大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・054『エディンバラ・10』

2019-08-22 15:01:37 | ノベル
せやさかい・054
『エディンバラ・10』 

 

 

 名誉職だと思っていた……。

 頼子さんが重い口を開いた。

 ロイヤルマイルの地下、ソフィアさんが魔法の杖を爪楊枝にくらいにチビらせてがんばってくれた。

 ソフィアさんはエクソシストたったんや。

 てっきり、日本語を勉強中のメイドさんやと、頼子さんも思てたらしい。そやから「用心にソフィアを連れて行ってください」とイザベラさんに言われても、そういう名目で日本語の勉強をさせてるんやと、頼子さんもうちらも思てた。

「わたしも、ちからを使うことになるとは、思ってませんでしたデス」

 人数分のトワイニングを淹れながら落ち着いた笑顔でソフィアさん。

「やっぱりお茶は、ここで頂くのが一番ね」

 あくる日の我々は、ヒルウッドのお屋敷のサンルームで休んでる。まあ、この一週間は精力的に観光してたから、こういうのんびりした一日を過ごすのもええもんです。

「それでは、ごゆっくり。ご用がございましたら、内線電話でお申し付けください」

 翻訳機を通して挨拶すると、ソフィアさんはサンルームを出て行こうとした。

 キャ!

 悲鳴が重なった。

 留美ちゃんが飛び込んできて、ソフィアさんと鉢合わせしたんや。

「オウ、アイムソーリー」

「すみません、わたしこそ。あ、花ちゃん、これでいいのよね」

「あ、それそれ。ソフィアさん、ちょっと待って」

「はい?」

「これ、使ってもらえないかなあ。お守りにでもなったら嬉しいです」

 留美ちゃんから受け取ったばっかりの箱をソフィアさんに渡す。ほら、合宿前にお母さんが持たせてくれたやつ。

「わたしにですか? ありがとうございます……おお、これはニンバス2000!」

「うん、ソフィアさんのはチビってしもてたから、ほんの気持ちです」

「外国製は初めてです、試してみますね……えと……」

 ソフィアさんは、しばらくニンバス2000を彷徨わせたが、クルリンと回って、魔法少女のように叫んだ。

「リジェネ!」

 ちょっとおかしくってクスっと笑って、頼子さんがシャキッと背筋を伸ばして立ち上がる。

「さ、がんばるぞ!」とガッツポーズをとった!

「おおーーー!」

「ありがとうございます、使わせてもらいますデス!」

 ガッツポーズしながらソフィアさんはサンルームを出て行った。

「よし、魔法が解けないうちに!」

 そう言うと、頼子さんは自分の頬っぺたをピシャピシャ叩きながら出て行った。

 頼子さんが、なにやら叫ぶと、お屋敷中がスイッチが入ったように――イエス――イエス マム――アンダストゥッド――の声があちこちでして、なにごとか動き始める気配がした。

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・64〔美枝が休み……!?〕

2019-08-22 06:39:40 | ノベル2

高安女子高生物語・64
〔美枝が休み……!?〕
        


「……やめとき……明日からテストやし」と、ゆかりは言うた。


 せやけど、うちは、やっぱり行くことにした。どこへ……中尾美枝の家へ。
 今日は、めずらしいことに美枝が学校休んでた。普通の子やったら気にせえへん。せやけど、美枝は違う。
 美枝は、高校に入ってから休んだことがない。中学も忌引きが一回あっただけ。

 それに、美枝にはラブホで聞いた秘密がある……。

 美枝の家は、寺田町にある。
――今からいくで――
 そうメールした。
――うん、どうぞ――
 なんとも、そっけない返事が返ってきた。せやけど「うん」やねんから行くことにした。で、ゆかりに声かけたら「……やめとき」の返事が返ってきたわけ。
 ゆかりは、うちよりも、ずっと美枝とは付き合いが長い。そのゆかりが「やめとき」というのは重みがある「……テストやから」いうのは付け足しの言い訳に聞こえた。それに、付き合いが長いから、短い人間より親身になれるとは限れへん。

