大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・魔法少女マヂカ・054『安倍先生のたくらみ』

2019-08-05 14:36:48 | 小説

魔法少女マヂカ・054  

 
『安倍先生のたくらみ』語り手:マヂカ  

 

 

 薬包紙に似ている。

 

 ほら、粉薬を包んでる三角のやつ。風邪薬の葛根湯とかが包んである。

 昔の医者は、この薬包紙に包んで薬をくれたもんだった。駆け出しの魔法少女だった江戸時代、小石川療養所で手伝いをしていたときも薬包紙だった。魔法はからきしだったけど、赤ひげ先生に褒めてもらいたい一心で練習したっけ。

 あ、今じゃ薬は調剤薬局か。

 その薬包紙を思わせる折り方で手紙が来た。授業中、隣の席の子が回してくれたんだ。

 どれどれ……開いてみた。

 

 ――昼休み、わたしのところに来て――

 

 間の抜けた手紙だ、差出人の名前が無い。

 しかし、こんなことをするのは調理研の……ノンコ。

 ガンを飛ばすと振り返る、しかしノンコらしくフニャっと笑っておしまい。友里か? 反応なし。清美……も反応なし。

 キョロキョロしていると安倍先生と目が合ってしまった。わざとらしい咳払いで注意される。

 仕方ない、ほんとうに用事なら、また連絡してくるだろう。

 

 黒板を写していると、また手紙が来た――手紙はわたし H・A――

 

 H・A? は? えっちえー? イニシャルか?

 

 キョロキョロしてみる。また、安倍先生が咳払い。

 でも意味が違う――やっと分かったか!?――という顔だ。

 

「いやあ、一度やってみたかったんだ、授業中の手紙(*´∀`*)」

 

 職員室に行くと「相談室に行こう」の一言。で、相談室で先生と向き合っている。

「はいはい、で、用事はなんですか?」

「来栖司令から言われてることよ」

「え……?」

 目が点になってしまった。

 特務師団の事は任務に招集された時にだけ意識に上るはずだ。だからこそ、調理研三人の能力のあれこれが向上したことのアリバイに苦労しているはずではないか。なんで、安倍先生は!?

「知ってるかって?」

「あ、あ、あの……」

「真智香が魔法少女だってことは、ケルベロスからも聞いてるしね。来栖司令も、そういうことは分かってて話を持ってきたと思う。ま、それは改めて話すとして、本題よ」

「は、はあ」

「あなたたちにレンジャー訓練をさせるわけにもいかないでしょ。徐福伝説でいくことにした」

「徐福?」

「うん」

「駅前の中華料理屋ですか?」

「じゃなくて」

 中華料理屋でない徐福……数百年におよぶ徐福のあれこれが頭に浮かんだ。徐福と言えば不老不死の薬だ。

「そう、二千年前に、秦の始皇帝の命で不老不死の薬を求めて日本にやって来たって伝説の人物」

 話が掴めない。

「少しでもいい、純度が低くてもいい、不老不死の薬をちょこっとだけ服用したら、能力が向上したってことで間尺に合うと思うのよ。ほら、ポパイがほうれん草の缶詰食べて力が強くなるじゃない。その線で行こうと思う」

「しかし、ちょっと取り留めなくないですか?」

「徐福の不老不死は薬じゃなくて食べ物だと言われてる。だから、食材を集めて不老不死の食事。それを食べて能力が向上した! そういうことなら調理研らしくて説得力あるでしょ、不老不死のレシピよ!」

「不老不死のレシピ?」

「そうよ、それが、この日暮里高校にあるのよ!」

 

 ドン! 鼻の穴を膨らませ、先生が元気よく机を叩いた。

 

