大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・せやさかい・049『エディンバラ・5』

2019-08-11 13:42:04 | ノベル
せやさかい・049
『エディンバラ・5』 

 

 

 前方に迫ってきたエディンバラ城が左に逸れる。

 駐車場に向かうのかなあ。

「お城の南側に車を止めます。車は、いったんお屋敷に戻して夕方にお迎えにくるようにします」

 あ、ジョン・スミスさんとはお別れか……ちょっぴり寂しく思っていたら、着いた石畳の道には見覚えのあるオネエサン、あ、プライベートジェットのクルーさんだ。

 みんなが下りると、オネエサンはジョンと運転を代わって帰ってしまった。

「メグは、市内から通ってるから、ちょうどいいんだって」

 なるほど、通勤の途中で車を預かれば効率的や。イギリス人のやる事は合理的やなあ。

「じゃ、いくよ!」

 頼子さんが添乗員みたいに小旗を掲げて先頭に立つ。

「ワタシ、ヤリマス」

 ソフィアさんが名乗り出て小旗を引き受ける。頼子さんが英語で一言二言いうが、ソフィアさんは斧を振り下ろすような勢いで頷く。責任感の強い女の子なんやろなあ。

「サカ ノボリマス デス」「ヒダリ マガリマス デス」「ミギ マガリマス デス」「モスコシデス」

 こんな感じで進んでいって、登り切ったところで宣言する。

「ココ ロイヤルマイル  デス! メインストリート デス!」

 デスに力が入るので、なんだかデスノートみたくで、正直おかしいねんけど、笑ったら失礼なんで、必死にこらえる。

「マッスグ イク デス! テイク ア フューミニッツ ウイ アライブ……エディンバラ キャッスル エディンバラジョウ デス!」

 ロイヤルマイルという名前の通りらしい。

 四車線幅ほどの石畳やねんけど、車が通れるのは二車線ほどで、車道と歩道の区別もない。おおぜいの観光客がゾロゾロ歩いてて、道の両側は五階建てくらいの石造りの家やらお店やらが長屋みたいに引っ付いて、微妙なカーブの先まで続いてる。たぶん、どん詰まりがお城やねんやろなあ。

「あ」

 留美ちゃんが小さく声をあげる。

 いきなり長屋が切れて、サッカーコートくらいの広場が出現。

 広場の突き当りに石造りのゲート。ゲートの向こうには黒々と城壁やらタワーが聳えてる。ゲートの脇にはチェックのスカートみたいなんに鉄砲担いだ兵隊さんがガードしてて、日本風に言うたら城の大手門やいうことが分かる。

「エト エ アウ……ヨリコサン、カワッテクダサイ デス」

 どうやら、ここからの説明はむつかしいらしい。翻訳機を使うても、英語で入力してからの翻訳になるからテンポが悪くなる。区切りもええことやし、頼子さんも――そだね――という顔をして、添乗員の小旗を引き受ける。

「左右を見て」

 頼子さんに言われて初めて気ぃついた。

 なんと、広場の両脇には競技場の観覧席みたいなんがそびえてる!

 正面のお城に目を奪われて気ぃついてなかった。

「ここて、お城の入り口ですよね?」

「そうよ、大坂城で言うと、大手門前の広場。観客席は特設でね、夕方になったら『ミリタリー・タトゥー』が始まるの」

 ミリタリー・タトゥー?

 軍隊の入れ墨? なんのことやろ? 

 

 

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高校ライトノベル・高安女子高生物語・53『さくらがうっとこにやって来た!』

2019-08-11 06:35:14 | ノベル2

高安女子高生物語・53
『さくらがうっとこにやって来た!』



 さくらがうっとこにやって来た!

 さくらが、わたしのところにやって来た……標準語に訳したらこないなる。
 遅咲きの桜が咲いたわけでも、寅さんの妹の「さくら」が来たわけでもない。

 売り出し中の高校生女優の佐倉さくらが、三時間目の終わりにガンダムに連れられて、うちらの二年三組にやってきたんや!

