大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・048『エディンバラ・4』

2019-08-09 13:21:11 | ノベル
せやさかい・048
『エディンバラ・4』 

 

 

 スィティングルームでは、お屋敷のあれこれの説明をうける。

 

 まず、コンセント。

 あたしらが泊まる部屋は日本式の二の字のアダプターがかましたあるけど、それ以外はT型なので注意。そもそも電圧が240ボルトで、感電したら即死レベルやそうで、ビビる。 OK!

 お屋敷の中は自由に歩いてええらしいけど、スタッフの個室とかは入らんといてほしいこと。 OK!

 屋敷に限らず、水道なんかの生水は飲んではいけないこと。 OK!

 ご飯は、ゲスト用のダイニングで食べること。 OK!

 明日からの観光はエクスプローラーパスを使うので、たいていの観光地はチケを買わんでもええ。 OK!

 屋敷のトイレはウォシュレットやけど、他の所は普通の洋式やから注意。 OK!

 エディンバラは古い街なんで、幽霊の出るとこがあるから注意すること。 O……KOWAI!

 

 それからは、午後のお茶になる。出てきた紅茶は部室で頂いてるのと同じ味と香りがした。

 

 部屋に戻ると、目をキラキラさせて留美ちゃんが質問する。三人だけやのに、小学生みたいに「はい、質問!」と手を挙げるところが可愛らしい。

「イザベラさん、幽霊のお話してたけど、このお屋敷にはないんですか!? 開かずの間とか!?」

「あるわよ」

 サラっと肯定する頼子さん。

「ほ、ほんまですか!?」

「なんで、言わなかったんですか?」

「言ったら、入ってみたくなるでしょ」

「あたしは、入りません!」

 あたしは、そういうもんには弱いんです! ゲームでも、ホラーとかゾンビものとかはせえへんし!

「来るまでは、桜ちゃん対策だったけど、留美ちゃんのほうが危なそうねえ」

「ハハ、大丈夫ですよ。聞いてみただけだから。アハハ」

 

 さて、来る日の合宿二日目。わたしら三人はジョン・スミスのボックスカーに乗ってエディンバラ城を目指す。

 

「いざ、しゅっぱーつ!」

 到着した昨日とは打って変わって、ポシェット一個だけぶら下げて車寄せに待機してるボックスカーに向かう。

『ごいっしょさせていただきます』

 翻訳機の声をさせてドアの介添えをしてたのはメイドのソフィアさん。

 昨日のメイド服とは違って、あたしらと同じようなカジュアル。

 頼子さんが「あれ?」というような顔をした……ような気がしたけど「わ、嬉しい!」と声をあげたんで思い違い?

 

 ジョン・スミスが運転する車はヒルウッドの坂を上る。

 ほんの五分ほどで峠に差しかかると、目の前にエディンバラの街が広がる!

 街の真ん中には小高い丘が、そして、丘の上には黒々とエディンバラ城がそびえたっている。初めて見るのに、どこかで見た気がする。

『エディンバラ城はホグワーツの魔法学校のモデルなんです』

 ソフィアさんが翻訳機で教えてくれる。

「ソフィア、間違っていいから、日本語で言った方が勉強になるよ」

 ジョン・スミスが言うと、ソフィアさんは頬を染めて「ハイ」と言った。

 そうか、ソフィアさんは日本語の勉強をしたかったんだ。

 それなら、協力してあげなきゃと思った。

 

 

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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・10』

2019-08-09 06:30:33 | 戯曲
となりのトコロ・10 
大橋むつお

時   現代
所   ある町
人物  のり子  ユキ  よしみ
 
 
ユキ: さっきこぼれた憎しみが、わたしを睨んでる……シ……シ(ユキの体からも、ふたたび「気」が吹きだす)
のり子: ユキ!
ユキ: いや……もういや! いやだってば!
のり子: ユキ。どうした、大丈夫!?
ユキ: 大丈夫……大丈夫(後ろ向きのまま立つ)大丈夫よ(振り返る)憎しみは……また、再び体の中に、冷たくたぎりはじめたわ……
のり子: ユキ……
ユキ: 父さんをよこして……八つ裂きにしてやるわ。
のり子: ユキ……
ユキ: この五体をめぐる憎しみが、遠い昔の冷たく寂しい雪の心を思い出させてくれる……
 