 学校からは、駅一つ分の距離があるけど、うちは歩いていくことにした。

 途中のコンビニでプレミアムチーズロールケーキをお土産ともお見舞いともつかん気持ちで買うた。レジに持っていったら一瞬、大学生くらいのニイチャンに先を越された。うちは河内の子やから、こんなことでは負けへんねんけど、レジに置かれたのがコンドーさんやったんで、たじろいでしもた。ニイチャンはさっさと精算すると、柑橘系の……多分オーデコロンの残り香を残していってしもた。柑橘系は好きやけど、今のニイチャンは、醸し出す雰囲気が好きくなかった。

 美枝のうちは、八階建てのマンションの最上階。オートロックのインタホン押して呼びかけると、美枝の明るい声で「入っといで」

 エレベーターで八階に上がり、ドアのピンポンを押すと、同時に美枝がヒマワリみたいなに顔を出したんで、ちょっと拍子抜け。
 リビングに通されるまでの廊下を歩いて、4LDK以上の、ちょっとセレブなマンションやいうことが分かった。ファブリーズかなんかが効いてるんやろ、無機質なくらいニオイがせえへんかった。
「どないしたんよ、今日は?」
「今日はテストの前日やから、どうせ自習ばっかりやろ。それに昼までやし」
「え、ほなら、勉強ばっかりしてたん?」
 お土産のプレミアムチーズロールケーキを広げながら聞いた。美枝は要領よく紅茶を用意してくれてて、すぐにティーポットにお湯を注ぎにいった。
「あたしね、二年で評定4・0以上にしときたいねん。ほんなら三年になったら、特別推薦選びほうだいやろ。明日は、成績に差ぁのつきやすい数学あるやんか、あたし、これで点数稼ぐねん」
「わあ、ええなあ。うち算数は苦手やから、欠点やなかったらええねん」
「ココロザシ低いなあ」
 美枝は、小気味よくプレミアムチーズロールケーキをフォークで両断すると、トトロみたいな口を開けてパクついた。瓜実顔のベッピンが、そういう下卑た食べ方すると、なんとも愛嬌に見える。こんなことが自然にできる美枝が羨ましなった。
「そんなんやったら、三年でキリギリスになってしまうで」
「アホが一夜漬けしてもたかが知れてるしなあ」
「せや、明日の予想問題見せたげよか!」
「え、そんなん作ってるのん」
「ちょっと待っててな」

 美枝は自分の部屋にいくと、ゴソゴソしだした。で……ガラガラガッチャーンと美枝の悲鳴!

「ちょっと大丈夫!?」
 うちは、思わず美枝の部屋に駆け込んだ。美枝の部屋は美枝の雰囲気からは想像がつかんくらい散らかってた。
「見かけによらん散らかりようやな」
「アハハ、こんなもんやて。あたしは外面。はい、これ」
 渡してくれたプリントもろて気ぃついた。
「この柑橘系の匂い……」
「え……?」
 美枝の顔が、ちょっと歪んだ。うちはコンビニで会うたニイチャンの話をした。

「そう、コンドー買うてたん……」
 美枝の表情がみるみる嵐の気配になってきた。ほんで、びっくりした。
 ひっくり返ったゴミ箱から、未使用のまま鋏で切り刻まれたコンドーさんが一握り分ほど出てた。
「あたしのことが好きやねんやったら、こんなもん使わんといていうて、ケンカになってん……」

 そう言うと、目から涙がこぼれたかと思うと、机の上のもんを全部払い落として、美枝は突っ伏して号泣しだした。

 もう、秘密にでけへんね。

 あのときラブホで聞いた美枝の秘密は、リアル「おにあい」
 ただ、美枝はお兄ちゃんとは血のつながりはない。再婚親の連れ子同士。戸籍上の兄妹。
 親は共稼ぎで、家に居ることが少ない。で、いつのまにか、そういう関係になってしもた。

 ゆかりの「やめとき」が蘇ってきた。ゆかりが正しかったんかもしれへん。せやけど、うちは、ここまで見てしもた。

 こんなときに限って、うちの中の正成のオッサンはダンマリや……。

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高校ライトノベル・須之内写真館・36『赤いリボンの女の子・2』

