医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

胸部エックス線検査、40歳未満は医師の判断で5年に1回に省略

2006年07月22日 | 呼吸器
労働安全衛生法に基づいて職場の定期健康診断で年一回義務づけられている胸部エックス線検査について、厚生労働省は21日、40歳未満は医師の判断で5年に1回に省略できるとの案を同省の検討会に示した。

検討会は8月にも結論を出す見通し。同省は研究班を設置して影響を調査したうえで同法施行規則を改正し、早ければ2008年4月から実施したいとしている。

昨年4月施行の改正結核予防法が一般職場でのエックス線検査の義務づけを廃止したため、同法に準拠する労働安全衛生法についても、検討会でエックス線検査の必要性が議論されている。

厚労省の案によると、40歳未満の若い世代では、エックス線検査で結核などの病気を発見できる利点よりも、放射線被曝(ひばく)による発がんの有害性の回避を優先。雇用時の健診でエックス線検査を受けた後は、医師の判断で5年に1回に省略できるとしている
(以上、日本経済新聞より引用)

この記事を、私のブログの以前の記事から整理して考えてみたいと思います。

これまで若い世代でも毎年胸部レントゲン撮影が行われてきたのは30年ほど前までは比較的社会に蔓延し、死亡率も高かった結核を早期に発見するためです。しかし、抗生物質の進歩で結核の蔓延と死亡率は激減しました。従って肺ガンの罹患率が低い若い世代で毎年胸部レントゲン撮影を施行する意義はなくなったのです。

しかし、その理由ですが「放射線被曝(ひばく)による発がんの有害性の回避を優先」とあります。これは間違いです。以前今話題のMDCTの被ばく量は?でお伝えしたように、私たちは宇宙や自然界から毎日被爆しており、日本における自然放射線被曝は年間2.4mSv(ミリシーボルト)であるのに対して、胸部レントゲン撮影1枚の被曝量は0.065 mSv、つまり自然放射線被曝のたった1日分にしか相当しません。たとえ80年間毎年胸部レントゲン撮影を受けたとしても、私たちが日常宇宙や自然界から受けている被曝量の80日分にしか相当せず、それが「発がんの有害性」につながるはずはないのです。それを言えば、1回の施行で5年分の自然放射線被曝に相当するCT撮影などは、よほどの有益性がなければ施行が禁止されるべきとなってしまいます。

従って、「40歳未満では医師の判断で5年に1回に省略できる」理由は、「放射線被曝(ひばく)による発がんの有害性の回避を優先」するためではなく、単に「有益でない」とするべきなのです。こういう記載では胸部レントゲン撮影には相当の発ガン性があると誤解されてしまいます。

一方、40歳以上に対する胸部レントゲン撮影は、健康診断の胸部レントゲン撮影が肺ガンを検出する率でお伝えしたように、特に現行喫煙者では1,000人あたり6.3人の肺ガンを検出することができ有用です。

ただし、胸部レントゲン撮影で肺ガンを見つけることと、それによって生命予後を改善させることができるかは別問題なのです。

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