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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・43「佐伯さんのアバター」

2018-02-21 14:42:47 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・43

『佐伯さんのアバター』

 

 

 ネトゲを検索すると、トップにネトゲ廃人、二番目にネトゲ嫁が出てくる。

 

 これで分かるように、ネトゲに対する世間の目は厳しい。ゲーマーだと分かったとたんに、中世のペストの保菌者を見るような目で見られる。中世だから、そういう伝染病の罹患者は焼き殺される。ネットで知ってカミュの『ペスト』を斜め読みしてビビったのは中二の時だった。ネトゲーマーは焼き殺されることは無いが、学校という社会の中では精神的に隔離される。もともと人交わりが苦手で、友だちはおろか、口をきいてくれる友達も少ない。そんなオレがゲーマーだと知れれば社会的に抹殺され学校にも行けなくなる。

 そのネトゲをスリープにしていたパソコンが起きてしまって佐伯さんに知られてしまった!

 終わってしまった…………。

 

「きれい…………」

 

 佐伯さんは、有ろうことか、モニターに映し出されるバーチャルな風景に見入っていた!?

 ログアウトしても、ゲームそのものをオフにしなければ、ゲームのアレコレをPV風に流していく。PV風はカスタマイズできて、バトルシーンとかにもできるんだけど、オレはゲームの中の景色のいいところをチョイスしてランダムに流れるようにしている。

 いわば『幻想神殿名所百選』みたいなもので、バーチャルであるがゆえに、この世のものとは思えない美しさがある。

 画面にはお気に入り、第一層のアーガス丘陵が夜明けを迎えたところだ。上りきらない太陽が浅い斜めにさしかかり、微風にそよぐ木々からの木漏れ日になって、チラチラと朝露を載せた下草たちを宝石のように煌めかせている。

「いまのCGってすごいのね……」

 佐伯さんが見入っているところを、丘の向こうから馬に乗った三人がやってきた。姫騎士と竜騎士と白魔導士のようだ、徹夜で狩りをしての帰りだろう、満足げに談笑し、やがて上りつつある朝日にため息し、胸の前で十字を切ってお祈りの風情になった。

「なんてきれいな人たち……」

 夕べは獲得経験値三倍の狩のイベントがあったはずだ。大猟だったんだろうけど、この祈りの姿勢はハンティング疲れでチャットする元気もなくなってしまって、コマンドを『祈り』にしたまま離席している。トイレに行ったかコンビニに朝ごはんを買いに行ったか、ひょっとしたら着の身着のまま寝落ちしているのかもしれない。姫騎士と竜騎士というのもアバターの話で、リアルは何者か分かったもんじゃない。

「それ、アバターだから……」

 佐伯さんの夢を壊さないように遠慮気味に言う。

「この人たちプレイヤーなの? CGアニメかと思ったわ」

 ほとんどデフォルトの三人だけど、デフォルトならではの完成度がある。佐伯さんに憧れの目で見られているプレイヤーのネタバラシをしてやりたくなった。

「簡単だよ、こういう具合に……」

 アバタープロダクト画面を出した。そして、さっきの姫騎士のイメージで美少女を作り上げる。時間はたったの三十秒。

「すごい、魔法みたい!」

 で、調子に乗ってしまった。

「これじゃ、さっきの姫騎士のまんまだから、ちょっと手を加えようか」

「うんうん🎵」

 髪形を佐伯さんと同じ内ハネのシャギーにして髪艶を少し上げた。

「あ、トリートメント直後ってこんな感じ! 胸は少し小さく……」

「自分でやってみる? このメニューをクリックしたら詳細設定ができるから」

「あ、うん、やってみるね」

 

 ツボにはまったのか、佐伯さんは目を輝かせて熱中しだした。勉強している時とはちがって、楽しい緊張感が嬉しくなってきた。優姫に邪魔されたくないので、オレは自分でお茶を入れにキッチンに下りた。

「あ、いま淹れようとしてたのにい」

 いつの間に買いに行ったのか、テーブルの上にはコンビニのケーキが三つ並んでいる。これはムゲには断れない。

 で、兄妹二人、お茶とケーキを持って二階に上がる。

 

「ワー、すごい! 佐伯さんそっくり!」

 

 入るなり優姫が感動した。

「すごいのは、このゲームよ。首から上だけでも百以上エディットできるのね、なんだか楽しくなってきちゃった!」

「もっとすごいんですよ♪」

 優姫は佐伯さんの隣にいくなり操作を開始した。

「きゃ!」

 F8ボタンを押したのだ、アバターが裸になって、佐伯さんは小さく悲鳴を上げた。

「ボディーもこと細かに設定できるんですよ~」

 なんでそこまで知っている優姫?

