医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

2歳未満の子供に対する2回以上の全身麻酔はその後の学習障害を増加させる

2012年06月04日 | 小児科
じゅんさんからコメントをいただきましたので、さらに詳しく調べてみました。

研究・調査は2011年に公表されました。2009年に公表された結果Anesthesiology. 2009;110:703の続報です。

Cognitive and behavioral outcomes after early exposure to anesthesia and surgery
Pediatrics. 2011;128:e1053.
(インパクトファクター★★★☆☆、研究対象人数★★★★★)

米国のミネソタ州で、1976年から1982年に生まれた8548人を調査対象として、出生児体重、妊娠期間、母親の学歴などの情報が明らかである5357人が追跡調査されました。

その子供たちの中で、2歳になるまでに全身麻酔を受けた子供は350人いました。その350人と出生時体重、妊娠期間、母親の学歴、正常分娩かどうか、などが一致するように選ばれた全身麻酔を受けなかった子供700人と比較されました。

結果は、上の図にあるように、2歳になるまでの全身麻酔が1回では、全身麻酔を受けなかった子供と学習障害の率は同じでしたが、2歳までに2回以上の全身麻酔を受けた子供は有意にその後の学習障害が増えました。ハザードレシオ(危険上昇率)は2.12倍でした。なお、学習障害かどうかが判明してくるのは少なくとも5歳以降なので、図は5歳からの結果になります。

アメリカ合衆国の学習障害の定義は以下のようにあいまいなのですが、
The term “specific learning disability” means a disorder in one or more of the psychological processes involved in understanding or in using language, spoken or written, which may manifest itself in an imperfect ability to listen, speak, read, write, spell, or to do mathematical calculations. The term does not include children who have LD which are primarily the result of visual, hearing, or motor handicaps, or mental retardation, or emotional disturbance, or of environmental, cultural, or economic disadvantage.
上の図を見ると12歳の学習障害が全身麻酔なし・1回では18%なのに対して、全身麻酔2回以上では34%にも達しています。


その差は歴然としています。コレステロールの薬を飲めば0.3%心筋梗塞が減るとか、そういうレベルの話ではないですね。私自身、調べていて驚きました。

ただ、
The effect of general anesthesia and strabiamus surgery on the intellectual abilities of children: a pilot study.
Am J Ophthalmol 2012:153:609.
には、5歳~10歳の全身麻酔では差はなかったなどという報告もありますので、子供の年齢によるのだと思います。

Pediatrics. 2011;128:e2868.の総説には、「学習障害」の判定に偏りや交絡因子が入り込む限界や、無作為割り付け試験が不可能である限界を認めながらも、小児科医と麻酔科医は常にこの問題を意識する必要性と、後ろ向き試験でもいいから調査・研究を続ける重要性が示されています。

じゅんさん、10ヶ月の息子さんの4ヶ月の間隔で3・4回の全身麻酔という太田母斑の手術は遅らせた方がいいのではないでしょうか。それに男の子だし。
私の息子なら10歳以降まで手術しないと思います。


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13 コメント

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本当にありがとうございます! (じゅん)
2012-06-05 21:43:12
まさか、新たに調べていただいたり記事にしていただいたり…そこまでしてもらえるとは思ってもいませんでした!

お忙しい中ありがとうございます。

記事を呼んでから悩んでいましたが、お陰様ですっきり心が晴れました☆

麻酔をしてきれいになったとしても、後々後悔する場合がある。それよりは、息子本人が自分で納得し、治療したいと言ったときに開始したいと思います!

しっかり説明できるようにワタシ自身も今後少し痣のこと、麻酔のこと、レーザーのこと、勉強しなくては(^^)/

余談ではありますが、実はワタシにも薄くて気にしたことはないのですが、赤ちゃんの時に太田母斑と診断された痣が頬にあります。ワタシもレーザー治療してみようかしら(>_<)

息子のあざもあまり濃くなりませんように…


本当にありがとうございました!!
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記事、とても参考になりました。 (まどか)
2012-06-11 00:14:59
じゅんさんと同様私も、娘に全身麻酔で手術を受けさせるかどうか悩んでいます。
うちの子は顔にある脂腺母斑です。

