大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・211『姉崎先生の死』

2024-03-23 09:57:05 | 小説4
・211

『姉崎先生の死』ミク 




「先生」「姉崎先生」


 額づいた姉崎先生に声をかける。

 ちょっと緊張する。在学中、こちらから声をかけるのは呼び出されて叱られる時ばかりだったので、こういうシチエ―ションでは条件反射で緊張が先に立つ。

 八年ぶりの後姿はピクリと動いたかと思うと、振り向くことなく、そのまま横倒しになった。

 ドサ

「「先生!」」

 仰向けになった髭面には生気がない!

 直感で、命の火が消えかかっているのが分かる。

 すぐに呼吸と脈拍を調べる。

「どうだ?」

「バイタルが弱い、めちゃくちゃ弱い!」

「救急要請するぞ!」

 ダッシュがハンベに呼びかけようとすると、先生の髭がピクリと動いた。

「懐かしいなあ二人ともぉ……」

「喋っちゃいけません、いま、救急車を呼びますから。取りあえず、酸素吸ってください」

 バッグから非番の時でも持っている携帯酸素吸入器を出す。

「……ムグ」

 吸入器を加えさせると、先生は救急要請をしようとしているダッシュの手を掴んだ。

「先生?」

 先生は声を出さずに自分の頭を示した。ハンベで脳波会話しろという意味だ。

――すまん……もう会話する力もない――

 すぐにハンベは、先生の意志を音声化したが、後が続かない。

 それでもハンベは先生の脳との会話をやめず、ダッシュも救急要請をやめず、病院に着いて脳死判定されるまで続いた。


 先生の頭脳の七割は人工頭脳だったことが検死で分かった。


 二十三世紀の今日、ロボットと人間の境目は曖昧だ。臓器や筋肉以外でも、脳機能の一部を機械に置き換えることは前世紀から行われている。人とロボットの差は『ソウルがあるかないか』というのが基準だけど、論理的にはロボットの人工頭脳に人のソウルを移植することも可能だと言われ、現に、日本の児玉元帥と漢明の劉宏大統領の先例がある。

 先生の頭脳とハンベは脳死判定されるまで繋いでおいたから、かなりの記憶や情報がリンクしている養生所のサーバーに保存された。

 マッパ病のリスクがあるので、先生の遺体はパルス波で火葬にされた。

 遺骨を届ける親族を探さなければならなかったし、先生も最後に言い残すことがある様子だったので、半ば公務として先生の記憶を再現した。公務扱いなので、軍警のダッシュも任務として付き添ってくれる。

「なにか分かったのか?」

「うん、ここ見て」

 朝ごはんのお握りをパクつきながらモニターのスイッチを入れる。

 静かの海と思われる戦場、実体弾やレーザー、パルス波が飛び交い、そこここで炸裂、それを避けながら前進だか後退だかしている兵士。兵士のボディーカメラの映像、激しく揺れて、めちゃくちゃ見にくい。

「三人称視点にならないのか?」

「ああ、メカに弱いもんだから(^_^;)」

「ちょっと触るぞ……」

「おお、さすが軍警!」

「変換すると裁判とかの公的資料にはならないが、大づかみするにはこのほうがいい」

 ああ、そうだろうね。大昔のゲームは早い時期に一人称視点は廃れてしまう。疲れるし酔っちゃうし、そのへんの感覚は二百年経っても変わらない。

 三人称視点にすると、さらに凄惨さは倍増した。

「あんまり握り飯食いながら見る景色じゃねえなあ……」

「う、うん……」

 二個目のお握りはラップも解かずに袋に戻して続きを見た……。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第118話《遅いんだよな、開票結果!》

2024-03-23 06:29:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第118話《遅いんだよな、開票結果!》さつき 





「ええ、まだ結果出てないの!?」


 二日酔いのぼさぼさ頭で起きだして、テレビのニュース番組を見て叫んでしまって、さくらが嫌味な視線が刺さる。

「帝都の卒業生も二年たつと、こうなっちゃうかねえ」

「え、なに?」

 返事の代わりに鏡を渡された。なるほど、ごもっとも。我ながらひどい顔だ。

 昨日はゼミの仲間といっしょにトムを慰めながら終電まで飲んでいた。

 イギリス……いや、スコットランド人の中でも、トムは思い切り優柔不断な奴だ。世論調査でも、スコットランドの独立に関しては94%の人たちが賛否いずれにせよ態度が明確だ。6%の人が賛否保留。これは分かる。近所や職場がみんな違う意見だったりすると、なかなか思った通りを口にできない場合もあるだろう。

 でもトムは違う。日本に来ているのだ。日本人は世界に冠たるミーハーな国民性だけど、マスコミが騒ぐほどにはスコットランドには関心が無い。だから、なんの遠慮も無く賛成でも反対でも叫べる。それが昨日車で跳ね飛ばしそうになってから丸一日付き合うハメになったけど、トムはハムレットだった。

「投票結果出るのは夕方だって……」

 お母さんが、朝ごはんの用意しながら教えてくれた。

「日本だったら、出口調査で投票締め切りと同時に結果でるわよ」

 トーストの上にスクランブルエッグ載っけて、あたしはぼやく。

「せめて着替えてから朝飯食べたら」

 斜め前のお父さんが言う。

「いいの。スコットランドのお蔭で、昨日は振り回されっぱなしだったんだから」

「それは同情するけど、ここのボタンぐらい留めなさい」

 と、胸元を指した。あたしったら、パジャマの第二ボタンが外れていた。お父さんの角度からだと胸が丸見えだったんだろう。

「ごめんなふぁい……」

 トースト咥えたまま素直に謝る。さくらだったら「変態オヤジ!」とか逆ねじなんだろうけど、さすがに大学生、自他の状況を見て反応が出来る。お母さんの「情けない」という視線をシカトして、モソモソと朝食を咀嚼する。

 なんとか身づくろいしてダイニングに戻ると、お父さんはご出勤、さくらも学校に行っていた。でも、テレビでは相変わらずスコットランド。で、コメンテーターが、沖縄の独立なんて飛躍した話をしている。

「こういう奴が一番許せないのよね……」

 お母さんが冷やかに言った。

 たしかに、このコメンテーターは慰安婦問題でさんざん政府を批判しておきながらA新聞が叩かれ始めると、一週間沈黙したあと、急にA新聞批判になってしまった。   

 で、知ったかぶりの話題づくりのために沖縄独立なんてことを言いだす。

「針程の事を電柱程にも言うんだから。スコットランドはイングランドと違ってケルト人だけど、沖縄は純然たる日本よ。文化的にも民族的にも。沖縄が外国だって言うんなら、東北だって外国。京都や山陰は人類的形質じゃ韓国と同じになっちゃう。そういうことも分からないで、ただエキセントリックだというだけで、こんなことほざくんだもんね」

 かなり学問的で分析的な批判をお母さんは言う。

 見かけは普通の主婦だけど、お母さんは兼業作家だ。知識と理屈は並の大学の講師の上を行く。付き合っていては論議を吹っ掛けられそうなので、大学へ行くことにする。

 そこにゼミの高坂先生から電話……トムが夕べから寮に帰っていないだとさ。

 アンチクショー!



