大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・103『朝から全校集会』

2024-06-07 16:02:32 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
103『朝から全校集会』   




 そのあくる日、朝から全校集会。


「みなさんに、悲しいお知らせがあります……」

 教頭先生の声が校舎に設置されているスピーカーから聞こえる。

 教頭先生は朝礼台の下のマイクで喋っているので、姿が見えるのは最前列だけ。姿が見えない分、ちょっと普通ではない印象。じっさい、朝礼台の横では先生たちがヒソヒソ話しているというか調整しているのが列の隙間から見えるし。

 やがて、校長先生が朝礼台に上がって、スタンドマイクに向かう。

 ピィーーーーーーーーーーーーン!

 とたんにJアラートみたいなハウリングが起こって、不穏な感じがいや増しになる。

 放送部が調整して、もう一度校長先生がマイクの前に戻る。

「朝から集合してもらったのは、みんなに悲しい知らせがあるからです」

 あ、同じだと思った。

 去年、栗原さんが亡くなった時(056『ジュリエットの秘密とわたしの不思議』)と同じ重い空気がグラウンドにたちこめる。

 いや、ちょっと違う。

 栗原さんの時は、まず教頭先生があらましを語って、そのあと校長先生の言葉だった。今日はヒソヒソの後、すぐに校長先生だ。

「昨日の午後、3年2組の金原美奈さんが不慮の死を遂げられました……」

 え……

 瞬間で空気が凍り付いた。

 高校生にもなれば『不慮の死』の意味は分かる。

 昭和の時代は交通事故がよく起こる。去年も二件ほど事故に遭った子がいて、生指の先生が注意してたし。

 だから、交通事故かなと思った。

 とたんに、三年生の方から嗚咽を堪えるうめき声みたいなのが起こる。中には堪えきれずに泣き出す女子もいる。

 やっぱり違う。

「詳細については、まだ伝えるわけにはいきませんが、まずは、黙祷したいと思います。みんな、前を向いてください……」

 すすり泣く声が止むことはなかったけれど、私語はピタリと止んで全校生徒が前を向く。こういうところ、昭和の高校生は大人だと思うよ。

「黙祷」

 黙祷の後、生指の伊藤先生が「金原さんのことについて疑問や質問のある人もいるだろうが、しばらく待ってください。どうしてもという人は、わたしのところまで来るように」と付け加えた。

 その後は、この場を借りてということで、生徒会や先生たちから諸連絡。

 どうしても、今でなければならない連絡は一つも無かったけど、日常的な連絡や話をすることで、沈鬱で動揺した空気を収めようという狙いなのが分かった。

 魔法少女の力で情報をとろうとしたら取れたんだけど、やめた。

 進んで首を突っ込むとろくなことが無いし、なんだか憚られた。


 四時間目まで5分短縮の授業。


 仲間でテーブルを囲む食堂の窓際席。

 ロコが、Bランチのトレーを置くなり、声を潜めた。

「金原さん、実は……自殺だったようです」

「やっぱり……」

「それで……」

「まずは、食べてからにしよう」

 取りあえずは食事に集中。

 MITAKA(みんなで楽しく語る会)のメンバーは、軽々しく胸に沸いたことを口にすることはしない。いったん呑み込んで整理してからというところがある、聞いてしまったら食事どころじゃない気もしたしね。

 その後の話で、金原さんの家は大浜市民会館の近所で、発見した家の人が消防に電話したのが『星の牧場』が終わったころ。その後、救急車や警察が来て大変だったらしいことが分かった。

 そうか、あの時のサイレン……

 それ以上は話すことも控え、平常時間に戻った午後の授業を受けた。

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 
 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)054・地区総会・6

2024-06-07 06:45:44 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
054・地区総会・6                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 啓介の気配は彼に似ていた。


 八年前の地区総会で同じような気配の男子が居た。

 北浜高校のN

 あの時もコンクールに臨む各学校の抱負や近況を述べることになったんだ。

 硬い事務的な話ばかりになったので、〇女学院の議長が気を利かせたんだ。

「北浜高校のNです、いい芝居を創りたいと思いますが、やっぱり『意あって言葉足らず』みたいな作品になることが多いと思います。高校生なんだからという言い訳はしたくないんですけど、言葉足らずの底にある『伝えたいもの』『表現したかったもの』に着目して、お互い前向きな気持ちで、お互いの芝居を観ていきましょう!」

