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大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・047『エディンバラ・3』

2019-08-06 14:07:59 | ノベル
せやさかい・047
『エディンバラ・3』 

 

 

 英語ではない言葉。

 

 むろん日本語でもない言葉でサッチャーさんが挨拶する。

 頼子さんも同じ言葉で挨拶を返す。

 え、どないなってんの?

 不思議に思うと、次からは日本語になった。

 たぶん、わたしらにも分かるようにという気遣い。それにしても、サッチャーさんも日本語がお上手。

 感心してたら、わたしらの前に来た。背筋が伸びてキリっとしてて、いよいよロッテンマイーさん。

「お待ちしておりました。どうぞ我が家だと思って素敵なバカンスをお過ごしください、桜さん、留美さん」

 にこやかに握手してくれはる。

 女の人やのに、大きな手で包み込むように優しい感じがする。

「よ、よろしくお願いします」

 それから、サッチャーさんは順番にお屋敷の人らを紹介してくれはる。執事のアーネストさんは分かったけど、他の人は上の空で聞いたそばから忘れてしまう。

「では、お二人のお部屋にご案内します。お荷物が整理で来ましたらスィティングルームにおこしください、ご休憩いただきながら、いろいろとご説明させていただきます」

 サッチャーさんが指を立てると、メイドさんがわたしたちの荷物を持ち上げた。

「それから。わたくしは、お嬢様の世話係で、イザベラと申します。サッチャーでもロッテンマイヤーでもありませんので、よろしくお願いたします。では、お荷物を」

 サッチャ……イザベラさんの目配せでメイドさんたちがお返事「イエス マーム」、これは中学生でも分かる。

 

 このお屋敷で、一番の権力者はサッチャーと陰では呼ばれてるイザベラさんやった(^_^;)

 

「サッチャーが来てるとは思わなかった」

 スィティングルームに行く前に、頼子さんに招集を掛けられた。

「イザベラさんじゃ……」

「鉄の女だからサッチャー。ま、あなたたちがどう呼ぼうと構わないけどね」

 いつになく、頼子さんはホッペを膨らましてる。ま、事情がありそうで、あんまり突っ込まんようにする。

「日本語が喋れるのは、サッチャーさんとジョン・スミス。あとは喋れないと思っといて。喋る必要のある時は、この屋敷の者は翻訳機持ってるから大丈夫だけど、大事な話とか込み入ったことは、とりあえず、わたしに言ってもらえると嬉しいわ。エディンバラの観光は明日から、なにかリクエストとかあったら、前日までに言っといてね、予約とか必要な所もあるしね。あ、合宿ってことだから、博物館的なところはいくつか入るから覚悟ね。食事が口に合わないとかだったら言って、無理して食べてると体壊しちゃうから、それと、あ、あなたたちからは、ない?」

「えと……個室でありがたいんですけど、できたら三人一緒の方が……」

 日ごろは、いっしょに着替えるのも嫌がる留美ちゃんが意外な提案。

「あ、いいわよ。うん、こういうのがいいのよ。旅先で気が変わって、いつもとは違うことをしたくなる。うんうん、やろやろ。うん、パジャマパーティーだ!」

 頼子さんはえらい! 留美ちゃんが、心細さから言ってるのは、わたしにも分かってる。それを留美ちゃんの積極性ととらえて、逆提案にした。

 それから、パソコンでエディンバラの街を検索、明日から周る観光スポットを、あーでもないこーでもないと話し合う。

 

 トントン

 

 ドアがノックされてメイドさんが入ってきた。英語で……イザベラさんがお待ちです的なことを言っている。言ってから翻訳機のスイッチを押した。

『イザベラさんがお待ちですので、リビングルームへお越しください』

 おお、わたしが思った通りや! 

 それから、スィティングルームというのがリビングルームやいうことも分かった。

 それと、メイドさんの胸には、お出迎えの時には付いてなかった名札が付いていた。これは、サッチャーさんの気配りか?

