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とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

バナナの断面

2010-08-26 15:58:14 | 日記
バナナの断面



ある研修会に参加したときの話である。講演会で講師先生が何の前置きもなく「バナナの断面を配布資料の裏に書いてください」とおっしゃった。参加者は一様にとまどいながら描き始めた。私は、何だ簡単じゃないかと思いながら先ず皮の部分を楕円形に描いた。ポイントは果肉の中心の模様だ。次にそう思ってそこの部分だけていねいに描いた。
 「みなさん描きおわったようですね。それじゃ、周りの人の絵と比べてください」。講師先生は続いてそうおっしゃった。私は恐る恐る覗いて見てほっとした。大体同じような形だったからである。講師先生は机間巡視をしながらうなずいておられた。そして、「みなさんの絵はほとんど間違いです」と指摘された。私は合点できなかった。「いいですか。バナナの皮の部分には五本の線があります。切るとその部分が五つの突起になります。そこに着目すると皮の形は五角形ですね」。そう言われても私はまだ信じられなかった。
 実は、私は毎朝バナナを朝食に食べていた。だから簡単だと思ったのである。五角形と言われてから、私は朝食のときにしげしげと切り口を見つめるようになった。しかも、皮が五枚になるように角の部分からむいた。ついでに果肉の部分もほぐすように割いた。ゆっくり割くときちんと三つに分かれた。その果肉を皿に並べながら「もともと六角形だったかもしれませんが……」という講師先生の言葉を「検証」した。
 生きものの造型には実に整然とした秩序があることを改めて知らされた。いやその前に身の回りのものの形をきちんと見ていないことに気づかされた。講師先生の真の意図はそこにあったのである。(2006年投稿)

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