手術は本人の記憶に残らないようできるだけ早い時期にと思っていたのですが、この記事を読んで5歳まで待つことにしました。

今後ともこのブログをチェックさせていただきますので、類似の研究結果がありましたらよろしくお願いします。
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後悔しています。 (なが)
2012-06-30 23:36:39
初めてコメント書かせていただきます。
私の息子は生後6か月、1歳、2歳と3回の全身麻酔の手術をしました。鼠径ヘルニアと臍ヘルニアの手術です。
そして現在2歳4か月、言葉は遅く、認識力が低く、発達障害の診断が下りている状態です。
鼠径ヘルニアはさすがに手術を遅らせることもできないほどの状況だったため、仕方ないにせよ、臍ヘルニア(3回目)はしなくてもよかったのでは…と後悔しました。と言っても、鼠径ヘルニアだけで2回もしているのでどうにもなりませんが…
こういう情報に今、気付いたのが残念でなりません。
どうか今後、他のお子様たちの全身麻酔手術には、ご両親が慎重になられることを切に願います。
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一月以上前のエントリにコメントすいません。 (タカ派の麻酔科医)
2012-07-12 11:24:09
 この論文が出るずっと前に、この様なことを調べようとしたことがあります。パイロットスタディ以前の下調べで、教育学部の先生などにお話を伺ったこともありますが、そのまま研究対象とするまでの差があるとは思えませんでした。
 2歳までに全身麻酔が必要となる疾患がなんなのかによってこの論文の意味は変わってきます。確か、詳細な内訳はなかったように思います。
 学習障害を持つ人間を母集団として、さかのぼっての調査をしないと、この論文の評価はできないと思われます。
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タカ派の麻酔科医様 (secondopinion)
2012-07-13 20:54:48
タカ派の麻酔科医様、貴重なコメントありがとうございます。
コメントを簡単に例えると、2012年の愛知県(麻酔あり)と滋賀県(麻酔なし)の交通事故死(学習障害)はどちらがどれだけ多いかを比較するときに(もちろん人口で補正して)、両県の交通事故死の数を前向きに比較する(Coxハザード)のではなく、その他の因子も考慮しながら日本全国の交通事故死(学習障害)の中で、愛知県在住者である割合と、滋賀県在住者である割合を比較する(ロジスティック多変量解析)と解釈いたしましたが、私も同感です。ランダム割り付けが不可能な研究ですので、その点はスタディー・リミテーションと思われます。麻酔科医としては、他にどのような因子が考えられると思われますでしょうか?門外漢の私がふと思い浮かんだのは、幼少時に手術が何度も必要な子供は、麻酔以前に、他に潜在的な問題(この言葉が適当かどうかはわかりませんが)を持っている子供である可能性があるのではないかということです。
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その通りです (タカ派の麻酔科医)
2012-07-17 10:37:27
 2歳までに複数の全身麻酔を受ける必要があるのは、よほどのことです。親の接し方もかなり異なるでしょう。ああ、こんなに何度も手術するなんて可哀想、どんなわがままもかなえてやろう。そんな親も見受けられます。教育環境を含めての総合的な分析こそが必要です。
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タカ派の麻酔科医さん (じゅん)
2012-07-20 23:50:05
学習障害に親の甘やかした等の教育的な環境要因は関係ないときちんと定義されています!

確かに、複数回の全身麻酔を要するという子どもの何か潜在的な要因等があるという可能性は否めないと思いますが…

学習障害のある人々はどんなに努力をしても、自分でもなぜなのかわからないのに、文字がつながって見えたり、黒板を見てそれを書き写そうとする間に忘れてしまったりするのです。

親に甘やかされて、努力もせずに勉強ができないことは学習障害とはいいません!  


タカ派の麻酔科医さんの考えは学習障害の方もその親御さんのことも傷つけることになりかねません。


ちょっと本テーマから話がずれてしまいましたが、お医者様にとっては知っておいて損なことはないと思いましたのでしゃしゃり出てしまいました。

すみません。
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じゅんさんありがとう (タカ派の麻酔科医)
2012-07-21 09:41:55
 私は、20年以上前に医学部を卒業しています。卒業大学には小児の発達に特化した講座もありましたが、昨今問題とされている様な学習障害とされる疾患の概念はありませんでした。同じく、精神科にも家族療法などを範疇とする講座がありましたが、適応障害あるいは発達障害の範疇となる疾患概念についての講義などはありませんでした。勉強しなおす機会になりました。
 ただ、対象となる期間を考慮すると、もともとの研究の対象となる児は、必ずしも厳密な意味での学習障害であるとみなすことは危険ではないかと思います。そもそも揮発性吸入麻酔薬の性質を考える時、1回と2回での違いは意味がありません。学習障害の発生に全身麻酔が寄与しているとの認識で適切な時期に治療を受けることが躊躇されることの方が問題だと思われます。
 細かいことを言えば、当時は今ほど積極的に小児に対する外科的治療は行われていないので、やはり2歳までに複数回の手術を受ける状況は、児の要因が大きかったと思われます。
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同感です (じゅん)
2012-07-24 23:43:41
学習障害 の発生に全身麻酔が寄与しているとの認識で適切な 時期に治療を受けることが躊躇されることの方が問 題だと思われます。


という点は声を大にしてつたえなければいけませんね!

我が子は太田母斑のレーザー治療でしたので、今回は見送りましたが、それが命にかかわることでしたら話は別です。

学習障害、その他障害がたとえあったとしても今は支援体制も整ってきています。

あの有名なトムクルーズだって学習障害があるそうです。台本は自分では読めないのだそうですよ。


またまた話はずれましたが、今後この研究結果が
明らかになり、安心して乳幼児に全身麻酔を処置できる日が来ることを祈ります。
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追伸 (タカ派の麻酔科医)
2012-09-15 18:10:34
 anesthesiologyに関係する論文が出ていましたが、そちらでは、最初から知的障害を呈する可能性のある疾患に関連する手術が除外されて、検討されていました。
 結論だけ言えば、麻酔時間が長くなれば、確かに試験の成績が落ちていく様な結果が出ておりました。が、しかし、本来長時間の手術となるはずのない、包茎の手術やら、鼠径ヘルニアの手術で、麻酔時間が長くなるということ自体が別の問題の発生を想起させる状況であり、普通に必要な手術を受けるに当たって、麻酔の影響を過大に評価すべきではないと言ってよいと思います。
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