教育史研究と邦楽作曲の生活

一人の教育学者(日本教育史専門)が日々の動向と思索をつづる、個人的 な表現の場

鳥取県立図書館において稲村謙一文庫が開設されました

2012年03月10日 23時15分59秒 | 教育研究メモ

 鳥取県立図書館に史料収集へ行ってきたついでに、今ちょうど開かれていた 稲村謙一文庫開設記念展「昭和の生活綴方教育」 を見てきました。素直な感想は、「思っていた以上だった…!」です。

 稲村謙一(1906~2005)は、鳥取県の生活綴方(綴方とは作文のこと)・児童詩指導の代表的担い手の一人です(『国・語・人』の同人)。大正15(1926)年から昭和39(1964)年まで県内で小学校教員を勤め、戦後は鳥取県国語教育研究会長をも勤めました。歌人・詩人でもあります。
 生活綴方教育というのは、戦前・戦後(1910年代頃から)において、既成の学問内容からではなく、子どもの生活から教育を作りだそうとした教育思想・実践です。稲村は、鳥取の生活綴方教育の実践者として、峰地光重・佐々井秀緒などの次に上がってくる人物のうちの一人です。そんなビッグネームの文庫が、このたび遺族から大量の書籍雑誌・史料群が提供されたことを受け、鳥取県立図書館に開設されました。

 展示も良かったのですが、私が最も感嘆したのは稲村謙一文庫の規模でした。
 展示室のすぐそばに、いくつもの書棚を使って文庫の書籍がずらりと並んでおり、圧倒されました。当初「一応見ておこう」程度の感覚でいたのですが、この書棚群を見て、何だこれ…この資料数は尋常ではないぞ…と思いました。
 職員さんに聞いてみると、資料数は約5,600点あるそうです。資料目録は、館内のCD-ROM端末で見られます。この目録をざっと目を通したところ、近世以前・近代の文学・哲学・教育書など、たくさんの書籍がありました(復刻版や著作集も多いですが)。開架分の書棚を見ても思いましたが、目録を見ると、「稲村先生は相当な蔵書家・読書家だったんだろうな…」とさらに思わせられました。
 やはり目を引いたのは、児童文集や国語教育研究大会の資料などでした。とくに、1950年代~1970年代の鳥取県内小学校で作られたと思われる児童文集がたくさん見られました(300点以上)。稲村がかかわったものについては、戦前のものも、そろっていそうです。他県の児童文集や同人誌も、少しありました。稲村は歌人でもあったからか、俳句や短歌の雑誌も多くありました。(休呆さんが反応するかな、などと思ってしまいました笑)
 文庫には、一次史料もあるようです。目録を眺めていると、「児童詩授業ノート1年」(4年まであった)という手書きノートを見つけました。展示物の中には、手書きの指導案・指導記録などもありました(戦後だけでなく戦前のものも)。
 昭和戦前・戦後期の国語教育実践に関する史資料(しかも県内屈指の人物がかかわったもの)がひとところに集まって公開されていることは、そうそうあることではないと思います。昭和期(戦前・戦後とも)の教育実践史の研究が、この頃、学会でぼちぼち見られるようになってきました。この文庫は、今後、国語教育史研究者や教育方法学研究者にとって貴重なものになるでしょう。

 展示は、3月3日(土)~4月8日(日)の期間、鳥取県立図書館2階特別資料展示室で開催されています。
 明日、寄贈者への感謝状贈呈式が開かれるそうですよ。

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