 なんでも、『はるか ワケあり転校生の7ヵ月』の映画版を撮るんで大阪にロケに来てるらしい。ほんで鈴木由香いう大阪の女子高生やるねんけど、なかなか大阪の感覚が出てけえへんさかい、急遽わがOGH高校に来て勉強するらしい。

 で、うちが、その世話係に任命された!

 うちらは普通にやってるつもりやけど、さくらちゃんにはカルチャーショックやったみたい。

 大阪の高校は、たいていそうやと思うねんけど、当たり前には授業は始まらへん。

 さくらちゃんは休み時間の間、みんなにベタベタされて、シャメ撮りまくられて、またまたビックリ。うちは世話係やさかい、必要以上にみんなが近づかんようにガード。しかし大阪を肌で感じてもらわならあかんよって、過保護になってもあかん。どさくさ紛れに、さくらちゃんの体触りに来た男子三人ほどに、分からんようにケリを入れたぐらい。

 四時間目は、うちと反りの合わへん南風先生。

 知ってると思うけど、演劇部の顧問。うちは先輩の鈴木美咲がいややさかい、実質は退部してる。で、先生もうちのことをニクソイやつやと思てる。けど授業は別や。そこの区別が付かんほど、お互いアホやない。
 四時間目も、最初はお祭り騒ぎ。南風先生もアホやないさかい、調子合わせて、みんなで撮り足らんシャメの続き。様子を見てたガンダムに頼んで、集合写真まで撮った。
 授業に入ると、いつも通り。兼好法師の『徒然草』やってんねんけど、そこの「仁和寺の法師」をみんなの前で読まされた。まあ、これが南風先生の「これ読めるくらいやったら、演劇部に戻っといで」いうナゾやいうことぐらいは分かる。なんちゅうても本業の女優さんの前で読ませるやから、対抗意識……その手にはのりません。

 昼休みは食堂に行った。

 案の定ワヤクチャやったけど、短時間で大阪を実感してもらうのにはええと思た。

「わあ、たぬきそばって、ほんとにテンカスが入ってないんだ!」

 さくらちゃんは妙なとこで感心。あ、そうか、このエピソードは『はるか』の原作の『真田山学院高校演劇部物語』にも出てくる。大阪の「たぬきそば」は、そばにアゲが載った「きつねうどん」のそばバージョン。東京は「すうどん」の上にテンカスが載ってる。他にもアイスコーヒーを関西では「レーコ」という。こういうささいな文化の違いは、同じ日本やから、外国よりもショックになる。

「はるかさんとは、こないだ真田山の同窓会いかはるとこで会うたんですよ」
「ええ、そうなんだ」
 この「そうなんだ」も大阪では、やや冷たく感じる。大阪は、まんま「え、ほんま!?」 で、東京では、この疑問形の感嘆詞は、逆に疑うようで、冷たく感じられる。
「もう、大女優の貫禄やったね。はるかさんは……あ、ここつっこむとこ」
「え?」
「あたしは、普通の大阪の女の子の勉強にきてるの……てな具合に。せやないと、女優としての品定めみたいになるよって。距離の取り方と、話題の切り替え。これ、勝負所やね」

 うちの口から出任せを、さくらちゃんは、真面目にメモしてた。

 放課後は、南風先生は演劇部に呼びたそうにしてたけど、さっさと家に帰る。鶴橋の駅では、焼き肉の匂いに感心してた。これも『はるか』には出てくる。整列乗車の微妙なエエカゲンさ、電車の中では、スマホ以外にピーチクパーチク喋ってる高校生やらオバチャンを観察してた。

「ほら、あれが高安山の目玉オヤジ。気象観測用のレーダーやけどね、『はるか』では重要なファクターになってるでしょ?」
「明日香ちゃん『はるか』に詳しいのね」
「うん、うちの愛読書。高安を舞台にした本なんか、他にあらへんさかいにね。ハハ、隣の車両に原作者と、その横、さくらちゃんのマネージャーとちゃう?」
「あ、ほんとだ」
「知らんふりしてよ。向こうも、そのつもりらしいから」

 それから電車は、布施、八尾、山本を通って高安へ。車窓から覗くだけやったけど、周りの景色には興味津々いう感じ。
「なんか、微妙に、人の距離感が違う」

 帰りは、ちょっと遠回りして高安銀座を通って家へ帰った。
 今夜は、さくらちゃんをダシにして、普段呼ばれへん子ぉらを呼んで、宴会。正成のオッサンの手ぇ借りんと、関根先輩にアプローチ。