むせぶ泣くような吹雪の音。雪がふる。
 
のり子: よして、ユキ……やめろよ!
ユキ: およこし、その傘男を。そしておまえもいっしょに死ぬがいい……
のり子: どうしてあたしが?
ユキ: むかし、若い男をあわれに思い助けてやって後悔したことがある。
のり子: (雪女のノリで)「山の掟をやぶった者を生かしておくことはできない……でもおまえの命は助けましょう……よいか、今宵のことは誰にも話してはなりませぬ。たとえ親であろうと、愛する者であろうと……話せば、そのとき、おまえの命はない……」てなこと言ったけど、結局雪女はその男を殺せませんでしたってことでしょ。その男に惚れちゃって。あたし、けっしてしゃべったりしないからさ!
ユキ: おまえは女だ。女の口に戸を立てるのは、茶柱をを立てるより一万倍もむつかしい。
のり子: え、それは差別だ。男女雇用機会均等法違反だ! ちゃんと友だちになったじゃんかよ。心が触れあった仲じゃんかよ!
ユキ: では、人と言っておこう。いっそ、おまえは猿だったらよかったのにね。うつろいやすい人の心を、そんな淡雪のように溶けやすいものを信じたわたしもバカだった。やはり四分の三ヒトであることの弱さか、わたしもしゃべりすぎた。理不尽だろうけどが死んでもらうよ。
のり子: な、なんとかしてよ。(傘に)だいたいあんたが悪いのよ。おやじさん! いい歳して、わがままで気弱く傘になって収まりかえってるんだから!
ユキ: 覚悟おし……
のり子: ね、お願いだから聞いてよ。ね、なんであたしが巻き込まれて死ななきゃなんないのよ! ね、お願い、どんなきれいで立派な傘になったからって、ずっと閉じることもないでしょ。ね、ちょっと、開いたくらいで減るってもんじゃあるまいし……
ユキ: さあああああああああああ、息を吹きかけてあげよう、絶対零度の冷たい息を。痛みも苦しみもなく、眠るように死んでいける……雪の世界に連れてってあげるわ……
のり子: ヒィ! ち、ちめたい! つ、冷たいよー。くそ、どうして、足から吹きかけんのよ。冷たい! どうして一気にやらないのよ。くそ、あそんでやがんなてめえ……あの、あのね、ただでもあたし冷え性なんだから。ね、おやじさんなんとか言って……ああ、足が……手が……手が……
ユキ: さあ、とどめをさしてあげるわ。フー……
のり子: ああ……眠くなってきた……眠く……あたし、死ぬの……死ぬのね……グー……
ユキ: 死ねえええええええ! フー……
 
 
傘が開く。
 
ユキも、眠りかけていたのり子も驚く。傘は色あせ、あちこちみすぼらしく破れている。まるで人生に傷つき、疲れ果てた中年男の心そのままに。傘は恥ずかしげに、ホロホロと涙をにじませながら泣いている。
 
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高校ライトノベル・高安女子高生物語・51『えらいこっちゃ!』

2019-08-09 06:26:31 | 小説・2
高安女子高生物語・51
『えらいこっちゃ!』
        


 今日は、公式と非公式の「えらいこっちゃ!」があった。

 高校二年にもなると、世間の手前「えらいこっちゃ!」と言うとかなあかんことと、心では、そう思てても口に出して「えらいこっちゃ!」と言うたらあかんことの区別ぐらいはつく。

 それが、一日に二つとも起こってしもた。珍しい一日や。

 世間の手前は、新しい校長先生が来たこと。

 世間には、一回聞いたら忘れられへん名前がある。例えば剛力 彩芽。苗字と名前のギャップが大きいんで、この人はテレビで一発で覚えた。これが、特別であるのは、たいていの人の名前は一発では覚えられへんという常識的な話。
 新しい校長先生は、府教委の指導主事やってた人。
 指導主事や言うだけで、うちはガックリや。何遍か言うたけど、うちの両親は、元学校の先生。せやから、よその子ぉよりは、学校のことに詳しい。
 指導主事言うのは、学校現場では使いもんにはならん先生がなるもんらしい。で、校長先生の半分は、教師として生徒やら保護者と協調でけへん人がなってる。新しい校長先生は、その両方が被ってる。せやから、着任の挨拶もろくに聞いてへん。もっとも、本人が前の校長さん以上に話し下手いうこともあるけど。

