大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

勇者乙の天路歴程 025『スクナとガマンメンタム』

2024-06-12 11:51:15 | 自己紹介
勇者路歴程

025『スクナとガマンメンタム』 
 ※:勇者レベル4・一歩踏み出した勇者




「悪気が無いのは分かっているよ」


 最初に、そう言ってやると、不貞腐れた表情に少しだけ緩みが出てくる。

 相手に少しだけ逃げ道を残しておくのが生徒指導の要諦だ。

 見るからにメンドクサソウな顔をしたスクナは、通り一遍のお願いでは協力してくれないような気がしている。
 さりとて、力技で従わせるのも面倒だし、教師人生の半分を生活指導でやってきた勘が――まずは穏やかに――と言っている。

 それに、スクナを捕まえてきたビクニは気弱な静岡あやねの姿では無く強気の少佐の姿だ。二人ともがプレッシャーをかけては頑なになるばかりだろう。

「あそこはさ、裏口だけど、開けたら自動で閉まるようにできてたのよ。ドアの上にシリンダーみたいなの付いてるっしょ。それが、八十神たち……大国主の兄貴どもが帰っていくときに乱暴に開け閉めしたんでバカになっちゃってさ。フラれた腹いせなんだろうけど、いい迷惑よ。ソロっと開けたら閉まるんだけどさ、目いっぱい開けたら閉まらなくて。ソロっとやったつもりなんだよ、いや、ソロっとだったよ」

「あれが、ソロっとか!」

「こ、怖えなあ」

「ビクニ、取りあえず東に向かおうと思うんだけど、ちょっとあの岩の上から様子を見ておいてくれませんか」

「あ、ああ、そうだな」

 ビクニも状況は掴んでくれたようだ。

「ところで、スクナは少彦名さんのお身内じゃないのかい?」

「か、関係ねえよ……」

「そうですか、名前とかが似てるもので。いや、違っていてもいいんだ。見たところ地元の人という感じでしょ。バイトというのはどこかの医院で看護助手とかかな?」

「あ、これは違くて、軟膏の販売員」

「ああ、メンソ〇ータム」

「じゃなくて、課長代理が作ったのを……」

「あ、そうか。皮を剥かれて治した時の……」

「うん、あのガマの穂の成分で作った軟膏……ほら」

 カバンから出して見せてくれたパッケージには『ガマンメンタム』とある。

「そうか……でも、一人で売るのは大変でしょう」

「え、あ、まあ……」

「じゃあ決まりだ。この旅が成就すれば……」

「成就すればぁ?」

「きっといいことがある」

「……なんかあやしい」

「じゃあ、やめとく?」

「ううん……姫さまが宮殿の中まで招き入れた人だしなあ……」


『中村ぁ、東南の方角に村が見えてきたぞー!』


 ビクニが呼ばわって、旅の続きは三人になった。


☆彡 主な登場人物 
  • 中村 一郎      71歳の老教師 天路歴程の勇者
  • 高御産巣日神      タカムスビノカミ いろいろやり残しのある神さま
  • 八百比丘尼      タカムスビノカミに身を寄せている半妖
  • 原田 光子       中村の教え子で、定年前の校長
  • 末吉 大輔       二代目学食のオヤジ
  • 静岡 あやね      なんとか仮進級した女生徒
  • ヤガミヒメ      大国主の最初の妻 白兎のボス
  • ヒコナ        ヤガミヒメの新米侍女
  • 因幡の白兎課長代理   あやしいウサギ

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REオフステージ(惣堀高校演劇部)058・夏休み編 千歳のお姉ちゃん

2024-06-12 07:10:28 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
058・夏休み編 千歳のお姉ちゃん                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです





 変な演劇部ぅ~~~~(^3^)!