 うう……とてもめんどくさいことになりそうな予感がしてきた。

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・6』

2019-08-05 06:53:31 | 戯曲
となりのトコロ・6 
 
大橋むつお
 
 
時   現代
所   ある町
人物……女3  
のり子
ユキ
よしみ
 
 
 ひとしきり木々のざわめき
 
のり子: でも、ややこしいね。土地の名前が常呂で、そのトトロみたいなのがトコロで、聞いただけじゃ区別がつかない。
ユキ: 区別なんかいらない。常呂は常呂のことだし、トコロはトコロのことだし。常呂って言えばトコロを含んでるし、その反対もそうだし。つまり一方のところを言えば、もう一方ところを言ったことにもなる。ところどころわからなくても、心のところどころでところって感じれば、それで、それは十分に常呂とトコロを言ったこと、聞いたことになるよ。
のり子: なるほど……
ユキ: ところ!(叫ぶ。高まる木々のざわめき)ほらほら! 感じるでしょ。ところを感じるでしょ! 感じた?
のり子: ……うん(^_^;)
二人: ところ!……ところ……ところ……ところ……
ユキ: ほら、わたしたちの中で「ところ」がこだましてる……
のり子: 自分で言ってるような気もするけど(;^_^)
ユキ: それはトコロがわたしたちの声を使ってこだまさせているのよ……(強いざわめき)トコロは、遠い縄文の昔から、歴史をつらぬいてわたしたちに心を伝えにきた常呂の森の精霊……(へべれけに酔ったおっさんの声で、童謡「あめふり」が、かすかに聞こえる)
のり子: だれかが歌ってる……
ユキ: そう……
のり子: あたし、この歌の三番と四番が好き(歌う)あらあら、あの子ずぶ濡れだ。やなぎの根方でないている。ピチピチジャブジャブジャブ、ランランラン。母さんボクのを貸しましょか、君々この傘さしたまえ……フフ、君々だなんて、生意気そうだけど。すなおな親切でいい感じ。でもおっさんが酔って唄う歌かぁ?
ユキ: ごめんね。お父さんが唄ってるの……
のり子: え……傘が……ほんとだ、傘が、傘のお父さんが唄ってる……でも、なんだか悲しいね……傘のお父さんが傘の歌を唄ってるなんて……哀感があるよね、お父さんの声。
ユキ: お父さんの十八番(おはこ) ゆうべも脂ぎってイカの足かじって、酒臭い息をはきながら……わたしや、姉さんの邪魔にならないように静かに唄ってた。そして涙と鼻水にまみれたイカの足のこま切れをくしゃみといっしょにはき散らした時にトコロはやってきた……こんなのと、こんくらいのと、こーんなに大きなトコロが口を……心をそろえて言った……やっと見つけた……。
のり子: ひょっとして、そのトコロがお父さんを傘にしちまった……
ユキ: ちがう……そうなの、でもちがうの。話は最後まで聞いて。トコロは恩返しに来たの。
のり子: 恩返し?
ユキ: お父さんは、おじいちゃんといっしょに常呂の森を守ってきたの。
のり子: 農水省のお役人?
ユキ: おじいちゃんは、考古学の偉い先生。ずっとアイヌ文化を研究していて、常呂の森の下に古い古いアイヌ文化が残っていることに気づいたの。遠い昔はアイヌも、内地も、ロシアもなかった。広くオホーツクにひろがるのどかなところだった。人が人として、自然を神さまとして愛せた時代。国境も軍隊もなんとか主義もJALやJTBもなかった時代。じいちゃんが見つけたのは、そういう宝物。おじいちゃんは身体を張って、戦争中は軍隊から、戦後は開発から常呂を守って……おじいちゃんは、常呂を守るために、世の中の傘になって死んでいった。おじいちゃんのお葬式の、秋の昼下がり……季節はずれの小雪が白く降る中を……その時、初めてわたしは見たの……木の間隠れにトコロがいるのを。
 
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・47〈新担任はガンダム!?〉

2019-08-05 06:42:57 | 小説・2
高安女子高生物語・47  
〈新担任はガンダム!?〉       
 
 
 
  ガ、ガンダム!?
 