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・088『ロッカー整理』

2024-03-22 10:52:30 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
088『ロッカー整理』   



「ねえ、これ、似てると思いませんか!?」


 終業式も終わってロッカーの整理をしていると、ロコが映画のパンフみたいなのを開いて近づいてきた。

「あ、見たことある!」

「お、さすがグッチですねえ! 本放送は7月からだから、まだ知らない人が多いんですよぉ!」

「え、そうなの(^_^;)?」

 昭和の学校に通って一年あまり。こういうことには気を付けている。

 通い慣れてしまうと、昭和も令和もそんなに違いは無い。

 両方とも同じ宮之森の街だし、同じ高校生だし。

 でも、実際には50年以上の時間の開きがあるので、うかつに「ねえ、あれだけど」「これなんだけど」という話は禁物。

 令和では普通だったり当たり前なことでも、昭和ではまだ出現していなかったり一般的じゃないことがけっこうある。

 たとえば、アニメという言い方は1971年には無い。テレビマンガというのが一般的。「う~ん、最近のアニメ……」という言い方をしてポカンとされたことがある。いちどポカをやると、あとのフォローが大変なので、これはヤバイなあと予想されるものは避けたりトボケたりしておく。

 でも、ロコが嬉しそうに差し出したパンフのは、令和でも地味に人気だし、かなりの古典だし、うっかり「あ、見たことある!」と言ってしまった。

「セサミストリートはアメリカで爆発的に支持を広げてましてねえ、もう、単なる人形劇じゃなくて文化現象ですよねぇ! で、あ、これこれ」

 ロコが指差したのはバードという真面目な男の子のキャラで、連なった太い眉毛が特徴的。

「あ、ほんとだ、うちの担任(藤田先生)にソックリ!」

「でしょでしょ(^▽^)!」

 感動が共有されると、もう多少の矛盾や不思議は忘れてくれる。

「知り合いからもらって、夏ごろに見せびらかしたんですけどね、日本人は人形劇っていうと『ひょっこりひょうたん島』とかか『チロリン村とクルミの木』ですからね、反応が薄かったんですよぉ。タイプぜんぜん違いますからね」

 なるほど、こういう感動したものを人に伝えようとか共感しようというのが、ロコの優れたところでもあり、少しウザがられたりするところだ。令和でいうオタクなんだけど、昭和のこの時代でも、ちょっと異民族の扱いだ。

「あ、それで思い出したんですよ、さっきの藤田先生の話」

 なんの話しだっけぇ……先生の訓話めいた話は右から左に抜けるようにできている(^_^;)。先生たちも話へたくそだし。

「これから新設の大学がいっぱいできる。芸術系やメディア系とかな。そういう大学は分かりやすくて目新しい学部や学科を看板にするだろうが、要はカレッジだ。中には推薦で入れるところもあるが、安易に選ぶべきじゃない。ユニバーシティーをこそ目指しなさい。学問は積み重ねだ。最低でも創立50年は超えているユニバーシティーをな。それも出来る限り国公立を目指せ、蓄積された知性は何事にも勝る。そのためには、四月から始まる二年生、それも夏休みまでにおおよその勝負はつく。校長先生も終業式でおっしゃっていただろう『夏休みを制する者は受験を制す』とな。この言葉には嘘も誇張もない! そういう話です」

「え、あ、そうだっけ(^_^;)。あ、で、カレッジとユニバーシティーって、どう違うの?」

「え、そこからですかぁ?」

「アハハ、まだあんまり進路とか考えてないしぃ……」

「カレッジは単科大学、ユニバーシティーは総合大学ですよ」

「え、あ、そうそう」

「学部が一つしかないのがカレッジ、複数あるのがユニバーシティーなんですけどね、藤田先生や校長先生が言うのは理系と文系の学部を揃えているような大学のことです。ハッキリ言って国公立のことですね」

「え、ロコ、国公立目指してんの!?」

「いいえぇ……メディア系とかなんですけどね……」

 ああ、藤田先生も校長先生も論外っぽい言い方をしてた大学だぁ。

「あ、なんか……」

 さすがに「臭い」という言葉は呑み込む。

 男子たちが取り出したものは半分ほどは体操服と下足の運動靴。中にはフルカラーのカビが生えていたりするものがあって、ちょっと正視に堪えない。

「もう、そんなもの捨てちゃいなさいよ!」

 思わず10円男に言ってしまう。

「え、体操服は洗ってるぞ」
 
 不足そうに口を尖らす10円男。

「じゃ、なくて、その外骨格よ!」

「え、ヘルメットのことかぁ」

「三年生も卒業したし、そんなの、もう流行らないから」

「あ、でも加藤君には青春の思い出なのかもですよぉ」

「ん? それって、地味にひどくない?」

「え、あ、ごめんなさい加藤君、加藤君はまだまだ青春でした! ですよね!?」

 あ、なんか傷口に塩……憮然とロッカーの中身を抱えると、そそくさと階段を下りていく10円男だった(^_^;)。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  
 

 

 

 

 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》

2024-03-22 05:57:55 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第117話《トーマス・ブレーク・グラバーの憂鬱》さつき 






 キイイイイイイ!!


 渾身の力でブレーキを踏む!

 …………もうちょっとで轢き殺すところだった(;゚Д゚)。

 数秒ハンドルに伏せた顔を上げられなかった。

 そして顔を上げたら、轢かれかけた本人がスタスタ歩いていく後ろ姿が目に入ったではないか!

 同じゼミのトム。

「何か言ったらどうなのよ! 飛び出してきたのあんたなんだから!!」

 思いのほか大きな声になった。トムは初めて気が付いたようにポカンと振り返った。

「……どうしたの、さつき?」

 こいつ、まだ分かっていない。

「急に車の前に飛び出してきて、挨拶もないわけ!?」

「え、ボクが?」

「あんたのボンヤリが原因でも、轢いたら車の過失になるんだからね!」

「ボクが飛び出した? さつきの車の前に……?」

「そうよ、あたしのゴールド免許に傷つくとこだったわよ!」

 トムは、スタスタやってきて、覗きこむようにして言った。

「このミニカーじゃ跳ね飛ばされることはあっても轢かれることはない。物事は正確に言わなきゃならないよ」

 怖い顔で、それだけ言うと足長のイギリス人は、また歩き出した。

「ちょっ!!」

 これが間違いだった。様子がおかしいので、つい声を掛けて助手席に乗せるはめになった。


「……そういうことだったのかぁ」


 事情が呑み込めたのは、ゼミをサボって紀国坂にさしかかったころだった。トムは、正式にはトーマス・ブレーク・グラバーという。ゼミの自己紹介で、この名前を聞いて「「え!?」」と声を上げたのは、あたしと先生だけだった。

 トーマス・ブレーク・グラバーと言えば、幕末に竜馬の海援隊や薩長相手に武器の商売をやってがっぽり儲けたイギリス人だ。それと同姓同名だったので、あたしと先生はたまげた。他の学生はグラバーそのものを知らなかったか、知っていても「幕末の」という冠むりが付かなければ思い出せなかった。まして、フルネームで知っていたのはあたしと先生だけだ。

 そのあたしでも、トムがスコットランドの出身で、今日が特別な日であることは理解していなかった。

 ゼミをサボるについても一応先生に電話はしておいた。

「今日はトムにとっては特別な日なんだ。欠席にはしないから付き合ってやってくれないか」と、頼まれた。

 で、ただでもガタイのでかいトムを折りたたむようにして、ホンダZの助手席に押し込んだ。

「じっとしていられないから、どこでもいいから走って」

 で、走っているわけ。

 その間にトムは問わず語りに事情を話した。


 トムはイギリスの北1/3あたりにあるスコットランドのエジンバラに住んでいる。日本の京都と姉妹都市……でも分かるようにエジンバラはスコットランドの古都。このエジンバラを首都としてスコットランドはイギリスからの独立をはかり、向こうの18日、こちらの深夜から未明にかけて住民投票が行われ、あの大英帝国本土の一部が無くなるかもしれないという事態なのだ。
 投票権はスコットランド在住の者しか与えられない。トムのようにスコットランドに住んでいなければ投票権がない。逆にスコットランドに住んでいれば外国人でも投票権があるらしい。

「考えてみてよ、日本で言ったら京都府が独立するようなものなんだよ」

「あり得ないわよ、そんなこと」

「日本人は呑気だなぁ、これ見なよ」

 トムのスマホには沖縄の新聞記事が出ていた。そこには……。

 沖縄の独立を目指そう! と、一面で取り上げていた。ちょっとびっくりしたが、あり得ない話だと思った。

「イギリスでも、そう思ってたんだよ。1990年代までは……それが現実になっちゃった」

「そうなんだ……で、投票できるとしたら、トムはどっち?」

「分からない、両方の気持ちが分かるから」

 この優柔不断な答えを聞きだしたのは横浜の山下公園だった。雰囲気のないことにトムは焼き芋を買ってきて、二人並んで食べている。

 ここは、あたしの大好きな『コクリコ坂から』の主人公メルが俊が自分たちの未来を不安交じりに語り合う聖地なんだぞ。

 ボーーーーー

 思いのほか遠くの汽笛が大きく聞こえた。トムはその音に紛らわせてオナラをした。風下にいなければ気づかないところだった。トムの憂鬱はよく分かったけど、デリカシーのないスコットランド人だ……! 



