大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・29「通学路のパワースポット」

2018-02-06 16:43:58 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・29

『通学路のパワースポット』

 

 

「オレにはかけてくれないの?」

 

 三叉路で佐伯さんを見送ってイスカに聞いた。

「……ごめん、なに?」

「その守護魔法みたいなの……」

「あれ掛けると、キミからエネルギーをチャージできなくなる」

「え、そうなの?」

「魔法攻撃って、いろんなバリエーションがあるけど、結果的には相手の生命エネルギーを奪うこと。だから守護魔法というのは生命エネルギーにロックをかけるようなものなの。ロックした相手から都合のいいエネルギーだけチャージさせてもらうなんてできないわよ」

「そうなんだ」

「大丈夫よ、勇馬がいなけりゃ、わたしもこの世界に留まれないから全力でガードしてあげるわよ」

「今日は近道通らないのか?」

 まだ二日目なんだけど、イスカに勉強をみてもらうのがカスタムになってきている。

「うん、こっちの方が雰囲気だからね」

 そう言うと、イスカは立ち止まった。

 

「オーーーーー」

 

 間の抜けた声を上げてオレも立ち止まる。

 ちょっとした切通になっていて、右側が古い石垣が連なって、その上に民家が並んでいる。石垣だというのも気が付かなかった。けして見えないわけじゃないんだけど、石垣の前に列をなしている自販機やら看板の自己主張ために意識に上らないんだ。

 反対側には家が並んでいたはずなんだけど、それが取り壊され、向こうの見晴らしが良くなっている。

 切通と思っていたのは、そこだけで、実は全体で大きな斜面になっていて、下に広々と街が広がっている。思いのほか大きな景色で、それが、斜面の中腹に佇んでいるオレたちごと夕陽に染め上げられ、ちょっと息をのむほどの景色になっている。

「二年も通っていて気づかなかった」

「家が立ち並んでいたからね、先週から取り壊し始めて、今朝終了したばかりみたい」

「ああ、でもイスカが言ってくれなきゃ気づかないところだった」

「わずかなもんだけど、こういうところじゃエネルギーチャージができるのよ」

「そうなのか?」

「うん、俗に言うパワースポット。昔の人は、こういうところに神さまを感じて神社なんかにしたのよ」

 悪魔が、そんなこと言っていいの……思ったけど、雰囲気壊しそうなので止す。

 

「さ、いこうか」

 

 ホッと一息ついて歩き出す。

 角を曲がると向こうから優姫が歩いてくる。めずらしく下校時間が合ったみたいだ。

「あ、どうも、いつも兄がお世話になってます!」

 元気と愛想のいい挨拶をする。我が妹ながら外面の良さは天下一品だ。

「ごめんなさい、今日もお邪魔するわね。あ、クラスメートの西田佐知子です。こないだからいっしょに勉強するようになって」

「はい、分かってます。出来の悪い兄ですけどよろしくお願いします。わたし、先に戻ってお茶の用意とかしとくね」

「あ、おかまいなく」

「じゃ、二人はゆっくり帰って……あ、勉強だからゆっくりってのも変か? ハハ、じゃ、ほどよく」

 そう言うと、軽い足取りで家に向かう優姫。

 

「優姫さん!」

 

 家の前に差し掛かった優姫をイスカが手を上げて呼び止めた。

「はい、なんでしょう?」

「セイ!」

 勢いよくイスカの手が振り下ろされる。

 

 すると、電柱一本分向こうの優姫の首が吹っ飛び、切り口から噴水のような血しぶきが吹き出した!

 

 

 

 

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高校ライトノベル・ライトノベルセレクト『チョイ借り・2』

2018-02-06 07:12:13 | ライトノベルセレクト

ライトノベルセレクト
『チョイ借り・2』
        


 オレは、もともと律儀で行儀が良い。

 素行と勉強の悪さは、ひとえに学校に問題がある。言い出すと切りがないので、ダブったけど、無遅刻無欠席だったとだけ言っておく。

 日の出と同じくらいに起きると、セミダブルのベッドで、チイコが、これでも女かという姿で寝ている。
 ゆうべのチイコの激しさは、どこか贖罪めいた感じがした。ダブった責任の何パーセントかを感じているようで、イタしている最中も「ごめんね」を連発していた。
 たしかにチイコたちとは、よく遊んだ。しかしダブったのはオレ自身の責任。チイコは、そういう「ごめんね」という構え方でオレに好意をもってくれている。可愛いヤツだとは思う。

