大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

REオフステージ(惣堀高校演劇部)066・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・4

2024-06-20 09:42:36 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
066・夏休み編 思い出のサンフランシスコ・4                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです




 高さ300メートルのあべのハルカスどころか、91メートルの通天閣の展望台からでも全域が見渡せるほどに狭い大阪。


 なのに、何年も会わない人間もいる。


 同じ中学出て、引っ越しもしないで同じ校区に居るのに卒業このかた会ってないなんてザラよね。同窓会とか無かったら、ほんと死ぬまで会わないのが大方よ。


 それが、サンフランシスコでふと入った中華飯店。


 その背中隣の賑やかなテーブルにいたのが、我が天敵の演劇部四人組なんて信じられる!?


 生徒会副会長の瀬戸内美晴ーーーーーーー!?


 そう叫んだ松井須磨の怖気だけは共感できた。

「あ、あたしたちね、オルブライト奨学金! 懸賞が当たっちゃって! で、で、アメリカ旅行! 否! 研修旅行中!」

「なんです!」

「せやねん!」

「Yes it is!」


 バラバラだけど、言ってる中身はいっしょ。テーブルの下の手でエンガチョやってやがんだもん!

 わたしもエンガチョしたいけど、相方のアメリカ人は意味わかってないからエンガチョ切ってくれる者もいない。


「日本人でも、あんなにアグレッシブな会話するんだね」

 ハンドルを握りながら相方のアメリカ人。

「アメリカ人も約一名いたけどね」

「あ、あのブロンド?」

「シカゴの高校生、交換留学でうちの学校に来てるの」

「物腰は日本人だったね、ハーフか日本生まれかと思ったよ。ミハルのオオサカって、なんだかラテン系だね」

 こつはミッキー・ドナルドって、ネズミなんだかアヒルだか分かんない名前の十八歳。

 地元の高校で生徒会長をやっている。

 こいつとどういう因縁かは、今んとこ勘弁願いたい。


「え、家に帰る道じゃないでしょ!?」


 ボンヤリしてて気づくのが遅れた。わたしの宿は二つ手前の道を曲がっていなければならない。


「今夜は霧が出ないんだ」

「あ、ああ」

 危うく納得。

 サンフランシスコに来てからずっと霧にたたられ、サイトシーングが出来ていない。

 特にゴールデンゲートブリッジを見てみたかった。スコーンと晴れ渡った青空の下か、暮れなずむシスコの街を背景に。

 それをミッキーは覚えていたんだ。

「ここは、百年前に砦が築かれてたとこで、GB(ゴールデンゲイトブリッジ)一押しのビュースポットなんだ」

 着いたところは丘の上で、見下ろすGBは絶景。背景になっている街が神戸や横浜の夜景みたいで、それよりもスケールが大きくって、わたしの憂さを晴らしてくれる。

「アメージング……」

 そう呟きながら涙がこぼれてしまったのは、やっぱ気が弱っていたせいかもしれない。

 だれかの胸に顔をうずめたくなった……しっかりしろ瀬戸内美晴!

 自分を叱った、その刹那。


 え!?


 ブチュ!


 ミッキーの顔が迫ってきて、17年の人生、初めて唇を奪われてしまった!



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • ミッキー・ドナルド   サンフランシスコの高校生
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・105『戻り橋で七夕を思いつく』

2024-06-20 08:59:47 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
105『戻り橋で七夕を思いつく』   