「どうですか、新しい校長先生がこられて?」

 学校の帰りに、テレビ局のオネエチャンに掴まってしもた。

「……今度のことは、うちら生徒には、大変ショックです。せやから新しい校長先生に指導力を発揮してもろて、一日も早く学校を正常化してもらいたいと期待してます」
 と、毒にも薬にもならへん、ええかげんな答をしといた。なんせ、その時には、新校長の名前も忘れて、顔の印象もおぼろ。せやから、最初の溜め息は、どないしょ!? いうだけの間。
 それが、テレビ局には「傷ついた女子高生の苦悩」みたいに写ったみたいで、他の生徒にもインタビューしてたけど、ニュースで流れたんはうちのインタビュー。なんちゅうても、こないだまでは演劇部やったさかい、悩める女子高生一般なんかチョロイもん。
「学校の主人公であるべき生徒たちは、このように傷つき混乱しています。民間人校長のありようが問われ、なによりも一日も早い正常な学校生活の復活が望まれます」
 と、オネーチャンは締めくくってた。どーでもええニュースやったけど、学校の主人公が生徒やいうのには引っかかった。主人公やなんて感じたことない。学校いうとこは上意下達。下々の生徒風情が主人公やなんて、日本の平和は憲法9条のおかげやいうくらいに非現実的。

 もう一個の「えらいこっちゃ!」は、関根先輩からメールがきたことーーーー!!

 そやかて、うちは先輩のアドレス知らんし、先輩もうちのアドレスは知らんはず……それが、どうして!?

 犯人は……正成のオッサンらしい。

 こないだ、オッサンのタクラミで、関根先輩に告白させられてしもた。せやけど、正成のオッサンは、スマホなんちゃらいうもんは知らんさかい、アドレスの交換なんかはせえへんかった。しかし、うちに覚えがないいうことは、うちの中に居てる楠木正成のオッサンしか考えられへん。
「やっぱり、オッチャンか?」
「ああ、日々学習しとるさかいな。明日香が寝てる間に、チョイチョイとやっといた。三人ほど電話したら、すぐにアドレス分かったで」
「さ、三人て、だれやのん? なに言うたん!?」
「人の名前て、すぐ忘れるよってな。最後の一人だけ覚えてる」
「だ、誰やのん!!?」
「田辺美保。こいつは明日香の恋敵でもあるさかいな。牽制の意味もこめて電話しといた」
「で、なに喋ったん……いや、うちに何喋らせたんや!?」
「忘れてしもたなあ。まあ、ええやんけ。これで二三歩は関根君に近づいたで。アハハハ」

 豪快な笑いだけ残して正成のオッサンは、うちの奥に潜ってしまいよった。

 怖いよって、なかなか関根先輩のメールは開かれへんかった……。
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高校ライトノベル・里奈の物語・50『ハズレのたこ焼き』

2019-08-09 06:20:06 | 小説5
里奈の物語・50
『ハズレのたこ焼き』 


 ハズレのたこ焼きがあった。

 外見ははち切れんばかりにまん丸なんだけど、齧ってみると中味が無い。
「ヤダー!」
 横浜言葉で驚くと、美姫もケラケラ笑った。
「あ、あたしもや!」
 美姫のトレーにも空洞のたこ焼きがあって、二人の十七歳は爆笑してしまった。
「あ、申し訳ない! すぐ良品と替えます!」
 爆笑を聞きつけた店長さんが、慌てて300円分のたこ焼きをくれた。
「どうもすみません」
 美姫といっしょに恐縮する。たこ焼き機の向こうで新人とおぼしきオニイサンが顔を赤くして頭を下げている。
 ハズレのたこ焼きは、美姫のもあたしのも一個しかなかったので、代品のと合わせて11個ずつたこ焼きを食べてしまった。
 たこ焼き1個のカロリーは50Kカロリーぐらいだから、550Kカロリー。お八つのカロリーには高すぎる。
「……少女は、こうしてブタになっていく」
 美姫が芝居の台詞のように言うもんだから、駅前のたこ焼き屋さんは笑いに満ちた。

「うちの演劇部て、ハズレのたこ焼きや……ハハハ、あかんなあ、いつまでも引きずってたら! ほな、里奈、またね!」

 鞄とポニーテールをぶん回して、美姫は帰って行く、ドラマのヒロインみたい。
「ああやらないと、また泣いちゃうんだろうな……」
 美姫を見送って家に帰る……そう独り言ちて笑っちゃう。
 いつの間にか伯父さんちが我が家になってしまっているじゃないか。

