とぎれとぎれの物語

瀬本あきらのHP「風の言葉」をここで復活させました。小説・エッセイをとぎれとぎれに連載します。

ウオーターハウスの絵

2012-02-19 22:37:05 | 日記
ウオーターハウスの絵





ボレアス (1902年制作・個人蔵)


 前回の「聖堂」もこの絵も背景に神話の要素があると思われるが、私は純粋に絵画として見ようと思っている。
 この絵も卓越した描写力を感じさせる。北風だろうか、吹きすさぶ風に衣装が乱れている。それを必死に押さえようとする女性の表情がすばらしい。衣服のひだに激しい動きが感じられ、全体に溢れる躍動感がある。このまま現代絵画にしてもいいような普遍性を感じる。ウオーターハウスは他にもはっと思わせる絵を多数描いている。・・・絵は化ける。この絵にしても見るものによって無数の物語が紡ぎ出されることと思う。

 さて、大事なことを後回しにしました。実は古賀画伯から大切な連絡がありました。


 畝本さん、完成しましたよ。

 ええっ、早いですね。佐山さんやりしたね。

 そうです、すごいです。さすがです。

 で、どんな絵ですか。

 京子さんをモデルにした人物像です。

 いや、それは分かりますが、もっと具体的に・・・。

 具体的にですか。説明しにくいですね。

 特徴ですよ。

 特徴ですか。そうですね。・・・立派に化けました。見る人によってもさまざまに化けると思います。

 実物を見たいですね、早く。

 ごめんなさい、実はもうあのアトリエには無いんです。

 えっ、ない!

そうです。ありません。

 じれったいですね。じゃ、どこにあるんですか。

 ある画商が経営するギャラリーです。その人には昔から私お世話になっています。

 どうしてですか。展覧会とか審査会に出さないんですか。

 その点は佐山さん、京子さんといろいろ相談したんですけれど、過去にいろいろあったので、最初の作品は止めようということになったのです。

 そりゃ惜しい!

 ええそうですけど、まあ、しばらく店に展示しておこうということで・・・。

 買い手がつけば・・・。

 いや、売らないということです。

 売れなきゃ生活が・・・。

 いやね、却ってその方がいいでしょう。

 どうしてですか。

 できるだけたくさんの人に見てもらえるからです。

 ・・・。

 まず、今までの佐山さんではないということをアピールする必要があると思います。私は今度は旨くいくと信じています。いや、きっと問い合わせがたくさんあると思います。

 じゃ、そこはどこですか。私も早く見たいです。

 いずれご案内します。

 そうですか。いや、分かりました。待ちます。

 それからね・・・。

 何ですか。

 京子さんから聞いた話でけれどね、お父さんが具合が悪くなられたそうです。

 えっ、お父さんとは連絡をとっておられたんですね。

 そうらしいです。

 で、どういう具合ですか。

 それが・・・。

 悪いんですか。

 ええ、眼が不自由になられたそうです。奥さんが大変みたいです。

 急にどうしてそんな・・・。

 ええ、以前から糖尿だったそうで、それが原因のようです。

 ということは、もし、絵を見たいと思っても見られない・・・。

 ええ、残念です。

 そうですか。・・・私は、そう言いながら私の父のことを思い出していました。若いころ失明した父のことを。


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