 だが、この寝姿。

 開いた脚を閉じてやり、ずり落ちた布団を掛け、衣類一式をたたんで、枕許に置いてやる。まあ、目が覚めるのは、二時間はかかるだろう。それまで軽く片づけし、朝ご飯の用意をしてやろう。部屋を貸してくれたチイコのオジサンへの礼儀。

 で、服を着てブッタマゲた。

 なんと、畳一畳ほどの玄関ホールにオレンジ色のチャリが居た。靴を脱ぐとこだけでは収まらないので、前輪がホールのフローリングの上に乗っかっている。

 おかしい。二つの意味でおかしい。

 第一に、夕べ不法駐輪のとこに置いてきたはずのチャリが、ここにあるのがおかしい。
 第二に、起きてざっと部屋を見渡したときには、ホールにチャリは無かった。チイコを見苦しくないようにして、オレ自身が身繕いをしている間に現れた。なんだか気を遣った現れ方だ。

「そう、気をつかったのよ」

 ……自転車の方から声がした。マイクか何かが仕掛けてあって、誰かが喋っている。ひょっとしたらカメラなんか仕掛けてあって、夕べのチイコとのことが……。

「そんな悪趣味じゃないわよ」
「だ、誰なんだ……!?」
「わたし、わたしよ。オレンジ色の自転車」
「自転車が喋るわけないだろ……だれなんだよ、こんなイタズラすんのは」
「カタイ頭ね。じゃ……じゃ、これで喋りやすい?」

 自転車の姿がボンヤリしてきたかと思うと、二三秒で、オレンジ色のセーラー服の女の子に変身した。

「これなら、喋りやすいでしょ」
「お、おまえ……」
「さあ、だれでしょ?」
「わかんねえから、聞いてんだ」
「わたしも、よく分からない……ほんとだよ」
「おまえ、人間か?」
「さあ……」

 その子は、どうでもよさそうに首を捻る。

「ざけんなよ。夕べからそこにいたのかよ」
「そんな不躾な。ちゃんとチイコちゃんにお布団かけて、ナオキが着替えるの待って、ここにきたの。それまでは、あの自転車置き場。チイコちゃんが優しくしてくれたんで、どこも傷つかずにすんだ。ナオキは、わたしのこと放り投げるつもりだったでしょ」
「おまえ……自転車か?」
「さあ……ま、昨日ナオキが拾って、乗っけたの覚えてるから、有る意味自転車であることはたしかでしょうね?」
「それが、人間に姿変えて現れたってか。安出来のラノベみたいだな」
「わたし、半分てか、何割かは人間、話すの面倒だから、そこのパソコン見てくれる」

 パソコンが勝手に起動して、新聞みたく、文章と写真がでてきた。

「鈴木友子、急性劇症肝炎で死亡……通夜、告別式……昨日葬式だったんだ」
「うん、ナオキが拾ってくれたころ、友子は火葬場で骨になっておりました」
「で……友子の愛車……って、オレンジのチャリじゃん!」
「うん。なんだか、友子と自転車がくっついたみたいで。両方のタマシイがくっついて、こうなっちゃった」
「……おい、住所とか、学校出てこないじゃないか」
「出てきたら、どうするつもり?」
「むろん、友子の形見だから、友子の親に返さなくっちゃ」
「アハハハ……」
「なにがおかしいんだよ!」
「わたし、チョイ借りよ」
「だからさ、そういうイワクのある物なら返さなくっちゃよ……」

 オレは、マジになって、パソコンの画面をスクロールした。

「あのね、反対、反対。わたしがナオキをチョイ借りしたの」

 なんだって……。

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高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・3『ブルータスおまえもか!?』

2018-02-06 07:00:54 | 小説6

高校ライトノベル・音に聞く高師浜のあだ波は・3
『ブルータスおまえもか!?』
       


 あれってイジメじゃないの?

 西日に目を細めながら姫乃が言うた。

 学校に居てる間は差し障りがあると思てたようで、校門を出てランニングに出てきた野球部の一団が追い越していくのを待って切り出してきた。ちなみに、すみれは弓道部の部活に行ったんで、あたしと姫乃の二人連れ。

「あれって……ああ、マッタイラ?」

 思いついてから迷った、あほぼんのマッタイラのことか、マッタイラがあたしに言うたことか、どっちか分からへんから。
「えと、両方」
 姫乃は感度がええようで、あたしの間ぁの空き方で察してくれたみたい。
「男は、ああやって遊んどおるねん。ジャンケンして恥ずかしいことを聞く役を決めて、あたしのリアクションを楽しもういう腹や、しょーもない奴らでしょ。ま、いきなりあんなん見たら、なんかイジメっぽいと思うかもしれへんけど、子どものころから続いてきたオチョケの一種やね」
「そうなんだ……転校してきてから何日もたってないけど、わたしには、みんな優しくしてくれるから、ちょっとビックリした」
 わけを聞いて安心したというよりは、そんなあたしらの日常を聞かされてビビッてしもたかな?

