大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・036『交換手さんの提案』

2024-03-16 14:37:25 | カントリーロード
くもやかし物語 2
036『交換手さんの提案』 




 デラシネは言葉にしようと、息を吸っては吐き出した。

 ハーーー

 思いを伝えようとしてるんだけど、言葉が見つからない。あるいは、言葉にしたとたん心か身体か、あるいは、その両方が壊れるか暴れるかしそうで踏み出せないみたいで、何度目かには顔を洗うような仕草のまま伏せてしまった。

 お母さんが言ってた――水泳の授業でね、なかなか飛び込めなかった――って――飛び込むと自分の中にいる魔性の者が蘇ってプールも学校も破壊してしまいそうだった――って。

 自分では「お母さんは魔法使いの子孫だからね、プールなんかに飛び込んだら、それが蘇ってプールも学校もめちゃくちゃにしてしまう!」とか言って、わたしにもそういうものがある的なニュアンスだったけど、あれは、根性なしの言いわけ。
 だいいち、お母さんと血のつながりは無いしね。でも、それを忘れて血のつながりがあるように正当化してるのは、ちょっと嬉しかったけどね。
 
 意味は違うけど、いまのデラシネは、そんな感じ。

 ただ、デラシネはお母さんと違って、ほんとうに能力持ってるから、ほんとうに暴れそう……というか、もう何回も暴れてるし(^_^;)。

 プルルル プルルル

 黒電話が控え目な音で鳴った。

「あ、ちょっとごめんね」

 デラシネにゴメンして受話器を取る。デラシネは邪魔されたというよりは助かった的に息を吐いた。

「もしもし」

『交換手です、お話の最中にすみません』

「あ、いいよ。デラシネも気にしてないし。で、なにかな?」

『こないだ言ったでしょ、真岡。よかったらデラシネさんと二人で行ってみます?』

「真岡! ああ……でも、学校あるし」

『大丈夫です、昔の真岡だし、イマジネーションの中だから時間はたちません』

「あ、そうか。日本であちこち行ってたのと同じなんだ」

『はい、そうです。お供は……』

「交換手さんは?」

『あはは、わたしは電話からは出られませんし(^_^;)』

「あ、そうなんだ」

 日本にいる時から分かってたけどね、いちおう言ってみただけ。

『お供は、いつもの通りポケットの君に……』

 ゴソゴソ

 モゴモゴしたかと思うと、御息所が目をこすりながら顔を出した。

『なにか言ったぁ?』

『御息所さん、やくもさんがデラシネさんといっしょに真岡の見物に行くんですけど、お願いできます?』

『真岡って……あんたの故郷の、樺太の真岡か?』

『はい、そろそろ流氷が動き出す時期でシャケとかも美味しいですよ』

『う~~寒そうでいやだ』

「ヤマセンブルグだって寒いじゃない」

『ここは、寒い時は部屋に居られるし、たいていは寮と教室のどっちかだし』

「あ、それなら、これを貸してやる」

 デラシネが手袋を出した。ポワポワした綿毛のような感じで気持ちよさそうだ。

『わたしの手は、こんなに大きくない!』

「手に嵌めるんじゃなくて……エイ!」

『な、なにをする!?』

 デラシネは御息所の首根っこを掴むと、あっという間に手袋を着せてしまった。

 中指と薬指のところに脚を、親指と小指のところに手を突っ込ませると、お母さんが持っていたモンチッチみたいになった!

『一本余ってるんだけど』

 なるほど、人差し指のところが余ってブラブラしてる。

『それは、お土産を入れる袋というかポケットにすればいいでしょ』

『かっこ悪い……けど暖か~い』

「よしよし」

 御息所が納得したところで、真岡に飛び立つことになったよ。



☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第111話《四ノ宮青年の正体》

2024-03-16 06:30:01 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第111話《四ノ宮青年の正体》さくら 




 ヘルメットを脱いだ顔に驚いた!


 それは渡辺謙を若くして、少しバタ臭くしたハーフっぽいイケメンなのだ。それに、耳がすこし大きい。

 思わず見つめてしまった。

「ああ、自分ハーフエルフだから」

 ええ( ゚Д゚)!?

「妹はフリー〇ンていって、魔王をやっつけたあと、魔導書を集めながら仲間と北の国を目指してる」

 は、はあ……

「四之宮クン、こないだはヴァルカン人とか言ってなかったぁ」

 測量技師のおじさんがジト目で言う。

「アハハ、近ごろはスタートレック知らない子もいるからぁ」

「な、なんだ(^_^;)」「信じたぁ(^・^;)」「びっくりしたぁ(^○^;)」

「ここ昔はうちの屋敷があったんだ……」

 あっさり言った……え、エルフのお屋敷!?

「……あの、聞いてる?」

「あ、はい。もちろん!」

 あやうく上の空になるところだった。

「うちは昔ちっこいけど大名家でね、代々ここに上屋敷をもっていたんだ。大名家って没落したとこが多いんだけど、うちのご先祖は上手く立ち回って明治からこっちは華族さまでね。帝都の創設者がひいジイサンの友達で、学校が移転するときにこの家屋敷を寄付した……といったらかっこいいけど、戦争に負けてニッチモサッチモ。で、国に取られてバラ売りされるよりは、そのまま学校になった方がいいって、帝都女学院がここにあるわけ。で、上屋敷だったころは、ここ丑寅……北東のことね、魔物が入ってくるって鬼門だったんだ。実際不審火が出たり、庭師が怪我をしたりしたりして。そこで、都から陰陽師を呼んで鬼門封じをやってもらったと……ここまでいい?」

 みんな黙ってコックリした。エルフの上にやんごとないお方なのだ。

「で、将門塚から敷石を一つもらってきて。あの校舎の下あたりに埋めたんだ。それから、今みたいに坂の上の方に物が転がるようになった。どう、すごい話でしょう……?」

 最後の方は、声を低めて言うもんだから、あたしたちはすっかりキミが悪くなった。

「ハハ、信じたぁ?」

「え……え、ウソなの!?」

「本当さ。でもここから先は佐伯君に譲ろう」

 佐伯君が少年探偵のように一歩前に出た。

「実は、重力異常の場所って案外あるんだよ。うちみたいに建築会社やってると、たまにこういうところに出くわすんだ。地脈の異常とか、地下に大きな隕石が埋まってるとか、説はいろいろだけど、怪奇現象……にしていた方がいいかな。あ、由美、そろそろ時間じゃないか?」

 佐伯君が、兄妹のニュアンスで米井さんに振る。

 それから、わたしたちは米井さんに先導されて旧館三階の水洗い場に向かった。三つ蛇口が並んだ横に時代物の水飲み機があった。

「え、ここで何かあんのん?」

 大阪弁丸出しで里奈が聞く。

「待ってて、あと20秒ほどだから……」

 みんな米井さんに従って、水飲み機を見つめた。


 ドーーーーーーーーーー


 キャ( ゚Д゚)!?

 なんということ!

 誰も触らないのに、水飲み機から放物線を描いて水が飛び出した。まるで透明人間が水を飲んでいるように!
 


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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勇者乙の天路歴程 007『始まりの駅へ』

2024-03-15 15:29:01 | 自己紹介
勇者路歴程

007『始まりの駅へ』 




 駅まで全力疾走!

 発車まで2分を切っている。

 ここからなら歩いて8分、走って4分。もっとも還暦を過ぎてからは10メートル以上走ったことが無い。
 10メートルというのは、自宅最寄り駅横の踏切。駅向こうの床屋に行こうとして上がったばかりの遮断機を潜ると、とたんに警報機が鳴りだした。
 戻るのも業腹で、それで走ったのが数年前だったか。今は踏切横のエレベーターで上り下りして、踏切そのものを忌避している。

 若いころでも3分は切れなかっただろう。それを2分は絶対無理なんだが、どうも体は身体能力のピークであった高校時代のそれを超えている。
 ゲームの一人称視点のように、見える自分は手足と、せいぜい胸元まで。腎臓結石の手術の後リハビリを怠ったので、左腹側部の筋肉が戻らなくて、そう太っているわけでもないのに、左の腹がプルンプルン揺れていたが、それもない。
 取りあえず体は軽くて、インターハイに出場した陸上部の部長程度には走れている。
 パン屋のウィンドウに映る姿をチラ見すると、流行のRPGゲームを実写化したキャラというか『走れメロス』と打ち込んでAIが生成したCGのようだ。

 セイ! トォ!