 名札には、カタカナで『ソフィア』と書いてあった。 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・7』

2019-08-06 06:53:34 | 戯曲
となりのトコロ・7 
大橋むつお

※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します
 
時   現代
所   ある町
人物……女3  
のり子
ユキ
よしみ
 
 
風の音、父さんの歌声。
 
のり子: おやじさん、まだ唄ってるね……
ユキ: お父さん……
のり子: 悲しい歌だね……
ユキ: 常呂に残っていればよかったね。わたしや姉さんのために内地になんか来なくてもよかったのにね…… 
のり子: あんたたちのために?
ユキ: 本当は……お父さん、おじいちゃんから逃げ出したかったのかもしれない。
のり子: え?
ユキ: おじいちゃん偉い人すぎたんだ……お父さん、おじいちゃんみたいに世の中の傘になりたかったんだ。おじいちゃんとは違うやり方で…… 
のり子: それで、とうとう本物の傘になっちゃったの?
ユキ: トコロは恩返しのつもりだったの……お父さん、酔うとこの歌しか唄わなかったから……トコロは早手回しに、おとうさんは傘になりたがっていると誤解して……傘にしてしまった。
のり子: ……それで?
ユキ: それで?
のり子: それで、どうするの? 傘になったおやじさんと、ブタになった姉さんしょって、バスを待って……どうするの?
ユキ: トコロに元にもどしてもらうの。
のり子: 元にもどるの?
ユキ: もどるわ、その気なら……本人がその気なら……(傘を、父の心を開こうとする)お父さん。お願い、開いて! 開いて、お父さん! 開け、開け、開け!……開いてよ、お父さん……
のり子: そのままじゃ、閉じたままじゃダメなの?
ユキ: ダメなの、傘を開いて、心を開いて、前向きにならなきゃ、いくらトコロの力でも元にもどせやしないわ。
のり子: でも、トコロが傘にしたんだから……
ユキ: たとえ、トコロがどんなに大きな力を持っていても、お父さんの心がゼロなら……そうでしょ、ゼロにどんな大きな数字をかけても、出てくる答えはゼロ。そうでしょ。
のり子: そうだね……
ユキ: お父さんお願い。このわたしに、たかが十歳くらいにしか見えないけれど、実は十八歳の……
のり子: あんた十八歳?
ユキ: と言っても人が驚くのに、本当のところ二十五歳……
のり子: 二十五?
ユキ: なんて言ったら、人が目をむくのに、真実は四十五……
のり子: 四十五? ほとんどあたしの倍じゃん!? うそでしょ……
ユキ: ほんとよ。
のり子: あんたねえ、ユキ。あたしは真剣にあんたの話につきあってんのよ。それをね、それはないでしょ。
ユキ: ほんとうは、自分の歳なんか忘れてしまった……もう何十年も十歳を続けているって言えばわかってもらえるかしら……
のり子: あのなあ……
ユキ: そんなの世間じゃ珍しいことじゃないでしょ?
のり子: 珍しいよ、しっかり珍しいよ!
ユキ: だって、サザエさんなんか昭和二十一年からずっと二十四歳だし、カツオ君とワカメちゃんも何十年も小学生。
のり子: そりゃね……
ユキ: 名探偵コナンも、ルパン三世も歳をとらない。スヌーピーもミッキーも、世界最長寿のイヌとネズミだけど、若さは昔のままでしょ?
のり子: そりゃマンガでしょ?
ユキ: でしょ……でしょはないでしょ、そうでしょ! マンガだって感動するときゃするでしょ。人生を変えてしまうこだってあるわ。現にあなただって、どっぷりマンガに首まで漬かって生きてるんじゃない。逆に生きてる人間でも、マンガほどに感動を与えない人もいるわ。大切なことは心よ。心の感動よ。その心に感動を与えてくれるものなら、それがマンガだろうが生きてる人間だろうが関係ないことじゃない。サザエさん読むとき、サザエさんは何十年も二十四歳やってるんだ、変なやつだ! なんて思いながら読んでる? ただおもしろい、ああなるほどとか感動するわけでしょ。
のり子: そりゃあ、そうだけどもぉ……
ユキ: まだわからない? 思い出してよ、あなたがマンガ家になろうと思ったきっかけを。
のり子: きっかけ?
 