 あたしらの高師浜高校は創立百年に近い府立高校。

 周りが大正時代から開発された住宅街いうこともあって、学校も生徒も見かけのお行儀はええ。偏差値は六十ちょっと、学力ではAランクに入るけど、偏差値区分ではSの下やから、まあ……まあまあいうとこ。
 どこかに泉州気質いうのんがあって、日ごろのあたしらは姫乃がイジメと勘違いするくらいには賑やかや。

「うちの近所にも東京から引っ越してきたオバチャンが居てんねんけどね。仲ようなってから話してたらね『東京から落ちてきましたけど、がんばるわ!』て言うてはった。悪気はないんやろけど、大阪は落ちてきてがんばるとこやねん」
「ああーーーー」と引っ張って、姫乃は口をつぐんだ。
「アハハ、言うてええねんよ『それ分かる!』って」
「え、いや、そんなことは」
「まあ、ちょっとバランス崩したらイジメに変わってしまいそうなとこはあるけどね、オチョケのTPOが分からんようになったら危ないやろね」

「TPO?]

「マッタイラが言うてきて、あたしが何にも言えんで俯いてしもたらイジメの始まりになるやろね。マッタイラの言い方がジメジメしてたらマッタイラがイジメられたっぽなるし、ま、そのへんがTPO言うとこやね」
「そうなんだ……」
「姫乃の第一印象は『一歩前へ』いう感じやから」
「一歩前?」
「朝礼で初めて会うたとき。あれだけしっかり言えるやもん、洗礼受けるかもしれへんよ~」
「わ~~おっかない!」
「せやから、あたしらと付き合うて慣れとかなあかんよ」

 すると、姫乃の目ぇが急にイタズラっぽく回り始めた。この子のこういう表情はメッチャ可愛いのを発見!

「だったらさ~」
 目ぇをカマボコ形にしてすり寄ってきよった。
「オぺの時って……剃っちゃうの?」
 ブルータスおまえもか!? やったけど、答えてやった。
「剃ります、ナースが来て剃刀でソリソリと。なんともけったいな感じです~」
「ウウ、そーなんだぁ~!」
 嬉しそうな顔をしよる。
「専門用語で剃毛(ていもう)て言います」
「あ、それだと抵抗少ないかも。『剃るぞ!』て迫られたらこの世の終わりだよね」
「それだけとちゃうねんよ……あ、ちゃう!」
 アホな話をしてたら目的地の羽衣公園への道を過ぎて、高師浜駅に向かう道に入ってきてしもた。

「わー、可愛い駅!」

 うちの学校より、ちょびっと古い駅は小さいけども雰囲気が良く、たった今までアホな話をしてた二人を、一瞬で正統派の女子高生に変えてしまったのだ。
 

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高校ライトノベル・乃木坂学院高校演劇部物語・105『第二十一章 受け継がれるもの・3』

2018-02-06 06:51:03 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

まどか 乃木坂学院高校演劇部物語・105   


『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』姉妹版


 この話に出てくる個人、法人、団体名は全てフィクションです。

『第二十一章 受け継がれるもの・3』


 話しはちょっと戻るけど、三月十日は、乃木坂さんがいなかった。

 明くる日には平気な顔でやってきたんで、すぐに忘れちゃったんだけど、三月十日は東京大空襲の日。乃木坂さんの命日でもあるし、大事なあの人、マサカドさんと言おうか、三水偏の彼女と言おうか、その大切な人の命日でもあったんだもんね。
 乃木坂さん自身の平気な顔は――それには触れないでほしい――という意思表示だと思ってわたしたちも、聞かないことにした、やっぱ成長したでしょ。

 潤香先輩は、ロケの日、がんばりすぎて、二日ほど寝込んでいたけど、梅の花が満開になったころから、時々稽古を覗きにきてくれるようになっていた。

 そして……それは、桜の蕾が膨らみ始め、新入生たちの教科書や、制服やらの引き渡しの日に起こった。

 稽古場の同窓会館にいても、新入生たちの満開のさんざめきが聞こえてくる。
 その日は、理事長先生と潤香先輩が稽古場でいっしょになり、乃木坂さんは、バルコニー近くで、静かに、しかし厳しい目で稽古を見ていた。

