(前回からの続き)
北方領土返還交渉に当たってロシアは、これまでの立場を大きく変え、ロシアからすればかなり日本に譲歩した提案=面積等分方式(歯舞、色丹、国後の3島および択捉島西側の一部は日本の領土、残る択捉島の大部分のエリアはロシアの領土とするもの)をしてまで日本との妥結(国境画定)を急いでいる、といった見方を綴ってきました。
その大きな理由は、前回までに書いたとおり、ロシアが自国の安全保障を強化したいからでしょう。じつは・・・それ以上にロシアにとって重要で切実な理由があると考えられます。それは経済面でのもの。ロシアは領土問題を早く解決して、日本とのビジネスを拡大したがっている―――もっと端的にいえば、ロシアは石油・天然ガスを日本にもっと買ってもらおうとしている、ということです。なぜなら、以下に示すように、ロシアにはそうしなければならない苦しいフトコロ事情があるからです。
ロシアはいわずとしれた世界屈指の石油・ガス産出国であり、これらの一大輸出国でもあります。別な言い方をするとロシア経済は原油・ガスの輸出に大きく依存するモノカルチャー構造となっているということです。実際、ロシアの全輸出額に占める「燃料・エネルギー製品」の割合は2013年で70.6%にも達しています。そしてロシア財政はこの原油等の輸出に課せられる輸出関税から歳入の多くを得ています。
で、このあたりについて気になる数字があります。海外のネット情報によると、2012年時点で、ロシアが財政収支を均衡させられる原油価格の水準は1バーレル当たり117ドルにまで高まっているそうです(現在は同120ドルくらいらしい)。2007年時点では同34ドルだったそうだから、わずか5年で3.4倍以上もの上昇です。これをふまえ、この先5年間の平均原油価格が同85ドルくらいと予想している米シティバンクは、もしロシアがプーチン大統領のもとでいまのままの予算計画を実行すると、この均衡点は同150ドルにまで跳ね上がる、と警告しているのだとか・・・。
燃料輸出の採算ラインがどんどん上がる一方、これからの原油価格はどうやら世界的に下落傾向(ちなみに10/3時点で同90ドル弱)・・・これは原油・ガス以外に大して売るものがないロシアにとって非常にマズい事態といえそうです。これをしのぐためには石油・ガスを外国にもっと売って稼ぐ必要がある。とはいえ、ロシアにとっての最大のお得意先・欧州への輸出はもうそれほど増やせそうもない。そこで、新たな販路開拓先として浮上したのが・・・中国そして、日本・・・。
こうしてロシアは、わが国に自国産の原油・ガスをたくさん購入してもらうべく、対日関係の改善に乗り出さざるを得なくなった。もちろん、その際の最大障壁は北方領土問題ですが、ロシアはここで大きく譲っても、日本とのいっそうの経済連携を望んでいる―――。北方領土の返還交渉において面積等分方式が出てきた背景にはこのような事情もあるのだろう、と推察しています。