 同じような声が、体育館のうちらの列からわき起こった。  
 
 今日は、一学期の始業式。朝学校に行くと体育館の下の下足室入り口に新しいクラス表が貼りだしたった。一年で同じクラスやった子が五人いてるけど、あんまり付き合いのない子ぉらやったんで、特に感慨はない。ただ男子に学年一のイケメンとモテカワが居てるのが気になったぐらい。
 
 ま、その話はあとにして、始業式での担任発表。
 
 うちらは、3組なんで三番目の発表。ガンダムがおっさんは不思議やない。なんちゅうても生活指導部長。
「三組担任、岩田武先生」  司会の先生が言うたとたんに、「ガ、ガンダム!?」になってしもた。 「3組を鍛え上げることは、もちろん。二年生をOGHで最高の学年にしたるから、そのつもりで」  それだけ言うと、ニヤリと方頬で笑うて、担任団の席に戻っていきよった。クラスのみんなは、怖気をふるった。
 
 なんで岩田武がガンダムなんかは、字ぃ見たら分かると思う。音読みしたら「ガンダム」 それに、その名にふさわしい程の頑丈さと、ひつこさ。
 
 校門前で、朝の立ち番してるときに、あの美咲先輩がスカートの中を盗撮されたことがあった。二百メートルほど離れてたけど、「コラー!」の一声と共に駆け出して追跡。なんと一キロ追いかけて犯人を捕まえた。ついでに途中で喫煙しとったS高校の男子生徒のシャメも撮って、S高校の生活指導に送り、ありがた迷惑にも思われた。で、これだけの大立ち回りしながら息一つ乱れへんポーカーフェイス……いかにもガンダム。せやから、さっきの挨拶で方頬で笑うたんは、極めて異例で、クラスのみんなが怖気をふるうたのも無理はない。
 
 演劇部辞めてから、学校にアイデンテティーを感じひんようになったうちでも、この展開は興味津々や。
 
 で、クラスのイケメンとモテカワ。
 
 イケメンが安室並平。なんかアンバランスな名前やけど、うちの趣味やないんで、ようもててるいう以上のことは、よう分からへん。  モテカワは南ララァ。名前の通りカナダからの帰国子女。日本人のお父さんとカナダ人のお母さんに生まれた子らしい。色はちょっと黒いけど、これは水泳部で普段から体を焼いてるから。地は色白やと、同じ水泳部の女子の弁。髪は水泳部にありがちな傷んだ自然な茶パツ。この自然な茶パツが、とてもワイルドで、その下には信じられへんくらいの可愛い顔。むろんプロポーションは抜群。
 
「暫定的に、学究委員長は安室。副委員長は南。学年始めはいろいろあるから、二人とも、しっかり頼む」
 
 ガンダムが、口数少なに言うた。みんなも「さもありなん」と納得顔。  なんで、イケメンとモテカワで納得やねん!? うちは、そない思た。 「これで、シャアがおったら、完ぺきや」  横の席の保住いう男子が呟きよった。
 うちはガンダムには詳しないよって、終わってからスマホで検索した。アムロが主役で、ララァいうのが、永遠のヒロイン。シャア言うのんがシオン軍のボス。で、担任がガンダム。
 確かに出来すぎ。ちゅうか……波乱の予感がした。
 
 波乱というと、午後の入学式。
 
 うちらは出席の義務は無いねんけど、うちの中に居てる正成のオッチャンが興味を示したんで、体育館のギャラリーで見ることになった。 「ただ今より、平成26年度入学式を挙行いたします。国歌斉唱、一同起立!」  司会の教頭先生が言うたとたんに、うちは気をツケして、直立不動で『君が代』を音吐朗々と歌い出した。
 