 物事は、ギブアンドテイク。よう覚えときや、さくらちゃん。

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高校ライトノベル・里奈の物語・52『どうして……!?』

2019-08-11 06:25:56 | 小説5

里奈の物語・52
『どうして……!?』 

 
 

 劇団北斗星の芝居はマチネーだったので、劇場を出ても日は高かった。

「半端な時間やけど、飯でも食うか?」
「うん!」
 元気よく返事をしたところで、拓馬のスマホが鳴った。
「祖父ちゃん、なに?」
 電話は、拓馬の祖父からだ。拓馬の目が真剣になったので間合いを取った。
「……うん、うん、そらかめへんねん……今すぐ帰るから、気にしいな。ほんなら……ごめん里奈、用事ができてしもた」
「お祖父さん、具合が悪いんじゃないの?」
 思わず深入りした物言いになる。
「え、うん。電話できるぐらいやから、大したことはないと思うんやけど……じゃ、ごめん。またな」

 大したことだったんだろう、拓馬は、その場でタクシーを掴まえて行ってしまった。

 さよならも言えなかった。なにか言葉をかけようとして、その言葉を探しているうちに拓馬は行ってしまった。
「ハアーーーーーーーー」
 長いため息を一つついて、地下鉄の駅に向かう。
 ついさっきまでは空腹だったお腹が重い。もう真っ直ぐ帰ろう。

 しけた顔で帰るのがやなんで、鶴橋で降りて歩く。

 自販機の前、腰に左手を当てて、グビグビと缶コーヒーを飲んでいる法被姿のオッサンが目に入る。
 どうして男というのは腰に手を当てて飲むんだろう……おっかしい……心が、少しだけほぐれる。
 

「お、アンティーク葛城の里奈ちゃん!」
 オッサンが振り返り、気安く言葉を掛けてきた。
「あ……」
 法被の襟に『デトロイト靴店』のロゴ。あの万年閉店セールの靴屋さんだ。
「おおきに、うちのハイカットスニーカー履いてくれてるんやね」
 目ざとく、オジサンは靴に目を停める。
「憶えていてくれたんですか?」
「忘れるかいな。こんなにハイカットスニーカーが似合うベッピンさんは、めったに居てへんからね」
「ハハハ、うまいんだ。お世辞でも嬉しい」
「ちゃうちゃう、お世辞やないで。街猫まもり隊のオバチャンらも言うてる」
「え、小母さんたちが?」
「せや、猫田さんなんか、あんな子が孫やったらええにになあて、ため息ついてたよ」
「またまたあ」
「いや、ほんま。またお似合いのパンプスとかあるから、店の方にも来てね。ほな、仕事やから、またね!」
 オジサンは四車線の道路を軽々と渡って店に戻っていった。翻った法被の下に名札が見え、オジサンが福田さんであることが知れる。
「憶えておこう。あたしの名前覚えていてくれたんだから」

 福田さんのお蔭で軽くなった心は、電柱一本分向こうに見えてきたアンティーク葛城、その店先に出てきた男の姿にふたたび重くなった。
 まるで、いきなり鉄の塊を落とされたようなショック!
 反射的に、すぐ横の路地に入り、男が通るのをやり過ごす。