 黄色が点滅し始めた交差点も、たった二歩のジャンプで渡ることができた!

 これで空が飛べたら鉄腕アトム! 今でも十分エイトマン!

 ヒーローに例えても出てくるものが古い(^_^;)。

 昼日中なので、通行人も多いのだが、全力疾走のわたしを見ても訝しんだり驚く者がいない。むろん、人にぶつからないように注意しながら走っているんだが、ひょっとしたら見えていないのかもしれない。

 駅の階段もわずかツーステップで駆け上がり、改札は障害物競走の要領で飛び越える。

 ポロロン ポロロン ポロロ~ン♪

 聞き慣れた発車のメロディー、それも終わりの一小節。これが聞こえたら、たとえホームに着いていても乗車は諦める。

 トォ!

 なんの躊躇いもなく飛び込む、それも腰のソードがドアに挟まれないように縦にして。

 ムグ!

 しかし、マントの端が挟まれて焦る。以前カバンのマスコットがドアに挟まれて難渋している他校の生徒を助けてやったことがある。引っ張たらストラップのところで千切れてしまって、そいつは礼も言わずに憮然として電車を降りて行った。

 あの時のような無様なことをしてはなるものか!

 フン!

 ほんのコンマ何秒力を入れるだけでマントは万力のようなドアから挽く抜くことができた。

 あれ?

 車内を見渡して驚いた。

 昼間の空いている時間帯とはいえ、その車両にはわたし一人しか居ない。

 前後の車両を見晴るかしても、人の気配がない。

 回送電車……いや、ちがう。

 単に車内に人気が無いだけではない。

 窓の外に景色が無いのだ。下りの電車に乗ったのだから、このあたりの第二種住居地域 の街並みが広がっているはずなのに、住宅も小規模工場の群れも見えなかった。晴れた日には富士山をアクセントに刀の波紋のように連なる山並みも見えない。それどころか空と地面の区別もあいまいで、ぼんやりと乳白色に染まる空間が広がるばかりだ。

 さて……

 そして、そう焦る気持ちにもならず、立ったまま十分ほどが過ぎた。

 パ

 音がしたわけではないのだが、そういう音がした感じで、ドアの上のモニターに文字が現れた。

――間もなく始まりの駅です。勇者さまは次でお降りください――

 そのテロップが二度流れると、電車はゆっくりと減速して、今どき珍しく、この路線では存在しないはずの島式ホームに停車した。

 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
 
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鳴かぬなら 信長転生記 170『赤壁・2』

2024-03-15 10:25:29 | ノベル2
ら 信長転生記
170『赤壁・2』書籍範 




 赤壁は魏と呉の境を流れる長江の上流にある。


 魏王曹操様のご提案で大法話が開かれる河原よりも上流にある。両岸には高々と天然の岸壁が聳え、その岩肌が赤みを帯びているので古くから赤壁と呼ばれている。

 むろん全てが岸壁では無くて、岸壁の切れ目や後退しているところには小規模の船着き場が設けられていて、下流域ほどではないが人の往来や物資の流れがある。大軍の渡河には向いていないが複数の切れ目から同時に侵攻させるか、あるいは上流・下流より船団を進めて兵を上陸させることは可能だ。ただ、優れた指揮官と軍師の存在があればのことだが。

「あら、あなた、なにか工事をやっていますよ。音が聞こえる!」

 ドドドド ガガガガガ カーンカーン ブルルルルー

 歳の割には耳と目の良いかみさんが声を弾ませる。

 かみさんは年相応にボケ始めていたが、大橋様が豊盃楼を買い取りパサージュの作事を始めた時から工事や建造に興味を持ちはじめた。パサージュの中央路の天蓋を高くし舞台を設えられた時は日がな一日店の前に座って工事の進捗を眺めていた。
 書店を買い取って頂いた時も、一画を新聞販売店に残す工事を「お店の整形手術!」と喜んでいた。

 来年あたりは夫婦そろって養老院かと思っていたので、この変化は嬉しかった。

「あんまり前に出たら危ないよ」

 注意しながらも、わたしも横に並ぶ。

 工事は岸壁の切れ間に堤防を作る工事だ。

 もし赤壁を一万尺の空から見下ろせば神さまがお造りになった天然の堤防にみえるだろうが、地上から見れば隙間だらけで、場所によっては差し渡し数百メートルにも及ぶところがある。
 そこを、左右両岸同時に築堤工事をやっていて、それが上流に向かって続いている様は、先日見たタクラマカン砂漠以上に壮観だ。

「まあ、工事をやっているのは兵隊さんたちですよ」

「ああ、ほんとうだ……少しは呉の人間も混じっているけど……ほとんど魏の歩兵たちだ」

「若い兵隊さん達がキビキビ働いているのはいいものですねえ」

「ハハハ、婆さん、ほんとうは工事じゃなくて若い男を見ているのがいいんじゃないかぁ」

「作られる物と作る人の調和と力強さがいいんですよぉ」

 少女のように口を尖らせる。久々に婆さんではなくて『栞ちゃん(かんちゃん)』と呼んでみようかと思った……が、いざとなったら呼べない(^_^;)

「あら、ねえ……」

「どうした、か……婆さん?」

「堤防、微妙ですけど南の方が高くなってますよぉ」

「え、そうなのか?」

「ええ、豊盃楼の工事の時は毎日現場監督さんに高さを聞いてましたから確かですよ」

「ああ、でも、ビルと堤防じゃ違うだろ」

「いいえ、確かです!」

「そうかぁ」

「もう、範ちゃん、耄碌してますよ」

「耄碌はひどいよ栞ちゃん」

「あはは、奥方がおっしゃる通りですよ」

「「え……(゚д゚)!」」

 声に振り返ると、現場監督のようなナリをした小柄な男が部下らしい数人の兵を引き連れて立っていた。

 この男は……店番の合間に読んだ雑誌や歴史書が頭を巡る。

 数百人の写真やプロフが明滅して、数秒後にヒットした。

 この御仁は、ここのところ滅多に姿を見せなかったが……間違いない。


 魏王、曹操その人だ!

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主

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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第110話《帝都女学院七不思議・2》

2024-03-15 06:08:03 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第110話《帝都女学院七不思議・2》さくら 





 ビー玉の群れは、ゾロゾロと北門の坂道を転がっていった。

「「「「「ふっしぎー!!」」」」」

 みんなが、一斉に声を上げた。七不思議の最初、北門の重力異常の撮影に取り掛かっている。

 どう見ても北門の位置が低く、校舎側が高くなっているように見える。だのにビー玉の群れは、北門から校舎に向かって転がっていく。なんか遊園地のトリックハウスのようだ。

「これは、トリックハウスの原理よ!」

 理系の成績トップの松坂莉乃が指を立てる。

「いいこと、このアプローチの道幅、校舎側の方が細くできているの。他にも植木の高さを意図的に刈り込んで、校舎側が高く見えるようにしてあるのよ。このアプローチも微妙に曲がってるじゃん。そのへんにも秘密があると思う」

「あたし試してみるで」

 バレー部の名セッターの山口里奈が大阪弁で名乗りを上げる。

 最初にバレーボールを転がした。数秒じっとしていたボールは、ゆっくりと、坂道を登って行った。

「やっぱり……」

「体で試してみる」

 横になって転がるのかと思ったら、バレーボールをトスしながら、坂道を登って行った。

「どう?」

 米井さんが、坂の上の里奈に声を掛けた。

「不思議やなあ……感覚的には、こっちの方が高い」

 みんなは、当惑顔で、顔を見合わせた。

 里奈は練習中に体育館の床の傾きを感知し、顧問を通じて学校に申し入れたことがある。
 測量の結果、0・3度床全体が中央に向けて傾斜していることが分かった。残念ながら体育館は七不思議ではなかった。単に老朽化で床が沈み込んでいるに過ぎない。   
 ただ、この傾きでは公式戦などはできなくて、バレー部のみんなは密かに喜んだ。欠陥のある会場で公式戦はできない。つまり帝都は当分公式戦の会場になることはなく、試合会場の準備や後片付けをしなくても済むからね。