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・48『ガンダムの怒り』

2019-08-06 06:48:07 | 小説・2
高安女子高生物語・48
『ガンダムの怒り』
        


 新学年の最初はいろいろある。

 一年のときに書いた健康調査とか住所・電話とか、変更があってもなかっても、全員に配られる書類。
 たいていの子ぉは変更あれへんさかい、新しいクラスと出席番号。あと、簡単な健康上のアンケートをチェックしてしまい。

 一年のとき佐渡君が、この健康アンケートのとこに「ビタミン不足」と書いたんを思い出した。一応健康問題なんで、佐渡君は、保健室に呼び出されて詳しく聞かれた。
「佐渡君、君は、なにのビタミンが足らんのん?」
 保健室の先生に聞かれて、佐渡君は、こない答えた。

「はい、ビタミンIです……」

 頭の回転の鈍い藤田先生(一年のときの担任)は「ビタミンIて……?」やったけど、保健の先生はすぐに分かった。
「アハハ、あんたて、オチャメな子ぉやな」

 Iは愛にひっかけてた。気が付いた藤田先生はクラスで言うて、みんなが明るく笑うた。

 佐渡君も笑うてたけど、ほんまは切実やったんや。あんな寂しい死に方して……。

 それから、進路に関する説明会と、早手回しの修学旅行の説明が二時間。「二年は、一番ダレル学年やから、締めてかかれ」と、まだ生活指導部長の名残が消えへんガンダムの長話。その間に、一年が発育測定。

 で、今日は、うちら二年が発育測定。

 身長、体重、座高、胸囲、聴力、視力と計る。クラス毎に最初に計るのんが決まってて、あとは空いたとこを適当に見つけて回っていく。ここで暫定委員長、副委員長の力が試される。空いたとこを要領よう回るのは、この二人の目端にかかってる。
 南ララアも安室並平も目端が利くとみえて、わがガンダムクラスは、イッチャン早よ終わった。
 当たり前やったら、教室に戻って、担任が待ってて視力検査やっておしまい。で、チャッチャッとやったクラスから早よ帰れる。
 ところが、教室に戻ると肝心のガンダムが居らへん。

 まあ、先生も測定係りやってるから、しゃあない。

 で、教室のあっちこっちで、スマホをいじりだした。中には仲ようなった子同士がメアドの交換なんかやってる。
 うちは、ネットで『はるか 真田山学院高校演劇部物語』を読んでた。この本は、この5月には改訂されて、『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』で出版される。799円と大阪の人間の心をくすぐるような値段。買うて読もうと思てるんで、比較のためにチョビチョビ読み直してる。
「佐藤さん、あんたラインせえへんのん?」
「え……あれて、ヤギさんの手紙みたいにキリ無くなるさかい、うちはせえへんねん」
「えらいね!」
 ララアが誉めてくれた。

 ほんまは、やりたい相手は居てる。天高の関根先輩。

 こないだは、正成のオッサンに告白させられてしもたけど、正成のオッサンはスマホを知らん(なんちゅうても700年前の人間)さかい、メアドは聞き損ねた。ララアに誉められるほどイイ子とはちゃう。せやけど、人の特徴を美点から見ていこいうララアの自然な対応には好感が持てた。

 それから5分ほどして、校内放送が入った。

「ただ今より、臨時の全校集会をやります。生徒は、至急体育館に集合しなさい」
 体育館にいくと、明日は3年の発育測定やいうのに、測定機材は隅に片づけられてた。
「黙って、チャッチャッと座れ!」
 まだ生活指導部長の名残が抜けへんガンダムが仕切りはじめた。新しい生指部長は黙ってる。ガンダムはなんか怖い顔してる。
 みんなが静まったとこで、教頭先生がマイクの前に立った。

「ちょっと事情があって、校長先生がしばらくお休みになられます。その間は、わたしが校長の代理を務めます。いま君らに言えるのは、そこまでです。なんや、よう分からんかもしれませんが、先生らも、いっしょです。で……」

 あとは、事務的な話。奨学金やら、各種証明書の発行が今日明日はでけへんような……。
 ガンダムの顔が、いよいよ厳しい、怒ったようになってきた……。
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高校ライトノベル・里奈の物語・47『猫田の小母さん』

2019-08-06 06:40:24 | 小説5
里奈の物語・47
『猫田の小母さん』


 七草も過ぎたのに、まだおめでとう。

 毎日街猫の世話をしに来るのは、猫田の小母さん入れても二三人。
 他の人は飛び飛びなんで、年明け最初の人には「あけましておめでとうございます」になる。
 あたしは心貧しいので――またか――と、煩わしくなってくる。

