■「ゴーン・ガール/Gone Girl」(2014年・アメリカ)
●2014年放送映画批評家協会賞 脚色賞
監督=デビッド・フィンチャー
主演=ベン・アフレック ロザムンド・パイク ニール・パトリック・ハリス
※結末に触れる部分があります
デビッド・フィンチャーとは相性が悪い・・・とずっと思っていた。「エイリアン3」でオエーッ、「セブン」でゲロゲローッ、「ファイトクラブ」はおっ!と思ったけどやっぱり好みじゃないーっ。もういいやこの監督。選ぶテーマはおどろおどろしいし、嫌いっ!と避け続けてきた。しかしだ。「ソーシャル・ネットワーク」を観て考えが変わった。この人はサイコ野郎が好きなんではなく、常人とは違う"得体の知れないヤツ"を掘り下げるのが好きなんだ。連続殺人鬼も、巨大SNSを創りあげた若き成功者も彼にとっては得体の知れない人物。僕は「ソーシャル・ネットワーク」に、恐れ多くもオーソン・ウェルズの「市民ケーン」を重ねた。メディア王となった成功者の光と影。得体の知れない人間を描く監督の映画にどこか普遍的なものを感じ、フィンチャー監督の力量をやっと認める気になった(何様だ・笑)。そしてこれを観ずして2014年を終えるな、とまで世間が言う「ゴーン・ガール」が封切られた。ボンドガールを演じて以来、ちょっと気になる存在のロザムンド・パイク。年内に間に合わず、年を越して鑑賞。
いやはや・・・参りました。カップルで観てはいけない。ましてや結婚前だったらなおさら。結婚って何なんだろね・・・と映画館を出て思わずつぶやいたのは「それでも恋するバルセロナ」以来だ。サスペンス映画であり、スリラーでありながら、映画の終わりには男と女について真剣に考えさせられるブラックコメディへと変化する。予測不能な展開とともに僕らが登場人物たちに抱く印象がどんどん変わっていく。特にオスカーにもノミネートされたロザムンド・パイクの変貌振りには驚かされる。過剰な予備知識をもってこの映画を観ると面白さは半減してしまうだろうから、多くは語らないことにするけれど、もしこの時代にヒッチコック監督がいたら飛びつきそうな題材ではないだろうか。疑われる男、夫婦の秘密、眼鏡の妹、ブロンド美女の主演女優までまさにヒッチ先生好みなテイスト。
観客である僕らには、映画前半まったく情報は与えられない。妻がいなくなってうろたえる夫ベン・アフレックと同じ立場に置かれて、不安な気持ちにさせられる。その夫にも秘密があったり、妻がどんな人物だったのかが示される中盤になって、僕らに与えられる情報量は一気に増えてくる。ストーリーの急な展開に、この二人どうなっちゃうの?と二重のサスペンスに僕らは引きずり込まれてしまう。ところが映画終盤になっての思わぬ展開。つっこみどころはいくらでもあるのに、誰もそれを指摘できない。夫の巻き返し?と思った展開が・・・。携帯電話が不安をかき立てる小道具になっているのだけれど、この映画の音楽には携帯電話のバイブ音に似たノイズがずーっと使われてる。それも観ている僕らを不安にさせる仕組みのひとつ。巧いよなぁ。
それにしても既婚男性は銀幕のこっち側のことが心配になる映画。「結婚ってそういうもんでしょう」というラストの台詞にグサグサッ!同じく夫婦をめぐるサスペンス映画である「アイズ・ワイド・シャット」の台詞「ファックするしかないでしょう」に匹敵する衝撃。男と女って・・・深い。デビッド・フィンチャー監督作でそんなことを考えるなんて予想もしなかった。フィンチャー作品に描かれる"得体の知れない存在"。それが男と女に行き着いてしまったことに、彼の映画人としての大いなる進歩を感じたのでありました。面白かったー、怖かったー。「女は怖い」的な感想を世間でよく見るけれど、それは違う。夫への復讐というしたたかな女の怖さよりも、世間が押しつける"幸福な家庭"というイメージこそが実は怖いのではないだろか。妻はそれに追い詰められて、それを守り通したかったんだもの。