「ま、こんなこともあろうかと、専門家呼んでるの」

「え、そうなの?」

「だったら最初から、専門家の人にやってもらったらよかったのに」

「演出よ、演出。まずみんなで試して驚いておく。ここまで撮ってあるわよね」

「うん、ばっちり」

 写真部のオソノがスマホを示した。

「やあ、遅くなってごめん」

 北館の校舎の陰から、二人のオッサンを従えて佐伯君(ほら、チェーンメールで騒ぎになった米井さんの双子の兄貴。でも彼って病気のはず。大丈夫かなあ)が乃木坂学院の制服で現れた。

「佐伯君のお父さんのコネで、測量技師の人にきてもらったの。よろしくお願いします」

「いや、持ち場の仕事が終わったとこなんで、大丈夫ですよ。じゃ、四ノ宮クンかかろうか」

 四ノ宮……あたしは、その名前にビビッときた。黄色のヘルメットの下の顔は豪徳寺の水道工事のガードマンのニイチャンだった!

「こういう現場は時々あるんですよ。ま、視覚的な勘違いがほとんどですけどね」

 測量技師のオジサンが準備をしながら呟き、莉乃が「どんなもんだ」という顔をする。

 オジサンはトランジットという三脚付の測量機械を出し、四ノ宮君は測量用の物差しの化け物みたいなの持って、4か所ほど立った。

「……測量したかぎり、校舎側の方が3度、高さで30センチほど高くなってます」

「えー!?」

「よかったら、ボクが説明するよ」

 ヘルメットを脱ぎながら、四ノ宮青年が言ったので、猫じゃらしを見せられた子猫のように一斉にそっちを向いた……。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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銀河太平記・209『恩師の消息・2』

2024-03-14 09:53:42 | 小説4
・209

『恩師の消息・2』ミク 




「先生、空港のメディカルゲートで引っかかって……」

「検査の途中で抜け出してしまったんです。あ、こんなナリですが、公務ではないんです。任務中にミクに呼び出されて、軍服のまま飛び出してきたもんですから」

「じつは……」

 空港からここまでの話をすると、オヤジさんは「そうですか」と腕組みしたまま立ち上がった。

「この界隈は訳ありのもんが多くて……」

 そう言うと、オヤジさんは棚から博物館にでもありそうなごっつい台帳を取り出した。

 バサリ

 開くと、風が起こってお茶の湯気をたなびかせ、紙の匂いが立ち上がる。

 なんだか、伝説の昭和を舞台にした古典映画の中に潜り込んだみたいだ。

「いっぱい書き込みがしてありますね……」

「アフターサービスというか……お世話させていただいたお客さんとは、その後も付き合っていただいてましてね。いろいろ書き込んでます。いやあ、まあ、はんぶん道楽です……ええと、やつのは……」

 パサリ……パサリ……

 二度ほどページをめくったところで手が停まる。

「ここです」

「「え?」」

 戸惑った、指さされたそこは『姉崎』という苗字ではなかった。

 そして、それは住居ではなくて、開発初期に造成された共同墓地の一画だ。

「これは……?」

「すこし長い話になりますがね……」

 月に赴任してから扶桑本国では思いもつかない事例や事件にでくわした。日々起こる事件や病人怪我人、死者と向き合うことも度々だ。この四年で書いた死亡診断書や死体検案書は100枚近い。わたしもダッシュも少々のことでは驚かなくなっていた。

 でも、姉崎先生のそれは経験も想像も超えていた。

 二杯目のお茶を飲みほし、オヤジさんにお礼を言うと、駐車場に戻って高機動車で共同墓地を目指した。

 

☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第109話《帝都女学院七不思議・1》

2024-03-14 08:23:18 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第109話《帝都女学院七不思議・1》さくら 




 シリコン騒ぎで『ゴジラ』は観損ねてしまった。


「またこんど連れてってやるから」

 そう言って、玄関で靴履くときは自衛官の顔に戻っていた。

「なんかもう『対空戦闘ヨーイ!』って顔だよ」

「それはいかんなあ」

 自分の頬っぺたをスイッチみたいに捻って、いつもの倍ほど緩い顔になって出て行った。

「ま、辛抱しなよ。機密漏えいを未然に防いだんだからさ。ゴジラならブルーレイ出たら買ってきてやるから」

「あたしは、映画館で観たいの!」

「高校生は、そこまで贅沢言うもんじゃないの」

「へいへい」

「エイ!」

 さつき姉も一発気合いを入れると、ホンダZに乗って大学だかバイトだかに行ってしまった。


 で、いささかプリプリしながら学校へ。時間が無いので、いつもの裏路地を通って駅にいく。
 
 もう終わっていると思った水道工事をまだやっている。ガードマンのニイチャンが指示棒振って誘導してる。こういうのは、たいていヨレヨレのお爺ちゃんがやってるので、ちょっと目を引く。

 遠目で見てもけっこうイケメンだ。彼の横をすり抜ける時、赤灯が、あたしのスカートひっかけて、そこからラブロマンス……などは起こらなかった。
 ニイチャンは慣れた手つきで、赤灯を振って「ご迷惑かけます」あたしは無言で5ミリほどお辞儀して1秒ですり抜けていく。ロマンスには縁のない生まれつきのようだ。ただ、通る時に工事のおじさんが「四ノ宮くん……」と言っていたので、苗字だけは記憶した。


 学校に着くと、気にかかるのは米井さん。


 例のスマホ事件から幾日もたっていない。クラスでたった一人の関係者としては気を遣う。

 事情知らない人のために解説。

 短縮授業の日にTデパートで、アベックの米井さんを発見。いっしょに行ったマクサ(佐久間マクサ、茶道部で家元の娘)がよせというのに接近。お邪魔虫になる。
 その後米井さんカップルのチェーンメールが回ってきて「あんたでしょ!?」と米井さんに詰め寄られて、担任の水野先生が無実を証明してくれた。

 でも、米井さんの彼、実は生後間もなく別れた双子の兄だということが発覚。

 それまで彼氏として付き合っていたのを兄妹の関係に戻す努力の途中だった。そんでもって、彼氏の佐伯君は不治の病で余命いくばくもない身。水野先生やチェーンメールに関係した(実行犯は、まだ不明)子たちは、感涙の涙を禁じ得なかった。

 ところが、米井さんは委員長だけのことはあってか、切り替えが早い。

「次の授業自習だから、文化祭の取り組みについて話し合います。いいわね」

 と、臨時のホームルーム。休んだ先生も自習課題の点検しなくて済むし、自習監督の先生も職員室でラクチン。そして、なにより文化祭の取り組みは早く決めたクラスほど、何かにつけて占有権がある。あとから被った企画を出したクラスは同じものはやれない。

「一年のときは、二三年に先越されて、展示とかバザーとか店番ばっかで、ろくに文化祭楽しめなかったじゃん。で、今年はできるだけラクチンで、かつ楽しげな企画でいこうと思います」

 一年のときは不満タラタラの子が多かったので、みんな米井さんの次の言葉に耳をそばだてた。

「もし、他に企画があったら言ってね……じゃ、あたしから。えへん!」

 さすが委員長。注目を集めるのが上手い。

「帝都女学院は古い学校で、調べると不思議なことが一杯あります。それをまとめて『帝都七不思議』で発表しようと思います。できたら原因究明までやりたいけど、未解決のまんまってのもウケると思います。7人で一話ずつ二十分~三十分。あとは遊んでいられまーす!」

 みんな、おもしろーいという顔をしたけど、そんなのあったっけ? という顔にもなった。

「あるわよ。例えば北門から学校に入ると、校舎の方が高く見えるんだけど、実は低いの。知ってた? 題して重力異常の北門!」

 ああ……というみんなの顔。校内の、いわば都市伝説。そんなのを米井さんは五つ紹介した。「あとの二つは?」当然の疑問である。

「ま、やってるうちに見つかるでしょう」

 さすがは米井さんだと思った(^_^;)。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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やくもあやかし物語2・035『デラシネに向き合う・2』

2024-03-13 14:26:30 | カントリーロード
くもやかし物語 2
035『デラシネに向き合う・2』 




「なあ、これってハイジのおかげなんだろ!?」

 ポコン!