――え、うちて、こんなに歌上手かった!? で、むちゃ恥ずかしい!――
 
 みんながギャラリーのうちのこと見上げてる。言うときますけど、今うちに歌わせたんは正成のオッサン。
――和漢朗詠集の読み人知らずの名歌やな。これを国歌にしてるとは、なかなかや!――  オッサンは一人で感心しとる。  
 式のあと、校長室に呼び出された。 「あんな立派な独唱は、甲子園ぐらいでしか聞かれへん。君は大した子ぉやな!」  来賓の指導主事のオッチャンに誉められた。 「チェンバレンが、こんな英訳しております」  正成のオッサンが、勝手に言わす。
 
 A thousand years of happy life be thine! Live on, my Lord, till what are pebbles now, By age united, to great rocks shall grow,  Whose venerable sides the moss doth line.
 
 いつのまに正成のオッサンは勉強したんや、はた迷惑な!
  うちの新学年も波乱の兆し……。
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高校ライトノベル・里奈の物語・46『銭湯はプラスアルファ』

2019-08-05 06:28:23 | 小説5

里奈の物語・46
『銭湯はプラスアルファ』 

 
 

「うわー! 逆さクラゲ!」

 やっぱり声に出て赤くなるのが自分でも分かった。
「アハハハ、昔といっしょや!」
 妙子ちゃんが遠慮なく笑う。夕べからずっとパソコン相手に仕事してきたとは思えない元気さだ。
 

 今日は、妙子ちゃんの提案で銭湯に向かっている。
 洗面器に石鹸とシャンプー(リンス入り)、その上に着替えをくるんだバスタオル載っけ、足元も定番のツッカケ。

 お父さんが、銭湯のマークは「逆さクラゲ」だと教えてくれた。
 そのとおりだったので、子どものころは煙突のそれを発見して叫んでしまった。
 あの時は、妙子ちゃんが真っ赤な顔になった。今は、その妙子ちゃんが平気で、あたしが恥ずかしい(自分で叫んでおいて)。
 逆さクラゲは銭湯という意味だけじゃない。分かっていて、わざとお父さんは、ガキンチョのあたしに教えた。

 あのころは、それを笑えた。あたしたちは、まだ家族だったから。

 暖簾をくぐるとお風呂屋さんの匂いがした。おぼろになっていた番台の向こう側の情景が蘇る。
 ツッカケを下駄箱にしまうと、女湯の戸が開いて、女の子を連れた女の人が出てくる。
 なんか時間軸がズレて、あのころのあたしたちが出てきたようなデジャブ。
 銭湯は記憶のタイムマシーンなのかもしれない。

 心地よいデジャブは、裸になると消えてしまう。あたしも妙子ちゃんも昔の子どもの姿ではないもんね。

 でも、浴室に入ると、デジャブでなくてもリラックスする。
 湯気に滲んだ富士山のペンキ絵、誰かが湯桶を置いて、コーンとくぐもった音をさせる。
 潤いのある温もりが穏やかに心と体がほぐされていく。
「洗いっこしよか!」
「あ、でも……」
「ええやんか、まだ混んでないさかい」
 返事も聞かないで、妙子ちゃんはあたしの背中を流し始めた。
「妙子ちゃんさ」
「ん……?」
「TERAには出向なんだよね?」
「そだよ」
「元の会社には……」
「戻らへんよ」
「……そうなんだ」
「零細企業で、仕事もきついけど、遣り甲斐はあるからね。自分のやったことがダイレクトに作品に反映され、売り上げが変わってくる。もう元のソフト会社には戻りたないね」
「前向きなんだ」
「あんたも、前向いて」
「うん」
 妙子ちゃんの目は、気負いすることはなく輝いていた。ビックリするほど歳が離れているわけじゃないのに、すっかり大人だ。
「エロゲっていうのは、エロいだけじゃあかんねん。プラスアルファが大事」
「プラスアルファって?」
「たとえば、この銭湯の温もりみたいなもん……なんや心が優しいなるやろ。単に体洗うだけやったら内風呂で十分……一時は消滅する思われてた銭湯が残ってるのは、そういう優しさがあるからやろね」
「そうだね、こういうスキンシップは……ウッ……」
 あたしは、いつの間にか妙子ちゃんの方を向いて体の前を洗われていた。気づいた時はギクッとしたけど、子どものころは、よくやってもらっていた。お互い体つきは変わってしまったけど、とても懐かしい気持ちになった。
「あのペッタンコが、こうなっちゃうんだ……」
「アハ……キャ!」