――どうして……!?――

「……ただいま」
「あ……おかえり」
「おかえり……」
 

 伯父さんも、おばさんもよそよそしい……思い切って聞いた。

「来てなかった?…………お父さん?」

 伯父さんもおばさんも固まってしまった。 

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高校ライトノベル・須之内写真館・25『渋谷のハチ公』

2019-08-11 06:16:39 | 小説4
須之内写真館・25
『渋谷のハチ公』         


「おや、メガネかけるんですか?」

 松岡さんの第一声。
「あ、外すの忘れてました」
「よくできたカメラですね……」
「分かりました?」
「うん、フレームが似合いすぎてる」
「え……?」
「直美さんのファッションは、少しずれてるのがコンセプト。その中で、このブラウンフレームは似合いすぎてる」
 直美は、自分のナリを見渡してみる。
「なるほどね……今時アメセコの戦闘服にユニクロのストレッチジーンズなんていませんよね。アハハ、学生時代からずっとこれなんで意識もしなかったです」
「惜しいなあ、ちょっとコス替えるだけで、ウチで働けますよ」
「あ、そうだ。まず、そのお詫びを遅ればせながら……」
 直美が恐縮の表情になる前に、松岡は照れた。
「杏奈とサキのことでしたら、もうけっこうですよ。決まったその日にヒカリの会長さんが直々にこられたんで恐縮しっぱなしなんです」
「でも、もとはと言えば……」
「それ以上言ったら、ウチで働かせますよ」
「アハハ」
「ハハハ、どうです、駅の方に行ってお茶でもしますか」

 店の子には聞かせられない話題も出るかと、松岡は気を利かせた。

「昼間の道玄坂って静かですね」
「まあ、街全体が準備中みたいなもんですから。あんまり面白い写真は撮れないでしょ」
「フフ、けっこう面白いですよ。なんだか起きる寸前の女の子。それもスッピン」
「面白いたとえだなあ」
「夜しか来たことがないんで、この時間帯は、なんというか……」
「ゴミが多いと思ったんじゃないですか?」
「いえいえ、とってもきれいです!」
「昼間、駅へのショートカットに通る人もいますんで、商店会の申し合わせで気を付けてます」
「あ……!」

 とってもいい被写体を見つけたので、直美は思わずメガネカメラで写真を十枚ほど連写した。



「直美さん、ハチ公が見えたんですね?」
 ストローの袋を捻りながら松岡が言った。
「やっぱり、あの犬ハチ公って言うんですか!?」
「ええ、でも写真には写ってないと思いますよ」
「え……」
 直美は、カバンからモニターを出して再生してみた。
「ほんとだ、写ってない……」
「見えない人が多いんです。そうか、直美さんは、あれが見える人なんだ」
「ハチ公の幽霊ですか……?」
「分かりません。良く晴れた昼間にしか見えないんです。こういう仕事やってると験担ぎになりましてね。あの犬は、このあたりの……座敷童みたいなもんだと思ってます」
「そうですか……いいもの見ちゃった!」
「で、サキ……いや美花と杏奈はうまくやってますか?」
「ええ、入部したての運動部員みたいでした」
 直美は、一日密着して撮った二人の写真を見せた。
「いいな……顔が生き生きしている。美花は心配だったんです」
「ヒカリプロがですか?」
「いいえ、あの子はウチの店というか、この業界に合いすぎてるんです。放っておけばガールズバーから、そのままバーやクラブに深入りしてしまう子だと心配してたんです」
「そうですか……じゃ、良かったと思っていいんですね?」
「もちろん。ウチで面倒見なきゃならない子は、いくらでも居ますからね、あの二人は希望です。大成してくれることを願ってます」
「あ、そうだ。あの子達、子犬を飼い始めたんですよ。ほら、これ!」
 直子がモニターを見せると、松岡は目を細めた。
「朝、起き抜けのジョギングから一日が始まるんですけどね。そのジョギングの途中から付いてきて離れなくなっちゃったんです。で、会長さんが、ファンの第一号だって飼うことになったんです」
「オスですか?」
「もちろん。で、名前はファンタって言うんです」
「ハハ、なんだかペプシのCM犬みたいだな」
「ファン第一号で、太郎。ファン太郎じゃ長いんでファンタです」
「ハハ、そりゃいいや!」
 そのとき、グラスの水滴が捻ったストローの袋にかかり、袋は楽しげに踊っているように見えた。

「ほんと、社会探訪のつもりで一回ウチで働いてくださいよ。コスは……11号。靴は23・5と踏みました」

 直美は、笑ってすましたが、これが、やがて現実になる。だって、直美は、あの犬が見えたんだから。
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高校ライトノベル・『はるか 真田山学院高校演劇部物語・93』