 晩御飯食べて、桃子で『大阪の高校演劇』を検索してみる。

 さすが大阪。
 連盟加盟校が114校もある。全国で加盟校が三桁いくのは、他に東京と神奈川しかない。奈良は23校ぽっち。
「あらら……」
 去年の近畿大会では大阪は全滅……各賞も、ネットで見る限り受賞していない。
 気になるので、美姫の地区を覗いてみる。
「9校……おや?」
 古い記録を見て気づいた。美姫の地区は、この数年で大きく加盟校を減らしている。かつてのコンクールでは、参加校が多くて、地区のコンクールでは収まり切れずに、よその地区で出ている学校もある。
 それが、去年は参加7校しかない。
 K高校の顧問がハッタリをきかすのも分からないではない。でもね……。
 動画サイトで大阪のトップ演劇部の映像を観る。
「……こんななんだ」
 ダイジェストだけど、二本観てため息。
 照明や道具の見てくれはいいけど、肝心の芝居が痩せている。
 本が訳わからないし、演技ができていない。
「泣きや笑いぐらいはできなくちゃね……キャッチャーのところまで投げられないピッチャーみたいなもんだよ……」
 高校演劇というのはハズレのたこ焼きみたくなってくているなあ。

――里奈ちゃん、お風呂入ったら!――

 階下からおばさんの声がした。
 時計を見ると日付が替わりかけていた。
「ごめんなさい、いま入ります!」
 で、お風呂からあがると、高校演劇のことなんか、頭から消えてしまっていた。

 美姫も熱いお風呂に入ればいいよ。
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高校ライトノベル・須之内写真館・23『乃木坂学院高校演劇部物語』

2019-08-09 06:12:40 | 小説4
須之内写真館・23
『乃木坂学院高校演劇部物語』      


「まどか、どうしたのよ!?」

 仲鉄工のオバサンが目を丸くしNOTIONの女専務もにこやかに寄ってきた。
「アズマテレビの収録を朝までやって、家に電話したら、ここで忘年会だって言うから、やってきちゃった」
「まあ、大歓迎だわよ。まどか、ご挨拶して。今日お世話になる須之内写真館のみなさん」
「あ、突然押しかけて申し訳ありません。懐かしの忘年会っていうんで、アポ無しでやってきて」
「いいえ、まどかさんが、仲さんの娘さんだなんて知らなかった。大歓迎です!」
「あの……実は、あたしだけじゃないんです」

 その言葉が合図だったように、続々とスタッフが入ってきた。

「お久しぶりです。仲さん、伍代さん。まどかが、町内の忘年会だって言うもんで、便乗して取材させていただきたいと思いまして」
「まあ、白羽さんじゃありませんか。娘がお世話になりまして、『春の足音』のロケ以来ですね!」
「実は、来年の春に『乃木坂学院高校演劇部物語』をドラマ化することになりましてね。舞台の半分は南千住なもんで、モデルになる街の方々に一遍にお会いできるいい機会だと、お邪魔いたしました次第です」

 直美は、すかさずスタッフの人数を確認して、奥へ引っ込んだ。

「いい写真館ですね。俗な言い方ですが、昭和の匂いが残っています」
「恐縮です」
 玄蔵爺ちゃんと、息子の玄一が照れて頭を下げる。
「白羽さん、このディスプレーいいですよ!」
「ほう……凝ってますね」
 スタッフとまどかがショ-ウィンドウのディスプレーに向かった。
「うわー、入って来るときには気づかなかったけど、サンタが飛び回って写真にライトが当たるのいいですね」
「写真もいいですね。このルミナリエと、この昔風の女先生みたいな女性」
「その写真は……」

 玄蔵爺ちゃんは、写真についての話をした。

「……そんないい話があるんですか。やっぱり、こういうモノには写す方と写される側の人間が出るんですなあ」
「いやあ、勉強になります」
 カメラさんが、いっそう熱心に写真を見始めた。
「このドレスの女の子、いいですね」
 カメラマンは、杏奈のドレス姿の写真に目を付けた。
「この子、ほとんどノーメイクみたいですね」
「照明も、当たり前のシュートだ」
 メイクさんと照明さんがプロらしく分析をしていく。
「美人と可愛いの中間だけど、人物に奥行きを感じますね」
 と、プロディユーサー。
「会ってみたいな、この子……」
「スカウトだったら、手遅れですよ。この女先生のひ孫といっしょに、ヒカリプロで修行中です」
「残念……」
「デビューしたらひいきにしてやってください」