 さすがに妙子ちゃんの手がマタグラに伸びてきて飛び上がってしまう。妙子ちゃんの笑い声がくぐもりながら木霊した……。 

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高校ライトノベル・須之内写真館・19『運命としか言いようがない・2』

2019-08-05 06:17:58 | 小説4
須之内写真館・19
『運命としか言いようがない・2』  


 似ている、光会長は思った。

 美花は、写真の曾婆ちゃんに。杏奈は往年のコニー・フランシスのよう。
 方や、国民学校の女先生。方やアメリカンポップスの女王。
 一見真逆のようだが……例えれば、長い冬を耐えて咲いた三分咲きの桜のような清楚で新鮮な華やぎがあった。そして、桜自身は、ただの三分咲きの桜で、けして長年、多くの人の心を励まし慰めてきた自覚など無い。

「君たちは、三分咲きの桜のようだ!」

 言われた二人はポカンとしている。相手のハゲ頭がAKRの生みの親である光ミツルであることが分かっていない。

「ボクは、今まで大きな花束のようなアイドルグループばかり育ててきた。あれはあれで魅力のあるものだけど、君たちは満開の桜の木になれる。一本だけで……いや、今のところはデュオの方がいい」
「あのう……」
 杏奈が遠慮がちに声を出した。直美が間に入ろうとしたが、光会長は続けた。
「ま、取りあえず、リラックスして、この曲を聞いて……直美さん、CDをかけたいんだけど」
「あ、こちらにどうぞ」
 スタジオの複合プレイヤーにCDをかけた。

《ハッピークローバー》

 もったいないほどの青空に誘われて アテもなく乗ったバスは岬めぐり
 白い灯台 心引かれて 降りたバス停 ぼんやり佇む三人娘♪

 ジュン チイコ モエ 訳もなく走り出した岬の先 白い灯台 その足もとに一面のクロ-バー
 これはシロツメクサって、チイコがしたり顔してご説明♪

 諸君、クローバーの花言葉は「希望」「信仰」「愛情」の印 
 茎は地面をはっていて所々から根を出し 高さおよそ20cmの茎が立つ草。茎や葉は無毛ですぞ♪

 なんで、そんなにくわしいの くわしいの~♪♪

 いいえ 悔しいの だってあいつは それだけ教えて海の彼方よ♪

 ハッピー ハッピークローバー 四つ葉のクロ-バー
 その花言葉は 幸福 幸福 幸福よ ハッピークローバー♪

 四枚目のハッピー葉っぱは、傷つくことで生まれるの 
 踏まれて ひしゃげて 傷ついて ムチャクチャになって 生まれるの 生まれるの 生まれるの~♪
  
 そうよ あいつはわたしを傷つけて わたしは生まれたの 生まれ変わったの もう一人のわたし♪

 ハッピー ハッピークローバー、奇跡のクローバー♪♪

「これ、AKRのユニットの三つ葉のクローバーの……」
「ハッピークローバーですね……」
「そうだよ」
「この曲が……?」
「この曲を聞いているときの二人はすてきだよ。目の輝き、自然にとってるリズム感。最後はいっしょに口ずさんでいたね、いいハーモニーだった」
「いつもバイト先のお店で聞いてますから。でも、素人の鼻歌です」
「蕾だけど華がある。作詞者が言うんだから間違いない」
「こちら、AKRのヒカリプロの会長さん……」