2019-08-22 06:29:22 | 小説・2

須之内写真館・36
『赤いリボンの女の子・2』
        


 少女は、もう一度大きく驚いて顔を上げた。

「オネエサンは?」
「あたしは、これ」
 直美は、カメラを上げて見せた。
「カメラマン……ですか?」
「うん、寒くて熱いもの撮りに来たの」
「……なんですか、それ?」
「最初は、感じの良いアベックなんか撮ろうとおもったんだけどね……仕事よ、仕事」
「いまどき、こんなとこにアベックは来ないでしょ」
「でも、寒くて熱いものは見つけたわ。ほら、あそこで絵を描いてるお爺さん。もう何十年も、ここで絵を描いているそうよ」
「……そうなんだ」
「そして、あなたを見つけた」

 少女はびっくりしたような顔をした。ちょうど、そのとき船の汽笛が鳴ったので、二人とも驚いて、そして笑った。

「あなたも、なんだか寒そうで熱いみたいね……朝からずっと、ここに座ってるんだって?」
「どうして……?」
「あの、お爺さんから聞いた。人間て、なかなか独りぼっちにはなれないのよ。都会の孤独とかいうけど、誰かが見てるのよね。で、あたしみたいにお節介なのも、たまに居るし……その制服、かもめ女子高校?」
「……はい」

 直美は少女の胸のバッジに気が付いた。

「あなた、演劇部ね」
「え……」
 少女も胸のバッジに気がついたようで、ゆっくりと頷いた。
「そうよね、演の字が付いてるクラブ……演説部ってのはないだろうから」
 少女は制服の襟ごとバッジを握った。
「クラブのことで悩んでるの……かな?」
「学校に行ったら、役を降ろされるんです……」
「どうして……話が見えないなあ」
「来月の横浜芸文祭に……あたし、一人芝居の主役なんです」
「一人芝居?」
「はい、部員三人しかいないんです。一年は、あたし一人。他の二人は三年で、兼業で手伝ってくれる人はいるけど」
「その主役が、なんで降ろされるの?」
「あたし……稽古中に三回も倒れたんです。体の具合が悪くて、他に五回も稽古休んでるし」
「そっか……」
「こないだ倒れたときに、三年の先輩が代わりに入ったんです。音響や照明のキッカケもあるんで稽古は中止できないんです……先輩はほとんど完全に台詞が入ってました。それで、稽古が終わったときに、降りなさいって言われて……」
「でも、降りたくは無いんだよね」
「もう二ヶ月も稽古して、本番まで十日足らず……ここで降りたら負けなんです」
「なにに負けるの?」
「自分に……」
「でも、本番までに……本番で倒れたら芝居そのもの潰しちゃうよ。かもめ高校そのものの傷になる。そうは思わない?」

 少女は、黙り込んでしまった。小さいけれど熱い炎が胸で燃えているようだった。

「学校にも、お家の人にも言ってないのね、ここにいること……あたし、電話してもいいかな?」
 イヤとは言わないので、直美は電話することにした。
「もしもし、かもめ女子高校ですか……わたし、カメラマンの須之内直美と申します。演劇部の顧問の先生お願いします……」
 
 出てきた顧問の先生と直美は親しげに話した。学校でも心配していたようだ。お母さんも心配して学校まで来ているようで、電話に出たがったが、直美は、自分の判断で断った。

「今回はあなたの健康とか不安だから出せないけど、春の地区発表会には同じ芝居の同じ役で出てもらうって……」
「でも……」
「それでOKです。もうすぐ学校まで送りますから。先生には、その時にでも……失礼します」
「そんな、勝手に決めないで」

 少女は、泣き出しそうな顔になった。

「あのお爺さんが描いてる氷川丸ね。本当はシアトル航路の豪華客船だった。それが病院船になったり戦後は引き揚げ船になり、またシアトル航路の船になり、ユースホステルになったこともある。人もいっしょなんじゃないかなあ。その時々に見合った出番があるような気がする……さ、行こうか!」
「あ……」

 直美は、少女のカバンを持ってさっさと歩き出した。少女は付いて行くしかなかった。

 校門をくぐると、案内も無しにどんどん進んで、約束の応接室に入った。
「あたし、この応接室で退学届け渡したんだよ」
「え?」
「たった一年だったけど、あなたの先輩。一回の公演に出られないより、ずっと辛い思いをした生徒もいるのよ」

