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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・3《アーケーズ》

2018-02-27 16:06:45 | 小説

・3
《アーケーズ》



 畳んだ鎧は拍子抜けがするほど小さくなる。

 身長175センチの甲が着用していた赤具足は、羽毛布団を入れるくらいの大きさの段ボールに鎧櫃ごと入れられて、鎧屋の屋号が描かれたワゴン車に収まっている。

「じゃ、行ってきます」

 運転席のきららは、師匠の甲太郎に挨拶すると、穏やかにアクセルを踏み込んだ。ワゴン車は歩行者専用時間前の商店街を東に走り、民俗資料館と西慶寺に挟まれた順慶道に入った。

「おはよう、おはようございます」

 ちょうど西慶寺の山門から出てきた花子が、ワゴン車のきららと甲に挨拶した。今朝の花子は僧侶の衣ではなくアイドルの制服のようなナリをしている。
「あら、アーケーズも出るんだ!?」
 きららはブレーキを踏んで笑顔の花子に応えた。
「ええ、露出しておかないとモチベーションもスキルも維持できないし。なによりみんな好きだから」
「てことは、うちのこざねも?」
 助手席から身を乗り出して甲が聞く。
「うん、あ、ほら後ろ」

 バックミラーに花子と同じコスを着たこざねがアーケードを東に向かうのが見えた。なんだか猫が集会場所に行くように気配が無い。

「ハハ、恥ずかしんだこざねちゃん」
「そういう年頃ですね。こうちゃん、今日のステージは見てくれるんでしょ?」
「うん、今日は納品だけだから」
「嬉しい! じゃ、サクラお願いね」
 そう言うと、花子はコスのスカートを翻してこざねの後を追った。
「間に合うようにチャッチャッとやりますか」
 
 ワゴン車は国道に入り国府市のショッピングモールを目指す。

 赤具足は国府市の大型ショッピングモールの依頼で作った新造品というかレプリカというか、以前の鎧屋からすればゲテモノであった。

 真田ブームにあやかった客寄せのための等身大五月人形とでも言うべきもので、大河ドラマなどで使っている衣装としてのヨロイと大差ないものである。
 胴も鉢も鍛えは一切ない軟鉄で、本当の戦に使ったら鉄砲玉どころか矢でもプスリと貫通しそうなもので、甲太郎に言わせれば『アルミで作った戦車』のようなものでしかない。
 関東地方屈指の甲冑師である岩見甲太郎が、こういうものを作るようになったのは、それだけで一本のドラマができるほどの葛藤があったが、今は年若い女弟子の草摺きららの働きが大きかったとだけ述べておく。

「いやあ、さすがは岩見さんの作品だ、風格が違いますねえ」

 特設会場に飾り終えた赤具足を見て、感心しきりの支配人である。
「鍛えはありませんが、機能的には完品です。こちらの甲くんが具足駆けをやって、実証済みですから」
「ほう、そうですか!」
 感心はしているようだが、具足駆けの意義などは分かっていない様子の支配人。
「では、撤収の時に伺います」
「よろしくお願いいたします」

 一礼すると、甲ときららは、ショッピングモールのフードパークを目指した。

「こうちゃん、早いか美味いか?」
 これだけで意味が通じる。
「うん、両方!」
「ハハ、あたしといっしょだ」
 二人は海鮮丼のコーナーに向かった。早くて美味くて牛丼ほど熱くもない。とんぼ返りで商店街に帰りたい二人にはうってつけだ。

 思ったより40分早く戻ることができて、リハーサルの最後に間に合った。

 商店街東詰めの白虎広場には特設ステージが組まれていて、白虎フェスタのリハーサルが行われている。

「じゃ、アーケーズ、よろしく!」

 進行責任者である仁木楽器店若主人・仁木祐樹がキューを出す。商店街のテーマ曲に乗ってアーケーズのメンバー9人がステージに上がった。

「こんにちは、みなさ~ん!! 白虎通り商店街看板娘たちで結成したアーケーズで~す! ありがとうございます。わたしたちアーケーズは早いもので結成3年目を迎えました、とりあえず元気いっぱい歌います! 白虎通り商店街応援ソング『365日のお買い物』です!」

