大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

銀河太平記・211『姉崎先生の死』

2024-03-23 09:57:05 | 小説4
・211

『姉崎先生の死』ミク 




「先生」「姉崎先生」


 額づいた姉崎先生に声をかける。

 ちょっと緊張する。在学中、こちらから声をかけるのは呼び出されて叱られる時ばかりだったので、こういうシチエ―ションでは条件反射で緊張が先に立つ。

 八年ぶりの後姿はピクリと動いたかと思うと、振り向くことなく、そのまま横倒しになった。

 ドサ

「「先生!」」

 仰向けになった髭面には生気がない!

 直感で、命の火が消えかかっているのが分かる。

 すぐに呼吸と脈拍を調べる。

「どうだ?」

「バイタルが弱い、めちゃくちゃ弱い!」

「救急要請するぞ!」

 ダッシュがハンベに呼びかけようとすると、先生の髭がピクリと動いた。

「懐かしいなあ二人ともぉ……」

「喋っちゃいけません、いま、救急車を呼びますから。取りあえず、酸素吸ってください」

 バッグから非番の時でも持っている携帯酸素吸入器を出す。

「……ムグ」

 吸入器を加えさせると、先生は救急要請をしようとしているダッシュの手を掴んだ。

「先生?」

 先生は声を出さずに自分の頭を示した。ハンベで脳波会話しろという意味だ。

――すまん……もう会話する力もない――

 すぐにハンベは、先生の意志を音声化したが、後が続かない。

 それでもハンベは先生の脳との会話をやめず、ダッシュも救急要請をやめず、病院に着いて脳死判定されるまで続いた。


 先生の頭脳の七割は人工頭脳だったことが検死で分かった。


 二十三世紀の今日、ロボットと人間の境目は曖昧だ。臓器や筋肉以外でも、脳機能の一部を機械に置き換えることは前世紀から行われている。人とロボットの差は『ソウルがあるかないか』というのが基準だけど、論理的にはロボットの人工頭脳に人のソウルを移植することも可能だと言われ、現に、日本の児玉元帥と漢明の劉宏大統領の先例がある。

 先生の頭脳とハンベは脳死判定されるまで繋いでおいたから、かなりの記憶や情報がリンクしている養生所のサーバーに保存された。

 マッパ病のリスクがあるので、先生の遺体はパルス波で火葬にされた。

 遺骨を届ける親族を探さなければならなかったし、先生も最後に言い残すことがある様子だったので、半ば公務として先生の記憶を再現した。公務扱いなので、軍警のダッシュも任務として付き添ってくれる。

「なにか分かったのか?」

「うん、ここ見て」

 朝ごはんのお握りをパクつきながらモニターのスイッチを入れる。

 静かの海と思われる戦場、実体弾やレーザー、パルス波が飛び交い、そこここで炸裂、それを避けながら前進だか後退だかしている兵士。兵士のボディーカメラの映像、激しく揺れて、めちゃくちゃ見にくい。

「三人称視点にならないのか?」

「ああ、メカに弱いもんだから(^_^;)」

「ちょっと触るぞ……」

「おお、さすが軍警!」

「変換すると裁判とかの公的資料にはならないが、大づかみするにはこのほうがいい」

 ああ、そうだろうね。大昔のゲームは早い時期に一人称視点は廃れてしまう。疲れるし酔っちゃうし、そのへんの感覚は二百年経っても変わらない。

 三人称視点にすると、さらに凄惨さは倍増した。

「あんまり握り飯食いながら見る景色じゃねえなあ……」

「う、うん……」

 二個目のお握りはラップも解かずに袋に戻して続きを見た……。

 
☆彡この章の主な登場人物
  • 大石 一 (おおいし いち)    扶桑月面軍三等軍曹、一をダッシュと呼ばれることが多い
  • 穴山 彦 (あなやま ひこ)    扶桑幕府北町奉行所与力 扶桑政府老中穴山新右衛門の息子
  • 緒方 未来(おがた みく)     ピタゴラス診療所女医、 一の幼なじみ、祖父は扶桑政府の老中を務めていた
  • 平賀 照 (ひらが てる)     扶桑科学研究所博士、 飛び級で高二になった十歳の天才少女
  • 加藤 恵              天狗党のメンバー  緒方未来に擬態して、もとに戻らない
  • 姉崎すみれ(あねざきすみれ)    扶桑第三高校の教師、四人の担任
  • 扶桑 道隆             扶桑幕府将軍
  • 本多 兵二(ほんだ へいじ)    将軍付小姓、彦と中学同窓
  • 胡蝶                小姓頭
  • 児玉元帥(児玉隆三)        地球に帰還してからは越萌マイ
  • 孫 悟兵(孫大人)         児玉元帥の友人         
  • 森ノ宮茂仁親王           心子内親王はシゲさんと呼ぶ
  • ヨイチ               児玉元帥の副官
  • マーク               ファルコンZ船長 他に乗員(コスモス・越萌メイ バルス ミナホ ポチ)
  • アルルカン             太陽系一の賞金首
  • 氷室(氷室 睦仁)         西ノ島  氷室カンパニー社長(部下=シゲ、ハナ、ニッパチ、お岩、及川軍平)
  • 村長(マヌエリト)         西ノ島 ナバホ村村長
  • 主席(周 温雷)          西ノ島 フートンの代表者
  • 及川 軍平             西之島市市長
  • 須磨宮心子内親王(ココちゃん)   今上陛下の妹宮の娘
  • 劉 宏               漢明国大統領 満漢戦争の英雄的指揮官 PI後 王春華のボディ
  • 王 春華              漢明国大統領付き通訳兼秘書
  • 胡 盛媛 中尉           胡盛徳大佐の養女
 ※ 事項
  • 扶桑政府     火星のアルカディア平原に作られた日本の植民地、独立後は扶桑政府、あるいは扶桑幕府と呼ばれる
  • カサギ      扶桑の辺境にあるアルルカンのアジトの一つ
  • グノーシス侵略  百年前に起こった正体不明の敵、グノーシスによる侵略
  • 扶桑通信     修学旅行期間後、ヒコが始めたブログ通信
  • 西ノ島      硫黄島近くの火山島 パルス鉱石の産地
  • パルス鉱     23世紀の主要エネルギー源(パルス パルスラ パルスガ パルスギ)
  • 氷室神社     シゲがカンパニーの南端に作った神社 御祭神=秋宮空子内親王
  • ピタゴラス    月のピタゴラスクレーターにある扶桑幕府の領地 他にパスカル・プラトン・アルキメデス
  • 奥の院      扶桑城啓林の奥にある祖廟
 

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