Some Like It Hot

お熱いのがお好きな映画ファンtakのつぶやき。
キネマ旬報社主催映画検定2級合格。

ラスト、コーション

2008-03-06 | 映画(ら行)


■「ラスト、コーション/Lust, Caution(色・戒)」(2007年・中国=アメリカ)

監督=アン・リー
主演=トニー・レオン タン・ウェイ ワン・リーホン ジョアン・チェン

 「ラスト・・・」とというタイトルと、激しいベッドシーンがあることから、ベルトリッチの”あの映画”を連想する人が多いのか、やたらとそっちばかりの話題が先行している本作。されど、この映画は決してそんな色モノではない。重厚な人間ドラマと緻密に作り込まれた映像と脚本は、むしろあれだけの性愛場面を含むのにむしろ気品さえ感じる。僕はこの映画にまったく飽きることはなかったし、ラストまでハラハラしながら、緊張しっぱなしだった。

 日本占領下の中国で、日本軍に協力するイー(トニー・レオン)を探るために近づくマイ夫人に扮するヒロイン(タン・ウェイ)。そして彼女をそこに送り込んだ男との見えない三角関係・・・。重い話であるし、ラストも救いがある訳ではない。でも、そこにこめられた登場人物一人一人の思いを考えると実に切なくなってしまう。国のため、自分たち民族のためにと時代の流れに身を投じる若者たち、その為に処女も失ってしまうヒロイン。彼らは傷つくけれども、それも戦争という流れに押し流される哀しみ。一方、日本軍に協力するとされるイーも、誰も信用できない孤独と拷問と死に接するだけの日々。きっと人間性をかろうじて保っているのだろう。そこに現れたマイ夫人に心を傾けるのも無理はない。荒々しく、激しいセックス(時にアクロバティックにさえ思えたが)にふけるのも、彼にとっては非現実的な日常を忘れ、人と人のふれあいを取り戻せる時間。ベッドシーンは、ヒロインにとっては「イーに疑われているのではないか」と常に不安になる心理戦でもあり、イーにとっては悲しき生への執着でもある。こんな激しくて悲しい性愛場面、僕はこれまでみたことがない。

 それでも心を通わせていく二人。日本料理店で当時の中国の流行歌を歌って踊るタン・ウェイは本当に美しい。二人が同じ民族として、男と女としての感情がひとつになる。・・・そしてラストの展開。小さく告げた「逃げて」の一言。誰もいなくなった部屋に一人座り込み、時計の音が鳴り響くラストシーンは喪失感に満ちている。胸がしめつけられるようだ。

 劇中映画好きなヒロインが行った映画館に、ヒッチコックの「断崖」のポスターが見える。主人公3人のシチュエーション・・・そうか、「ラスト、コーション」はヒッチコックの「汚名」をケイリー・グラントぬきで撮った映画なんだ。「汚名」は僕の大好きな映画。小道具をサスペンスの材料に上手に使っている傑作だ。でも初めて観た頃(20歳くらいだったかな)、疑問だったことがある。それはイングリット・バーグマンが仇であるクロード・レインズと、内情を探る為とはいえ、結婚までしてしまうところ。彼女にそこまでの辛い使命を与えたくせにクール(にしかみえない)ケイリー・グラントの態度。そしてレインズとベッドも共にしているはずのバーグマン。そこには葛藤があったはずだし、そこまで身体を犠牲にするなんて・・・と描かれもしない部分に僕はモヤモヤしたものだ。「ラスト、コーション」にはその答えがあったのだ。

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4 コメント

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Unknown (ミキスケ)
2008-03-14 21:14:07
最後の最後まで、生きつかせぬ緊迫感。
万人受けするとはいわないまでも、少女の面影を濃いお化粧とタイトなトレスで包み隠したタン・ウェイの思い詰めた表情が切ない作品でした。
「ミイラ取りがミイラに」という古い諺が頭を横切る。
憎い敵がいつしか欠けがえのない人に変わってしまう。
体を重ねるごとに心も交わさないといったらやはり嘘になってしまうのは、人間の性と愛の境目のあいまいさ故。
するから愛したの?愛してるからするの?
どこからがどこまでか。
ひとつの主義のために自分を犠牲にする悲しい世相の中でしか
出合えなかった悲しい2人の運命に救いはない…のが
やりきれない気持ちにさせられた映画でした。
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重いけど・・・ (tak)
2008-03-15 00:48:54
重いけど、心にズンときて染みる映画(あ、僕にはです)。
みんなあの戦争という時代がいけないのだ。

アン・リー監督は前作とこれで「危ない素材を選ぶ」人のように批評されてますが、愛情と性を題材にするところは、台湾時代の「ウェディング・バンケット」で既にその傾向はでてる訳だし、憎むべき男を愛してしまう女性というならば、「グリーン・デスティニー」のチャン・ツィイーだってそうだもの。これまで手がけてきたテーマを、結集させた映画でもあるんよね。
返信する
汚名 (メル)
2008-09-22 07:43:12
記事を読ませてもらって、コメントも読ませていただいて、やはり「汚名」を見てみなくては~・・と今思っています。
ヒッチコックは、あまり見てないんですよ~。

ラストのあの切なさ、それにこの監督の
許されざるべきものたちの愛の描き方は
とても好きです。
上の↑takさんのコメントを読んで、あ~・・そういえば「グリーン・デスティニー」のチャン・ツィイーも・・と今思い出しました。
いろいろなことを絡めながら、じっくりもう一度「ラスト、コーション」見てみたくなりました。
返信する
メルさんへ (tak)
2008-09-25 23:27:24
コメントありがとうございます。

メルさんや多くの方のコメント読むと、見方も様々あるなぁと思いました。
改めて見なおしたいなぁ。今度はボカシにも注意して(笑)。
返信する

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