新 時かける少女・8
〈オスプレイ緊急試乗〉
「じゃあ、一発乗って確かめてみるか!」
エリ-の提案は、なかなか実現しなかった。あたりまえっちゃ、あたりまえ。あんなのに簡単に試乗できるわけがない。
大きなのと小さなのと、二つの気がかりがあった。
大きな気がかりは、那覇に来るときの宇土さん。この人は正体不明だけど、あたしの命を狙っていた。そして、海に飛び込む寸前に言った言葉「……それは、愛ちゃんが総理大臣の娘だからよ」
あたしを守ってくれた運転手さんは「あれは、注意をそらすためのブラフだよ」って言った。その通りの状況だったけど。あたしが南方方面遊撃特殊部隊の連隊長の娘であっても大げさなんじゃ……という気がする。
小さな気がかりは、あたしの真似をする子が出てきたこと。
あたしは、長崎の前は東京に長くいた。だから、言葉や、なんとなくの雰囲気に東京の匂いがするらしい。スカートの丈は、みんなより微妙に長い。ブラウスの第一ボタンは外すけど、リボンは、そんなにルーズにはしない。俯いたときに人から胸の谷間が見えないための工夫。で、前髪は少し切っておでこの前でヒラヒラさせている。これは、単に暑いから。汗でおでこに前髪が貼り付くのヤだもん。ブラウスの袖は七分にまくり上げる。暑い戸外と冷房の効いた教室の両方に間に合うようとの合理性だけ。
でも、二組の愛はイケテルってウワサになった。
あたしはブスってほどじゃないけど、特別可愛くもない。東京弁を喋ることと、単に東京の子というだけのこと。連休明けになると、あたしが見ても驚くようなそっくりな子が現れ始めた。
「フフ、あの子も愛のこと真似してる」
エリーが、電柱一本分前を歩いている子を見て言った。あたしは、暑さに耐えきれず、髪をアップにしてお団子にしていた。
その時、一台のスモークを張ったクーペが静かにあたし達の横を通った……と、思う間もなくアクセルをふかし急加速して、前を歩いていた、あたしのソックリさんを跳ね上げた!
その子は悲鳴を上げる間もなく十メートルほど跳ねられ、歩道に落ちて二回転ほどして動かなくなった。クーペは一目散に逃げていった。
道路はパニック状態になった。
「愛、ヤバイ!」
エリーに突き飛ばされると、あたしのすぐ横をナイフを腰ダメにした男子生徒が走り抜けていった。
「チ」と、舌打ちをすると、その男子生徒は器用にナイフをしまい込むと、生徒達の群れの中に溶け込んでしまった。
歩道に転がった子の頭からは、どんどん血が流れて、あたりを血の池にしていた。
「なんとかしてあげなくっちゃ!」
「なんとかしなきゃならないのは、あんたよ。こっち来て!」
エリーは、大通りまであたしを引っ張っていくと、生徒手帳を振りかざして、通り合わせた米軍の四駆を停めた。そして流ちょうな英語で二言ほど喋ると、四駆の後ろのドアが開き、エリーはあたしを押し込んだ。
四駆は、猛スピードで走り始め、その間、あたしはエリーに覆い被されてシートに貼り付いていた。
止まったのは米軍基地のゲートの前。運ちゃんと門衛の兵隊さんが言葉を交わすと、車は基地の奥深くに入っていった。
「さあ、オスプレイの試乗をするわよ!」
エリーは、そう言うと裸になって、米軍の戦闘服に着替え始めた。
「ボーっとしてないで、愛も着替えるの!」
特殊な服なので、ノロノロ着替えていると、同じような体格の女性兵士が、リカちゃん人形のように着替えさせてくれて、あろうことか、あたしの制服を着だした。
「あの、これって……」
二機のオスプレイが待機していた。両方に八人ほどの米兵が乗り込み、あたしたちも、その中に紛れた。
驚いたことに、エリ-とあたしの制服を着たソックリさんが、それぞれのオスプレイに乗り込んだ。
そして、二機のオスプレイは、どこともなく飛び立ち始めた……。
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