「ええやんか、今日び『おめでとう』なんか、正月ぐらいしか言わへんねんから、せいだい言うたらええねん。なあ、のらくろ」

 表情を読まれて、猫田の小母さんに言われる。
 言われても嫌味には聞こえない。小母さんの人柄でもあるし、会話の中に猫がいるから。

 猫といっしょに居ると、人間は丸くなる。

「ウズメ、見かけへんね」
 エサのボールを片付けながら、田中さんが言った。田中さんは猫田さんのともだち。
「そ、そうですね……」
 ウズメは悦子さんに会って以来見かけない。あたしを御主人の悦子さんに会わせるために公園にいたのだから、目的を果たした今は現れないんだ。でも、これを言うわけにはいかない。
「ウズメは居てるよ」
 猫田の小母さんが「おめでとう」を言うのと同じくらいの優しさで言う。
「え、どこに?」
 田中さんがキョロキョロ。
「猫見てみいな、みんな仲良うご飯食べてくつろいでるやんか。のらくろもハミゴにされんようになったし、これ、ウズメが残した秩序やし」
 猫田の小母さん。
「そうですね、猫だって残すんですよね、ちゃんと!」
 あたしってば、感動して、思わず小母さんの顔を振り仰いだ。ここをアップで抜いたら特番ドラマの看板になりそう。
「アハハ、せや、今日はほとんどのメンバー揃てるから、うちでプチ新年会やろか!?」
「「「「「「賛成!」」」」」」

 みんなの声が揃って、猫田の小母さんの家に行くことになった!

「うわー、お屋敷!」
 二三十坪のチマチマした家ばかりの今里で、猫田の小母さんの家は立派なお屋敷だった。
「広いだけや、もうあちこちガタガタ。さ、みんな上がって」
「猫田さんは地主やからなあ」
「ハハ、なにを江戸時代の話をしてんのよ。さ、台所の残りもん見繕うて、準備して」
 小母さんたちが、勝手知ったるって感じでテキパキと準備にかかる。小母さんたちも、いつの間にかいろいろ持ち込んでいて、ほんのニ十分ほどで新年会の準備ができた。
「うわ、いつの間に!」
 十六畳ほどの和室に、大きな座卓が二つ。座卓の上にはチャンコ風と韓国風の鍋が湯気を立てている。
「ほなら、猫とあたしらの健康と平和を祈念して……」

「「「「「「「カンパーイ!!」」」」」」」

 小母さんたちは、みんなお酒に強い。あっという間にお酒の空瓶が並ぶ。
 勧められたらどうしようと思ったけど、最初の乾杯でビールが注がれただけ、それ以上勧められることはなかった。
 小母さんたちは芸達者で、カラオケ、ものまね、漫才、手品までこなして、ほんとに楽しい。
「猫田さん、十八番やって!」
 田中さんが陽気に叫ぶ。でも、小母さんの姿が無い。
「出囃子がいるでえ」
「ほな、うちらで!」
 二人のオバサンが立ち上がり『青い山脈』を歌いだした。

 すると、襖の影から猫田の小母さん! なんとセーラー服姿!

 小母さんは『新旧女学生模様』という題で、今と昔の女子高生の生態を演じはじめた。
 あまりに上出来なんで、通り一遍の描写ではもったいない。回をあらためてお伝えします。

 今回のテーマは、あたしの失敗。

 宴たけなわになって、気安く聞いてしまった。
「猫田の小母さんは、どうして猫を飼わないんですか。こんなにお家広いのに?」

 今まで見たことがないほど小母さんの顔が曇った……地雷を踏んでしまったか!? 
 
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高校ライトノベル・須之内写真館・20『大阪福島区ストリートミュージシャン・1』

2019-08-06 06:31:40 | 小説4
須之内写真館・20
『大阪福島区ストリートミュージシャン・1』     



 珍しく雑誌社から取材の仕事が舞い込んだ。

 写真の他に記者としての取材も含まれている。よく投稿写真にコメントを付けてだしている週刊文芸からの依頼だ。
「若者を見る目に新鮮さを感じる」
 担当さんのヨイショに乗っかった。アゴアシドヤ代をさっぴくと三万ほどのギャラにしかならないけど、二十二歳の直美は、仕事というよりは、良い勉強だと思って引き受けた。

 場所は大阪の福島区である。

 東京には、ヘブンリーアーティストという制度があって、都の認定を受けると、東京ドームの横っちょとか指定された場所で路上パフォーマンスが出来て、現在、パフォーマンス部門309組、音楽部門84組が登録している。いま流行りの女の子のユニットも、ここの出身である。
 ところが、大阪には、こういう制度が無く、アーティストである前に府の騒音防止条例の取り締まり対象でしかなかった。維新の会が府政・市政を握ってから、取り締まり、あるいは無視の傾向が強くなったという人もいる。

