◼️「小説吉田学校」(1983年・日本)
監督=森谷司郎
主演=森繁久彌 芦田伸介 若山富三郎 高橋悦史 夏目雅子
教科書で教わる歴史も大切だけど、僕らは現代史をもっと学ばなければいけない。映画をあれこれ観続けていると、心底そう思う瞬間がある。日本の歴史についても然りだ。
DVDを所持していたが未見だった「小説吉田学校」。やっと腰を据えて観た。前年製作の「海峡」で信念ある男を描いた森谷司郎監督。東宝と角川が組んでオールスターキャストで撮った力作。DVDには現在につながる人物相関図、公開当時の凝ったパンフレットのデータ、細川隆一郎氏の解説動画も収録。すっごく勉強になった。
これはやっぱり今観るべき映画かも。脚色や美化、オーバーな演出はあることは大前提としても、吉田茂がなにを成した人物か、どんな面で敵を作ったのか、退陣するまでの政治状況がスリリングに描かれて、そこは少なくとも理解できることだろう。モノクロームで撮られた前半で描かれるのは、吉田茂が成し遂げた講和と独立。対立政党にも頭を下げて条約締結に動き、政敵もその功績は認める。外務省の限られたメンバーで大綱を作成し、池田勇人を動かして講和への道を開こうとする場面。軍備をめぐるアメリカの要求に断固再軍備を受け入れないと突っぱねる。
GHQから排除された鳩山の代わりに吉田が首相になった。その際に交わされた約束は、鳩山が政治活動を許されるようになったら、速やかに政権を渡すこと。しかし、日本の再軍備に徹底的に反対する吉田茂に対して、鳩山、三木、河野ら政敵は改憲、再軍備を望む一派。現在につながる改憲、再軍備をめぐる議論の大元は、ここから始まっているのがよくわかる。
カラーになった映画後半は、国内の政争が描かれて、政権を譲らない吉田と政敵三木武吉がいかに争ったかがテンポ良く克明に描かれる。絵面が変わらないから、何が起こっているのか見えにくい政治映画だが、それぞれの陣営の抗争劇がまるでヤクザ映画のような緊張感で示される。娘である麻生和子に「今のお父様は嫌いです」と言われる辛さ。政治の難しさ、厳しさ、外圧、そして人を狂わせる権力。様々な要素が丁寧に織り込まれた脚本がいい。
この映画の魅力は、なんだかんだ言ってもキャストだと思う。森繁久彌の迫力ある吉田茂は名演。途中から「社長シリーズ」のイメージは完全に吹き飛んだ。政敵に芦田伸介、若山富三郎、梅宮辰夫。吉田目線なら憎まれ役だが、このキャストは完全にヤクザ映画の趣w。西郷輝彦の田中角栄、高橋悦史の池田勇人、竹脇無我の佐藤栄作。麻生和子は夏目雅子。脇の脇まで顔が知られたメンバーなのがいい。
実名の政治ドラマはなかなか実現しないと聞く。確かに実際政治家の伝記映画やドラマって、渡辺謙の吉田茂こそ近頃あったけど、戦後の政治家が取り上げられることは少ない。日本にはオリバー・ストーンみたいな監督はいないのか。誰か角栄を撮れるヤツはいないのか。