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東京高裁判決平成15年10月8日(国内優先権の効果) (18.5.23)

2006-05-23 15:02:37 | Weblog
東京高裁判決平成15年10月8日(平成14年(行ケ)539)

 この判決は、国内優先権の効果について次のように判示しています。
 この判決の内容は現在の審査基準にも採用されています。
 論文試験のポイントにもなります。 

 特許法41条2項は,同法29条の2の適用に係る優先権主張の効果について「・・・優先権の主張を伴う特許出願に係る発明のうち,当該優先権の主張の基礎とされた先の出願の願書に最初に添付した明細書又は図面・・・に記載された発明・・・についての・・・第29条の2本文,・・・の規定の適用については,当該特許出願は,当該先の出願の時にされたものとみなす」と規定し,後の出願に係る発明のうち,先の出願の当初明細書等に記載された発明に限り,その出願時を同法29条の2の適用につき限定的に遡及させることを定めている。
 後の出願に係る発明が先の出願の当初明細書等に記載された事項の範囲のものといえるか否かは,単に後の出願の特許請求の範囲の文言と先の出願の当初明細書等に記載された文言とを対比するのではなく,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項と先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項との対比によって決定すべきであるから,後の出願の特許請求の範囲の文言が,先の出願の当初明細書等に記載されたものといえる場合であっても,後の出願の明細書の発明の詳細な説明に,先の出願の当初明細書等に記載されていなかった技術的事項を記載することにより,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになる場合には,その超えた部分については優先権主張の効果は認められないというべきである。

 そうすると,後の出願の当初明細書等に本願発明1の実施例として記載された,伸長部である肉薄部を螺旋形状に形成した図11実施例に係る人工乳首は,先の出願の当初明細書等に明記されていなかったばかりでなく,先の出願の当初明細書等に現実に記載されていた,伸長部である肉薄部を環状に形成した【図1】の実施例に係る人工乳首の奏する効果とは異なる螺旋形状特有の効果を奏するものである。したがって,当該伸長部である肉薄部を螺旋形状にした人工乳首の実施例(図11実施例)を後の出願の明細書に加えることによって,後の出願の特許請求の範囲に記載された発明の要旨となる技術的事項が,先の出願の当初明細書等に記載された技術的事項の範囲を超えることになることは明らかであるから,その超えた部分については優先権主張の効果は認められないというべきである。

 なお、審決は,本願発明1は,先の出願の当初明細書等に記載されていない,本件出願の当初明細書等に記載の【図11】の実施例(図11実施例)に係る発明(図11実施例発明)を包含するから,図11実施例発明の出願については,特許法41条2項により先の出願の時にされたものとみなすことはできず,本件出願の現実の出願日がその出願日になるとした上,図11実施例発明は,本件出願日前の他の出願であって,その出願後に出願公開された特願平11-85326号の願書に最初に添付した明細書又は図面(先願明細書等)に記載された発明(先願発明)と同一であり,かつ,本願発明1の発明者が先願発明の発明者と同一であるとも,また,本件出願時にその出願人が上記他の出願の出願人と同一であるとも認められないので,図11実施例発明を含む本願発明1は特許法29条の2により特許を受けることができないとした。
 この高裁判決は、この審決の判断を適法としたものである。

★ポイント
 国内優先権の利用の態様のうち、実施例補充型の特許出願をした場合には、後の出願の請求項に記載された発明イが先の出願の当初明細書等に記載された発明と同一であっても、追加した新規な実施例が後の出願に係る発明イに含まれる場合には、発明イのうち追加した実施例に係る部分については国内優先権の効果が生じないことになります。
 したがって、追加した実施例に相当する先願があった場合には、29条の2により拒絶されることになります。
 ただし、補正ができる時期に、追加した実施例が削除されていれば、発明イについて国内優先権の効果が認められることとなります。
 このように実施例補充型の利用の場合には、補充した実施例について先願や公知技術があった場合には、拒絶理由となる点に注意しましょう。
 補充した実施例について先行技術が存在しなければ、補充した実施例についても技術的範囲に属することとなり、特許権侵害訴訟においては、有利となります。