 入ってきたのは演劇部の顧問の他に、校長先生がいた。

「須之内さん、その節は……」
 校長が頭を下げた。
「止して下さい。もう、とっくの昔に済んだことですから……それより、この子のことを」
 少女は、具体的なことは分からなかった。だが、このカメラマンのオネエサンが大先輩で、大変な苦悩の果てに学校を辞めていったことを察した。

 そして、自分のこだわりがひどくちっぽけなものに思えた……。

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高校ライトノベル・小悪魔マユの魔法日記・10『ダークサイドストーリー・6』

2019-08-22 06:20:27 | 小説5

小悪魔マユの魔法日記・10
『ダークサイドストーリー・6』

 

「え……各駅停車……」

 片岡先生は、先週からダイヤが替わっていたことを忘れていた。先週までは、この時間は特急の通過であった。
 各駅停車でも目的を果たせないわけではないが、ホームに着く寸前で速度が遅い。
 片岡先生は、特急列車で景気よく跳ね飛ばしてもらい、きれいに即死したかった。

 それほど、メリッサ先生を見た衝撃は大きかった。

 片岡先生は気づかなかったが、メリッサ先生とシンディーは双子の姉妹である。それも、幼い頃、母親が亡くなり、別々の里親に育てられ、双子の姉妹がいることに二人とも気づいてはいなかった。
 だから、メリッサ先生が片岡先生を初めて見たときは、他人としての戸惑いでしかなかった。
 片岡先生も、中庭の池の鯉を見ているうちに、よく似た他人なんだろう……と、合理的に理解した。

 しかし、理解と納得は違う。

 それまで封印していた、シンディーへの思い出が、血を流しながら蘇ってきた。
 シンディーに会いたい……切なく、理不尽な願望で心が一杯になり、それは心の表面張力の限界を超えて溢れてしまった。
 そして、理不尽な願望は、飛躍した行動を彼に思いつかせた。

――死ねば、シンディーに会える……!

 で、片岡先生は、ホームで特急列車を待っていたのである。
 マユは、改札で、片岡先生の思念に気づいた。
 

――なんとかしなくっちゃ。
 

 マユは、うろたえた。悪魔の立場から言えば、人間の不幸は願ってもないことのように思えるが、実際は違う。
 読者にはもうお分かりかもしれないが、悪魔の役割は人を不幸にすることではない。人が正しい選択をするために、試練を与えることにある。
 たとえば、敵に追われて川辺にたどり着いた人間がいるとする。天使や神は、その時の人間の心の清らかさや、信仰心次第で、橋を架けたり、川を割って道を造って人間を助けてやる。
 悪魔は違う。ひとまず隠れる場所を与え、あとはホッタラカシにする。人間が苦しみ悩み、自分で結論を出し、行動をおこすのを待つ。ときにヒントとして、川の側に小さな木を植えたり、ゴロゴロの岩を用意しておく。人がそれに気づき、木を大きく育て橋を造ったり、岩を川に投げ入れ足場を作って、自分の力で解決するのを待つのである。時に、それは人間の時間で何世代もかかることがある。
 この試練と救済をめぐって、サタンという天使は神と争った。そして天界を追われ、悪魔の烙印を押されてしまった。オチコボレ小悪魔のマユは、そのへんの機微が分かっていないので、人間界に落とされて修行中の身なのである。

 方や、オチコボレ天使の雅部利恵(みやべりえ 天使名、ガブリエ)は、救済のなんたるかや、タイミングが分かっていないので、この人間界に落とされ、偶然……実は、神さまと悪魔、それぞれの名誉をかけて同じ学校の女子高生として送られてきた。
 で、無気力教師の片岡先生の閉ざされた心の奥を、互いに覗き込んでしまい、利恵の早とちりで、今回の不幸が起こってしまった。

 なんとかしなきゃ……このままでは、片岡先生は次の電車に飛び込んでしまう!

