医者から詳しく聞かされない医療情報:セカンドオピニオン

誤解と批判を恐れない斜め後ろから見た医療情報

天皇陛下はなぜステント治療ではなくてバイパス手術なのか

2012年02月24日 | 循環器
心臓の血管が狭くなった状態を治療するのにバイパス手術とカテーテル治療がありますが、カテーテル治療には次の3つの世代がありました。

第1世代:先端に風船がついたカテーテルを使用して狭いところを広げる風船治療(1980年代)
第2世代:ステントという金属を狭いところで広げて留置しておくステント治療(1990年代)
第3世代:再び狭くならないようにする薬剤を塗ったステントを留置する薬剤溶出性ステント治療(2000年代~)

第1世代には、心臓の血管3本ともに狭窄がある場合、風船治療とバイパス手術のどちらが患者の予後(死亡や心筋梗塞)が良いかということに関して風船治療はバイパス治療ほど成績が良くありませんでした。しかし、そのような研究の結果が出る頃には時代は第2世代になっており、風船治療をしている医者は「今はステント治療の時代なのだから、現状ではバイパス手術に負けているかどうか分からない」と主張し、ステント治療を続けていました。

その後、やはりステント治療はバイパス治療ほど成績が良くないことが臨床研究の結果から分かりました。しかし、そのような研究の結果が出る頃には第3世代になっており、この時もステント治療している医者は「今は薬剤溶出性ステント治療の時代なのだから、現状ではバイパス手術に負けているかどうか分からない」と主張し、薬剤溶出性ステント治療を続けていました。

今までに同様の研究は欧米で行われて、2009年9月にNew England Journal of Medicineで公表されていました。結果は総合してみると,主要心脳血管イベントの発生はバイパス手術のほうが有意に良好で、この傾向は病変が複雑になるほど強く、複雑病変ではバイパス手術が適しているという結果でした。

それでも、「日本の医者は欧米の医者よりも手先が器用でステント治療が上手だから、この結果は日本には当てはまらない」と主張を続ける医者がいました。

最近、「日本において」ステント治療とバイパス手術のどちらが平均して患者の予後が良いかという、画期的な結果が発表されました。

上の図は、赤線はバイパス手術、青線はステント治療(77%が薬剤溶出性ステント)です。CABGはバイパス術のこと、PCIはステント治療のことです。3年間での死亡はバイパス術が9.3%、ステント治療が11.7%でステント治療の方が多いです。3年間での心筋梗塞も、バイパス術が2.5%、ステント治療が5.0%%でステント治療の方が多いです。患者の予後はバイパス術の方が良好でした。

3年間で2.4%の差ということは、9年間で約7%ということです(予後はかならずしも直線的ではないので、あくまでも大ざっぱな計算ですが)。9年後には、あの時バイパス術を選んでいたら死なずに済んだという人が14人に1人出てくるわけです。


3年間で死亡率が10%近いというのはかなり高い確率と思われるかもしれませんが、その理由は、バイパス手術をしなければならない状態は心臓の血管が3本とも細いし、その他の動脈の動脈硬化もかなり進行している患者であるからです。

さて、なぜ天皇陛下にはバイパス術が選択されたか?

その前に、死亡はバイパス術が9.3%、ステント治療が11.7%だといっても、ステント治療でも88.3%は3年間に死亡していないという事実、そして、ステント治療は入院が2~3日間程度で、バイパス術が約2週間程度であるのに比較して、身体への負担は少ないという事実も理解しなければなりません。

一般の人(天皇陛下以外の人という意味で)では9.3%と11.7%の差、すなわち「2.4%の死亡のリスクの上昇と引き替えに「身体への負担が少ない方」を選ぶことも行われている」ということで、これは患者が「2.4%死亡のリスクが上昇する」ことに「納得」していれば、間違っていることではありません。

しかし、天皇陛下の場合はどうでしょうか。天皇陛下の場合、「9年で14分の1の確率で、あの時バイパス術を選んでいたら死なずに済んだ」のに、その死亡のリスクと引き替えに「ステント治療は傷口が痛まないから、入院が短いから」ステント治療を選ぶことは許されません。できるだけ死亡リスクが少ない方を選ばなければならない立場であるのです。

さて、ここでふと思うのですが、それでは実際に「3年間で死亡のリスクが2.4%上昇するけれど、それでもステント治療で良いか」ということを、医者は患者にちゃんと説明しているか疑問が残るということです。5年間で心筋梗塞を1%減少させるという理由で、ある薬をせっせと患者に追加しながら、一方で「3年間で死亡のリスクが2.4%上昇する」治療を選択しているのは、矛盾している部分もあります。

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その他考えられる理由として、天皇陛下は手術が上手な医者に執刀してもらえるから?この分析は必ずしも正しくありません。なぜなら、上記の最近の日本の研究は、26箇所の病院のデータを総合したものであり、手術が上手な病院だけを特別に調べたものではないからです。それに、たとえステント治療になってもステント治療が上手な医者を選んでくるからです。

ステント治療は、再び細くなることがバイパス術よりも多いので、天皇陛下が入院を繰り返すのは公務に差し支えるから?これは一部当たっていると思います。でも、それなら一般の人にステント治療をする際には、一般の人は日常の仕事に差し支えても良いのか?という疑問が残ります。

患者の皆さん、不安であれば、「私の場合も天皇陛下と同じように判断して下さい」と、ちゃんと医者に言いましょう。

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コメント (9)
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