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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勇者乙の天路歴程 009『八百比丘尼』

2024-03-21 09:37:14 | 自己紹介
勇者路歴程

009『八百比丘尼』 




 先ほどと同様に膝に両手をついて、ゼーゼーと肩を上下させる静岡あやね。


「どうしたんだ、静岡ぁ?」

「あ、いえ……」

 左手は膝についたまま、右手だけハタハタとさせる。

「わたし……静岡あやねじゃなくてぇ……」

「え?」

「ゼーゼー……八百比丘尼です」

 やっと上げた顔は、静岡あやねに性格真反対の双子の姉妹がいたらこうだろうというぐらいに明るい。

「え……だって」

「影響されやすいんです。八百年生きてきましたけど、その時その時、関りの深かった人や影響力のある人に引っぱられて、見た目がコロコロ変わるんです」

「え、そうなの?」

「はい、またじきに変わると思いますので、とりあえず宜しくお願いします」

 ペコリとお辞儀する姿も、さっきの静岡そのものだ。

「あ、あの時のお辞儀は良かったですね。素直な喜びに満ちていて、それがお辞儀する時の勢いになっていて」

「あ、うん。常日頃、ああいう風に振舞えたら、もう言うことなしなんだけどね」

「ですね。わたしも感動したから、この姿になりました。ええと、原則的にタカムスビさまは神社の境内からはお出ましにはなりませんので、わたしが仲立ちをいたします。まあ、人の形をしたインタフェイスとでも思ってください。少しぐらいなら戦闘力やスキルもありますので、きっと役に立ちます」

「そうか、そうですか……」

「あ、わたしにはタメ口でけっこうです。呼び方は正式には八百比丘尼ですが、ビクニでけっこうです。なんなら、その時その時の姿やキャラに見合った呼び方でもかまいませんので」

「ええと……じゃあ、比丘尼」

「あ、それは漢字のニュアンスですね。もっと気楽に平仮名か片仮名のニュアンスでけっこうですよ(^○^)」

「そ、そうか」

「先生も、勇者らしく逞しいビジュアルになられてよかったですね!」

「え、あ、そう。気が付いたらこんな感じになっていて、いや、こっちこそ、ちょっと恥ずかしいかな」

「これからはカオスの旅になると思いますので、それでちょうどいいと思います」

「そうかそうか。ではビクニ、とりあえずはこっちの方でいいのかなあ?」

 草原の獣道を指さす。

「はい、正解だと思います。さっそく参りましょうか!」

 勢いよくスカートを翻して前に立つビクニ。

「ああ……」

「はい、なにか?」

「この草原を行くのに、制服では厳しくないかなあ。せめて体操服にするとか」

「あ、そうですね、気が付きませんでした! えい!」

 シャラ~ン

 べつにエフェクトが入ったわけではないが、そんな感じでコスが変わった。

「あ、その体操服はぁ(^_^;)」

「え、ダメですか?」

「今はブルマなんて穿かないからね」

「先生の頭に浮かんだイメージでやってみたんですけどぉ」

「え、あ、ジャージジャージ! 耐寒登山の時の服装!」

「了解です!」
 
 シャラ~ン

「どうですか?」

「あ、うん、これなら大丈夫かなぁ」

 学年色のジャージに軍手、ネックウォーマーにキャップを被り、背中にはリュック。

「ちょっと、こっち向いて」

「はい」

 振り向いた胸の名札が静岡のままだ。

「あ、名前!?」

 パチンと指を鳴らすと、名札は『ビクニ』と変わった。

「よし、では行くとするか」

「出発進行!」

 ビクニと二人、草原に踏み込む。

 少し行って振り返ると、始まりの駅は灰色の闇に呑み込まれて見えなくなっていた。
 

☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒

 

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第116話《最後の七不思議・2》

2024-03-21 06:43:30 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第116話《最後の七不思議・2》さくら 




 控室は12畳ほどの和室だった。


 正面の幅広の床の間みたいなところで、佐伯君は首までお布団掛けられれて、胸のあたりが盛り上がっている。胸のところで手を組ませてあるんだろうね。

 マクサが無言のままお焼香。手を合わせお香を一つまみくべて、もう一度手を合わす。みんなもそれに倣った。最後にわたしがお焼香し終えたとき、由美は初めて口を開いた。

「もう、月の初めにはダメだって言われてたの。でも七不思議の話をしたら『オレもいっしょにやる』って言って痛み止めの注射だけしてもらって帝都に通ってくれた。聖火ドロボーの話、一番気に入っていたわ。最後は、これを超えるやつがトドメにあればな……って」

 由美が語る佐伯君の言葉は由美の口を借りた間接的なものだけど、声の響きは兄貴としてのそれだった。あたしに彼氏はいないけど、惣一って兄貴が一匹いる。兄貴の言葉遣いだと感じた。

「夕べは七不思議のことで話が盛り上がってね、つい病室に泊まり込んだの……今朝方様態が急に変わって。最後に酸素マスクしながら言ったの……そうだ、オレと由美のことをトドメの七不思議にしようって……ふとしたことで知り合って、いい感じで付き合い始めたら、双子の兄妹ってことが分かってさ、そしてまた兄妹に戻れた。七不思議のお蔭で……オレたち二人でトドメの七不思議になろう。そう言ってあたしの手をとったのが最後だった」

「……そうなんだ」

 やっぱ、東京の女子高生として精一杯寄り添った気持ちで言うと、この言葉になる。

 本通夜は焼香だけで失礼した。親族の人や乃木坂学院の制服がいっぱいきていた。わたしたちは昨日の由美の言葉で十分だった。由美も落ち着いたいつもの顔にもどっていた。この夏休みまでだったら「冷たい」と思うほどの落ち着きだったけど、今は分かる。由美が表面張力いっぱいで心が溢れるのを耐えていると、ああいう顔になるんだ。

「さくら、いつの間にか『米井さん』と違うて『由美』て呼ぶようになったんやね」

 恵里奈に言われて、初めて気がついた。


 今日のお葬式では引き留められた。


「マイクロバスに乗って斎場まで付いてきて。お兄ちゃんの遺言だから」

 あたしたち8人はマイクロバスの後ろに固まった。故人の遺言とは言え、周りは親族の人ばかりだからね。

 火葬炉の前で最後のお別れをした。棺の小窓が開けられ、花に埋もれた佐伯君の顔が見えた。まるで眠っているような表情が不条理だ。泣いている子もいたけど、あたしの中では佐伯君が死んだことが、まだ腑に落ちない。由美は優しく微笑みかけていた。万感の思いが籠った微笑みだった。

 ガチャン

 炉の三重になった最後の扉が閉じられた。

 ウウ

 瞬間みんなの嗚咽が漏れた。でも由美は泣いていなかった。兄の佐伯君に語るように少し唇が動いたような気がした。

 三時間後の骨あげにも加わった、炉から出された台車の上には、かろうじてそれが人の骨と分かる程度に焼きつくされた佐伯君が載っていた。去年お婆ちゃんがが亡くなった時と同じだった。あんなにボロボロになるのは年寄りだからだと思っていた。若くてもいっしょだ、不条理で不思議だ。
 由美は、まだ語り合っているような顔をしながらカラカラになった骨を拾っていた。


 これで七不思議の全てが揃った。

 見上げた斎場の空は雲一つなく、むやみに青空だった……。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生

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やくもあやかし物語2・037『番号を回したら樺太だった』

2024-03-20 11:17:09 | カントリーロード
くもやかし物語 2
037『番号を回したら樺太だった』 




『この番号を回してください……』


 交換手さんは簡単に言ったけど、10桁の番号は聞いただけでは憶えられないので、二回に分けて言ってもらってメモに取り、もう一回確認してからダイヤルに指をかける。

 ジーコ ジーコ……

「やくも、おまえ、魔法使いには向いてないぞ」

「え、どうしてぇ?」

 魔法使いになるつもりはないけど、デラシネの言い方はひっかかる。

「たかが10桁の数字。一発で覚えられなきゃ、魔法の詠唱なんかできないよ」

『だからして、わらわが付いておるのじゃ』

「もう、御息所もぉ……ほら、間違えちゃったじゃない」

 もう一度、いちからかけ直し。

「ちょっと、覚えにくい番号なのよねぇ……」

 47230のぉ……14226っと……

 ツー カシャカシャ ツー カシャカシャ ツーカシャ カシャカシャ……

 メチャクチャ長い接続音(^_^;)

 ポシャ

 接続完了の音がして、これで話し中だったらどうしようかと思ったけど、電話をかけているわけじゃない。

 理屈は分からないけど、これは樺太の真岡に行くための番号なんだ。

「あ、もしもし……」

 習慣で電話の呼びかけをしてしまう(^_^;)

 
 ドゴゴォォォォォォォン


 すごい音がしたと思ったら、はるか目の下で氷がひしめきぶつかり合っている。

「これが全部氷なのか……すごい……白い猛獣たちがひしめき合っているようだ!」

「たしかにねぇ……」

 流氷とか氷山とか、動画や映画とかでは見たけど、リアルで見るのは初めて。コタツでミカンの皮を剥きながら見ているのと違って、周り中ひんやりしてるし、足もとからは流氷で鋭くなった冷気が無数の矢になった感じでピシピシ打ち上げられてくる。

「でも、デラシネ、ヤマセンの湖だって氷が張るんじゃないの?」

「これに比べれば栗鼠か兎の感じだ、ここのは虎かライオン、伝説のサーベルタイガーとかマンモス。それ以上だ、こんな凶暴な氷は始めて見た」

 バッキーーン!

「「ウワ!」」

 ひときわ大きな氷が弾けて、大小の破片が噴き上がる。

 デラシネと二人、思わず身をかわした。

「さすが、戦前の樺太、迫力がちがうなあ」

『『いえ、これは今の樺太ですよ』』

 御息所が交換手さんの声で言う。

『ちょっと、人をスピーカー代わりにしないでくれる!』

『『すみません、樺太までは声が届きませんので』』

『ああ、そう』

「戦前の真岡に来るんじゃなかったの?」

『回線の都合です。ほら、左の方に島が見えますでしょ』

「え、ああ」

 氷に見惚れてるうちに陸地に近づいてきたみたいで、島の所どころに日本風ではない街や建物が見える。
 みんな敷地が広くて、建物はゆったりと建っている。鉄筋アパートみたいなのもあるけど、戸建てのは壁は白かアイボリー、屋根はオレンジに近い赤色が多い。所どころに玉ねぎ坊主みたいな屋根が見えるのはロシア式の教会なんだろうね。

『『あれは真岡の南の方の町です。これから戦前の樺太に飛びます。インタフェイスのダイヤルを回してください。番号は……』』

 また五桁が二つだったらどうしようかと思ったけど、今度は1941。

 これは、ひょっとしたら西暦のことかもしれないねえ。

 ジー コロコロ ジーー コロコロコロ……

 ダイヤルを回すと視界の真ん中に読み込み中そっくりのグルグルが現れる。

 交換手さんの電話って、ひょっとしたらネットなのかなあと思った。


 
☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第115話《最後の七不思議・1》

2024-03-20 07:14:45 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第115話《最後の七不思議・1》さくら 




「起立」の声がかかって――アレ?――っと思った。

 いつものところからじゃなく、廊下側の後ろからだったし、声が違う。

 続く「礼、着席」の声で気づいた。
 
 いつもの米井さんじゃなくて、副委員長の加藤さんだ。

 米井さんは休んだことが無い。まして今日は七不思議の最後を取材しなきゃならない日だ。こんな日になんの連絡もなしに休むわけがない。

 わたしと米井さんは、夏休みにTデパートで佐伯君といっしょのところを見かけるまでは、ただのクラスメートだった。それがチェーンメールのことが問題になることで、その容疑者と思われ、怖い顔で文句言われた。でも、それがきっかけで、その容疑が晴れると共に友達になっていったんだ。

 それからは文化祭の『帝都の七不思議』を一緒に取り組むようになった。スマホ番号の交換もやって、恵里奈、マクサと同じくらいに親友になりかけていた。

「米井さん、なんでお休みなんですか?」

「ご家庭の事情……としか言えないわ。ごめん」

 朝礼終わって、担任の水野先生に聞いても要領を得ない。先生も詳しいことは分からないようだった。

 水野先生は、普段は亜紀ちゃんと呼ばれている。歳が近いせいもあるけど、ウソを言うときには女子高生みたいに目線が逃げるので、非常に分かりやすい。その亜紀ちゃんの目線が逃げなかったので、本当に知らないのだろう。

 想像力のたくましいわたしたちだけど、お父さんの会社の問題とかお父さんの浮気がバレて大変なことになってるとか、強盗が入って人質になり、学校にも「家庭事情」としか言えないとか、今思えば下衆の勘繰りみたいなことしか頭に浮かばなかった。

 いかに普段から安物のラノベくらいしか読んでいないことが分かる。ちなみに強盗説はバレー部の恵里奈。こいつは吉本新喜劇の観すぎ。


――兄が亡くなりました。詳しくは後で。由美――


 昼休みに、このメールが入ってきた。

 米井由美は弟と二人姉弟だ。兄と言えば、この夏に双子の兄と分かった佐伯君しかいない……。

 そうだ、佐伯君は不治の病で入院していて、七不思議の取材協力にも病院から来ていたんだ。

 見かけは元気で乃木坂の制服着てるもんで、あたしたちは頭から抜けていた。帝都の女生徒らしい抜け方だ。昨日気まずいことがあっても、今日が楽しければ、そんな気まずさは忘れてしまうという長所でもあり、短所でもある。

「いまSセレモニー会館に兄といっしょにいます。明日は通夜で込み合うので、来てくれたら嬉しいです」

「え、亡くなった夜がお通夜とちゃうのん?」

 恵里奈の素朴な質問にマクサが答えた。

「亡くなった夜は、故人と、ごく親しい者だけで過ごす、仮通夜ともいうの。いわゆるお通夜は本通夜と言って儀式だから、本音の話なんかできない。由美、きっとあたしたちに話があるのよ」

 さすがにお茶の家元。洞察力が違う。

 地下鉄を一回乗り換えて三つめの駅で降りる。

 地上に出ると「Sセレモニー会館こちら」の看板が目に飛び込んでくる。ファミレスやパチンコのそれと違ってモノトーンの案内板は、地味だが、かえって目立つ。

 会館に着くと「佐伯家控室」の白地に黒の案内が出ていた。

 旅館の入り口みたいなところに『佐伯家』のぼんぼりがあった。

「失礼します」

 あたしが代表で声をかける。

 ………………。

 入ったところで畳の上に座ったけど、それ以上の声がかけられない。米井由美は兄の骸の前で俯いて、必死に悲しみに耐えていた……。
 


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生


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鳴かぬなら 信長転生記 171『赤壁・3』

2024-03-19 11:36:45 | ノベル2
ら 信長転生記
171『赤壁・3』書籍範 




「婆さん、馬を下りろ、このお方は貴人だ!」

 栞ちゃんと変換する余裕もなく、悲鳴のように叫んでしまう。

「ま、まことに失礼いたしました!」

 ここ何年もやったことが無い土下座の礼で詫びる。

 魏王様とか曹操様と呼ぶべきなのかもしれないが、様子を見ると現場監督か主任技師かと見まごうような軽い身なりでいらっしゃる。下手に御身分の分かる呼び方をしては障りがあるかもしれない!