 というようなことを言った。要は『お互い長い目で観ていこう』ということで、来るべきコンクールの詰まらなさを前もって言い訳したようなものだった。
 
 時に言葉は『何を言ったか』ではなくて『どんな風に言ったか』が大事な時がある。

 Nは見てくれも発言も歯磨きのコマーシャルのように爽やかだった。

 あまりに爽やかな印象に『この人は正しいんじゃないかしら』と思ってしまった。

 ルックスも、オタクっぽい男子が多い中で、程良い文武両道的なたくましさと歯磨きのCM的な爽やかさ。


「空堀高校の松井さんですね」


 地区総会が終わって帰り道、環状線に乗る先輩たちとも別れて、二つ目の角を曲がったところで声を掛けられた。

 後を付けてきたと言うんじゃなくて、一本向こうの道から来たら、たまたま出くわしたという感じ。

 そのまま地下鉄に乗って、堺筋本町で別れるまでに携帯番号の交換までやった。

 意気投合した。

 そんなNと付き合いが始まって、よその地区コンクールや本選の芝居をいっしょに観に行ったりした。

 どの学校の芝居を観ても、例の『長い目で観て行こう』の精神で、わたしでは気づかないような見どころや長所を言ってくれる。

 優しい前向きな人だなあと、それを包容力のように思って、十六歳のわたしは時めいてしまった。


「合評会があるから観ていこう」


 本選のプログラムが終わると、彼は、わたしを誘った。予選でも合評会はあるんだけど、Nが誘ってきたのは初めてだ。

 正式には『生徒交流会』という合評会、審査結果が出るまでの時間つぶし的なものなんだけど、半分以上の観客や出場校が残っていて、高校生らしい熱気が溢れていた。

 興味深いってか――オヤ?――っと思ったのは、本番の芝居より合評会が面白いこと。

「お疲れさまでした」という挨拶で始まる評はどれも暖かかった。

 四校目で――あれ?――っと思った。

 正直、箸にも棒にも掛からない芝居で、客席は真冬の朝のように冷え切っていた。
 でも、合評会は暖かいままだ。間延びした芝居を「緩やかなテンポ」、言葉足らずで伝わらない台詞を「無駄が無く含みのある台詞」、姿勢の悪い演技を「等身大のリアルさ」と称賛している。正直気持ちが悪い。

 雰囲気に乗れないまま審査終了の知らせが入って合評会は終わった。

「芝居というのは一期一会なんだということを頭に置いて作らなきゃいけない」

 審査員の一人が苦言を呈した。

 柔らかい苦言だったと思う。要は「詰まらない芝居ばかりだった」ということだ。

「創作劇ばっかりというのはどうなんだろ。戯曲というのは軽音やブラバンの演奏曲にあたるよね、軽音やブラバンが創作曲でコンクールに出るってことは有りえません。ちょっと考えていいんじゃないかな」

 同感と思ったら、Nが手を上げた。

「北浜高校のNです、いい芝居を創りたいと思いますが、やっぱり『意あって言葉足らず』みたいな作品になることが多いと思います。高校生なんだからという言い訳はしたくないんですけど、言葉足らずの底にある『伝えたいもの』『表現したかったもの』に着目して、お互い前向きな気持ちで、お互いの芝居を観ることが大事なんじゃないでしょうか」

 健康補助食品のCMを思わせる喋り方に観客席から拍手が湧いて、Nは拍手の方角に軽く会釈して座った。

 地区総会での彼をグレードアップしたような感じに、わたしは思ってしまった。

 Nは、爽やかに発言して、暖かく受け入れられるのが嬉しいんだ。

 そんなNを残念に思った。

 それからいろいろ分かった。

 分かったから、その後の近畿大会のお誘いは断った。

 そして携帯を機種変するのに合わせて番号を変えた。

 それっきりNとは会っていない。

 そのNと啓介が被った。


 なんで?


 ああ、喋る前に髪をかきあげる癖がいっしょなんだ。

 ただ、啓介は緊張のあまりからで、Nのはポーズなんだと、八年後の、この一瞬で理解した。

 なんだか小さな可笑しみが沸き上がってくる。

 同じ仕草のあと、啓介は言った。

「コンクールには上演校としては参加できませんけど、分担された仕事はやらせてもらいますので、よろしくお願いします」

 正直な発言に、我知らずコクコクと頷いてしまった。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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