とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

お忍び

2013-06-25 23:06:31 | 日記
お忍び



 業平舞(作者不明)


 倭歌子さんの舞いの美しさがいつの間にかご縁市場の関係者で評判となりました。そこで、古賀所長の主催で小規模の独演会がご縁劇場で開かれることになりました。関係者だけということだったので、ある夜数十人が集まりました。古賀所長が壇上で挨拶しました。


 今日は急な思い立ちにも関わらず多数お集まりいただいてありがとうございます。先ほど湖笛の松江さんから連絡があり、山陽方面での公演は大成功だったということでした。先ずそのことをお伝えします。えー、では、倭歌子さんの舞いをこれから特別に皆さんにご披露いたします。倭歌子さんは市川翠園の劇団に所属しておられ、今は休暇を貰ってお父さんの窯場で陶芸の勉強をなさっています。全く違う分野の勉強も舞台で役に立つと仰っています。今日演奏をしていただくのは氏神さんの若夫婦です。よろしくお願いします。前置きが長くなりました。えー、それでは倭歌子さんの登場です。今日の演目は業平舞です。皆さん盛大な拍手でお迎えください。・・・倭歌子さん演じる白拍子が業平に扮し、舞台中央に出るとどっと拍手の音が響きわたりました。舞う姿は凛々しく、細部の所作も細やかで、踊りの流れがなめらかでした。男装の倭歌子さんの涼やかな眼差しが力強さを感じさせました。私は冴子さんの隣で見ていました。

 もう、出来上がっていますね、と私。

 喜多川さんが目を付ける理由が私も分かりました。郁子さんにはない持ち味ですね。

 彼女が引き抜かれることを翠園さんはまさか知らないでしょうね。

 いや、喜多川さんはもう話をつけていると思います。

 えっ、もうそこまで・・・。

 そうだと思います。

 冴子さん、後ろ、後ろ、入り口の辺り、見てごらん。

 あっ、仙女さん。

 喜多川さんも来てますね。・・・二人は何か話してますね。

 みんな仙女さんには気づいていないみたい。

 お忍びですね。・・・私はこれから何が起ころうとしているか、想像もできませんでした。

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