「いやいや、畏まらないでください。お察しの通りなんだが、いまはただ工事の進捗を見に来ただけです。仰々しい供の者も付けてはおりません。旅の途中で出会った工事関係者と思って下されればよろしいですから(^_^)」

「ははぁ!」

「どうぞお手を上げてください。そのように礼をされますと、我々も蹲踞の礼をとらなくてはならなくなります」

 中尉の階級章を付けた士官が頭を掻く。見れば階級章は近衛では無くて工兵科、常なら王のそばには寄れない兵科と階級だ。

「それでは、お言葉に甘えます。栞ちゃんもお立ち」

「ほう、奥方はカンチャンとおっしゃるのか」

「ああ、はい、栞(しおり)の一字でカンと読みます(^_^;)」

「ほうほう、御亭主の人生のページに挟まれた偉大な栞なのでござるな」

「ほほほ、お上手な」

「こ、これ、狎れるんじゃない」

「いやいや、御亭主も力を抜いて下され、力が入っては堤防工事にも障りがでます。八分の力でボチボチやってこそ手堅いものができます」

「はい、恐れ入ります」

「言葉に北の訛を感じますが、豊盃あたりのお方か?」

「はい、豊盃で小さな店を出しております」

「店といいましても店借のテナントなんですけどねぇ( ´艸`)」

 栞ちゃん、なんだか若やいでいる。

「ああ、ひょっとして大橋さんがお作りになった豊盃パサージュの?」

「はい、ご存知なんですかぁ?」

「いや、なかなかお洒落な商業施設で繁盛していると聞いておりますぞ」

 背後の兵も表情を柔らかくして頷いている。見ると半分は呉の兵隊だ。

「はい、元々は豊盃楼と呼ばれていたころからのテナントなんです。移転しても店の権利は残してくださいましてね、店のほとんどは大橋さまに使って頂いているんですけど、ちゃんと店賃も下さって、今回は主人とふたりで旅行までさせてくださいましたの」

「おお、さすがは喬公の姫君、孫策殿の妃、行き届いておられる。そうだ、この工事が終わったら、工事関係者にも慰労の会をもつとしようか。のう?」

 魏と呉の兵に均等に言葉をかけ、兵たちも嬉しそうに微笑む。魏の曹操が何の腹積もりも無く人に優しくすることなどあり得ない。なにが腹の中にあるのかと思うが、この和やかさはなんだ?

 おっと、いかん。こういう貴人の前で不足や疑問のある顔は禁物だ。

 兵たちと同様に過不足のない笑みをたたえておく。

「曹操さま」

「なんですか、奥方?」

 うう、変なこと聞くんじゃないぞ。

「お作りになっている堤防、魏の方が50センチほど低いように見えるんですが?」

 まずい、そういうことは気づいても口にするんじゃない(;'∀')。

「そのようにご覧になられましたかぁ……」

「あ、いや年寄の思い込みでございますから」

「いや、奥方は正確にご覧になっている。実は、魏の方の堤は二尺近く低いのです」

「「え?」」

「恥ずかしながら、予算が少しばかり足りんのです。この工事はこちらの方から呉の孫策さんに提案したんですがね、赤壁の前後百里に及ぶ大工事。失礼ながら、呉の経済規模は魏の半分ほどでしてね、そうそう無理は言えません。と言って手をこまねいていては、いずれは起こるであろう水害には間に合いません。幸い、魏の方が予想水害面積が小さいのです。それで、魏の方を50センチ低く抑えました。これで、工事費用は二割近く少なくて済んでいます」

 パチパチパチ

「これ、拍手なんか」

 感極まって思わず拍手する婆さんをたしなめる。

「これは面映ゆい。いやはや、苦肉の策なんです。が、まあ、魏の方の堤でも、これを越水するような水害は百年に一度あるかないかです。いずれ余裕ができれば増築の工事に入ります」

「それで、工事にかかる費用はどのような割合で出されているのですか?」

「おお、さすがは豊盃の商人であられる」

 そこまで言うと曹操殿は、前を向いて遠い目をされる。

「実は……」

 呉の士官が曹操殿に代わって口を開いた。

「実は、工事費用は全額魏に負担していただいております」

「え、全額を?」

「アハハ、いやいや、その分兵と労務者の7割。それに、食料のほとんどを呉ににみてもらっています。江南の米はうちよりも美味い。おかげで、少々太ったようで、ダイエットを兼ねて現場を見て周っておるのですよ(^▽^)/」

「陛下、そろそろ次の工区にまいりませんと」

「おお、いやはや無駄話をしてしまいました。それでは、よい旅を続けてください」

「は、はい、恐縮であります!」「ありがとうございます!」

 婆さんと二人、工事中の堤防を去り行く曹操殿を見送って頭を下げた。

 赤壁の堤上、日輪は南中しようとしていた。


 
☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第114話《聖火ドロボー》

2024-03-19 08:53:40 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第114話《聖火ドロボー》さくら 





 古い学校には伝説や言い伝えが付き物だ。


 佐伯君の乃木坂学院でもマッカーサーの机(『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』に詳しく載っている)とか、どこにも通じない階段とかがあるそうだ。

――さあ、六つ目よ!――

 下校時間も迫った5時過ぎ、米井さんのメールで、わたしたちは学校の玄関に集まった。

「ここに、帝都女学院の六つ目の不思議があります!」

 ええぇ?

 わたしたちは玄関を見渡した。

 玄関に入って右側が事務室の窓口。左側には大きなショーケースがあって、優勝杯や優勝旗、なんかの感謝状や表彰状……この手のものは、うちぐらいに古い学校なら倉庫に一杯ぐらいある。その横に卒業生の彫刻家さんが寄付したというという制服少女の胸像と全身像、むかし制服改定の話が上がった時に寄贈されたらしい、タイトルは『憧れ』と『祈り』。きっと「制服は変えないで」という想いが籠められている。創立者のジイサンの胸像よりも小さいんだけど趣味も出来もいい。

「これよ」

 5分ほど眺めているうちにマクサが指さした。

 そこには5人の帝都の女生徒が、変な手つきして、不器用そうに固まっている油絵が飾ってあった。右の下を見るとSEIKO1998とサインが入っている。よく描けた絵だけど、線や色のタッチから美術部の生徒かOGが描いたものだろうと推測された。