 クライマックスのシーンで、それは起こった。

 都ばあちゃんが、地上げ屋の三太にも、三人の子供たちにも見放され、一人お茶をすする中、突然脚と腰に走る痛み。遠く聞こえる若き日のなつかしの歌。
 

 埴生の宿も わ~が宿 玉の装い羨まじ……♪

 都ばあちゃんの最後が迫る。登場人物がみんな……といっても都ばあちゃんを入れて三人だけど、「埴生の宿」の合唱になる。都ばあちゃんは最後の力をふりしぼって、最後の一節を唄う。

「……楽しとも……頼もしや……🎵」

 そこで、見えてしまった。乃木坂さんの体が透けてきているのを……。

「乃木坂さん!」

 おきてを破って叫んでしまった。一瞬乃木坂さんは「だめじゃないか」という顔になり、そして……気がついた。
 自分にその時がやってきたことを……。
「あ、あなたは……」
 潤香先輩にも見えてしまったみたい。
「水島君……」
 理事長先生は、驚きもせずに、静かに、そして淋しそうに乃木坂さんの本名を呼んだ。
「高山先生……先生は、ご存じだったんですか」
「三月の頭ごろからね……この歳になるととぼけることだけは上手くなるよ。本当は、イキイキとした君の姿を見られて、とても嬉しかったんだ」
「……僕の役割は、もう終わっていたんですよ……それが、この子達と居ることが楽しくて、嬉しくて……つい長居をしすぎたようです」

「わたしを助けてくれたの……あなた……あなた、なんでしょ?」

 潤香先輩が、ささやくように言った。
「君は、こんなことで死んじゃいけない人だもの……僕は、昔、助けたくても助けられなかった人がいる。自分の命と引き替えにすることさえ出来なかった……みんな、最後は、こう思ったんだ。自分は死んでも構わない。その代わり、他の誰かを生かして欲しい……親を、子を、孫を、妻を、夫を、教え子を、愛しい人を一人だけでも……みんな、そう思って、身も心まで焼き尽くされて死んでいったんだ」
 わたしは、カバンから、あの写真を取りだした。

「この人だったんでしょ。乃木坂さん……水島さんが守りたかったのは、苗字の上の字が三水偏の女学生。ねえ水島さん」

「……そうだよ。あの時は、他の仲間に申し訳なくて言えなかった。今、ここに居る仲間は喜んで許してくれる。その子は、十二高女の池島潤子さん。潤子の潤は……」
「わたしと同じ……?」
「そう……不思議な縁だね」
「潤いを人に与える良い名前だよ」
「水島さん。下のお名前も教えてください。わたし一生、あなたのことを忘れません」
「それは、勘弁してくれたまえ。僕たちは『戦没者の霊』で一括りにされているんだ。こうやって、君達と話が出来ることも、とても贅沢で恵まれたことなんだよ。苗字を知ってもらったことだけで十分過ぎるんだよ。高山先生、こんな何十年も前の生徒の苗字、覚えていただいていて有難うございました」

「もう歳なんで下の名前は……忘れてしまった。でもね、僕は時々思うんだよ……この歳まで生かされてきたのは、君達の人生を頂いたからじゃないかと」

「先生……」
「だとしたら、そうだとしたら、僕はそれに相応しい……相応しい仕事ができたんだろうか」
 水島さんは、仲間の承諾を得るようにまわりを見渡し、ニッコリとした笑顔で大きくうなづいた。
「ありがとう、水島君。ありがとう、みなさん」
 空気が、暖かくなってきたような気がした。水島さんの体がいっそう透けてきた。

「それじゃ……」

 と、水島さんが言いかけたとき、バルコニーの外の桜がいっせいに満開になった。最初、水島さんに会ったときの何倍も、花吹雪は、壁やガラスも素通しで談話室に入ってくる。
 気づくと、壁に紅白の幕。理事長先生の後ろには金屏風、日の丸と校旗も下がっている。
「これは……」
 と言ったのは、水島さん。わたしは思った、ここにいる大勢の水島さんの仲間がはなむけにやった演出だ。
「ありがとう、みんな……先生、最後に一つだけお願いがあります」
「なんだい、僕に出来ることなら……」
「『仰げば尊し』を唄わせてください。僕は唄えずに死んでしまいましたから、最後にこれを……」
「では、僕たちは『蛍の光』で送らせてくれたまえ」
「僕には、もう、そこまで時間が残っていません」
 水島さんの手足は、消え始めていた。
「じゃ、じゃあ、みんなで唄おう!」
 理事長先生は、ピアノに向かった。  

