空が見られるようになったら、長い冬へのカウントダウンが始まっていると思った方がよい。
Photo by Chishima,J.
(2005年9月8日 千嶋 淳)
*「川原リセット」は、友人S ・K 氏の造語である。
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