「イッテエなあもう」

「今度言ったら、殺す」

「わ、分かってるけどよぉ」

 これでもう五回目くらい。


 学校の庭で詩(ことは)さんが歩く練習をしている。介添えは王女さま、時どきソフィー先生。二人とも日本にいたころからのお友だち。

 先週、ハイジと男子が木登りしてて、調子に乗ったハイジがお猿みたいに落っこちた。

 その瞬間を、この窓から見ていた詩さんは、ビックリした拍子に自分の脚で立ち上がったんだ。

 その時、庭の端っこで見ていたデラシネが疾風みたいに飛んできてハイジを受け止めた。

 でも、デラシネはわたし以外には見えないから、みんな、ハイジは魔法かなんかで助かったと思っている。

 それと、詩さんが自分の脚で立ち上がったことと合わせて、王宮や学校では『セントヤマセン以来の奇跡』と噂が立っている。


 こないだ三方さんが聖真理愛学院の修学旅行に紛れてやってきた。仁徳天皇の御勅使だそうで、あれこれやっていった。
 最後はヤマセン湖のほとりでデラシネに付き添ってくれて、わたしの胸にもラブ注入みたいにしてくれて、それが影響してるんだと思う。

 今のところ、デラシネの姿はわたしにしか見えない。

 森で大暴れしていたころは、ハイジやネルにも見えていたんだけどね。年末の決戦で負けてからは、わたし以外には見えないようになった。


 一時間近く歩行練習をして、詩さんは、王女さまに付き添われて王宮に帰って行った。


 そして、それまで庭の隅っこで見ていたデラシネも姿を消した。

「さあ、そろそろ宿題やらなきゃだなぁ!」

 ネルがピンと耳を立てて力こぶを作る。

「あはは、そういや、そんなもんがあったな(^_^;)」

「ハイジ、どうせやってないんだろ」

「どうしてわかった!?」

「分かるわあ!」

「そ、そうか。じゃ、見せてくれよ」

「いっしょにやってやるから、自習室行くぞ」

「おう、やくもはやったのかぁ?」

「あと、ちょっとだけ。あとで自習室行く」

「おう、じゃあ、宿題は手を付けないで待っててやるからな」

「それは、やらなきゃダメだろがぁ」

 ポコン

「あ、また叩いたぁ!」

「うるさい、いくぞ……」

「待てったらぁ……」

 ふたりのにぎやかな声が廊下に消えてバルコニーの方に目をやると――もういいか?――という顔でデラシネが浮かび上がってきた。

 ベッドに腰掛けて、隣をポンポンと叩くと、少しだけ安心したような顔をして、わたしの横に腰掛けた。


☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方
 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第108話《シリコンの秘密》

2024-03-13 07:08:50 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第108話《シリコンの秘密惣一 




 大容量メモリーには、とんでもないものが入っていた。


 どうしたものか案じた末に、ある処理をして、さつきに返した。

「え、シリコンから取り出してないの?」

「ああ、ちょっとヤバイものじゃないかと思ってな。多分近々警察が来る。提出を求められたら素直に出すんだ……いや、元通りバンパーに貼っておこう」

 しかし、この貼り直しが難しい(;'△')。

 どうやら交差点でぶつかりかけた車から、特殊な銃のようなもので吹きつけられている。貼りついた角度は速度を持った分、角度を持っていたし、飛沫も着いていた。

 うわ!?

 悩んでいるといきなり肩を押されてメモリーカード入りのシリコンは上手い具合に擦れてバンパーにくっついた。

「ねえ、ソーニー、ゴジラ観に行こうよぉ。アカデミー賞取ったんだからさぁ」

「あのなあ、さくら、もう17歳なんだから、くっつくのはよせ。いい歳してブラコンと思われっぞ」

「あのゴジラ、自衛隊は出てこないから、ストレスないよ」

「映画だったら、さつきといけよ。あいつの方が専門だ」

「お姉ちゃんは御託多すぎ。こういうのは素人同士がいいの」

「お前と行ったら映画だけじゃ済まないだろーが」

「いいじゃん、たまに帰ってきたんだから妹孝行しなさいよ」

「孝行ってのは親にするもんだ」

「だってぇ……」

 けっきょく、映画の他にはどこにも寄らない条件で引き受けた。

 

 ルパン三世のフィギュアは妹二人も気にいって、リビングの棚に置くのを許してくれた。

 横の棚にはまねき猫が大小四つも並んで、ルパンはちょっと居心地が悪そうだ。

 もう一つルパンの仲間を増やしてやろうと言いだして、峰不二子か銭形警部のどちらがいいかと言ってるところでインタホンが鳴った。モニターにはいかにも刑事という顔が二つ並んでいる。

「すみません、世田谷署の者なんですが、ちょっとお宅の車見せていただけませんか?」

 そう言って、ポリス章をカメラにかざした。

「ああ、あたしの車なんで、あたしが出ます」

「さつき、初めて見たってことでな」

「うん、分かった」

 オレは、リビングの隙間から刑事二人の映像を撮った。数分でバンパーのシリコンが発見された。

「先日、青山通りの交差点で、信号無視の車に当てられそうになったでしょ。そのとき、その車がとっさに付けていったものなんです。詳しいことは言えませんが、これお預かりしていきます」

 そう言って、刑事たちは引き上げた。さつきは見事にとぼけ通していた。


「なんだか、変なオッサンたちが来てるよ」


 さくらが、おずおずとオレを部屋まで呼びに来た。刑事たちが帰ってから一時間ほどたってからのことである。

「オレが相手する」

 出てみると、所轄の刑事と中央警務隊に情報保全隊まで揃っていた。で、やはりシリコンのことを聞かれた。

「機密に関わることなので、所轄の刑事さん外してもらえますか」

 刑事は、素直に道路まで後退した。

「で、物は、佐倉一尉?」

「刑事と名乗る二人に渡しました。これが、その二人です」

「……こいつはC国のエージェントだ。どうして自衛官の君が居ながら、易々と渡してしまったんだ」

「渡さなければ、家族に類が及びます。ただ、中身のデータは改ざんしておきました。コピーがこれです。ビフォーアフターになっています」

 情報保全隊の担当者は、すぐに手持ちのタブレットにかけて確認した。担当者は吹き出した。

「これは、君……」

「超極秘機密です、80年前の」

「旧海軍の空母赤城の諸元と運用記録じゃないか」

「相手は『あかぎ』としか言っていないようですから、変換して書き換えておきました。この一両日で動きがあると思いますが、それは、そちらで処置願います」

「分かった。機転を利かしてくれてありがとう」

「国民の生命財産を守るのが任務ですから。で、うちの家族も国民の一員ですから」

「任せてくれ、君のご一家には類が及ばないようにする」

 あくる日、C国の駐在武官が都内で任意同行を求められた。むろん外交官特権で拒否されるが、当局がマークしたと宣言したのに等しい。その外交官はその日のうちに本国に呼び戻された。そして、海自の幹部自衛官が一人逮捕された。ハニートラップにかかった上のことらしい。

 とりあえず、家族という国民が守れてよかった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・086『女バレの部室』

2024-03-12 14:54:19 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
086『女バレの部室』   




 月に一度バイトのギャラをもらいに行く。



 いつもは学校の帰りに寄っていくんだけど、春休みだし、この三日間は入試業務で生徒の立ち入りは制限されてるんで、わざわざ行く。
 それでもいちおう制服。正門の前まで行って入れるんなら中庭とかで日向ぼっこしてもいいかなあと思ってる。

 直美さんは雑誌の仕事で居なくて、マスターにいただく。マスターとはあまり会話にならないのでお礼言って、受け取りにハンコ捺いて学校に向かう。

 よしよし。

 正門に入る前から部活の生徒が見えたんで安心して入る。

 校舎の入り口には『教職員以外立ち入り禁止』の張り紙がしてある。

 こういう張り紙は令和ではパソコンで打ち出した機械の文字だけど、昭和では手書きだよ。禁止の止の字なんか、最後の横棒にグッと力が入っていて、いかにも「入ってくんな!」の感じがしてる。

 見上げた図書室に先生たちの後頭部がいくつか見える。たぶん、あそこで選抜会議とかやってるんだ。ごくろうさま。


 おお、グッチ!