 そして、夕方になると、南千住商工会の面々が集まってきた。みんなテレビのクルーと仲まどかが来ているのに驚いている。

「オイチャン、おひさー!」
「べっぴんになっちまって」
「爺ちゃんも来たの?」
「ああ、まだお迎がこねえもんでな」
「見てくれよ、まどかちゃん。うちの子、こんなに大きくなっちゃった」
「うわー、奥さんにそっくり!」
 下町らしく話が盛り上がったところで、もう一人客が来た。
「わあ、はるかちゃん!」
 まどかの先輩女優の坂東はるかがやってきた。
「水くさいわよ、まどか。局で聞いてやってきちゃった。みなさんご無沙汰してます」
「いよー、掃きだめの鶴が揃った。会長、乾杯しましょう!」

 坂東はるかは、NOTIONの社長の離婚した奥さんとの間の娘だが、なんのくったくもなく、父や父の新しい妻である秀美さんともうちとけている。直美は、二人の自伝的小説『まどか 乃木坂学院高校演劇部物語』『はるか 真田山学院高校演劇部物語』を読んでいたので内実は分かっていたが、現物を目にすると感じるモノが深く。気が付くと何枚も写真を撮っていた。
 酒とサカナは、直美が気を利かして追加注文しておいたので、テレビクルーも食いっぱぐれることもなく、ご陽気に宴会は進んだ。

「直美さん、いい写真撮りますね!」
 
 撮った写真をセレクトしていると、カメラマンが覗き込んで感心した。
「この撮り方……雑誌で時々……直美さんでしたか!?」
 さすがはプロ。見抜いてしまった。
「そうだ、こんどの『乃木坂』の企画に直美さん入ってもらえませんか。どんな形かはあとで考えて、直美さんの感性はピッタリだ!」

 で、意外なところで仕事の話が決まった。

「直美、集合写真撮るの忘れてるぞ!」
 玄蔵爺ちゃんが気がついた時は、みんな出来上がっていた。
「今から、撮りまーす!」

 実にご陽気で人間的な集合写真が撮れた。

 まどかとはるかのシャメといっしょに、杏奈と美花に直美は転送してやった。





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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・91』

2019-08-09 06:01:23 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・91
『第八章 はるかの決意14』 


「なかなか味のある店ですね、壁のサインいいですね。仰々しく写真や色紙でないところがいい……ほう、うちの事務所のもありますなあ」

「白羽さんも、よかったらどないですか?」
「いいんですか」
「どうぞどうぞ」
 おかあさんが、油性ペンのセットを渡した。

「ハハ、やっぱり、壁というとこれになりますなあ」
 白羽さんのそれは、ヘノヘノモヘジ。その横に控えめなサインと日付。
「はるかさんのサインもいつか並ぶといいですね」
 さりげなく、そういう話題にもってきたか……。
「だって、これ、みんなプロのアーティストですよ。わたしなんか……」
「まだスペースは空いてる、書いてもかめへんで」
 油性ペンを渡された。
「うーん……卒業するときに書きにきます。今は、まだ夢も思い出も中途半端で」
「はるか……」
 お母さんが、少し当惑したように呟いた。
「ただの卒業記念だからね」
 油性ペンを返した。
「そのときには、進路も決まってるやろけどな」
「平凡な女子大生かOLさんかもよ」
「じゃ、わたしの横。空けといてもらえますか」
 白羽さんがニッコリ言った。
「はい、リザーブさせてもろときます」

「先に野暮用を……」
 白羽さんは、わたしの顔を正面から見て、にこやかにこう続けた。
「この職業の性だと許してください。はるかさん、あなたを女優として育てたい」
 タキさんと、お母さんが一瞬フリ-ズした。

「わたし、高校演劇がやりたいんです」

 ストレートな答えになってしまった。失礼だったかなあ……。
「いや、それでいいんです」
 白羽さんは、ゆっくりとワインを口にした。
「すみません、生意気な物言いで」
「いや、わたしも気が短くていかん。はるかさんは、しっかり高校生をやってください。ただ、早く言っとかないと、よそに取られそうな気がしましてね。わたし久々にときめいております」
 そうして白羽さんは続けた。
「近頃の高校生は、マスコミで作られた高校生のイメージに自分をはめ込みすぎている。マスコミも、それを今の高校生と思いこんでいる。滑稽な話です。もっとオリジナルで、自由な高校生の姿があるはずです。はるかさんにはそれがありそうだ。たとえうちにきていただけなくとも、素敵な高校生活を送ってください」
 あとは、学校での他愛ない話をして、白羽さんはそれをニコニコ聞いて、ときどきメモをとって……それで、おしまい。
「また、会ってくださいね。ボクは諦めませんから。かまいませんか、お母さん?」
「え、あ、はい……!」
 お母さんは気を付けをした。

 白羽さんは、お見通しのようだった。
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