 福島区は野田阪神駅を中心に三つも商店街がありながら、隣の梅田に食われてしまい、その沈滞ぶりに危機を感じた区役所の発案で行われている。まあ、大阪らしく路上ライブを観にきた人たちが、地元にお金を落とす消費者になってほしいという計算もあるのだが、若者文化を育てようとする姿勢は評価出来るし、東京のヘブンリーとの違いなども知れると直美は意気込んでいた。

 火・木・金曜日の18時~20時に行われるので、木曜の午後新幹線で大阪に向かった。

 会場の野田阪神駅前広場は、拍子抜けがするほど普通の広場だった。
 玄蔵ジイチャンから。昔の新宿駅西口のフォークゲリラの話など聞いていたので、拍子抜け。五時半になると、あらかじめ連絡をとっていた区役所の野田さんが、仲間を連れてやってきた。

「やあ、どうも。須之内さんですね。区役所の野田です。こちら福島です。なんかシャレみたいやけど、よろしゅうにお願いします」
「こちらこそ。そろそろ始まるんですか?」
「もう、来ると思います。なんせ、ほとんどの人らがバイトなんかしながらですよって、いつもギリギリですわ。お客さんは……集まり始めてますなあ。あのギターかついだ高校生なんか、そうですわ」
「え、たこ焼き屋の客じゃないんですか?」
「近所の高校の軽音の子ぉらですわ。ああやって、ちょっとでも地元に興味もってくれたらなあと思てます」
「この五月からやってるんですけどね、チョットずつ若い人らが増えてきてます」
「あ、来ましたね……」

 相前後して、三組のミュージシャンたちがやってきた。寒空の下なので、みんなモコモコのナリをしている。
「すみませーん。東京から取材にきた週刊文芸の須之内って言います……」
 てな調子で、集まった三組のミュージシャンに自己紹介と取材許可をとる。サキオカというディユオと、桔梗というソロに終了後の取材のOKをもらった。もう一組は、このあと道路工事のアルバイトでアウト。残念がっていた。

 時間になると、三組ともモコモコから、すっきりの勝負衣装になり、広場の三カ所に別れて歌い始めた。

 野田さんと福島さんは、演奏する側がルール通り(アンプのボリュームや、場所とり)やっているかを見ると同時に、ミュージシャンの身に危険がないように張っている。なんせ年の瀬、酔っぱらいが絡んでくることもあるそうだ。

 直美はカメラとビデオの両方を使い分け、さらに合間を見ては、観客の人たちにインタビュー。
「あなたたち、ファンなの?」
 タコ焼きの高校生に聞く。
「はい、うちら軽音やよってに、めっちゃ参考になります!」
「タダやしなあ!」
「これで刺激受けて、テンション上げるんですわ。で、来年はスニーカーエイジの本選めざします!」

 スニーカーエイジというのは関西の軽音高校生の甲子園で、本選に当たるのが今月行われる舞洲アリーナの本選である。

「若い人が来るいうのは、ええこっちゃねえ。まあ、地元にお金がおちるのには、ちょっと時間かかるやろけどね」
「せやけど、あの桔梗いう子、いけてるね……ここから、スターが生まれると嬉しいなあ」
「うん、スター性はあるなあ」
 OLとおぼしき二人はリズムをとりながら、軽く論評した。心なしか、東京のストリートパフォーマーよりも、観客との一体感が強いように感じた。

 ササオカのデュオは、もうコンビと言った方が良く、曲の間のトークでも観客を飽きさせず笑いをとっていた。

――がんばってるなあ――

 大阪まで来て良かったと思った。東京に帰ったら、あの二人にも話してやろう。
 杏奈と美花は、光会長の家に住み込み、アーティストとしての第一歩を踏み出した。出発の仕方はいろいろ。みんな頑張れと、直美は思った。
 そして、演奏終了後のミュージシャンたちの口から、豊かな夢と厳しい現実を聞くことになった……。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・88』