 花子が寺の娘とは思えないテンションで一気に雰囲気を盛り上げていく。

 ここ3年聞きなれた『365日のお買い物』は仁木楽器店若主人・仁木祐樹の作詞作曲で、すっかり商店街のテーマソングになり、ローカルではあるが相賀テレビのヒットチャートのトップになったこともあり、地元で愛される名曲になっている。フリも3年の間に改良され、今日の白虎フェスタでは、その新バージョンが発表される。

「なるほど……」
 甲たちリハーサルに参加した商店街の面々は一様に感心した。
「子どもだと思っていたら、いつのまに……」
 喫茶ロンドンの泰三祖父ちゃんなどは涙ぐんでしまった。

 午後の本番も大盛況で、甲は花子に頼まれたサクラを務める必要もなかった。

 そうして、4日前の具足駆の熱気などはあっと言う間に忘れ去られてしまった。
 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・6『発見と味わいと友情の乗り越し』

2018-02-27 06:54:23 | 小説3

通学道中膝栗毛・6

『発見と味わいと友情の乗り越し』        

 ちょっと、乗り過ごしたわよ!

 鈴夏の声で目が覚めた。


 南向きのシートがラッキーにも二人分空いていたので、座ったのがまずかったのかもしれない。
 朝から快晴なために、放射冷却というやつで、ここは北海道かってくらい寒かった。
 で、南向きのシートは、いっぱいの日差しと車内の暖房でホコホコ。つい二人そろって眠ってしまった。

 そ、居眠りじゃなくて爆睡。

「栞、ヨダレ!」

 言われて、手の甲で拭ってみると、右のホッペがビチャビチャ。
 ハンカチで拭きながら電車を降りると、隣の駅だ。
「ひっさしぶりの隣町だ!」
 あたしたちの生活は都心を向いている。渋谷とか新宿とかね。
 だから、反対方向にはあんましいかない。このSK駅には実のところ下りたことが無い。子供のころは、たまに自転車で遠征したけど、せいぜい街の公園くらい。
「中学になってからは来たことないね」
 ということで一駅分料金払って探検に出る。

「SKってば、SK学園だよ!」

 鈴夏が閃いて、主体性のいないあたしはウンウンと着いていく。
 女子バレーで有名な私学で、高校受験の時に併願で受ける子も多いんだけど、あたしも鈴夏も公立一本だったんで縁が無い。

「そーだ、確かめたいことがあるんだ……」
「え、なになに?」
「SKの子って見かけるんだけども、謎があるんだよね」

 SK学園こちらという標識を見て、学校に近づく。当然のことだけどブレザーにチェックのスカートのSK生と向き合う形で歩いている。彼女たちは下校の真っ最中。逆流するあたしたちは少し目立つ。すれ違うSk生がチラチラと見ていく。

「ちょっとハズイな」
「もうちょっとだから」
「いったい、なにが謎なのよ?」
「え、見てて分からない?」
「え?」
「制服よ制服」
 そう言われて、つい前からやってくるSK生たちをガン見してしまう。

「なによ……」

 不審がる声が聞こえてくるので、居たたまれなくなって脇道に入ってしまう。
「ダメじゃん、ガン見しちゃ」
「だって」
 そこまで言ったとき、脇道に一人のSK生が走って来た。
 ヤバっと思ったら、SK生がジャンプした。
「わ、栞と鈴夏じゃん!」
「「え、え!?」」
「あたしよあたし!」
「「あ、あーーー!」」
 SK生は中三でいっしょだった真知子だった。

「「「うわー、おっひさー!」」」

 とりあえずはハイタッチ。
 ピーチクパーチク懐かしがったあと、鈴夏は本題に入った。

「ね、SKのブラウスって四種類あるでしょ。学年別なら三種類なのに、四種類ってのはどーして?」
 言われて、初めて気づいた。たしかにSKのブラウスは淡いピンクとブルーとイエローとホワイトだ。やっぱ鈴夏は鋭い。
「これはね、四色あって、どれを着てもいいことになってんの」
「「あ、なーるほど!」」
 目から鱗だ。
 あたしたちの希望ヶ丘青春高校は完全自由。で、あたしらは逆に制服時代の完全武装。
 SKのようにオプションを作っておくと言う手があったんだ。昭和二年創設の歴史は伊達じゃないと思った。
「でもさ、そーいうことならネットで調べりゃ一発なんじゃない?」
「あ、そりゃそう……」
 そう言いかけると「そうじゃないわよ」と鈴夏は言い返した。
「ネットで調べてたら真知子には会えてないじゃん」
「あ、それもそうだ!」
 そう言った割に、鈴夏はスマホを取り出した。
「お。お昼の販売って、地元のパン屋さんが入ってるんだ」
「そだよ、豆乳クリームパンが安くておいしいんだよ」