 元気な声に振り返ると佳奈子がジャージ姿でバケツをぶら下げてる。

「あ、佳奈子も来てたんだ!」

「部室の掃除、ちょうど終わったところだから、寄っといでよ」

「あ、うん、いくいく!」


 部室等に行くのは初めてだ。


 二階建てのアパートみたいになってて、女バレの部室は外階段を上がって一番グラウンド寄りの部屋。

「かなっち、あたしたち帰るけど、鍵頼める?」

「うん、まかしといて」

 見覚えのある女子が二人、挨拶して外階段を下りていく。

「三人だけで掃除してたの?」

「うん、一年は三人しかいないからねえ。まあ、こんどバレーの強い子がチラホラ入ってるっていうから、ちょっと期待」

 なるほど、そういう意味合いもあって掃除がんばったんだ。

 部室は八畳を横から押したような縦長で、真ん中にゼミテーブルが縦に二つ、左右の壁には二段ロッカーが並んでて、ドアのガラスと奥の窓から光が入って、ちょっと薄暗い。むろん蛍光灯は点いてるんだけど、外が明るすぎるせいかもしれない。

「広くはないけどきれいだね」

「うん、掃除したとこだし、日ごろから気を付けてるからね。一階はすごいけどね」

「一階?」

「うん、男子のクラブは一階にまとめられてる」

「ああ、なるほど(^_^;)」

 ラグビー、サッカー、野球、陸上、テニス……なるほど、汗臭の泥だらけに違いない。

「適当に座ってて、インスタントだけどコーヒー淹れるから」

「あ、ありがとう……お、ずいぶんストックがあるんだ」

「卒業した三年生が置いていってくれたの」

 ロッカー二つが共用になってるようで、紙コップ、コーヒー、お茶やらがけっこうな量入ってる。

「お煎餅とクラッカーどっちがいい?」

「あ、クラッカーがいいかなあ」

「よし」

 ロッカーの上の段ボールを下ろすと一箱まるまるクラッカー。

「ほい、あたり前田のクラッカー」

「おお、リアル前田のクラッカー!」

「グッチって、時どき『リアルなになに!』って感動してるよね」

「え、あ……」

 そうか、この時代には『リアルなになに!』って言い回しはしないんだ(;'∀')。

「なんか、いい意味でゆるいっていうか穏やかっていうか、いいセンスだよね」

「あ、そうかなあ(^_^;)」

 まあ、仲間内なら多少の令和ネタやら令和言葉はいいだろう。こんなことで、そうそう歴史が変わるものでもないだろうし。

「ねえ、ちょっと早いけど、グッチは進路とか考えてる?」

「進路ぉ……」

 そうだよ、二年の二学期には進路希望調査が始まるんだ。最低でも就職か進学かぐらいは決めなくちゃならない。っていうか、わたしの場合、昭和に留まるか令和に戻るかっていう、ぜったい人には言えない進路選択もしなくちゃならない。

「選択によっちゃあ部活も考えなきゃいけないからねぇ」

「え、ひょっとして理系とか?」

「ううん、文系だけど。うち、公立でないと厳しいから」

「ああ、そういうのって共通テスト受けなきゃなんだよね」

「え、共通テスト?」

「え、あ、ちがくて……センター試験?」

「え? ようわからんけど、まあ二期校狙いだからねぇ」

 二期校……? イミフなんだけど、質問したら墓穴掘りそうだし、話題を変える。

「えと、春休みって、宿題無いし、けっこう時間あるし。また、みんなで出かけられるといいかもね」

「あ、うん……万博行ったのはよかったね。みんなでいっしょの企画にしなかったら行けてなかっただろうね……映画にも行ったし、花火大会も、MITAKAも刺激的だったしぃ……」

「ね、ね、けっこうアグレッシブにやってきたでしょ!」

「そうだねぇ、うんうん、考え込むのはちょっと早いよね。よし、天気もいいし、楽しむことかんがえようか!」

「そうだそうだ! エモいのもいいけど、青春を楽しまなくっちゃ!」

「そうだそうだ!……で、エモいってなに?」

「え、ああ……」

 ちょっと言葉には気を付けようと思って、いよいよ春本番!



☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         1年5組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            1年5組 副委員長
  • 高峰 秀夫             1年5組 委員長
  • 吉本 佳奈子            1年5組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            1年5組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              1年5組の担任
  • 先生たち              花園先生:4組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 7組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
  




 
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第107話《大容量メモリー》

2024-03-12 07:17:51 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第107話《大容量メモリー惣一 




 船を降りるとアキバで潮っけを抜いて帰る。

 といっても一杯ひっかけるわけじゃない。ちょっと遠回りして秋葉原に寄る。ラジ館をメインにうろうろする。

 オレの乗っている艦は「あかぎ」という海自最大最新のヘリ搭載護衛艦で、やっと慣熟公試が終わったところである。新造艦の公試というのは、並の艦の倍はくたびれる。今日の潮抜きは長くなるかもしれない。

 ラジ館は、天下に名の知れたオタクのメッカだ。

 昔は名前の通りラジオから電子部品まで扱う電子部品や電器会社のアンテナショップが入っていたが、今世紀に入って漫画、トレーディングカード、フィギュアを扱う店ばかりになった。
 今年の上半期でかなりの新製品が出たので、楽しみに寄ってみた。イベントフロアーでは懐かしのウルトラマンショーをやっていた。童心に帰って30分のイベントを観た後、いざ目的のフィギュアの店に向かう。

 キャストのフィギュアを横目に殺し、可動フィギュアの陳列棚を見る。「あかぎ」に関わるようになってからロクに情報を集められていなので、新製品の人形たちにびっくりする。陸自の災害出動の可動フィギュアがあった。今までドイツ兵やアメリカ兵のはあったが自衛隊のそれは初めて見た。それも災害出動仕様。まだ癒えない震災体験と自衛隊への認識が変わったことの現れだろう。顔を見ると、うちの砲雷長に似ているので笑いそうになった。まあ海自や空自のフィギュアは出ないだろうが、少し嬉しくなる。しかし、こんなのが目当てではない。

 あくまでも女性のフィギュアだ。オレには「さつき」と「さくら」という二人の妹がいるが、妹とは言え生身の女は手を焼く。正直苦手……というわけではないが、女性の、それもシリコンの可動フィギュアに目が行くF社が1/6で、ころあいのものを出している。
 内部にステンレスの骨格が入っていて、間接が30以上も稼働する。「あかぎ」の前の「しらなみ」の時にハマった。なんせ人並みの姿勢を保持できるので、以前ハマっていたキャストのフィギュアよりも格納という点で優れている。
 小さな姿勢をとらせると、ショ-トケーキほどの小ささになってかさばらない。骨格が強化プラスチックの旧バージョンを4体ほど持っているが、2体は関節を壊してしまった。別にいやらしいポーズをさせていたわけではない。関節にラチェットが組み込まれていて、動かすたびにカチカチと音がする。それが硬くて、少し角度を間違えると骨折してしまう。二体壊してやっと扱いに慣れた。

 それは新製品の棚の上にあった。

 シリコンの宿命である静電気を帯電しにくく、したがって汚れにくい。そしてなにより関節がステンレスになり、動きもスムーズで骨折の心配がない。三種あったが、もっとも日本人的な顔をしているやつ。それと『ルパン三世』の実写版のルパンを買った。

