大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

やくもあやかし物語2・052『ブラウニーの右手と左足』

2024-06-14 11:47:25 | カントリーロード
くもやかし物語 2
052『ブラウニーの右手と左足』 




 いい匂いは食堂への途中、いつもは閉めきりのドアからだよ。

 観音開きの片方が小さく開いていて、鼻歌といっしょに匂いが漏れてくるんだ。

『おや、食いっぱぐれたのかい?』

 人の良さそうなオバサンの声がして、足を止めるとすき間の向こうのオバサンと目が合う。

 目が合うと、こんどはお玉を持ったままの手でオイデオイデする。

「ちょうどできたところだから食べておいきよ」

「えと、ここは?」

「元々の食堂さ。いまの食堂ができてからは使われなくなったんだけどね、くわせもののお蔭で、食堂はあんな状態だろ。それで、急きょこっちを使えるようにしてるわけ」

「あ、そうなんだ」

「あたしは、家事妖精のブラウニー。この学校や宮殿ができたころから住み着いて、いろいろお手伝いしてるのさ」

「あ、わたし一年生のやくもです」

「やくも、いい名前だ。よろしくね」

 握手……すると違和感。

「あ、ごめん。右手は義手なんだよ、左足も義足でね。むかし、侵入してきた魔ものにやられてね、オーディンが森の木を削って作ってくれたのさ。あのころのオーディンは不器用で完全というわけにはいかないんだけど、まあ、なんとか台所仕事をこなすぶんにはね……さ、できたてのスープとシュガートースト。味は濃いめだけど、あれだけ戦ったあとなんだから、これくらいのがいいさ」

「ありがとう、ブラウニー。いただきます」

「スープ熱いから、冷ましながらね……あ、そうだ、レシピを書き留めておかなきゃ。鉛筆貸してくれる?」

「え、あ、どうぞ」

「ありがとう、すぐに返すからね……」

 スープに気を取られ、わたしは違う方を渡してしまった。

 ビシ!

 ウギャアア!!

 なにか電気みたいなのが走ったかと思うと、ブラウニーは尻餅をついて、鉛筆を持っていた右手をプルプルと痙攣させている。

 ブラウニーの足元に落ちているのはおもいやりの方だ!

「ごめん、間違えた!」

「お、お逃げ、これは右手が悪さをして……るんだから……」

 ビシビシ!

 ブラウニーの肘と膝のところがスパークしたかと思うと、右手と左足が体から分離して窓を突き破って出て行ってしまう!

『アップ、お、追うぞ!』

 ミチビキ鉛筆が、やっと水から上がってきた人みたいに息を継ぐと、くわせものの時と同じように、わたしを引っ張っていく!

 窓から飛び出す時にチラッと見たら、ブラウニーは口の形だけで『ごめんね』と言った。

 悪いのは、義手と義足、あるいは、そこに取りついた何者かだ!

『右手の奴、オレを受け取ったら握りつぶすつもりだったんだ。やくも、よくぞ間違えてくれた!』

「あ、あ、そうなんだ(;'∀')」

 くわせものをやっつけてホッとしたばかり。本日三回目の戦闘モードに、すぐには切り替えられないわたしだった。

 

☆彡主な登場人物 
  • やくも        斎藤やくも ヤマセンブルグ王立民俗学校一年生 ミチビキ鉛筆、おもいやり等が武器
  • ネル         コーネリア・ナサニエル やくものルームメイト エルフ
  • ヨリコ王女      ヤマセンブルグ王立民俗学学校総裁
  • ソフィー       ソフィア・ヒギンズ 魔法学講師
  • メグ・キャリバーン  教頭先生
  • カーナボン卿     校長先生
  • 酒井 詩       コトハ 聴講生
  • 同級生たち      アーデルハイド メイソン・ヒル オリビア・トンプソン ロージー・エドワーズ
  • 先生たち       マッコイ(言語学) ソミア(変換魔法) フローレンス(保健室)
  • あやかしたち     デラシネ 六条御息所 ティターニア オーベロン 三方 少彦名 朝飯前のラビリンス くわせもの  ブラウニー(家事妖精)
  
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

REオフステージ(惣堀高校演劇部)060・夏休み編 イノウエ空港

2024-06-14 07:27:33 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
060・夏休み編 イノウエ空港                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 で……どうしてアメリカに行くんだっけ?


 日付変更線を超えて、それがスイッチだったみたいに目を覚ましたお姉ちゃんが聞いてきた。

「え、分かってなかったの!?」

「だって、たった三日でパスポートとったりの準備に追われてさ、うっかり聞き逃しちゃって」

「もー、しっかりしてるようで抜けてるんだから」

「アハハ、で、どうして?」

「当たったからよ、懸賞に」

「それは知ってるけど、なんの懸賞だっけ?」

「それは……(^_^;)」


 実は、ミリー先輩から「アメリカ行きの懸賞に当たったから、みんなで行こう!」としか聞いていない。


 いろいろ説明は有ったと思うんだけど、みんな舞い上がってしまって、覚えていない。

 隣に座っている本人に聞いてみる。

「言うたでしょ、部室棟のことで領事館に行ったら入館何人目かの交換留学生だったとかで、日本の友だちと一緒の……なんとかっちゅうのが当たったんよ」

「と、ゆーことよ」

「え、あ、うん……てか」

 ミリーの説明も怪しい。

「はい、これに書いたあるよって」

 ミリーが書類一式をドカッと差し出す。わたしは中継だけしてお姉ちゃんに渡す。

「……なるほど……ムルブライト奨学金のスカラ……」

 さすがは大人というか、仕事で慣れているというか、ブツブツと英語の書類を読んで納得したようだ。

「でさ、お姉ちゃんは、なんで付いて来てるの?」

「あ、ついでだったから」

「つ、ついで?」
 
 わたしのことが心配で、つい照れ隠しに言ったんだろう……鼻の奥がツンとした。


「じゃね、途中で一緒になれるようなら顔出すから~」

「え?」

 イノウエ空港に着いたかと思うと、入国ゲートでお姉ちゃんはサッサと行ってしまう。感動して損した。

 えと、イノウエ空港って分かるかなあ?

 亡くなった日系上院議員のダニエル・K・イノウエさんにちなんで、何年か前に名前が変わったの。

「空港に人の名前がついてるってすごいよなあ!」

 啓介先輩が感動する。

「あ、そう? 世界にはいっぱいあるでぇ」

「そうね、ジョン・F・ケネディー空港とかドゴール空港とか、ジョン・レノン空港っていうのもあったんじゃないかなあ」

 須磨先輩も例を挙げる。

「ああ、そういうと日本にもコナン空港とかあるし」

 わたしもがんばって例を挙げる。

「え、見かけはこども中身は大人のか?」

「ああ、鳥取の空港やぁ。下宿の子ぉと鳥取砂丘いくときに下りたんやけど、あちこちにコナンのキャラとか居てておもしろかったよ。千歳も行ったんかぁ?」

「ああ、お姉ちゃんがググって喜んでたから(^_^;)」

「しかし、いいお姉さんだよな」

「え、あ、仕事のついでって、空港に着いたらサッサと行っちゃうし」

「そうかしら……」

 須磨先輩がスマホを見せてくれると、向こうの柱の陰で様子を見ているお姉ちゃんが映っていた。

 カシャ

 その場でシャッターを押して写真を転送してくれる須磨先輩。

「ムフ……何かの時に使うといいわ」

 なんか、悪党の証拠写真のノリ(^_^;)


 そして、イノウエ空港の元の名前はホノルル空港。


 そう、わたしたちのアメリカ旅行の第一歩はハワイからはじまった……。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする