スィティングルームでは、お屋敷のあれこれの説明をうける。
まず、コンセント。
あたしらが泊まる部屋は日本式の二の字のアダプターがかましたあるけど、それ以外はT型なので注意。そもそも電圧が240ボルトで、感電したら即死レベルやそうで、ビビる。 OK!
お屋敷の中は自由に歩いてええらしいけど、スタッフの個室とかは入らんといてほしいこと。 OK!
屋敷に限らず、水道なんかの生水は飲んではいけないこと。 OK!
ご飯は、ゲスト用のダイニングで食べること。 OK!
明日からの観光はエクスプローラーパスを使うので、たいていの観光地はチケを買わんでもええ。 OK!
屋敷のトイレはウォシュレットやけど、他の所は普通の洋式やから注意。 OK!
エディンバラは古い街なんで、幽霊の出るとこがあるから注意すること。 O……KOWAI!
それからは、午後のお茶になる。出てきた紅茶は部室で頂いてるのと同じ味と香りがした。
部屋に戻ると、目をキラキラさせて留美ちゃんが質問する。三人だけやのに、小学生みたいに「はい、質問!」と手を挙げるところが可愛らしい。
「イザベラさん、幽霊のお話してたけど、このお屋敷にはないんですか!? 開かずの間とか!?」
「あるわよ」
サラっと肯定する頼子さん。
「ほ、ほんまですか!?」
「なんで、言わなかったんですか?」
「言ったら、入ってみたくなるでしょ」
「あたしは、入りません!」
あたしは、そういうもんには弱いんです! ゲームでも、ホラーとかゾンビものとかはせえへんし!
「来るまでは、桜ちゃん対策だったけど、留美ちゃんのほうが危なそうねえ」
「ハハ、大丈夫ですよ。聞いてみただけだから。アハハ」
さて、来る日の合宿二日目。わたしら三人はジョン・スミスのボックスカーに乗ってエディンバラ城を目指す。
「いざ、しゅっぱーつ!」
到着した昨日とは打って変わって、ポシェット一個だけぶら下げて車寄せに待機してるボックスカーに向かう。
『ごいっしょさせていただきます』
翻訳機の声をさせてドアの介添えをしてたのはメイドのソフィアさん。
昨日のメイド服とは違って、あたしらと同じようなカジュアル。
頼子さんが「あれ?」というような顔をした……ような気がしたけど「わ、嬉しい!」と声をあげたんで思い違い?
ジョン・スミスが運転する車はヒルウッドの坂を上る。
ほんの五分ほどで峠に差しかかると、目の前にエディンバラの街が広がる!
街の真ん中には小高い丘が、そして、丘の上には黒々とエディンバラ城がそびえたっている。初めて見るのに、どこかで見た気がする。
『エディンバラ城はホグワーツの魔法学校のモデルなんです』
ソフィアさんが翻訳機で教えてくれる。
「ソフィア、間違っていいから、日本語で言った方が勉強になるよ」
ジョン・スミスが言うと、ソフィアさんは頬を染めて「ハイ」と言った。
そうか、ソフィアさんは日本語の勉強をしたかったんだ。
それなら、協力してあげなきゃと思った。