2019-08-06 06:16:54 | はるか 真田山学院高校演劇部物語

はるか 真田山学院高校演劇部物語・88
『第八章 はるかの決意11』 


 本ベルが鳴って、お決まりのアナウンス。
 客電がおちて、山中先輩のギターでうららかな春の空気が満ちてきた。

 そして、タロくん先輩のキューで幕が上がる……。
 肌で感じた。
 観客の人たちと呼吸がいっしょになり、劇場全体が『すみれ』の世界になっていく。
 スミレの宝塚風の歌は、いっそうの磨きがかかって、大拍手。進一に進路のことを言われたときは、本気でむくれているみたいだった。

 アラブの戦争が始まり、上空をアメリカ軍の飛行機が飛んでいく。
 ついこないだの、マサカドさんとの体験が蘇り、恐怖が湧いてくる。そして、カオルとしてしみじみと語る十七年間の人生、宝塚への夢。
 その夢を無惨に打ち砕かれた、あの夜の空襲……そして互いの生き方への理解と共感が自然にやってきた。
 友情と共感の象徴として、でも、互いにそうとは気づかずに、無邪気に紙ヒコーキを折って、新川の土手に……。
「いくよ。いち、に、さん!」
 紙ヒコーキを飛ばす。
「すごい、あんなに遠くまで……!」
 荒川での視界没と重なる感動。そして透けていく身体……。

「おわかれだけど、さよならじゃない」
 新大阪の思い出が予選のときよりも強く蘇ってくる。
「わたし、川の中で消えていく……そうしたら海に流れて、いつか雨か風になってもどってこられるかもしれないから……」
「カオルちゃん……!」
 スミレの渾身の叫び……。
 そして、ここで初めて種明かし。
 消え去る直前に、カオルはゴ-ストジャンボ宝くじの一等賞に当選!
 賞品は、新たな人間としての生まれ変わり!
「これで、また、宝塚を受けることができるじゃない!」
 そして、もうひとつどんでん返しがあって。人間賛歌のフィナーレ!
 満場の手拍子、予選とちがって裏拍。予選以上に観客のみなさんが共感して、手拍子は満場の拍手に変わっていく……!

 楽屋にもどって、びっくりした。

 たくさんの人たちが、楽屋に、そしてその前の廊下に溢れていた。
 真由さんに、仲鉄工のおじさんまで……そして、お父さんと秀美さん。タキさんにトコさん。竹内先生に亜美と綾まで……由香と吉川先輩は、ちゃっかりと、楽屋の奥でお弁当を広げているではないか。

 そうだ、わたしってば、メールを一斉送信にしたんだ!

 こうやって、午後の二本は見損ねてしまった。
 時間を決めて、その夜は有志の者が(けっきょくほとんど全員になっちゃったけど)志忠屋に集まって、気の早い祝賀会になった。
 わたしも仲間も、これはいけると手応えを感じていた。栄恵ちゃんなど、
「近畿大会は、土曜にしてくださいね。わたし日曜は検定やから」
 で、これを皮切りに、お父さんとかまで、それぞれに都合を言い立てた。
 出演するのは、わたしたちなんだけどね……タマちゃん先輩と目配せをした。


 二日目の芝居は全部観た。

 正直、ドラマになっているものは一つもない。
 想像妊娠や、引きこもり、新型インフルエンザの流行の悲喜劇、親子の断絶。アイデアというかモチーフは様々だが、人物描写が類型的。
 ドラマとは、人の対立と葛藤があり、互いに関係しあって、最後には人間に変化があるもの。この五ヶ月で、わたしが学んだドラマの基本である。
 みんな、そこを踏み外している。ただ刹那的なギャグや、スラプスティック(ドタバタのギャグ)、劇的な台詞が、なにも絡むこともなく、散りばめられているだけ。

 最後の芝居の半ばごろ、頭が痛くなってきた。なんとか見終わって、ロビーに出た。

「はるか、大丈夫?」
 乙女先生が心配げに顔をのぞき込む。
「ちょっと芝居あたりしたみたいです。大丈夫、すぐによくなりますから」
 ロビーのソファーに座り込んだ。
 昨日、今日の二日間で観た芝居や『すみれ』が、頭の中でグルグル回っている。
「はるか、芝居も終わったこっちゃし、いっしょに先帰ろか」
「講評とか聞きたいんです……」
「わたしが、代わりに聞いといたるから。な、そないし」
「さ、いくぞ」
 早手回しに、栄恵ちゃんが、わたしのバッグを持ってきた。
「大丈夫ですよ。いい結果、家で待っててください」
 その笑顔に押されるようにして、わたしは、大橋先生と家路についた……。

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