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橡の木の下で

俳句と共に

「暖冬」平成28年「橡」2月号より

2016-01-27 10:39:11 | 俳句とエッセイ

暖冬  亜紀子

 

良き衣を着てつどひ来る針供養

蒟蒻の鎮座まします針供養

十二月八日の日差し雪蛍

暖冬のもみぢ狩なり渡月橋

水仙やどの路地行くも塵のなき

怪しかり師走なかばのこの温さ

熱演を終へて咳くツィメルマン

節々を風邪の神に操らる

暖冬の受験子いささ生温く

ぞろぞろと地下鉄を出る白マスク

三人四人煤逃げらしき日向ぼこ

徳川の雄松雌松の大飾

照ら照らと誰かれの顔初篝

軒を立つ雀の声や初旦

四日はやネクタイ締めて四十雀

 


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堀口星眠著『俳句入門のために』 平成28年「橡」2月号より

2016-01-27 10:34:14 | 俳句とエッセイ

 堀口星眠著『俳句入門のために』 

                亜紀子

 

 間もなく父の一周忌を迎える。時間に気が付くのは過ぎ去った後である。ああ、もう一年たってしまったのかとその早さに不思議な気持ちになる。一方で、此のかた身の回りだけでも様々のことがありずいぶんと長い時を過ごしたようにも思える。別れというのはこういうことかと思う。面白いことに俳句について考えるときは、生きていようがいまいが今でも最初に父のことが頭に思い浮かぶのである。自分なりにちょっと良い句ができたような気がしておの惚れた時、誰かの句にいたく心動かされた時、自分の句に迷いのある時、お父さんなら何と思うかしらと考える。考えるというよりも反射的に思い浮かぶのだ。思い浮かんでから、この世にはいない人に問いを発する自分の心の働きを面白く思う。実際には存命中でも父に問うことはなかったのだが、一つの習慣のようになっている。それが本当に好ましいことなのかそうでないのかは分らないけれど、俳句というものを考えるとき、無意識のうちに星眠の俳句が常に一本の拠り所になっている。

 久しぶりに『俳句入門のために』堀口星眠著(平成七年揺籃社)を読んでいる。平成五十九年橡創刊から四十数回にわたる連載「入門のために」を一冊にまとめた解説書である。大いに気力充実、意欲盛んな時期に書かれたものと思うが落ち着いていて緻密な文章である。おそらく昔読んだ時には上滑りで分ったつもりになっていたのだろう。今初めて読むような、はっと胸に響くものがある。初心者のための手引書の体裁であるが、いつ誰が読んでも納得がいくと思う。

 目を開かれる話が随所にあるが、中からひとつ「描写と説明」の項に触れてみたい。

—「俳句には描写が必要である。これは描写でなくて説明である」という選者。「描写と説明の区分が分らない。自分は描いたつもりなのに説明であるという。とりつくしまがない」と思う初心者。—という書き出しで、この項が三部に別れて説明されているのは、俳句で描写するということの難しさの表れかと思う。あえてまとめてみると俳句における描写とは絵画における写実、その写実の奥に作者の心、作者独自の発見のある表現ということになる。単なる事項の報告ではない、かといって一人よがりの「心」の表出でもない。

 さてこう結論めいたことを言っても、あげられている例句、一文一文のニュアンス、星眠の文章そのものを自分の目で読まずしては理解に至り得ないかと思う。この項で成る程と膝を打ったのは、同じ景色を詠んだ二つの句を並べて、どちらがより描写が確かで、眼前に再現して見せるものがあるかを比べ評したくだりで「描写とか説明とかいう評語はその句に限って言われるものなのです」と記された箇所だ。ある表現はこの句では描写として利いていても、同じ表現が別の句では単なる説明となることもある。俳句を論評する際には具体的にその句に即して考えてみなければ話にならない。

 ものに即して具体的に考える。それには自分の目と耳を使い、自分の頭を動かし、ものに即して実際を見る、その人に即してその人の言を聞く。こうした態度は日常生活場面でも重要であるが、俳句に限って言えばそれが独創(独善でなく)の俳句に繋がっていくのだろう。「人と同じものを作っていてはいけないよ」と言う父の言葉をいつも思い出す。独自であり、且つ多くの人に受容される句である。「自分の心の中で感じたものを、何とか苦心して句にするという原則」「もっとも大切なのは楽しむこと、気持ちよく苦労することです。そういう努力は必ずよい結果をもたらすのです。ああ、これだと分り満足するときが来るのです。」このあたりが星眠俳句の鍵のように感じられる。

