やくもあやかし物語 2
デラシネは言葉にしようと、息を吸っては吐き出した。
ハーーー
思いを伝えようとしてるんだけど、言葉が見つからない。あるいは、言葉にしたとたん心か身体か、あるいは、その両方が壊れるか暴れるかしそうで踏み出せないみたいで、何度目かには顔を洗うような仕草のまま伏せてしまった。
お母さんが言ってた――水泳の授業でね、なかなか飛び込めなかった――って――飛び込むと自分の中にいる魔性の者が蘇ってプールも学校も破壊してしまいそうだった――って。
自分では「お母さんは魔法使いの子孫だからね、プールなんかに飛び込んだら、それが蘇ってプールも学校もめちゃくちゃにしてしまう!」とか言って、わたしにもそういうものがある的なニュアンスだったけど、あれは、根性なしの言いわけ。
だいいち、お母さんと血のつながりは無いしね。でも、それを忘れて血のつながりがあるように正当化してるのは、ちょっと嬉しかったけどね。
意味は違うけど、いまのデラシネは、そんな感じ。
ただ、デラシネはお母さんと違って、ほんとうに能力持ってるから、ほんとうに暴れそう……というか、もう何回も暴れてるし(^_^;)。
プルルル プルルル
黒電話が控え目な音で鳴った。
「あ、ちょっとごめんね」
デラシネにゴメンして受話器を取る。デラシネは邪魔されたというよりは助かった的に息を吐いた。
「もしもし」
『交換手です、お話の最中にすみません』
「あ、いいよ。デラシネも気にしてないし。で、なにかな?」
『こないだ言ったでしょ、真岡。よかったらデラシネさんと二人で行ってみます?』
「真岡! ああ……でも、学校あるし」
『大丈夫です、昔の真岡だし、イマジネーションの中だから時間はたちません』
「あ、そうか。日本であちこち行ってたのと同じなんだ」
『はい、そうです。お供は……』
「交換手さんは?」
『あはは、わたしは電話からは出られませんし(^_^;)』
「あ、そうなんだ」
日本にいる時から分かってたけどね、いちおう言ってみただけ。
『お供は、いつもの通りポケットの君に……』
ゴソゴソ
モゴモゴしたかと思うと、御息所が目をこすりながら顔を出した。
『なにか言ったぁ?』
『御息所さん、やくもさんがデラシネさんといっしょに真岡の見物に行くんですけど、お願いできます?』
『真岡って……あんたの故郷の、樺太の真岡か?』
『はい、そろそろ流氷が動き出す時期でシャケとかも美味しいですよ』
『う~~寒そうでいやだ』
「ヤマセンブルグだって寒いじゃない」
『ここは、寒い時は部屋に居られるし、たいていは寮と教室のどっちかだし』
「あ、それなら、これを貸してやる」
デラシネが手袋を出した。ポワポワした綿毛のような感じで気持ちよさそうだ。
『わたしの手は、こんなに大きくない!』
「手に嵌めるんじゃなくて……エイ!」
『な、なにをする!?』
デラシネは御息所の首根っこを掴むと、あっという間に手袋を着せてしまった。
中指と薬指のところに脚を、親指と小指のところに手を突っ込ませると、お母さんが持っていたモンチッチみたいになった!
『一本余ってるんだけど』
なるほど、人差し指のところが余ってブラブラしてる。
『それは、お土産を入れる袋というかポケットにすればいいでしょ』
『かっこ悪い……けど暖か~い』
「よしよし」
御息所が納得したところで、真岡に飛び立つことになったよ。
☆彡主な登場人物
- やくも 斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生
- ネル コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
- ヨリコ王女 ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
- ソフィー ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
- メグ・キャリバーン 教頭先生
- カーナボン卿 校長先生
- 酒井 詩 コトハ 聴講生
- 同級生たち アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
- 先生たち マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法)
- あやかしたち デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方