「ふ、服着せてください~(^_^;)」

「あ、ごめんなさい。お兄ちゃん、あっち向いて!」

「う、うん」

 後ろを向くと、ガールズトークが始まった。瞬間驚いた佐伯さんだが、エディットが面白くなって、前を向くお許しが出たのは十分後だった。

 

「お兄ちゃん……ごめん、上書きしちゃった」

「え、あ、また上書きすればいいんだから……? 優姫、固定のボタンクリックしたか?」

「え、あ、保存した……んだけど?」

 

 オレのアバターは佐伯さんのまま固定されてしまった、下手に作り直すと経験値もスキルも消えてしまうことに五分後に気づいたのだった……。

 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・3〈長崎港のトラブル〉

2018-02-21 07:09:35 | 時かける少女

新 かける少女・3
〈長崎港のトラブル〉
 



「え、今からですか?」

 運転手さんの声が、ここまで聞こえた。
 助手のオネエサンとなにやら話した後、運転手さんは、待合いにいたあたしたちに済まなさそうな顔でやってきた。

「すみません。会社からの指示で、ここで失礼します。どうも、急にドライバーの手が足りなくなったみたいで。助手の宇土は残します。宇土もトラックの運転はできますのでご心配なく。那覇についたら現地のドライバーが付きますのでご心配なく」
 間もなく会社のトラックがやってきて、運転手さんを拾っていった。
「人数ギリギリでやってるもんですから、三件も急ぎの仕事が入ると、人のやりくりがつかなくって。申し訳ありません」

 宇土さんは、会社を代表するように頭を下げた。

「そうだ、お母さん。あたしたち二等の四人部屋でしょ。一つベッド空いてるから宇土さんに入ってもらったら!」
「そんな、あたしは仕事で乗っているんですから三等でけっこうです」
 宇土さんは、遠慮したが、あたしは、構わずに話を進めた。
「三人で使おうが、四人で使おうが料金は変わりないんだから、ね、そうしましょうよ。あたしと宇土さんで二段ベッド一つ使うわ。いいでしょ?」
「一泊だけど、船旅。仲間が多い方が楽しいわ。宇土さん、そうしてよ」
 お母さんも宇土さんの人柄が気に入ったようで、積極的に賛成してくれた。

「じゃ、お言葉に甘えてご一緒させていただきます。ありがとうございます」

 フェリーの出航時間までには一時間近くある。

 宇土さんは、さっさとトラックをフェリーに入れると、待合いに戻って、あたしたちにいろいろ案内や説明をしてくれた。沖縄のことにも詳しく、官舎がある街のことを、タブレットを出していろいろ説明してくれる。街の学校や子供たちのことも、面白可笑しく話してくれて、人見知りの弟に気を遣ってくれているのが分かる。
「宇土さん、ひょっとしてだけど、元自衛官じゃない?」
 お母さんが、イタズラっぽく聞いた。
「え……あ、分かりました?」
「匂いがね……自衛官の女房を二十年もやってりゃ、勘が働くわ」
「ハハ、伊丹の第三師団の施設科にいました。ブルドーザーもダンプも動かせます」
「へえ、施設科なの。人当たりがいいから、広報かと思っちゃった」
「鋭いですね奥さん。調子のいいのをみこまれて、展示などでは、よくMCをやらされました」
 あたしたちは、さらに宇土さんに親しみを感じた。

 乗船十分ほど前に、それは起こった。

「おーい、人が落ちたぞ!」

 声がして、埠頭にいってみると、埠頭近くの海面を、女の子が浮き沈みしているのが、目に入った。
 直ぐに埠頭や、フェリーから浮き輪が投げられた。
 その子は、真冬の海をものともせずに、救助に向かったボートまで泳ぎ、自分の力でボートに乗り込んだ。
「あの女の子、お姉ちゃんに、そっくり……」
 弟の進が呟いた。

 確かに、ボートに乗り込んだ女の子は、あたしと同じサロペットのジーンズにポニーテール。ジャケットの色も、あたしと同じだった。ただ、発するオーラは違った。まるでトライアスロンの選手のような闘志を感じた。
 毛布にくるまれて、桟橋に上がると、救助の人たちに取り巻かれるようにして、あたしたちの前を通っていった。ぐしょぬれだけど、ショックを受けた様子ではなく、なにか……。
「あの人、怒ったときのお姉ちゃんだ……」
 進が呟いたあと、救急車のサイレンがした。

 で、あたしのそっくりさんは、救急車が到着すると、救急車の前に急スピードで横付けしたセダンに飛び乗ってさっさと、行ってしまった……。
 

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