 暮れの句会で初心者のAさんにこの『俳句入門のために』をお貸しする約束をした。今回だいぶ朱で傍線を引いたので少し読みにくいかもしれぬ。しかしこの本の内容を伝えるのには、読んでいただくのが最も具体的な方法である。他にもお持ちでない方があるので、順次回していただき手擦れるようになれば幸いである。


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選後鑑賞平成28年「橡」2月号より

2016-01-27 10:30:49 | 俳句とエッセイ

選後鑑賞  亜紀子

 

豊作で売値のつかぬ大根引く  小野田晴子

 

 冬に入っても高温多雨、気象異変で生育の早まった大根の値崩れが農家を悩ませた。市場に出せぬと分っている大根引き、農家の思いはいかばかりか。規格外に育ち過ぎた野菜や、干柿、切り干しなどの作業の遅滞、暖冬は自然に沿って営まれる農業へ大きな影響を与えている。掲句はその事実をさらりと詠み上げているが、先ず豊作でと朗らかに詠い出しておきながら、続く中七下五で厳しい現状を明らかにし、俳句らしい表現の一つを掴んでいるようだ。

 

身なりよく幼少受験悲壮なし  馬詰圭子

 

 幼少受験というと私学の小学校だろうか。あるいはさらに幼い幼稚園受験かもしれない。三々五々集まった付き添いの母親はもとより、子供たちも皆こざっぱりと整った身なり。いろいろな意味で余裕のある集団。さてそうは云っても親たちは緊張しているだろう。子供はと見れば、状況を認識しているのかいないのか、少しの屈託もなくいつも通りに友達を見つけて遊び始めた。受験といえば身につまされることばかり連想されるが、悲壮なしとはいささかの救いがある。身なりよくの語が全体の状態を的確に描き出したようだ。

 

島小春戸毎に祀る地蔵さま   太田順子

 

 戸毎に地蔵尊を祀るというのは、各家で地蔵を祀るのではなくて戸毎に廻してそれぞれの家にお泊めしてお祀りするということだろうか。小春凪の海の光、人々の素朴さ、守り続けている信仰。穏やかな島の姿を地蔵さまと優しく言い取って表現した。いずこか知らぬけれど訪れてみたいと思わせられる。

 

友見舞ふ博多の夜の時雨れけり  浅田つき子

 

 博多は住みやすい地と聞いている。物価が安く食べ物は美味しい、人情に厚い土地柄、大きさも丁度良い。転勤の多いご主人の仕事の関係で日本中を回られた方に伺ったところ、何処が良かったかと尋ねられれば先ず博多だとのこと。ちょうどお子さんの手がやや離れて自分の友人というものが増えた時期であったのも良かったとのこと。掲句、これが単なる旅の夜であれば博多の街の屋台の灯もまた違った景色であったろう。病の友を見舞った夜は街の灯が時雨に滲む。

 

風呂吹の大鍋たぎつ介護園   岡田まり子

 

 高齢者の福祉施設であろうか。外は寒風のすさぶ日。キッチンの大鍋が湯気を濛々とあげて良い匂いが満ちている。風呂吹は家庭的な味。作者はボランティアで手伝いをされているのかもしれない。

 

日短か見知らぬ従妹尋ねけり  瀬尾とし江

 

 短い日の暮れつかた、何かの事情があって縁戚の家を尋ねることになった。従妹とはいえ面識のない人である。いささ落ち着かぬ気持ち。日短かという季語に何とはなしドラマが感じられる。

 

里山の眠れぬ熊に麻酔銃    遠藤忠治

 

 福島で熊が会社の事務所に入り込み、大捕り物の末麻酔銃で眠らされて山へ戻されるという事件が起きた。今年の気候で山は団栗の豊作、冬眠の準備に入っていた充分に肥えた大きな熊だそうで、食料を求めて出てきたわけではないようだ。あまり暖かな冬で冬眠を忘れたのか。理由は分らないけれど、眠れぬ熊という表現が作者の創造。詳細を知らなくとも、山里の冬始めの珍事を充分想像できる。

 


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平成28年「橡」2月号より

2016-01-27 10:27:01 | 星眠 季節の俳句

 白根遠し雪に置かるゝ狐の餌  星眠

            (『火山灰の道』より)

 

 戦前から通っていた北軽井沢の養狐園の景。戦後は規模も縮小され廃れたそうだが、作者の好きな場所であったようだ。野上弥生子の短編に「狐」があり、同所に取材したと思われる。俳句と小説のアプローチの違いが興味深い。

                                               (亜紀子・脚注)


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草稿01/27

2016-01-27 09:51:34 | 一日一句

眠る鉢はこべらがまづ萌ゆるかな  亜紀子


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