「あ、この子たちの手、手話だ!」

 吉良小百合という、一度聞いたら忘れられない名前の子が発見した。

「なんて書いたあるの?」

 一番背の低い恵里奈が乗り出して聞く。

「それが……へんだなぁ?」

 小百合はご本家に負けないくらい人生前向きな顔で小首を傾げた。

「どう変なのよ?」

「古い手話なんで自信ないんだけど、ド・ロ・ボ・ーかなあ」

「「「「「泥棒!?」」」」」

 みんなの声が玄関ホールに響いた。


「バレちゃったかしら?」


 声に気づいて振り返ると、なんと校長先生が立っていた。

「あ……ア!?」

 小百合がさらに何かに気づいて口を押えた。

「そう、このドロボーの「ド」の手をしているのが私……!」


 というわけで、校長室に通された。


「あなたたちが七不思議を探しているのは知ってたわ。食堂のおじさんや技能員さんがうわさしてたから。でも、ここまで来るとは思わなかった」

「あたし、これが本命だったんです。あとのは、これの引立てみたいなもんです」

 引立てに、あたしら引きずり回したのかよ……。

「以前、校長室にお邪魔したときに引っかかったもんで」

「ああ、あれ……」

 校長先生が振り返ったところには、校長専用の飾り棚があって、そこに古ぼけたランプがあった。よく見るとランプの下にもSEIKOと字が彫り込まれている。

「その字と絵のサインがいっしょで、手話の「ド」の女の子が若いころの校長先生だって分かったんです」

「よくわかったわね?」

 同感。

「名札の字は崩してありますけど『白波』って読めました。そう読めると……頭の中で補正したら、校長先生になっちゃったんです」

「ハハ、しわを伸ばして、ぜい肉とったのね」

「あ、いえ、その……」

 米井さん以外が、みんな笑った。

「でも、校長先生の苗字は白波じゃないですよね?」

 あ、旧姓……でも、校長先生は独身だったよね。

「ひょっとして、泥棒の意味ですか?」

 まくさが身を乗り出す。

「よく分かったわね」

「祖母が歌舞伎好きで『白波五人男』が大好きなんです」

 シラナミゴニンオトコ?

「そう、白波って、泥棒のことなのよね。仲良し五人でね、最初は全員『白波』って名札にしたんだけどね」

 他の子のは崩してあったり、ぼかしてあったりして読めなかった。

「えと……なにかを……盗んだんですかぁ?」

 白石優奈が声を潜める。

「あれ、東京オリンピックの聖火を盗んだの。だからド・ロ・ボ・ー」

「え、聖火盗んだんですか!?」

 思わず声が出たけど、疑問がいっぱい。

 東京オリンピックって二回あったけど……昭和のは校長先生でも生まれていたかどうか、令和のはコロナだったし、先生はもう校長だったし。

「はい、盗んだんです」

「「「「「どうやって!?」」」」」

 感嘆と質問がいっせいに出た。

「むろん聖火そのものは盗めやしないわ。「ロ」の子が写真部でね、部室で昔の東京オリンピックの聖火リレーの写真を見つけたの。ネガも残っていたし、それを大きめのスライドに焼いてね、「ボ」の字の子が演劇部でね、スポットライトのレンズの真ん中に貼りつけて、太陽の光を集めて火を起こしたの。それやったのが「-」の子。で、その年の運動会の聖火に、これを使ったってわけ」

「あの、SEIKOというのは?」

 ふつうに読めば時計会社のロゴなんだけど、きっと違う。

「美術の松田先生。偶然名前が聖子だからってわけじゃないんだけど、手話と重ねて読むと……」

「ドロボー成功!?」

 というわけで、ウン十年ぶりに聖火のランプに火をともした。帝都伝統のオチャッピーの聖火!

 帰りに、校長先生は米井さんと佐伯君に声をかけていた。

 声は聞こえなかったけど「がんばってるわね」というのが口の形で分かった。

 七不思議の残りは、あと一つ。

 それは、もっと意外なところに……あった。


 いや、起こった……



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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銀河太平記・210『共同墓地』

2024-03-18 13:58:12 | 小説4
・210

『共同墓地』ミク 




 ちょっと息をのんだ。


 開拓初期に堀りつくした地下鉱山が史跡東京ドームほどの空洞になっていて、その空洞が丸ごと墓地になっている。

 印象は高校の修学旅行で傍を通った青山墓地。青々とした林の中に古色蒼然とした和式の墓石が並んでいる。

 医者であるわたしは基本的には生きた人間しか相手にしない。死者と関わるのは、検死で立ち会う、たいていはなりたてホヤホヤの死者。その先の葬儀や埋葬には立ち会ったことが無い。
 だから、墓地というのは今風のパルスコーティングした規格品が並んでいる無機質なイメージしかない。
 なんだけど、この共同墓地は、慎ましやかではあるけれど石でできた古典的な墓石だ。

「うわぁ、地球から持ち込んだ墓石もあるぞぉ……」

 時代劇に出てきそうな墓石には『〇〇家』とか『△△家墓地』とか彫られていて、側面には頭に『釋』『俗名』、お尻に『居士』『真女』が付いた名前が、少ないもので十数人、多いもので数十人彫られていている。

 中には没年が彫られているものもあって、そのいくつかは昭和・平成・令和があって、中には明治・大正や、教科書でしか見たことのない年号のものも混じっている。

「ひょっとして、地球から移してきたのかなあ」

「そうだろうなあ、みんな家とか血のつながりを大事にしていたんだ……」

 21世紀の終りから月や火星に移った日本人は家を大事にした。

 広い宇宙に飛び出して、自己を律すると言ったら硬いんだけど、アイデンテティーをしっかり持っていないと苦しい。

 人類とかコスモポリタンとかいう概念は括りが曖昧、大きすぎて心の拠り所にはならない。

 日本人は、心の要石として『ご先祖様』『お天道様』『天子様』を置いてきた。
 二百年前に流行ったグローバリズムやコスモポリタンという括りでは、アイデンテティーをティッシュペーパーのように薄くて脆いものにすることに気が付いたんだ。

 だから、火星に国家を立てる時に、ご先祖たちは幕府という大時代なものを作った。幕府であるからには、どこまで行っても日本の血脈であり、その最小単位である家族や一族を大切にすることに繋がる。そして、さらに、同時に宗主国の日本とは親和性を持ちながら一線を引くことができる。

 月の開拓は火星よりも早かったから、地球と一線を画すよりは、アイデンテティーの保持が大切で、ご先祖様を核とする繋がりを大事にしたんだ。それが、この青山霊園に似た墓地に現れている。

「木や草はフェイクだな、当たり前だけど」

「たとえフェイクでも、墓地に緑が必要と思う感性はいいと思う」

「お墓を探そう、案内板は……」

「あ、あそこにある」

 寄ってみるとA区画とあって、百基余りの墓所が記してあるけど姉崎というのは見当たらない。下の方には立花不動産のロゴとハンベナンバーが書かれていて、分譲や管理は不動産屋が請け負っているのが分かる。

 二つ目……三つ目……四つ目の区画で姉崎という墓所を発見、下の方を見るとあけぼの不動産、間違いない。

 林立する墓石の中ほどに、線香の煙が立ち上っている。

 もしやと踏み入ってみると、墓石に額づいている懐かしい後姿を発見した。



☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 






 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》

2024-03-18 07:21:49 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第113話《たぬき蕎麦から見える日本の文化》さくら 





 帝都の学食の「たぬき蕎麦」はちょっと違う。

 ふつう「たぬき蕎麦」ってのは、かけ蕎麦の上に天かすが載っているものと決まっている。ところが、我が帝都女学院のそれは、かけ蕎麦にネギがドッチャリ入っている。120円と言う安さで、生徒に人気のメニュー。入学したころはびっくりしたけど、お手軽でビタミンたっぷりの優れもの。カウンターにはカイワレも載っていて自由に入れられる。別名「ビタミン蕎麦」とも言う。