「「ええ……!」」

「いや、運命としか言いようがない!」
 それから二人は、ヒカリプロのスタジオに連れて行かれ、プロダクションのスタッフたちの前で歌わされた。

 そして、スタッフ全員の賛成で、杏奈と美花は住み込みで光会長の家で特待研究生として育てられることになってしまった……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・87』

2019-08-05 06:10:47 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・87
『第八章 はるかの決意10』 

 
 
『第六十一回浪速高等学校演劇研究大会』

 看板がまぶしかった。

 おとつい、リハに来たときは看板もなく、雑然とした中でマイクも使えなくて、スタッフの人や、実行委員の先生や生徒が右往左往。
 本選に出るんだという実感は、当日の今、看板を見てようやく湧いてきた。

 出番は、初日の昼一番。二つ驚いたことがあった。

 朝一番に道具の確認に一ホリの裏側にまわった(会場のLホールは、テレビの実況ができるように奥行きが二十五メートルもある。そこで真ん中のホリゾントを降ろして、後ろ半分を出場校の道具置き場にしている。ちょっとした体育館のフロアー並)
 わたしたちが、ささやかに畳一畳分に道具を収めたときは、まだ半分くらいの学校が搬入を終わっていなかったが、スペースはまだ三分の二くらい余裕で残っていた。
 さすがLホールと思ったのだが……。
 そのときは、溢れんばかりの道具で、担当のスタッフが苦労していた。
 R高校などは、四トントラック二杯分の道具を持ち込んでいた。
 お陰で、わたしたちの道具は奥の奥に追い込まれ、確認するのも一苦労。
 で……ウソ、衣装が無かった!?

「衣装はこっち!」

 道具の山のむこうにタロくん先輩の声。
 実行委員を兼ねている先輩はR高校の搬入を見て、「こら、あかんわ」と思った。
 それで、すぐに必要になる衣装と小道具は、駅前のコインロッカーに入れておいてくれたのだ。
 さすが大手私鉄合格の舞監である。

 もう一つの驚きはパンフだった。

 予選からの出場校百二校のプロフィールが書いてある。
 三分の一ほど読んで、「?」と、思った。
 創作脚本ばかりなのである。
 数えてみた。
 なんと出場校百二校中、創作劇が八十七校。
 なんと八十五パーセントが創作劇。
 後日確認すると、卒業生やコーチの作品が十校あり、実際の創作劇の率は九十五パーセント!
 この本選に出てきた学校で既成の脚本はわたしたちの真田山学院高校だけ。
 大橋先生は、コーチではあるがれっきとした劇作家である。『すみれ』は八年も前に書かれた本であり、上演実績は十ステージを超えていた。
 タマちゃん先輩が、予選の前に言っていた。
「浪高連のコンクールは、創作劇やないと通らへん」
 ジンクスなんだろうけど(わたしたち予選では一等賞だったもん)この数字は異常だ。

 本番の一時間前までは、他の芝居を観ていいということになった。
 出番は昼の一番なんで、午前中の芝居は全部観られる。

 わたしは、午前の三本とも観た。
 ナンダコリャだった。

 例のR高校、幕開き三十秒はすごかった。なんと言っても、四トントラック二杯分の大道具。ミテクレは、東京の大手劇団並み。
 しかし、役者がしゃべり始めると、アウト。台詞を歌っている(自分の演技に酔いしれている)ガナリ過ぎ。不必要に大きな動き。人の台詞を聞いていない。
 だいいち、本がドラマになっていない。ほとんど独白の繰り返しで劇的展開がない。
 わたしは、大阪に来て八十本ほど戯曲を読んだ。劇的な構造ぐらいは分かる。

 昼休みは、道具の立て込み(と言っても、平台二個だけ)をあっという間に終えて、お握り一個だけ食べて、静かにその時を待った。
 乙女先生は、台詞だけでも通そうと言った。
「静かに役の中に入っていけ、鏡でも見てなあ」
 大橋先生の言葉でそうなった。
 わたしは、眉を少し描き足し、念入りにお下げにし、静かにカオルになっていった……。
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