大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記・102『牧内さんとカンゲキ』

2024-06-01 17:27:04 | 小説
(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
102『牧内さんとカンゲキ』   




「ちょっと緊張しちゃうなぁ」


 チケットと座席の番号を照らし合わせて後ろの方から下っていくと、なんと、その席は、前から五列目の真ん中。横アリとかのライブとかだったら特等席だよ……行ったことないけど。

「労演とかじゃ、学割席しか座ったことないからねぇ(^_^;)」

 緊張と言いながら、なんかワクワクしている牧内さんは可愛い。

「ローエン?」

「えと、勤労者とか学生向けの観劇団体、学生は500円で、たいてい二階席の奥の方」

 そう言って後ろの二階席を指さす牧内さん。


 こないだ直美さんからもらったチケットで大浜市民ホールに来ている。


 東京の劇団Mが『星の牧場』という童話をもとにした新作をやるんだ。

 チケットをもらってからググってみたら、令和の日本でも四年前に宝塚がやっている。時代を超えてもメディアを超えても通用する名作なんだろうね。

 うわぁ……

 アニメの異世界ものって感じの曲(あとで、牧内さんがジプシー音楽だと教えてくれる)が聞こえて幕が開く……と、ホリゾントっていうバックスクリーンに一面の星空、ホリゾントの手前にも電飾みたいな星が煌めいて、その美しさにため息を漏らす牧内さん。

 観劇中に声を出しちゃいけないのを思い出したんだろうね、両手で口を覆って感動し続ける。

 戦争で馬の世話をする兵隊だったモミイチは、ツキスミという馬の面倒をみてきた。激しい移動と戦闘がつづく中、ツキスミを死なせてしまい、自分自身も記憶喪失になる。

 自分の半身を失ったような喪失感。そして、記憶障害による混乱。

 復員したモミイチは、山中の牧場でジプシーたちと出会い、ジプシーたちの音楽に癒されているうちに、ツキスミの蹄の音が聞こえて姿も見えるようになる。

 行方知れずになったモミイチを気遣う人たち、星の牧場、それが交互に描写される。

 そして、モミイチはいつしか、ツキスミといっしょに銀河を駆けていく……そんなファンタジーで切ないお芝居(^_^;)

 
 演劇部じゃないから、きちんと語れないけど、本格的なお芝居なんて初めてのわたしでも分かったし、感動した!

 ツキスミは音だけで表現されてるんだけど、モミイチ役の役者さんがすばらしい! 空を駆けて地上に降りてくるツキスミが、モミイチの動きと表情で、ちゃんとわかるんだよ!

 モミイチの表情もいい! 剥き出しの愛情じゃなくてさ、ツキスミの馬面を撫でてやるとこなんか、ガリボチョでちょっと背中が丸くて不器用そう。スリスリする時もカッコよくなんかない。笑うと目はへの字の線みたいになるし、半開きの口から前歯が剥き出し。

「無対象演技っていうんだよ!」

 帰り道、感激のまま説明してくれる牧内さん。

「実際に馬が居なくても、馬と馬に触れている時の自分の目線や動きをトレースするとね、ほんとうに馬がいるような感じになるんだよ」

「え、実物無しで?」

「うん。それを広げて深くしていけば、舞台の役者さんみたいに、観客にも観えるんだよ!」

「ええ、よく分からないよ(^_^;)」

「あ、たとえばね……」

 そう言うと、牧内さんはカバンをゴソゴソして、何かを握ったような感じで「ちょっと、バッグ持ってて」と預ける。

 え?

「いくよ」

 牧内さんは、両手でグリップを持って後ろから前にまわすと何かを跳んだ。

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」

「おお、縄跳びだ!」

 手に縄を持っているわけでもないのに、ちゃんと縄跳びしているように見えている。

「これが無対象演技なのよ、フゥフゥ……」

「さすが演劇部!」

「これくらい、誰にでもできるよ」

「いやあ、ムリムリ(^_^;)」

「やってみよ、二人で」

 ズイっと出された見えない縄を受け取る。というか押し付けられる。

「騙されたと思って、いくよ、ホレ!」

 牧内さんの熱意に圧されてやってみる……というより、体が動いてしまう。

「「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ……」」

 すると……不思議不思議、本当に縄跳びしてるような気になってきた!

「そうか、これが無対象演技ってやつなんだね!」

「うん、そうだよ!」

 パチパチパチパチパチパチ

 気が付いたらホールから出てきた人たちや、向こうの搬出口に出てきた劇団の人たちが拍手している。

「「ああ、どうも……(#*´ω`*#)」」

 二人、真っ赤になって大浜の駅に急ぐ。

 途中、パトカーだか救急車だかの音がしたけど、野次馬根性発揮する気持ちにもなれなくて、そのまま帰ったよ(^〇^;)。
 

 
☆彡 主な登場人物
  • 時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校2年生
  • 時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
  • 滝川                志忠屋のマスター
  • ペコさん              志忠屋のバイト
  • 猫又たち              アイ(MS銀行) マイ(つくも屋) ミー(寿書房)
  • 宮田 博子(ロコ)         2年3組 クラスメート
  • 辻本 たみ子            2年3組 副委員長
  • 高峰 秀夫             2年3組 委員長
  • 吉本 佳奈子            2年3組 保健委員 バレー部
  • 横田 真知子            2年3組 リベラル系女子
  • 加藤 高明(10円男)       留年してる同級生
  • 藤田 勲              2年学年主任
  • 先生たち              花園先生:3組担任 グラマー:妹尾 現国:杉野 若杉:生指部長 体育:伊藤 水泳:宇賀  音楽:峰岸  教頭先生  倉田(生徒会顧問)  藤野先生(大浜高校)
  • 須之内直美             証明写真を撮ってもらった写真館のおねえさん。
  • 御神楽采女             結婚式場の巫女 正体は須世理姫
  • 早乙女のお婆ちゃん         三軒隣りのお婆ちゃん
  • 時司 徒 (いたる)         お祖母ちゃんの妹        
  • その他の生徒たち          滝沢(4組) 栗原(4組) 牧内千秋(演劇部 8組) 上杉(生徒会長)
  • 灯台守の夫婦            平賀勲 平賀恵  二人とも直美の友人  
 