 で、なんで、これが「たぬき蕎麦」なのか、食堂のオジサンはうんちくを垂れた。

「ここの食堂任されたときに、なにか安うて特別なメニュー作ろ思て考えたんや。玉子は高いし、安うてボリュームあって、栄養のあるもん」

「それがたぬき蕎麦なんですか?」

「せや!」

「で、なんでネギ載せたのが『たぬき』になるんですか?」

「玉子蕎麦の玉子抜きや!」

 たぬき蕎麦の「た」は玉子の「た」だったのだ(^_^;)。

「まあ他のもんを抜くいう意味もあるんやけどな。ちょっとありきたりやろ。ネギはボリュ-ムの割に安い。で、栄養もたっぷりやさかいな。震災の後、これ作ってみんなに喜んでもろたん思い出してな」

 それだと『ねぎ蕎麦』になりそうなんだけど、オジサンは、そのつど『タヌキ蕎麦』と言い直して無理やり定着させたらしい。

「でも、この夏なんかネギ高かったでしょう?」

 佐伯くんが、もう帝都の生徒みたいな気楽さで聞いた。

「あれは例外。それに夏休みやったから営業してへんかったさかいな。ほんまの『たぬき蕎麦』はかけ蕎麦の上に煮しめたアゲさん乗せるんや」

「え、それって『きつね蕎麦』じゃないんですか!?」

「それは東京。関西は、これを『タヌキ蕎麦』という。うどんが蕎麦に化けたいうのが語源や」

「へえ、そうなんだ!」

「その返事は、関西では、ちょっと冷とう聞こえる」

「え、どうして?」

「それはやなぁ……」


 ということで、たぬき蕎麦から東西文化の違いに発展。あくる日改めてオジサンの話を聞くことにした。


「東京でレーコは通じひんやろ」

 恵里奈は分かっているようでクスクス笑っている。

 あたしらには分からない。

「アイスコーヒーのことをレーコと言う。元々は喫茶店で出たコーヒーの搾りかすをもろてきて、煮出したコーヒーの二番煎じ」

「ええ、そんなの香りも味もないでしょ!」

「味はけっこう残ってる。そこにシロップと牛乳ぶちこんでキンキンに冷やす。これがもとで喫茶店の冷たいコーヒーもレーコ言うようになった。元祖レーコは冷やし飴よりいけるで」

「そうなんだ」

「昨日も言うたけど、それ、関西人には冷とう聞こえる」

「じゃ、なんて言うんですか?」

「ほんまあ!? とか、おもろいなあ! ウッソー!やな」

 なるほど、距離感の近い言葉だ。テンションが上がりそうだ。

 それから東西文化の違いに花が咲いた。

 エスカレーターで左右のどっちを空けるか。程よい整列乗車の仕方の違い(大阪なんかは並んだふりして、電車がきたら要領次第)。「直す」という言葉には「片付ける」という意味があることとかいろいろ。

 大阪の人間はおそらく日本で一番声が大きい。この話の間もオジサンと恵里奈の声が目立ったというか、恵里奈はオジサンと意気投合してた。

 電気が60と50ヘルツの違いがあって、東西に跨って走る電車は、途中電気の通っていない区間をちょこっと惰性で走って切り替えてるらしい。

 アホとバカの重さの違い。これは思い出した。一年の頃、恵里奈に「バカね」と言ったら、すごくショックな顔をしたので違いは分かる。東京の人間に「アホ」と言うとケンカになりかねない。関西は、その逆とかね。


 そんなこんなで、また日が暮れてしまった。


 オジサンは「たぬき蕎麦」をごちそうしてくれた。オジサンも含めて、みんなフレンドリーになった。

 佐伯君もなんだか、もうお仲間。でも律儀な佐伯君は、病院から来ているのにもかかわらず、必ず乃木坂の制服を着てくる。

 彼らしいけじめのつけ方だろうと思ったが、事情はあたしを含めて5人しかか知らない……これで七不思議の五つは揃った。

 あと二つだ。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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勇者乙の天路歴程 008『始まりの駅から』

2024-03-17 14:13:42 | 自己紹介
勇者路歴程

008『始まりの駅から』 




 高校生の頃から五十余年乗り慣れたK電鉄、隣県に入るまでは複々線のはず。それが、列車が発車した後の鉄路は、いまどき我が県ではよほどの郡部にでも行かなければお目にかかれない単線だ。

 それに、駅舎が無い。ポツンと単式地上ホームがあるばかりで、ホームの前後には鉄路が伸びているが、左右は幼稚園の園庭ほどの地面が見えて、その先は草原のようなのだが、茫漠として灰色の闇に溶けている。景色が闇に溶けてさえいなければ、Nゲージのスターターセットを買って、取りあえず組み上げたという感じに近い。

 ホームには年季の入った行先案内板。そこには横長のT字の上に『始まりの駅』とあるのみで前後の駅名は書かれていない。

 そう言えば、ネットの都市伝説にあった『きさらぎ駅』というのがこんな感じだろうか。

 これが夢なら、どう解釈しても悪夢で――夢なら覚めろ――と思う状況なんだが、妙に落ち着いて、わたしが異世界の冒険を始めるのなら、こんなもんだろうと地味な時めきさえ覚える。

 さて、ここに居てもらちが明かない。

 よく目を凝らすと、草原が微妙に薄くなっているところが見えて、獣道のように、あるいは数カ月前までは人の往来があった跡のような、あるいは、神さまだか仏さまが、せめてもと現してくれた標のようにも見える。

 さて、前に進むか。

 ガチャリ

 おお?

 駅に着いて装備がグレードアップしたようで、胸甲と脛当てが着いている。

 インタフェイスを開くと『レベル2・勇者の防具』と出ている。

 そうそう、技やアイテムも確認しておかなければ。

 スクロールすると、RPGにありがちなアイテムがいっぱい並んでいて、スクロールしてもキリがない。

 それに、こういうものは覚えられない性質で、ユルユルのベリ-イージーに限るので、たいてい――生き返ってもう一度――的なものでやってきた。

 設定を開くと『おまかせ』というのが出てきたので、過たずクリック。

 得物は……オリハルコンの剣とあって、シャランと抜くと両刃の剣なのだが、日本刀のような波紋が走っていて逞しい。

 さあ、行くとするか。

 草原に踏み込むと鉄路の来し方の方で音がする。

 タタタタタタタタタタタタタタタ

 少し戻って鉄路を見ると、器用にレールの上を走って来る者がいる。

 スカートがたなびいている、女性か?

 わたしの姿を見とめたのか、手を振り始めた。

 小さく手を挙げて応えると、それは、わたしのことを呼ばわった。


 せんせぇーー! 中村せんせぇー!


 え?