 いつものように川を渡って学校に行く。


 寿川

 普通の橋を渡る分には、普通の川だ。

 だけど、わたしが渡るのは戻り橋。

 魔法少女しか渡れない橋で、普通の人には渡るどころか見ることさえできない。

 川沿いにはフェンスというか子どもの背丈ほどの防護柵があって、魔法少女だけが見える柵の根元にMの標石がある。それを足でつつくと戻り橋が現れる。

 通行人とかに見られないようにして現れた橋を渡る。人には女子高生が忽然と消えたようにしか見えなくて、見られてしまうと騒ぎになるので要注意。

 一度だけ近所のお婆さんが付いて来てひと悶着あって(093『お婆さんが付いてきた』)それからは気を付けている。

 渡っているのは寿川と重なって流れている時空の川。この川を渡ると半世紀以上の時を跨いで昭和の世界に入る。

 最初に渡ったときは、ちょっとビビった。流れているのは水では無くて時間だからね。うっかり落ちたり水しぶきを浴びたりすると、どんな影響があるか分からない。それに、川はいつも轟々と音を立てているから、ちょっとおっかない。「そりゃあ、何千年の時間が流れているから、いろんなことがあるさ」とお祖母ちゃんは言う。

 だからね、近ごろは慣れてきたけど、やっぱり十秒そこそこで渡り切ってしまう。

 その時空の川が、今朝は穏やかだ。

 今までにも穏やかな時はあったのかもしれないけど、余裕のないわたしは気にも留めなかったのかもしれない。

 ……なにかキラキラしたものが流れていく。

 四月の中頃、例年になく長持ちした桜もようやく散りはじめ、リアルの寿川は花びらがいっぱい流れていた。そういう様を花筏とか言うらしくて、ちょっと見とれてしまった。

 橋に踏み込むと、あのころの花筏みたくキラキラしたのが川面を流れていく。

 あまり橋の上で立ち止まってはいけないんだけど、すこし見とれてしまった。


 そして、思いついた。

 
「ねえ、七夕やろうよ」


 いつものように駅前で出会ったロコを皮切りに、MITAKAのみんなに話した。

「みんなに短冊書いてもらってさ、笹に吊るすの。みんなの願いとか希望とか、思いやりとか吊るしたら、少し優しい気持ちになれるんじゃないかなあ」

 そういう意味のことを伝えると、昼休には話が広がった。

「うん、いいと思う。金原さんのこととかMITAKAで話しても、なんだか学校や誰かを糾弾するような雰囲気になるもんね。うん、いいよ、いいことだよ。静かに穏やかに胸に刻む、いい方法だと思う」

 真知子がモワっとしてただけのわたしの気持ちを代弁してくれる。

「うんうん、短冊に書くんだったら、そんなに気負わずに済むし、子どもの頃みたいに楽しんでできるよ」

「たみ子、いいこと言う!」

 そうだよ、みんなでお星さまに『お願い』とか『ここだけの話し的』にやれば、下手にエキサイトせずに済む。

「最後は、グラウンドとかで燃やせば雰囲気ですよ!」

「でも、許可出るかなあ」

 ロコが盛り上げて、女バレでセッターの佳奈子は、話の要にボールを戻す。

「まあ、それは後で考えるとして、まずは生徒会に話を通そうか」

 そう、全校的な盛り上がりにするなら、まずは生徒会。

「あれ、生徒会室は向こうですよぉ」

「フィクサーが先よ」

「「「あ、ああ」」」

 真知子を先頭に向かったのは職員室の倉田先生、生徒会の顧問だ。


「ううん……趣旨は悪くないが、短冊は事前にチェック。最後に焼くのはダメだからな」

 文化祭のファイヤーストームもアウトだったから、釘を刺されてしまう。

「それに、まずは執行部に言うのが先だろ」

「アハハ、ですね。途中に職員室があるので、まあ、ご挨拶と思いまして。まあ、MITAKAのサークル行事でやろうと思うんですけど、一応は話を通しておこうということです」

 アハハハ

 みんなで愛想笑いして、あらためて生徒会室に向かう。

 そうなんだ、事前に倉田先生に言っておくことで話を通りやすくしとくんだ。二年生になるといろいろ知恵が付いてくる。

 まあ、ひそかに期待していたファイアーストームは初手から詰んでしまったけどね。

 

☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 
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