 ということで、駅前商店街のパン屋さんを目指し、三人で一個ずつパンを買って、食べ比べをやった。

 ヘヘ、発見と味わいと友情の乗り越しでありました。

 チャンチャン。
 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・9〈ガーディアン〉

2018-02-27 06:46:50 | 時かける少女

新 かける少女・9
〈ガーディアン〉
 



「始まったわね」

 オスプレイの機内で、エリーが呟いた。そして、指揮官らしい将校に何か言ってる。

「エリー、あなたって……」
「あたしは、愛のガーディアンよ」
「ガーディアン?」
「愛を守るために、去年から那覇中央高校にスリーパーとして潜り込んでいたの」
「うそ、あたしのため?」
「南西方面遊撃特化連隊ができたときから。K国もC国も、この部隊ができたときに、日本は本気なんだということを知った。だから、いざというときには混乱を引き起こして、有利に戦おうとした」
「それが、あたしを狙うことだったの?」
「愛を殺せば、連隊長の判断が鈍る」
「お父さんは、そんなことで判断を誤ったりしないわ」
「敵は、お父さんを甘く見ていた。だからフェリーの中で愛を殺すことに失敗したあとは、沖縄で派手に愛を殺すことに切り替えた。大げさな事件になれば、非難は特化連隊や政府に行くわ。それで、特化連隊や日本政府の手を縛ろうとしたの。さっきの学校前の事件、A新聞なんかは、特化連隊との関連に気づいて……むろん情報をたれ込んだのは、敵のスリーパーだけどね。政府批判のキャンペーンをやり始めた」
「わ、わけ分かんないよ」
「愛に間違われた子は、死んだわ。他にも怪我人がね。日本人は、こういう事件が起こると敵よりも、敵に、そうさせた政府や自衛隊を非難する。敵の狙い通りよ」

 オスプレイは時間を掛けて海を渡った。おそらく内地の米軍基地を目指している。

 基地にたどり着いたのは、夕方だった。あたしたちは、他の米兵と共に、基地内の宿舎に向かった。あたしとエリーに化けた女性兵士は、護衛十人ほどが付いて別の建物に入っていった。

「愛、悪いけど髪を切って染めてくれる」

 そう言ってきたエリーは、他の女性兵士と同じようなショ-トヘアーになっていた。あたしも、アレヨアレヨというまにブラウンのショートヘアーにされてしまった。

「お母さんには、自衛隊で保護してあると言ってある。この二十四時間の間に事態は動くわ。政府がバカな判断をしなければスグにカタが付く」
「うん……」
「……気に掛かってるんだね、宇土って工作員が言ったこと」
「そんなことないよ。あたしは、お父さんとお母さんの娘だもん!」
「やっぱ、ひっかかってるんだ」
「違うってば!」
「だったら、なんで、そうムキになるの」

 返す言葉が無かった。

「おいで、証明してあげよう」
 エリーは、そう言って、あたしを研究室のようなところへ連れていった。
「これ、さっき切った愛の髪の毛。念のために口の中の粘膜ももらおうか」
 ポカンとしてるあたしの口に、エリーは綿棒を突っこんで、あっという間にホッペの内側をこそいでいった。
「そんな、乱暴にしなくても……」
「ごめん。ついクセでね」

 エリーの本性が分からなくなってきた。

「これが愛の遺伝子。こっちがお母さんの髪の毛から取った遺伝子。ね、よく似てるでしょ」
 エリーは、モニターを見ながらニマニマし、エンターキーを押した。
「ジャーン。これが結果!」

 あたしとお母さんが親子である確率は99・999%と出てきた。
 正直ホッとした。
 ホッとしたのもつかの間、基地内にアラームが、鳴り始めた。

「中尉、C国がS諸島に侵攻しはじめました!」

 若い下士官が、エリーに言った。
「愛の前では、そういう呼び方しないで!」
「すみません。軍服を着てらっしゃったので、つい……」
「この上歳なんか言ったら、軍法会議」
「ハッ!」
「……すっとばして銃殺!」

 下士官は、顔色を変えてすっ飛んでいった。

「アハ、今の冗談だからね」

 しかし、事態は冗談ではない方向に進んでいた……。

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