 それは、さっき学校へ帰って行ったばかりの静岡あやねであった。

 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
 
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・087『春の大浜海岸』

2024-03-17 10:49:37 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
087『春の大浜海岸』   




 桜が見ごろになったら江ノ島か鎌倉に行ってみようということになった。

 その桜は令和でもまだ蕾は堅い。

 地球温暖化とか言われるけど、おおよそ昭和と変わらない。

 二月は初夏か!? と思うくらいの日があったけど、三月はけっこう寒くて、先日女バレの部室に寄って令和に戻った時なんか戻り橋を渡り終えたところでブルっと震えてしまった。


 いつだったか、お祖母ちゃんと話したことがある。


「二酸化炭素の95%」

「ええ、そんなに出してんの!?」

 出してるとは、人類がバカみたいに出してる二酸化炭素が全体の95%かと思った。

「逆よ、95%が自然界から出てるのよ。生物の吐く息とか腐敗とか、火山の爆発とか、人類が出してるのは5%、せいぜい6%」

「うっそー!」

「その5%のうち、日本が出してるのは3%」

「たったそれだけぇ!?」

「ああ、半分近くは中国とアメリカだからね、両方とも本気で二酸化炭素減らそうなんて思ってないから。まあ、来年アメリカの大統領が変わったら二酸化炭素なんて言わなくなるよ」


 そんなお祖母ちゃんとのやり取りを思い出して、大浜海岸で海を見ている。

 
 こないだまでは人恋しくて、用も無いのに学校に行ったりしてたけど、この二三日は一人でいたい気分。

 おとつい久々に軽音楽部を舞台にしたアニメを見た。そのボーカルのMちゃんが作詞のために冬の海岸に行って一日震えながら詩を書いている。

 それを見終わって――よし、メグリも行くぞ!――と、昭和の大浜海岸行った。

 ところが意に反して、昭和の大浜海岸は風も吹かず、波も穏やかで、現国の時間に習った『春の海 ひねもすノタリ ノタリかな』を、作者は思い出せなかったけど思い出して居眠りしてしまう。

 ざざざぁー ざざざぁー ざざざぁー

 波の音は胎児の時にお母さんのお腹の中で聞いていたお母さんの心臓や血の流れる音に似ているそうで、とても穏やかな気持ちになれるそうなんだ。

 目が覚めると目の前に茶色の小瓶が流れ着いている。

 フト、思いついた。

 Mちゃんみたいに作詞はできないけども、ちょっと書いてみよう。

 コンビニで買った小さなノートに『世界が平和に みんなが幸せでありますように M・T 1971』と書いて、そのページを千切って小瓶に詰めた。

 エイ!

 勢いつけて小瓶を投げると、ちょうど離岸流が流れるところだったのか、小瓶はあっという間に沖合に流れ去って行った。


 そして、今日は令和の大浜海岸。

 
 昨日の大浜海岸と違って、けっこう寒い。

 ブル

 あんまり長居はできない……そう思いながら、それでも海岸を百メートルほど歩いてみる。

 ここが、高知の桂浜とかだったら懐手して水平線を見るのに似合ってる。もう、Mちゃんのイメージなんかすっ飛んで、坂本龍馬を思ってみたりする。

 ザップーーーン

 ちょっと大きな波が打ち寄せて後ろに飛びのく。

 波がひくと、茶色い小瓶が流れ着いている。

 あれ、これって?

 拾い上げて蓋を開けると見覚えのあるノートの切れ端。

『世界が平和に みんなが幸せでありますように M・T 1971』

 びっくりして、手に力が入ると切れ端はハラハラと崩れて、春にしては冷たい風に吹き飛ばされてしまった。

 あっという間のことだった。

 記念に小瓶だけは持ち帰ったよ。



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第112話《水飲み機とついてくる足音!》

2024-03-17 06:49:01 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第112話《水飲み機とついてくる足音!》さくら 





 誰も触らないのに水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した!

 まるで透明人間が水を飲んでいるように(;'∀')!


「東京大空襲で焼け死んだ人たちが、水を求めてやってくるのよ」


 米井さんは、怖そうなことを天気予報の解説のようにお気楽に言う。

 聞いた瞬間は「そうなんだ」だけど、数秒後に頭が理解して、俄然怖くなる。

 これは、あたしたち女子高生が、いかに人の話をいい加減に聞いているかの現れ。

 人が話したら、とりあず「はい」とか「そうなんだ」を息を吐くように無意識ってか、無神経に言う。

 これは「まず、お返事しましょう」という保育所時代から仕込まれた動物的な条件反射。

 そんで帝都で仕込まれた『明朗・闊達・品性』の指導の賜物。

「人の話には、まず明るく素早く返事をしましょう。明朗・闊達・品性をもって」

 何かにつけて言われるので、帝都の子たちは明るく躾がいいと言われる。

 でも、これも保育所以来の仕込みの積み重ね。返事のわりには理解していない。

 聞いたことは、そのあと頭の中で取捨選択して、重要なものや、興味のあるもの、怖いものには、そのあと脳みそが判断する。

 で、今の米井さんの話は、数秒かかって、脳みそが「怖い」と認識したわけ。

 授業なんかだと「はい、分かりました」と無意味に返事して、スルーしたまま脳みそは反応しない。

「これは他の学校でもおこっているわ、空襲は二十三区全域がやられたから。大概は生徒が居なくなった深夜におこるの。うちに来る幽霊さんたちは優しいから、まだ日のあるうちにおこしになるの」

 そんなの優しいって言わないよ!

「ボクもガードマンのバイトし始めたころに経験したよ。とある都立高校に深夜の巡回に回ったら、同じようにウオータークーラーから、水が飛び出して……」

「幽霊さんて、どんな人たちなの?」

 えりなが、試合前に相手チームの情報を仕入れる感じで聞いた。

「老若男女いろいろ、主にこの地域の被災者の霊よ」

 だろうね、東京大空襲じゃ十万近い人たちが犠牲になったからね。

「でもね」

 普段から自分を八百比丘尼なんだとうそぶいてる白石優奈が前に出る。

「その犠牲者の人たちを案内してくるのは、うちの卒業生の霊なのよ」

「「「「「うちの生徒ぉ(;'∀')!?」」」」」

「名前も分かってる、主席で卒業式には総代で答辞を読むことになっていた水野美紀っていうひと」

 水野美紀……みずのみき……水飲み機!?

「あ、やられたぁ(^_^;)」

「「分かったぁ(○`ω´○) ?」」

 米井さんと白石優奈がドヤ顔で指をたてやがった!

 そうか、このオチに持っていくために、ウォータークーラーとは言わずに水飲み機なんて言ってたんだ!

「こいつはタネがあるんだよ」

 測量技師のオジサンが、マジシャンの種明かしのような口調で付け加えた。

「ウオータークーラーの水が腐らないように、タイマーが仕掛けられていてね、一日に一回タンクを空にするために、水が全部出るんだ」

「「「「「「な、なんだぁ」」」」」」

 聞いてみると、どうってことない(^_^;)。

 米井さんは知っていたようで、優奈といっしょにニンマリ笑っている。その傍で佐伯君もニコニコ。どうも三人にはめられたようだ。

「動画も撮ったし、これで七不思議の三つが取材できた!」

「そうだな」

 アハハハと、楽しそうに笑う米井、佐伯兄妹と白石優奈であった。



 あくる日は、担任の水野先生にも付き添ってもらって、日が沈んでからの取材だった。

「なんにも言わないで、グランドを一周走ってみそ」

 米井さんは、とぼけた口調で言う。

 また昨日の水飲み機のデンであろうと、あたしたちはタカをくくっていた。

 もう8時を回っていて、運動部もいない。グラウンドが広く感じる。青山通りからは一筋隔てているだけなのに、車や街の喧騒はほとんど聞こえない。

 佐伯君が高性能カメラを担いでスタンバイしている。なんだか、もうスタッフの一員だ。

 わたしたちは、グラウンドシューズに履き替えて、グラウンドに並んだ。

 今日は遅いのにも関わらずメンバーは10人に増えている。時間まで、あたしたちは東京の都市伝説なんかで盛り上がっていて、やる気は満々だった。

「時間だわ、ヨーイ……スタート!」

 走り出して二三分で気が付いた。

 あたしたちのすぐ後ろを、数十人の集団が走っている。今にも追いつかれそう。グラウンドは夜間照明が点いているとはいえ、周りは青山通り界隈のビル、怖さはひとしおだった。

 みんな同じと見え、速度が上がっていく。

 先頭はバレー部セッターの山口恵里奈。二番手は意外も茶道部の佐久間マクサ……なんのことはない、二人とも親友のあたしをほったらかしにして先を走っているだけ!

 ザックザックザックザックザックザックザックザック…………

 迫りくる何十という足音( ゚Д゚)!。

 心臓が口から飛び出しそうになった!



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
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  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
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