――仰げば尊し我が師の恩 教えの庭にも早幾年(はやいくとせ) 思えば いと疾し この年月 今こそ別れめ……いざ さらば――

「さらば」のところでは、もう水島さんの声は聞こえなかった。そして、桜も金屏風も紅白幕も、日の丸も消えてしまった。

 でも、校旗だけがくすんで残っていた。

 いえ……最初からあったんだけど、だれも気がつかなかった。何ヶ月もここを使っていながら。
 そして……悔しかった。わたしたちだれも『仰げば尊し』を完全には唄えなかった。ちゃんと水島さんを送ってあげられなかった……わたし達は、この歌を教えてもらったことがない。
 でも、歌の心は分かった。
 それを忘れるところまでわたし達のDNAは壊れてはいなかった。その心が少しでも水島さんに届いていればと願った。

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高校ライトノベル・宇宙戦艦三笠・44[小惑星ピレウス・1]

2018-02-06 06:39:06 | 小説3

 宇宙戦艦三笠・44  
[小惑星ピレウス・1]



 三笠は、用心してピレウスの衛星アウスの陰に出た。

 ピレウスは目的地だが、正体が分からない。

 それは覚悟の上だったが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの中間に位置し、両惑星から絶えず監視されているに違いない。ピレウスの大気圏内に入ってしまえば、どうやらピレウスが張っているバリアーで分からないようだが、そこにたどり着くまでの間に発見されてしまえば、元も子もない。

「ピレウスが、グリンヘルドとシュトルハーヘンの間に入るのを待つ」

「そうするだろうと思って、惑星直列になる時間を狙ってワープしておいた」
 修一と樟葉は艦長と航海長としてツーカーであった。
「でも、ピレウスに敵が侵入していたら……」
 美奈穂が珍しく弱気なことを言う。普段は心の奥にしまい込んでいるが、父が中東で少女を救ってゲリラに殺されたことがトラウマになっている。もう大事な仲間を一人も失いたくない気持ちが、美奈穂を、らしくない弱気にさせている。
「その時は、その時。全てのリスクを排除しては何も行動できなくなる」
「美奈穂の心配ももっともだから、ここからできるだけピレウスと、その周辺をアナライズしておくわ。クレアよろしくね」
「ええ、ピレウスの自転に合わせて表面と、地中10キロまではアナライズしておきました」
「結果が、これだな……」

 モニターにピレウスの3D画像が出た。

「地球に似てるけど、人類型の生命反応がないです。文明遺跡は各所で見られるんですけど」
「まるでFF10のザナルカンドみたいな廃墟ばかりね」
「何かの理由で、人類は破滅したんだな……」
 みんながネガティブな印象しか持てないほど、その人類廃墟は無残だった。
「この星には、負のエネルギーを感じます。アクアリンドよりももっと強い……これシミレーションです」

 クレアが、モニターを操作すると、海に半分沈みかけた三笠が写った。

「三笠が沈みかけてる……」
「中を見てください」
 三笠の中には、4人の老人と、一体の壊れかけたガイノイドの姿しかなかった。
「あれ……オレたちとクレア?」
「はい、一か月滞在していると、ピレウスでは、ああなります」
「いったいどうして……」
「推測ですが、かつてピレウスに存在した人類の最終兵器が生きているんだと思います」
「兵器……あれが?」
「はい、人類と人類が作ったものを急速に劣化させる……そんな装置があったんだと思います。装置そのものも風化して、どの遺物がそれか分からないけど、その影響だけが今でも残っているようです」

 クレアは、予断を与えないように、あえて無機質な言い方をした。

「これなら、グリンヘルドもシュトルハーヘンも手の出しようがないわね」
「でも、それで何万光年も離れた地球に目を付けられてもかなわない」
「それよりも、あんな死の星から誰が地球に通信を……それも地球寒冷化防止装置をくれるなんて」

 ブリッジは沈黙に包まれた。

「あの……」
「なんだ、トシ?」
 トシの一言で沈黙は破られたが、事態を進展させるものではなかった。
「三笠のエネルギー消費が微妙に合わないんです」
「どのくらい?」
 樟葉が敏感に反応した。
「誤差の範囲と言ってもいいんですけど、1/253645001帳尻が合わないんです」
「ハハ、トシもいっぱしの機関長だな。それはアクアリンドのクリスタルを積み込んだせいだろう。あれだって、人間一人分ぐらいの質量はあるから」
 修一の結論にみんなは納得した。

 ただ、トシは、それが人間一人分にあたることが気にかかっていた……。

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