とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

郵便局

2010-09-04 21:51:46 | 日記
郵便局



 「郵便局といふものは、港や停車場と同じやうに、人生の遠い旅情を思はすところの、魂の永遠ののすたるぢやだ。」
 詩人萩原朔太郎は「郵便局」という散文詩の冒頭と末尾でこのように表現している。(以下『日本詩人全集14』・新潮社より引用)この作品は昭和二年に刊行された詩集『若草』に掲載されている。
 この詩の都会の郵便局には様々な運命を背負った人々が登場する。その日の給金と貯金通帳を手にしながら窓口に列を作っている貧しい女子工員。遠国への悲しい電報を打とうとしている人。田舎で孤独に暮らしている娘に、秋の衣類を小包で送ったという手紙の代筆を懇願している老婦。薄暗い壁の隅で泣きながら手紙を書いている若い女性……。
 作者はその群集の中でも、とりわけ泣きながら手紙を書いている若い女性を注視し、「我々もまた君等と同じく、絶望のすり切れた靴をはいて、生活の港々を漂泊してゐる。永遠に、永遠に、我々の家なき魂は凍えてゐるのだ。」と述べている。
 作者がこの詩中で見ている「郵便局」には独特な思い入れがある。しかし、作者はこういう世界に身を置き、「人生の郷愁を見るのが好きだ」と真情を吐露している。
 私がこの時期にこういう古い詩を紹介するのは、もちろん、最近の郵便局をめぐる情勢が急激に変化しようとしているからである。郵政改革はもう目前に迫っている。どういう形で我々の目の前にその全貌が現れるのであろうか。期待もあるし、不安も大きい。しかし、どういう運営形態になろうと、朔太郎が感じた「郵便局」の底に流れている情感を感じさせる場所であって欲しいと私は切に思っている。(2005投稿)

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