大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 024『また飛ばされる』

2024-06-06 11:17:15 | 自己紹介
勇者路歴程

024『また飛ばされる』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




 高床式の裏口から吸い出されると、巨木の森の内側をルーレットのボールのようにグルグル回る!

「め、目が回る~(๑﹏๑)」

 ビクニが目を回してしがみついてくる。

「結界が張ってあるんでぇ~₍ᐢ>𖥦<ᐢ₎!」

「外へ出るのもブロックするのかぁ(≧▢≦)!?」

「突然なことで、結界もビックリしたんですぅ! ちょっと待ってくださ~い₍ᐡ > ·̫ <ᐡ₎!」

 エイ!

 掛け声とともに、白兎は右の耳を間近の巨木にひっかける!

「「「ウワアアアアアアア!!」」」

 衝撃で結界にほころびができて、三人は明後日の方向に飛び出してしまう。

 ピューーーーーーーーーーーーーン


 ドサ


 ………………………………………あれ?

 わりに穏やかに着地できたかと思うと、ビクニも白兎の姿も見えない。

 途中で振り落とされたか……見渡すと起伏の多い草原で彼方に山並みが霞んで、その上はマーブル模様に空が歪んでいる。

 ウルトラQのタイトルみたいだ……古希らしい感想が浮かんでくる。

――あれは、ヤマガミヒメとスセリヒメの矛盾で歪んでいるんです――

「え、白兎、どこにいるんだ?」

――ここです、ここ――

「え、どこ?」

――ここです!――

 目の前にプルンと震えるものがあると思ったら、横に伸びた兎の耳の片方だ。付け根の方は霞んで空間に溶けている。

――巨木の梢に引っかかって、片方の耳しかそっちに行けてないんです――

「え、大丈夫?」

――アハハ、なんとか。とうぶん動けそうにないんで、こっちの耳だけそっちに伸ばしておきます――

「千切れないようにな。ところで、ビクニの姿も見えないんだけど」

――こっちにはいませんよ、あ……そっち、だれか来ますよ――

 え?

 振り返ると、少佐の姿のビクニとビクニに掴まえられたナース服の少女がいた。

「捕まえてきた」

「え?」

「あのヒコナとかいう侍女だ」

 そうだ、こいつが裏口を閉め忘れて、こんなところまで飛ばされたんだった!



 
☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • ヒコナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)053・地区総会・5

2024-06-06 07:15:59 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
053・地区総会・5                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 八年前の地区予選は〇女学院で行われた。


 地下鉄〇駅の階段を上がると四車線を挟んで緩やかに上る坂道、坂道の向こうにチャペルの尖塔が覗いている。

 坂を上りはじめると、ディンド~ンディンド~ンとタイミングよく鐘が鳴る。
 見え始めた学院は年季の入った緑の中に校舎が静もっていて、その校舎群を従えるようにチャペル。

「あ、会場はこっちのチャペルですよぉ」

 先輩がよそ行きの言葉で指さしたのは小学校の講堂くらいのチャペル。

 鐘が鳴っていたのは大きい方のチャペルで、スマホの地図で確認したら大阪でも指折りのカトリック教会。隣りあっていて、たぶん明治の昔に教会の付属でできた学校なんだろう。ミッションスクールのロケーションとしては最高で、なんだか映画の中の登場人物になったような気がした。

 それだけで胸がときめく十五歳の女子高生だった。

 チャペルに行きつくまでに「お早うございます」の挨拶を十回はした。

 学院の生徒さんたちも、ジャージのロゴで分かる他校の部員さんたちもハキハキと挨拶を返してくれる。

「すみません、みなさんのお名前書いていただけると嬉しいです。お友だちになりたいですから」

 受付の生徒さんに奉加帳みたいなノートを示される。中一の天皇誕生日にお祖母ちゃんに連れられて皇居で記帳したのを思い出す。

 惣堀高校演劇部の下に、一年生 松井須磨。

「わ、素敵なお名前ですね」

「え、そですか?」

「下に子の字が付けば新劇の女王ね(^▽^)」

 顧問と思しき先生がパンフを渡してくれながらニッコリ笑う。

 松井須磨子どころか新劇という言葉も知らなかったわたしは、でも、言葉とロケーションの雰囲気でポーっとしてしまった。

 チャペルに入ると一学年四百人くらいは優に入る大きさでビックリ。

 着くのが早かったのか、緞帳は開いたままで、一本目の学校の仕込みが行われていた。

 キビキビ働く部員さんたち、トントン組み上がっていくシンプルな舞台装置。

 あーー、わたしは演劇の中にいるんだ!

 頬っぺたと目頭が熱くなってきて狼狽える。

 惣堀高校も、ちゃんと加盟が間に合って参加できていたらどんなによかっただろーと悔しくなる。


 え、これで始まるの?


 開会を伝えるアナウンスがあって――あれ?――と思った。

 四百人は入ろうかという会場は……二十人ほどしかお客さんが居ない。

 地区代表の先生と生徒代表の挨拶、審査員の先生の紹介があって、最初の学校が始まった。


 え………………………………うそ?

 びっくりするほどつまらない。


 声は聞こえない、表情は見えない、ストーリーも見えない、観客の反応はない……。

 一週間前にあった文化祭のクラス劇の方がよっぽど面白かった。

 まぁ、こんな学校もあるわね。

 気を取り直して、残りの五校も観たんだけど、ことごとくつまらない。

 比較しちゃいけないんだろうけど、ネットで観たダンス部や軽音、ブラバンの方がパフォーマンスとして格段に面白い。

 オレンジ色のユニホームで有名な京都のブラバンを観たのは、ディズニーランドの動画を観ているところだった。
 パレードしながらのステップがいかにもディズニーテイストで、最初はディズニーランドのキャストかと思った。

 それが、現役の高校ブラバンと分かってビックリしたのは中三の秋だった。

 それからダンス部や軽音なんかを見まくって、高校生の凄さを認識して憧れると同時に――わたしには無理――そう思っていた。
 
 だから、駅からここまでのロケーションと、高校の部活へのリスペクトで、期待値はマックスになっていた。

 だから、置いてけぼりになったようにショックは大きかった。


 もう一つ「あれ?」があった。

 出場校全てが創作劇だ。


 ああ、そいいう地区なんだと納得して、二週間後に府大会を観にいった。

 ちゃんとした市民ホールだった。

 でも、キャパ八百余りの客席が埋まることはなかったし、出場校の作品に感動することもなかった。
 観客席は時々反応していたけど、ついていけない、この子たちはオタクなんだと思った。
 
 それからの六年間、演劇部に籍はあるけど、一回も部活には行ってない。


 ……地区総会は『今年度のコンクール』の話になって来た。

 議長は、一校ずつ指名して、今年の抱負を言わせている。

 え?

 昔のことに意識が飛んでいたわたしは、順番が回ってきて立ち上がった啓介の雰囲気にビックリした。



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)
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