 ラジ館とその周辺で三時間近く時間が経って、ジャンク通りに行きたくなったのをグッとこらえて電車に乗って帰る。

 豪徳寺の駅を降りるころには、佐倉惣一一等海尉から、ただの惣一に戻っていた。

「あれ、見慣れない車だなあ……」

 そう独り言を言うと、車の向こうからホースを握ったさつきが顔を出した。

「あ、ソーニーお帰り。半年ぶりだねぇ」

「7カ月ぶりだ。お前の車か?」

「うん、バイト先から押し付けられたのホンダZ。これで命拾いしたんだよ」

 さつきは、試運転の時に交差点で当て逃げされかけた話をした。

「このケツの短さで助かったかぁ、良かったじゃないか。しかし、これってほとんどクラシックカーだろ?」

「あちこち手が入ってるから、ただのポンコツ。ヤフオクで似たようなのが8万で落札されてた」

「まあ、今時クーペに乗る奴なんて、ちょっとオタクだろうな」

「ソーニーに言われたかないわよ」

「お帰りソーニー!」

 さくらが出てきて抱き付いてきた。昔と変わらないオニイチャン子だが、抱き付かれた背中に胸のふくらみを感じるのには閉口だ。

「ちょ、やめれ」

「あ、デニーズのテイクアウト!」

「ああ、土産だ。みんなで食うんだぞ!」

「はーい!」

 お土産の袋だけ持って、さっさと家の中に消えてしまった。やっぱり十二分にガキだ。

「駅前のデニーズで済ますなんて、ソーニーらしいわ」

「前の日から予約してたんだぞ……なんだこりゃ?」

 後ろのバンパーに大きめのチューインガムのようなものが付いている。

「やだ、ガムなんか着いてる!」

「ん……こりゃシリコンだな……なかなかとれない。これ、かなりの勢いで貼りつけられたんだな」

「ソーニー、取ってよ」

「うん……」

 こういうところで、シリコンの扱いが役に立つとは思わなかった。

「ソーニー、やらしい。また、こんな人形買ってきて!」

 リビングから、さくらが叫ぶのが、両親の笑い声とともに聞こえた。

「シリコンの中に何か入ってるぞ」

「え、なに?」

 オレは慎重にシリコンをはがした。

「……なんで、こんなもんが?」

 それは、C国製の大容量のメモリーだった。


☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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勇者乙の天路歴程 006『出発』

2024-03-11 16:24:15 | 自己紹介
勇者路歴程

006『出発』 




「ということでよろしくお願いします(^▽^)!」

「わ!?」


 たった今まで静岡あやねが立っていたところに古代衣装がワープしてきた!

「アハハ、いまの生徒さんの馬力で復活して、残りの『勇者の素』もダウンロードできちゃいましたよ」

「あ……」

 胸元が明るくなったかと思うと、胸のところで青い光が明滅している。

「では、インストール!」

「あ、ああ……」

 ブルン ブルブルブル!

 公園が回る、いや、わたしが回っている!

「目をつぶって! 酔っちゃうから!」

「は、はひぃ!」

 子どもの頃、公園の回転遊具に乗せられて、みんなにぶん回された感覚が蘇る。

 そうだ、あの時もKちゃんが「いちろー! 目をつぶってぇ!」と叫んでいたっけ。

 目をつぶって、これ以上は目をつぶっても酔ってしまうというところで、ようやく落ち着く。

「はい、もう大丈夫ですよ」

「ゼーゼーゼー……気持ち悪い……」

 うな垂れると、胸の光は充電の終わったバッテリーのよにグリーンに変わっている。

「ええと、この姿は?」

「デフォルトの勇者コスです」

 白というか生成りのツ-ピース。資料集とかで『古墳時代5世紀ごろの衣装』で紹介されているやつだ。生地は麻、全体にダボッとしていて、やっと啓蟄が過ぎた時期には寒い。髪を触るとミズラに結ってあるし、けっこう恥ずかしい。

「やっぱ、そぐわないかなあ……エイ!」

 ブルン ブルブルブル!

「うわ!?」

 また回る!

 さっきの半分ほどで回転が止まって、目を開けると、アニメやゲームでよく出てくる勇者のコス。

「うん、やっぱり今風がいいようですね」

「あのう、まだお受けしたわけじゃ」

「ええ!? 断ったら……」

 ジジジ

 消えかけの命の蝋燭が出てくる(;'∀')。

「わ、分かりました(-_-;)」

「右手で胸の前で線を引くように指を動かすとインタフェイスが出てくるから、時どき確認してくださいね。機能は、習うより慣れろでいきましょう。中村さんはゲームとかで取説とかチュートリアルとかはやらない方でしょ?」

「ああ……」

 息子やカミさんはよくゲームをやっていたが、わたしは家庭サービスに付き合い程度にしかやったことが無い。

「ああ、それが家庭不和の原因だったかもしれませんねえ」

「心を読まないでください」

「ごめんなさい。そうね、時間もあまりありませんね。では次に……名乗りを決めます」

「名乗りですか」

「本名でも構わないのですが、先に何が待ち受けているか分かりません。本名を名乗っていると、そこから付け込まれることもあります……そう、勇者乙と名乗ってください!」

「え、お、おつ? 甲乙丙丁の乙ですか」

「よかった、中村さんは甲乙丙丁の分かる人なんだ」

「は、はあ、父が兵役検査で乙種だったものですから」

 微妙に凹む。

「ああ、そう言う意味でじゃないんです。いや、そうなのかなあ?」

「は?」

「乙って言っておくと、甲があるような気がするじゃないですか『俺に手を出したら甲のやつが黙っていねえぜ!』とかね『甲にランクアップしたときを覚えてろよ!』とかね」

「なんか、子どものつっぱりみたいですねえ(^_^;)」

「アハハ、まあ異世界旅行も乙なものってノリ的な?」

「あははは(大丈夫かなあ)」

「では、最後の最後に……」

「え、なんですか?」

 神さまが印を結ぶと、ベンチの前の石碑がブルブルと震え出した。

「え、なんですかあれは?」

「わたしの荷物入れ。神社があったころは宝物殿とかに入っていたもの……なんだけどぉ」

「普段はゴロゴロのキャリーにしてます?」

「うん。いつ、この地を追われてもいいように可動式にしているの」

 きっと追われる時は、お婆さんの姿であれを押していくんだろうなあ……ちょっと可哀そうになってきた。

「あの中に、あなたのお供にピッタリなのがいるんで、道連れにしてあげようと思ったんだけど」

 ああ、そう言えば勇者とか冒険者の旅には小動物や妖精やらがお供に付いている。気立てのいい奴だったらいいけど『アラジン』に出てくるランプの精とかだったら勘弁してほしい。むくつけきマッチョに「ご主人さま~」とか呼ばれたくない。

「あ、大丈夫。八百比丘尼っていう女の子だから」

「八百比丘尼ぃ……熊野とかに伝説のある?」

「うん、人魚の肉を食べて永遠の命を得たっていう半妖、まだ、ここに社があったころにね転がり込んできて、ずっと宝物殿の守りをしてくれていたの……数百年ぶりだから、ちょっと苦労してるっぽいなあ……よしよし、わたしが手伝ってあげるから、そんなに焦らないでぇ……あ、中村さん、いえ勇者乙は、そろそろ時間だから」

「で、どうやって行けば(^_^;)?」

「電車とリンクしてあるから、急いでぇ、乗り遅れたら蝋燭間に合わなくなってしまいますからねぇ!」

 ジジジ

「は、はい!」

 慌てて公園を飛び出した。



☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒

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鳴かぬなら 信長転生記 169『赤壁・1』

2024-03-11 11:05:34 | ノベル2
ら 信長転生記
169『赤壁・1』書籍範 




 大橋(だいきょう)さんには感謝するばかりだ。

 本来なら『大橋さん』などと気安く呼べるお方ではない。

 豊盃羽沙壽(ほうはいぱさじゅ)のオーナーで、自由都市豊盃で一目も二目も置かれる商人であるばかりでなく文化的リーダー。パサージュという新しい業態で、豊盃楼(豊盃ビル)を生き返らせ豊盃一お洒落な商業施設にしてくださった。
 お蔭で、閉店寸前だったわたしの店もパサージュの中央路に移って望外の繁盛。繁盛しすぎて老夫婦では回し切れなくなり、もう若い人に譲ろうかと思った時。わたしを店主にしたまま自分の店になさって、なんと家賃まで払ってくださる。「全部譲られてはお寂しいでしょ」と、店の一画を新聞と雑誌のコーナーにして仕事を残してくださった。

 それに、大橋さんは呉の孫策公の妃である。元々は喬公の姫で喬公が呉に下った時に捕虜同然に妻妾の一人にされたが、その器の大きさと優れた器量で妃同然の処遇を受けていらっしゃる。
 妹の小橋さまも、孫策様第一の家臣、周瑜殿の妃になられ、姉妹共々呉の発展と三国志の平安に尽くされている。

 その大橋さま、いや、大橋さんが、いくつかの地点を指し示し「ちょっと見てきて下さらないかしら」と老生にお頼みになった。

 これで二回目。

 前回は「三蔵法師さま御一行に豊盃に来ていただけるように、あ、いえ、道中お噂を集めて知らせていただけないかしら」とお頼みになり、運に恵まれて御一行を豊盃にお連れすることができた。

「街や村々の様子を知らせてくださるだけでいいんです。そうねぇ、今度は奥様もお連れになって、お店の方はうちの、そう、リュドミラさんにやってもらいます。だいぶ柔らかくはなったけど、もう少しがんばってもらいましょう。チュウボウ(孫権)も懐いてるし、二人とも社会勉強的な? そんな感じで。ね、正直羨ましいんですよ。孫策さんももう少しお暇になったら、いっしょにあちこち見て周りたい……まぁ、そんな下心あってのことだから、どうぞお気楽に(⌒∇⌒)」

 まいったまいった、これだけのことを大説法会パレードの最中に馬を寄せて、ラーメン一杯できるくらいの間におっしゃるんだからなあ。

「ほほほ、あなた、もう耳にタコですよ」

「いや、感謝してもしきれんだろうがぁ。こうやって、本で読むしかなかった三国志のあちらこちらを見て周れてるんだ」

「それはそうだけど、ブツブツ言ってる間にも景色は変わっていきます、しっかり目に停めて大橋さんにお話しできるようにしなくちゃいけませんよ」

「いや、ちゃんと見てるし」

「そうお、じゃあ、ここまでに見えた雲はどんな雲でしたぁ?」

「雲ぉ?」

「あ、上を向いちゃいけません。目に留まったままをおっしゃい」

「ええと……いわし雲、時どき入道雲」

「なんですか、それぇ。夏と秋の雲がごっちゃじゃないですか」

「いや、季節の変わり目だからぁ」

「雲一つない晴天ですよ」

「え、そうなのか?」

「もう、行雲流水を見るのは観光のイロハじゃないですか。ボーっとするのは店番の時だけでいいですからね」

 ぐぬぬ、口の減らん婆さんだ。

「なにか言いましたぁ?」

「あ、いや、今日はな、行雲流水の流水の方を見に行こうと思ってるんだ」

「流水なら、すぐ脇を流れているじゃないですか」

 たしかに長江に沿って馬を進めている。

「水と人との関りを見るんだ。舟運、治水、開発、そういう人の関わり方で自然というものは姿を変えていくんだ」

「そうですねえ、転石苔を生ぜず……若いころ言ってましたよねぇ」

「え、そうだったかぁ?」

「そうですよ、英語で言うとA rolling stone gathers no moss. 言ってましたよ範さん」

「ああ、英語の方がカッコいいかなあ」

「あの言葉には二つの意味があるって、結婚してから分かりましたけどね」

「知ってたのかあ」

「でも、まあ……それで、どのあたりで流水を鑑賞するおつもりなんですか?」

「赤壁」

「え?」

「セキヘキ……ほら、この川の折れを曲がったところだ」

 言うと少女のような反射の良さで首を巡らす。

 口の減ららない婆さんになったが、こういうところは昔のままだ。

 いや、昔を取り戻したのか……大橋さんはほんとうにいい機会を作ってくださった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 織田 信長       本能寺の変で討ち取られて転生  ニイ(三国志での偽名)
  • 熱田 敦子(熱田大神) あっちゃん 信長担当の尾張の神さま
  • 織田 市        信長の妹  シイ(三国志での偽名)
  • 平手 美姫       信長のクラス担任
  • 武田 信玄       同級生
  • 上杉 謙信       同級生 配下に上杉四天王(直江兼続・柿崎景家・宇佐美定満・甘粕景持 )
  • 古田 織部       茶華道部の眼鏡っ子  越後屋(三国志での偽名)
  • 宮本 武蔵       孤高の剣聖
  • 二宮 忠八       市の友だち 紙飛行機の神さま
  • 雑賀 孫一       クラスメート
  • 松平 元康       クラスメート 後の徳川家康
  • リュドミラ       旧ソ連の女狙撃手 リュドミラ・ミハイロヴナ・パヴリィチェンコ  劉度(三国志での偽名)
  • 今川 義元       学院生徒会長
  • 坂本 乙女       学園生徒会長
  • 曹茶姫         魏の女将軍 部下(備忘録 検品長) 曹操・曹素の妹
  • 諸葛茶孔明       漢の軍師兼丞相
  • 大橋紅茶妃       呉の孫策妃 コウちゃん
  • 孫権          呉王孫策の弟 大橋の義弟
  • 天照大神        御山の御祭神  弟に素戔嗚  部下に思金神(オモイカネノカミ) 一言主
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第106話《車をあてがわれて妹を拾う》

2024-03-11 07:03:28 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第106話《車をあてがわれて妹を拾うさつき 




 あたし学生なんですけどぉ。


 思わず口ごたえしてしまった。

 原稿は、いつもパソコンで送るんだけど、月に二度ほど映画のチケをもらうのとギャラをもらいに出版社に顔を出す。ギャラは本来振込なんだけど、以前二度ほど振込を忘れられて危うくノーギャラで仕事をするところだったので、それからは手渡しにしてもらってる。で、なんで今さら学生であることを強調しなきゃならないかというと。

「さつき君、しばらく車で仕事してくれない?」と、編集長に言われたから。

 車を使えってのは、評論のゴーストライターの仕事以外に取材とかの仕事が入るということで、ほとんど本業の記者と同じ仕事をしろと言われていることと同じだ。

 怖さ半分、興味半分だったけど、一番の問題はギャラだ。仕事だけ増えてギャラが変わらなきゃタダ働きになってしまう。

 見透かしたように編集長が続けた。

「ギャラは、上限5万として出来高払い。もち経費は別。ただし常識の範囲でね」

 少しときめいた。まさか毎回5万くれるわけじゃないだろうけど、均して3万。月に3本で9万……これはおいしい。

「でも、あたしほとんどペーパードライバーですけど」

「ちょうどいい車を用意してある……」


 というわけで、車とは名ばかりのお母さんと同年配のホンダZの慣らし運転をやっている。

 全長3メートルを切る車体は、今の軽自動車よりも二回り小さく、まるでチョロキュー。行き交う車のウンちゃんが珍しそうに見ていく。前から見た姿はホンダのいいセンスを感じるけど、後ろがちょん切ったように存在しない。水中眼鏡と言われたハッチバックのすぐ下はバンパー。まあ苦手な車庫入れや縦列駐車はやりやすそうなのでヨシとする。

 豪徳寺の傍を走っていると、学校帰りのさくらを見つける。

「なにいーーーこの狭さ。なんで、今時二人乗りなのよ?」

 姉妹のよしみで、つい声を掛けたのが間違いだった。ま、今時の女子高生に、この車のよさを……いつの間にか、車を気に入りかけている自分に驚く。

「なんで、こんなとこ歩いてんのよ?」

 豪徳寺は家から離れてる。家への帰り道、商店街を突き抜けてわざわざ来なきゃならない。

 チャラ

 さくらは黙ってストラップ付のまねき猫を示した。

「米井さんとはうまくいったの?」

「実は……というわけで、二人は実の兄妹だったんだ。で、佐伯君は……あ、今の内緒ね」

「いいよ。大体わかる。あたしボランティアで、ときどきホスピスに行くの。さくらも知ってるでしょ?」

「うん……あ、ひょっとして!?」

「そう、見たことあると思ってたら、ホスピスで何度か話もした子だったんでびっくりした」

「なんで言ってくれなかったのよ!」

「さくらも、自分で解決した方がいいと思ったから。どう、上手くいったんでしょ?」

「まあね、心に何枚かバンソーコー貼ることになったけどね」

「あとは米井さんが、どう乗り越えていくかだね……つかず離れず、見守ってあげなよ」

「うん……」

「しかし、あのチェ-ンメールは不思議だよね。一回限りしか転送できなくて、問題が解決したら消去されるんだろ?」

「こんなメール、誰が回し始めたんだろ……とても高度なスマホとかのテクニックないとできないよ」

「さくらの番号をハッキングして、そこから回し始めて、結局知ったのは、米井さんのことをある程度には知ってる子たちなんだもんね」

「ひょっとしたら、神様……」

「アハハ……かもね」

 気楽に返事して、交差点を渡ろうとしたら、猛然と信号無視の車が愛車の真後ろを走り抜けていった。その後ろをパトカーがサイレン鳴らしながら走り抜けていった。

「この車、もうちょっと後ろが長かったら跳ね飛ばされてるとこだったよ!」

 さくらが、バックミラーを見ながらしみじみと言った。

 あたし学生なんですけど……そう言いたくなるような事件の前兆であった。



☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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ここは世田谷豪徳寺(三訂版)第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?》