「先生、横に座っていい?」
 マユは、なんの思惑もなく、声をかけてしまった。
「あ、ああ……」
 片岡先生は、力無く答えた。取りあえず先生の飛び込みは阻止……しかし、後が続かない。

――先生の記憶を無くしちゃえばいいのよ。

 閉まった各停のドアから、利恵の思念が、お気楽に飛び込んできた。
 そんなの解決にならない!
 反発すマユであったが、と言って、簡単に道は見つからない。
 
 マユのこめかみから、一筋の汗が流れ落ちた……。

 つづく

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高校ライトノベル・連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・2

2019-08-22 06:09:32 | 戯曲
連載戯曲:サクラ・ウメ大戦・2
 
  大橋むつお
 
 
※ 無料上演の場合上演料は頂きませんが上演許可はとるようにしてください  最終回に連絡先を記します
 
 
 
時 ある日ある時
所 桜梅公園
人物 
(やさぐれ白梅隊)   (はみだし八重桜隊)
 ゆき(園城寺ゆき)    さくら(長船さくら)  (ITVスタッフ)
 咲江           百江           リポーター
 ルミ           純子           カメラ
 春奈           ねね           音声
 千恵           やや
 その他いっぱいいれば なお良し 
 
 
リポーター: おつかれさまあ。
ゆき: なんだ、そんなところから撮っていたんですか?
リポーター: いい絵がとれたわよ。
さくら: すみません、本当は、二人とも千鳥(前に進みながらザコを打ち倒すこと)の末に、とりまきをバックに太刀打ちってことになっていたんですけど……
 
   カメラが舞台に上がると、そろりそろりと、双方の生き残り数名が、ある者は、はにかみ、ある者はニコニコとカメラを意識して舞台に上がってくる
 
リポーター: 大丈夫、クライマックスはローアングルのバストアップで撮ったから、大丈夫よ。
咲江: ローアングルって、下から撮ること?
ルミ: パンツ写っちゃうんじゃない。
ゆき: 大丈夫スパッツ穿いてっから。
リポーター: 大丈夫よ、バストアップで撮ってから。
百江: さくらってペチャパイだからね。
純子: 下から撮ったら胸も大きく写るんじゃない?
さくら: うっさいよ、あんたたち!
リポーター: バストアップって、胸から上しか撮ってないってこと、ほんとはカメラ二台使って交互にカットバックでいきたかったんだけどね。編集で、なんとかするわ。
ゆき: ちょっと後からギューギュー寄ってくるんじゃないわよ!
さくら: 今ごろになって、出てくるんだもんなあ!
ねね: だって、あたしたちも写りたいしィ。
やや: そうだよ二人だけ目立っちゃって。
リポーター: 今、カメラ回ってないよ、ね、沢田さん。
カメラ: はい、バッテリーもったいないですから。
春奈: ええ?! じゃ、どうしてカメラ構えてんのよ。
リポーター: いつシャッターチャンスがきても撮れるように構えてるのよ、プロの常識。
春奈: ええ、せっかくファンデやり直したのに。
千恵: あたしずっとカメラ目線でいたんだよ。
百江: 放送局のケチ!
音声: 音声は生きてるんだけど……
百江: え! 音声さん美人よ! ねえ!
純子: ねえ、マイクの棒持つ手なんかスラッとしちゃって。
咲江: ア・エ・イ・ウ・エ・オ・ア・オ……
ルミ: 今頃発声練習してどうすんのよ。
ゆき: あんたたちねえ! あ、入ってんだ。
音声: いま切った。
さくら: ほんとに、あんたたち、さくらも満足にできないのね。
春奈: だって、あなたたち桜女子と違うしィ
さくら: その他多勢、エキストラって意味だよ!
一同: だって……!
やや: ねえ……
ねね: わけわかんないうちに連れてこられて百均の刀渡されて。
千恵: こっちも似たようなものよ、
ゆき: ちゃんと説明したろ。
さくら: 聞いてないんだろ。
百江: やっぱマニュアルとかさ……
リポーター: これはね、老人ホームに入ってる婆ちゃんたちが、取材に行ったらね。旧制女学校のころ、白梅と、八重桜の二校でよく果し合いしたって、なつかしい話になってね。それで急きょ後輩のあなた達に頼んで、模擬果しあいをしてもらったってわけよ。
ルミ: そういや、ゆきが老人ホームがどうとかって……
春奈: ああ、食堂でラーメンすすってた時。
純子: そう言や、さくらも、昼休みに、おにぎりかぶりつきながら話してた。
さくら: 飯時でなきゃ、みんあ集まらないだろうが!
ゆき: 先生達の気持ちがわかるよ……
咲江: だって……
リポーター: わかった。見せ場だけ、もっかい撮ろう!
 
 
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