 ひょっとこみたくお姉ちゃんは口を尖がらせて面白がる。

 妹のわたしが言うのもなんだけど、うちのお姉ちゃんはイケてる。

 イケてるという伝法な言い方は、イケてるという言葉がいろんな意味を含んでいるからなんだよ。

 伝法なんて、古典的過ぎる言い回しなんだけど、お祖父ちゃんのころまでは江戸情緒いっぱいの神田に住んでいた名残り。お姉ちゃんの小さいころはお祖父ちゃん、まだ生きていて、お祭りやらお芝居とかによく連れて行ってくれたらしい。

「ねえ、大阪に『伝法』って地名があるのよ!」

 学校の帰りにわざわざ車を回して面白がったりする。伝法では鴻池組旧本店なんてレトロな文化財をめっけて、姉妹で喜んだりした。

 あ、そうそう「大阪にもトシマがあるよ!」と見に行ったこともある。車で飛ばして地下鉄の表記を見た時に大感激した。

「おおお……大阪のトシマの方が雅でいいねえ……( ゚Д゚)」

 わざわざ、車を降りて感激した。

 通行の人たちがクス( ´艸`)って笑って、よく見たら。

 都島(みやこじま)

 美人でスタイルもよく、頭の回転がいいのに偉ぶったところがなくて、どちらかというと普段は抜けた顔をしている。
 もの喜びする性質で、面白いことや素敵なことに出会うとアニメのキャラのように分かりやすいリアクションをする。

 そして、面白いとか素敵だと思う神経が人の十倍くらいに敏感。
 
 事故で足が動かなくなったとき、一番分かりやすく悲しんでくれたのはお姉ちゃん。

 お医者さんが宣告すると「どういうことなのよーーーー!!」と叫んでお医者さんの首を絞めた。
 看護師さんたちに引きはがされると、ベッドのわたしに覆いかぶさって泣き叫んだ。

 ウガアアアアアアアアアア(#`Д´゚#)!!!

 涙と涎でグチャグチャになりながら、怪獣みたいな泣き方だった。

「そうだ、わたしの脚を片方移植してやってください! 片方動けばなんとかなります! 千歳、そうしよう! でもって、お姉ちゃんと一緒にリハビリしよう!」

 愛情がなせる業なんだろうけで、その瞬間は本気で脚の移植を考えてしまうほどのオッチョコチョイ。

 本格的な車いすの生活に向けてのリハビリが始まると、脚の不自由な人の生活が面白くなってくる。

「へーー車いすって、こんなに種類があるんだ!」

 車いすを決めるのに丸二日かかったのは、お姉ちゃんがいちいち試乗してチェックをしたからだ。

 サポーターや業者の人は「熱意と愛情のお姉さんですねぇ( ノД`)」と目を潤ませていたけど、わたしは分かってる。お姉ちゃんは単に面白がってるだけなんだ(^_^;)。

 惣堀高校に入るにあたって大阪のお姉ちゃんのマンションに越して来たんだけど、お姉ちゃんはリカちゃん人形のドールハウスをコーディネートするように熱中していた。

 送迎用のウェルキャブも最新式で、初めて学校に乗り入れた時には校長先生やバリアフリー担当の先生や事務所の人たちまで見物にやって来た。

 わたしは恥ずかしかったけど「いいお姉さんを持ったわねえ!」と感心される。本当はお姉ちゃんが一人面白がってるだけなんだけどね。

 そのお姉ちゃんが「変な演劇部ぅ~~~~~~~~~(^3^)!」と面白がるんだから、よっぽど変な演劇部。


 理由は、第一に演劇をやらない演劇部だから。

 第二は、演劇をやらなくても、充実してて面白そうだから。

 演劇をやらなくても解散にはならずに続いているのは四人の部員のユニークさ。これは、わたしも同意。

 演劇はやらないけど、それぞれ学校生活に目的があって退屈するということが無い。
 でも、一人一人語っていると夏休みが終わってしまいそうになるので、一つに絞ってお話するわね。
 

 なんと、演劇部が四人揃ってアメリカ旅行に行くことになってしまったのよ! いよいよ惣堀高校演劇部は夏休み編突入!! 


お姉ちゃん:「乞うご期待ですよぉ(^▽^)/」

千歳:「ちょ、ジャマなんですけど!」
 



☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜(敷島) 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


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