 
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REオフステージ(惣堀高校演劇部)048・エリ-ゼのために・3

2024-06-01 08:36:47 | 小説7
REオフステージ (惣堀高校演劇部)
048・エリ-ゼのために・3                     
※ 本作は旧作『オフステージ・空堀高校演劇部』を改題改稿したものです
 




 平気な顔をしているけど気にはなっている。六回目の三年生をやっているわたし松井須磨は23歳、来年は24歳だ。

 当たり前なら大学を出て仕事をしている。同期には結婚して子持ちの子もいるらしい。
 
 こないだ久々に職員室に行った。

「失礼します……( ゚Д゚)」

 一礼のあと顔を上げてビックリした。

 惣堀高校は古い学校で、有形無形の因習が残っている。

 その一つが職員室の席次。教頭が一番奥に席を占め、その前に三つの島。それぞれの島の奥が学年主任で、以下は年齢と着任の順番。担任なんだからクラス順に並べばいいのにと思うんだけど、そうはしない。
 で、一番ドアに近いのが非担任学年係という名のパシリ席。つまり、最若年の新任教師の席。


 その席に座っていたのが、最初の三年生のクラスメート朝倉さんだ!


 わたしは直ぐに気づいたが、朝倉さんは気づかないのか「どの先生に用事?」と小首をかしげる。

「演劇部の松井です、〇〇先生に部活の用件です」

 そう返事して一礼したが「はいどうぞ」としか返ってこなかった。

 忘れられているか、23歳の制服姿が痛々しくて知らんぷりを決められたのかは分からない。

 こりゃ、もう卒業しなくっちゃなあ……とだけは思った。


 それよりビックリしたのが薬局のオジサンだ。


 ミイラ美少女人形のいきさつを昔語りされて、しみじみビックリ。

 六十過ぎのオジサンが、四十三年前に当時の部長の谷口さんといっしょに作った創作劇が『エリ-ゼのために』なんだ。

 谷口さんが本を書き、オジサンは人形を作った。

 脚本、人形ともに難渋している時、転校してきたのが日独のハーフで、その名も三宅エリ-ゼ。

 創作劇はポシャッタけれど、谷口さんとエリ-ゼさんは、本書きが縁で付き合うことになった。

 それだけでも十分に青春ドラマなんだけど、もっとビックリした。

 傘を持ってきた奥さんにおじさんは「あ、すまんエリーゼ」と返事していた。

「それから色々あってね……結局は俺のカミさんになりよった。名前は22歳で帰化したときに絵里世て漢字を当てて、読み方も『えりよ』にしよったんや」

 そう言って、オジサンは雨の中、夫婦で商店街に帰っていった。

 結局はオジサンの奥さんになって、どう見ても空堀商店街の薬局のオバチャン。
 そこに落ち着くためにはいろんなドラマがあったんだろう……久々に感動した。

 43年ぶりに『エリ-ゼのために』を完成させてお芝居にしてみたいと、演劇部らしい衝動が湧いてきた。


 帰り道、商店街を通って駅に向かう。

 前を朝倉さ……先生が歩いている。

 ちょっと足を速めて朝倉さんと並んでみる。

「あ……」

「ども」

 間の抜けた返事をしてしまう。

「あ……演劇部の」

 生温く反応してくれるけど、反応は先日の記憶で、6年前の同級生のそれではない。
 
 一礼して朝倉さんを追い越す。

 薬局の前に来ると自然と目が行く。

 オジサンとオバサンが詰まらなさそうに店番をしている。

 どう見ても、レトロ商店街におあつらえ向きの景色というかたたずまいで、ちょっと想像力を働かせれば、朝の連ドラができてしまいそう。

 でも、そんな注目のされ方は――堪忍してぇなぁ――という感じ。オジサンも部活のことは話してくれたけど、結婚に至るストーリーと、その奥さんが、完ぺきな、そうと言われなければドイツとのハーフだとは分からないくらいに商店街のオバチャンに変態したお話はしてくれなかった。

 お店のガラスに自分の姿が映る。

 そうと言われなければ六回目の三年生をやっているとは分からないJK。

 もし朝倉さんが、そうと気づいて追いかけてきて「ええ、クラスメートの松井さんだよね!? ええ……どうしてぇ!?」と聞いてきても、きっとわたしははぐらかす。

 やっぱ『エリーゼのために』は衝動に留めておこう。

 富士には月見草が良く似合う……八年前に習った太宰の言葉だ。

 演劇部には日和見草が良く似合う。
 


☆彡 主な登場人物とあれこれ
  • 小山内啓介       演劇部部長
  • 沢村千歳        車いすの一年生  留美という姉がいる
  • ミリー         交換留学生 渡辺家に下宿
  • 松井須磨        停学6年目の留年生
  • 瀬戸内美春       生徒会副会長
  • 生徒たち        セーヤン(情報部) トラヤン 生徒会長 谷口
  • 先生たち        姫ちゃん 八重桜 松平(生徒会顧問) 朝倉(須磨の元同級生)
  • 惣堀商店街       ハイス薬局(ハゲの店主と女房のエリヨ) ケメコ(そうほり屋の娘)


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