2024-03-10 09:12:03 | 小説7
ここ世田谷豪徳寺 (三訂版)

第105話《お御籤に超吉ってあるんですか?さくら 





「……戸籍謄本を見てしまったの」


 数分の沈黙のあと、米井さんが口にしたのは理解不能な一言だった。

 そして、そのあとまた沈黙になってしまったので訳が分からない。

「じゃ、先生が話すけど、いい?」

 米井さんは黙って頷いた。口を開いたら自分が爆発してしまいそうで、何かを必死で堪えているのがわかる。

「去年、乃木坂の文化祭に行って、米井さんは佐伯君と付き合うようになったの。それで、付き合いは順調に進んで、二人は、とてもいい友達になった……とても大事なね」

 ここまでは当たり前に理解できた。

 Tデパートで見かけた二人は、そのとても大事を通り越して、身内のようにお気楽な状態で、そういう関係に夢を重ねてしまうあたしたちには、つまらないものだった。

「念のため、この話は人には内緒だからね」

「「「「はい……」」」」

 先生の念押しに、わたしたちは静かに頷く。感情を表に出したら、米井さん崩れてしまいそうだった。

「ところが、この春に佐伯君は健康診断にひっかかり、精密検査で病気だってことが分かったの……命にかかわるような。そして、6月頃からは、ずっと入院生活。米井さんは毎日お見舞いにいった。お互いに友達以上の気持ちに……なっていった」

「先生、もう大丈夫です。あとは自分で言います」

 米井さんは、涙をこらえながら、でもしっかりあたしたちの方を向いて言った。

「去年、うちのお祖父ちゃんがが亡くなったんで、遺産相続のために、お父さん戸籍謄本を取り寄せてたの。それを、たまたまあたしが見つけてしまって、そして分かったの。わたしは、ずっと弟と二人兄弟かと思っていた……わたしには、双子の兄がいた……そして、いろいろ調べているうちに分かったの……佐伯君は、その双子の兄だった」

 表面張力一杯の心から、涙が一筋流れていった。

「わたしは……彼も、兄妹の関係に戻そうとした。あの日は、兄妹の気持ちでTデパートに行ったの。そこを佐倉さんに見つかったってわけ。で、例のチェ-ンメール。もう、頭ぐちゃぐちゃ」

「そう……そうだったの」

 そう返すが精一杯だった。

「でも、訳わかんないけど、あなたたちじゃないことはよく分かった。先生の話でも半信半疑だったけど、今のあなたたちの顔を見ていたら分かった。わたし気が楽になった。今まで一人で胸にしまい込んで……でも、ここまで分かってくれる友達が五人もできた。ありがとう!」

 あとは、六人で泣きの涙だった。先生はあたしたちを六人だけにしてくれ、次の授業は進路指導のための公欠あつかいにしてくれた。


 バン! バシュバシュ バシュバシュ……


 帰りの電車、対向電車とすれ違う時にビックリしてしまう。

 新幹線がすれ違うほどじゃない、いつも乗ってる小田急だしね。でも、ボンヤリしてて不意打ちだったのでビックリしたんだ。

 すれ違ってる何秒間、対向車の陰になって窓ガラスが鏡のようになって自分の顔が映る。

 ああ、ひどい顔……

 米井さんは自分を押えて、これでお仕舞にしてくれた。チェーンメールのことも『不思議な事件』と胸に収めてくれた。やっぱり、委員長をやるだけあって人格者だ。

 むろん、わたしにも身に覚えのないことで、なにも呵責に思うことはないんだけど。米井さんが率先して事態を収拾した。もし逆の立場だったら、あんな笑顔で「ありがとう!」とは言えなかっただろう。

 そういう、米井さんの偉さにあてられて……佐倉さくらは凹んでる。

 そうだ、験直しに豪徳寺に行こう。

 改札を出ると、いやでも見えるまねき猫が目に入ると、そう決心した。

 モスラ~ヤ モスラ~……

 いつの間にかモスラが頭の中で聞こえ出して、そのリズムに乗って商店街を抜け、数カ月ぶりに豪徳寺を目指す。

 モスラでよかった。これがちょっと前のダスゲマイネだったら、まっすぐ家に帰って布団被って寝てる。

 あれ?

 ここを曲がったら豪徳寺の山門……と思ったら、世田谷熊野明神。

 前は、豪徳寺の帰りに世田谷熊野明神が現れた。

 思った、ここをパスしたら豪徳寺どころか、自分の家にも戻れない。

 だから、最初から目的地だったように、一礼して鳥居を潜る。

 以前と同じ巫女さんが箒を動かしながら笑顔で挨拶してくれる。

 二礼二拍手したところで――人魚の肉はどうするぅ?――と頭の中で声がする。

――ありがとうございます。でも、今日はけっこうです――

 ガチャガチャ

 今どき珍しい籤の筒を振って……え、百一番?

 お御籤に三桁の番号ってあったっけ?

 窓口で「えと、百一番なんですけど……」と巫女さんに告げる。

「それはそれは……百年に一度しか出ない籤ですよぉ」

 え、なんかオチョクラレてる?

 いっしゅん思ったけど、曖昧に笑って籤を受け取る。

 超吉

 え、ちょーきち?

「お御籤に超吉ってあるんですか?」

 思わず巫女さんに聞く?

「はい、百年に一回(^▽^)」

「ありがとうございます」

 鳥居に戻りながら続きを読むと『この後、豪徳寺に参るべし』と一行だけ。

 その後、予定どおり豪徳寺に寄って、一番小さなまねき猫を買って帰る。

 来た道をそのまま戻ったんだけど、思った通り熊野明神を見かけることは無かった。

 

☆彡 主な登場人物
  • 佐倉  さくら       帝都女学院高校1年生
  • 佐倉  さつき       さくらの姉
  • 佐倉  惣次郎       さくらの父
  • 佐倉  由紀子       さくらの母 ペンネーム釈迦堂一葉(しゃかどういちは)
  • 佐倉  惣一        さくらとさつきの兄 海上自衛隊員
  • 佐久間 まくさ       さくらのクラスメート
  • 山口  えりな       さくらのクラスメート バレー部のセッター
  • 米井  由美        さくらのクラスメート 委員長
  • 白石  優奈        帝都の同学年生 自分を八百比丘尼の生まれ変わりだと思っている
  • 原   鈴奈        帝都の二年生 おもいろタンポポのメンバー
  • 坂東 はるか        さくらの先輩女優
  • 氷室  聡子        さつきのバイト仲間の女子高生 サトちゃん
  • 秋元            さつきのバイト仲間
  • 四ノ宮 忠八        道路工事のガードマン
  • 四ノ宮 篤子        忠八の妹
  • 明菜            惣一の女友達
  • 香取            北町警察の巡査
  • クロウド          Claude Leotard  陸自隊員 
  • 孫大人(孫文章)      忠八の祖父の友人 孫家とは日清戦争の頃からの付き合い
  • 孫文桜           孫大人の孫娘、日ごろはサクラと呼ばれる
  • 周恩華           謎の留学生
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