大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・イスカ 真説邪気眼電波伝・25「中庭のバトル・2」

2018-02-02 12:12:13 | ノベル

イスカ 真説邪気眼電波伝・25

『中庭のバトル・2』

 

 

 ア……腕(かいな)の中で佐伯さんが小さく叫んだ。

 

 つられて、そっちに目をやる……イスカが制服をはためかせ、仁王立ちになってモンスターに対峙している!

 ユーチューブでチラ見した『キングコング』を連想した。

 むろんキングコングはモンスターだ。あんなに貧弱な三宅先生が、こんなモンスターになるなんて、変身するところをマザマザと見ていなければ信じられない。絵としてイスカはキングコングに助けられる美女という塩梅……そう感じた瞬間イスカは跳び上がり、モンスターの頭を跳躍台にして後ろに回り込んだ。オレが感じた背中の衝撃は、いまみたいにオレの背中を跳躍台にした時のショックだったんだと合点がいく。

 モンスターには、一瞬でイスカが消えたように見えたようで、マスクメロンのようにただれた体を振り回して探している。

「一寸法師みたい」

 佐伯さんが呟くが、オレには分かる。イスカは跳躍しながらチャージしているんだ。

 本来なら、オレがくっ付いてジェネレーターになってやらなければならないんだけど、佐伯さんを庇っているのでできないんだ。

「フォールンエンジェルブロウ!」

 イスカが、そう叫んで最初の一撃を食らわすまでに、イスカは五回跳躍した。瞬間モンスターはのけ反るがすぐに回復。ネトゲのようにHPバーが見えるとしたら、やっと七パーセントほどのダメージを与えたのに過ぎないだろう。オレの乏しいバトル経験でも、そのくらいのことは分かる。

 モンスターも元々は優男の三宅先生なので、翻弄されているだけでもダメージはあるようで息が荒くなってきている。

「フォールンエンジェルパーーンチ!」「フォールンエンジェルキーーーック!」「フォールンエンジェルチョーーーップ!!」

 ノックダウンさせるのに、プラス三つの技を決めるイスカだったが、その間チャージのための跳躍を十回以上やるので決め技の割には時間がかかった。

 

 グギャオーーーーーーーーン…………!

 

 断末魔の叫びをあげモンスターが消滅するのを見届けて、やっとイスカは俺たちの前に降り立った。

「西田さん……」

 佐伯さんが心配そうに声をかける。イスカは朝礼でぶっ倒れる寸前の低血圧の子のように見えた。

「ちょっと来て……」

 それだけ言うと、イスカはフラフラと校舎の陰に向かう。

「イ……西田さん!」

 危うく真名を言いそうになって後を追う。

「フグッ」

 中央花壇まで来た時、イスカはオレを引っ張って大蘇鉄の陰にオレを引きずり込んだ。

「待てない!」

 手足を絡めながらイスカは抱き付いてきた。反動でタタラを踏みながらも姿勢を崩さない。先週までのオレなら蹴飛ばして逃げるだろう。だが、これは堕天使イスカの緊急チャージだということが分かっているので、声を出さないようにして持ちこたえる。

「……西田さん? 北斗君?」

 二分ほどもたっただろうか、佐伯さんが心配そうに近づいてくる。

「ヤ、ヤバイ、ここまでだ!」

 イスカを突き放す。大蘇鉄の左右から出てきたオレたちは、服装が乱れ赤く上気している……これって誤解されるよなあ。

「あ、え、えと……」

 案の定、佐伯さんはモジモジして俯いてしまった……。

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高校ライトノベル・国つ神の末裔 一言ヒトコ・7『相馬愛美』

2018-02-02 06:21:24 | 小説5

国つ神の末裔 一言ヒトコ・7
『相馬愛美』



 わらし達(子ども達)がちっこい手さ振りながらバスさ追っかけてぐ。

 お父っちゃ、お母っちゃ、じっちゃ、ばっちゃも笑顔で送ってくれる。相馬愛美(まなみ)ら東北応援隊もバスから千切れんばかりに手を振り返した。AKPは、週末になると、交代で東北各地に慰問ライブをやりに通っているのだ。
 震災直後はライブトレーラーの荷台がステージだった。今はなんとか学校の体育館などで行えるが、出来るだけ多くの人たちと交流したいので、トレーラーライブも欠かせない。

 もう数えて三年十カ月になる。

 相馬愛美は、最初は研究生だったが、去年初期メンバーが多く卒業したこともあり、今では選抜メンバーの中心にいる。
 愛美自身福島の出身なので、この慰問ライブは、よっぽどのことが無い限り参加していた。
「さあ、今日は、あと一か所S町。ここは、まだ復興が遅れてるから、トレーラー。ちょっと冷えるけど、大丈夫だな」
 福本ディレクターは、みんなの健康状態を確認するように見渡した。
「みんな元気でーす!」
 いっせいに声があがった。

 元気そうな声はしたが、愛美は胸に閊えるような感じがした。トントンと胸を叩くと、元にもどったので平気だと思った。

――あと一つ、がんばろう!――愛美は、自分を励ました。

 春とは言え、トレーラーのライブは応える。
 三百人ほどの仮設住宅の人たちが、精一杯の拍手をしてくれた。

「ちょっと、しまねえんだけんじょ……」

 一人のお婆ちゃんが、トレーラーを降りる愛美たちに、笑顔で声をかけた。
「ばっちゃの家さ、寄ってけんにがな」
 メンバーは一瞬とまどったが、愛美は「行こう」と一同に言った。福本が「十分だけ」と口の形だけで言った。
「仮設だで、なまら狭ぐで……」
 三畳と六畳の奥に少年の遺影が、簡単な仏具を前にして掛けてあった。隣にはAKPのポスターも……。
「お孫さんですか?」
「んだ、あんたらエーケ-ピーが好きでなす……昭一エーケーピーのめんこい人らが来てくれたよー」
 ばっちゃは、笑いながら泣いていた。
――日本人は、悲しくても笑ってしまうんだ――
 そう言えば、今日はホワイトデーだ。写真の少年も笑っていた。なにかとっても大切なものをもらったような気がして、お線香を立て、みんなでサインをした色紙を置いていった。

 バスに乗ろうとして、愛美は倒れてしまった。

「重篤な心筋炎です」

 薄れる意識の中で、愛美は医者の言葉を聞いた。当分休養が必要……医者の言葉にみんなが驚いている。
――あたし、どうなるんだろう……ここで止めるわけにはいかない――

 ベッドの横に気配を感じた。医者でもマネージャーでもない気配……幽体離脱だ!
「ばかね、あなたにソックリだけど、あたし一言ヒトコ。これでも神さまの端くれ。愛美が良くなるまでは、あたしがかわりにやるから」
 愛美は、ヒトコのペンダントの中に入ってしまった。中は無重力で真っ白な世界。愛美はゆっくりと眠りに落ちて行った。

 それから、約半年、ヒトコはAKPの選抜の前列で、相馬愛美としてがんばった……。


   国つ神の末裔 一言ヒトコ・第一期おわり

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