平成30年度 橡の芽賞
岐阜 中一 豊田椎乃
真っ黒な波が崩れて夜光虫
この句を文章にしてみました。
「灯りのとぼしい夜の海。岸辺を歩くとき、波音だけがよく聞える。昼間の波うちぎわは白く泡立って寄せていたけれど、ああ、あの光は夜光虫!崩れた波がしらに沿うように、きらきらと光る不思議。」
豊田さんの俳句はこの三行を五七五に簡潔にまとめて印象深いです。夜光虫の正体はプランクトン。揺らしたり、ぶつかったりすると体の中に持っている成分が反応してよく発光するそうです。この性質が俳句の中でも上手く表されています。実はこの秋、家の者が夜光虫ごと海水を取ってきました。透明なプラスチック容器に入れ、夜ともなると灯りを消して、真っ暗な部屋の中で揺すってみました。きらきらと光が走りました。一週間くらいは楽しんだものです。そのたびに豊田さんの俳句を思い出しました。夜光虫を見たこともない方もあるかと思います。いつかどこかで見る機会があれば、きっとこの句が浮んでくることでしょう。 亜紀子