2019-08-11 06:07:42 | はるか 真田山学院高校演劇部物語
はるか 真田山学院高校演劇部物語・93




『第八章 はるかの決意15』

 いよいよ真田山学院高校の番だ。わたしたちは舞台に上がった。
 二つほどチョウチン質問があったあと、ちょっと間があって、大橋先生が手を上げた。

「真田山学院高校に対する、審査員の方のコメントが、審査発表のときのそれと著しく異なります。曰く、作品に血が通っていない。曰く、行動原理や思考回路が高校生ではない。きれいに抜け落ちています。この方の評はネットに載っていましたので、トラックバックで質問したところばかりです」

 先生もやるう……。

 会場のみんながページをめくる音がした。わたしは、自分の顔が険しくなっていくのを隠しながら舞台を下りた。
「もう一点。この浪速高校演劇連盟のコンクールは百二校が参加し、そのうち既成作品は実質五校しかありません。著しく創作に偏っています。本選だけを例にとっても……」
 先生が、あとを続けようとすると……。
「ここは先生の演説の場とちがいます。他にも発言したい生徒がいます。もうやめてください」
 会場校の先生が言った。大橋先生は、一呼吸してこう言った。
「諸君、もっと本を読んでください。創作は否定はしない、しかし本を読んで勉強してからにしてほしい」
「大橋先生!」
 と、R高の先生。
「もう一点。審査基準を持ってください。以上……」
 会場が、静かにどよめいた。
「審査基準なかったんか」
 などと、ささやく声もした。
「えー、ほかに質問のある人はいませんか……いませんか……じゃ、そこの人。学校名とお名前言うてください」
 そこで初めて、自分が手をあげたことに気がついた。
「真田山学院高校の坂東はるかです(深呼吸をしたが、もう止まらない)さっき発言された先生が国語の先生でないと信じます。国語の先生なら合評会の意味をご存じないわけがないからです」
 R高の先生の刺すような視線を感じた。血が頭の中で沸騰した。
「合評会とは、たがいに批評しあう場と、広辞苑にも載っています。そして批評とは、物事の善し悪しを評価し論じ合うこととあります。さっき大橋先生が言われたことは、わたしも思っていたことです。だから答えてください。それから大橋先生はこうおっしゃいました。審査基準を持ってくださいって……審査基準、無いんですか、ほんとうに?」
「それは、君なあ……!」
 R高の先生が、わたしを指さした。
 売られたケンカなら買ってやる! わたしはR高の先生とにらみ合った。

「はるか、やめとけ!」
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高校ライトノベル・連載戯曲『となりのトコロ・12』

2019-08-11 05:59:35 | 戯曲
となりのトコロ・12 
 
大橋むつお
 

時   現代
所   ある町
人物  のり子 ユキ よしみ
 
 
よしみ: トドロオオオオオオ! トドロ……トドロよかった。間にあった!
のり子: よしみ!
よしみ: ほんとに間にあってよかった。
のり子: どうしたの?
よしみ: 先生がもどってきてほしいって!
のり子: 先生が?
よしみ: さっき帰ったら「トドロに会ってきたんだろう」って。先生みんな知ってんのよね。そいで先生「もういっぺんタバコ買ってこい」って。この期におよんで、まだタバコが大事なのか! あたし腹たっちゃって、聞こえないふりしてベタ塗りしてたの。そして、やっと気づいたの。「もういっぺんタバコ買ってこい」って、トドロを呼びもどしてこいってことだったのよね。「タバコ買ってきま~す!」って叫んで、ドアを開けようとしたら「タバコ屋にこれ渡してこい」って……(大型の封筒を渡す)ん……だれかいた?
のり子: え……ううん。
よしみ: そっか。早く開けてごらんよ。
のり子: うん……再来年の劇場用アニメの企画書……
よしみ: 「トコロの森」
のり子: え?
よしみ: 原案、轟のり子。
のり子: ……
よしみ: トドロのアイデア半分もらったって。常呂の森が人の心を癒すところが、とてもいいって。
のり子: 先生……こないだの先生の旅行先……北海道だったよね?
よしみ: うん、先生言わないけど、たぶん常呂の森のロケハン。トドロ……帰ってきてくれるんでしょ?
のり子: ……(上手に数歩ふみだし、心の中の彼方を走っているコネバスを思う。そして、ふっきるように振り返り、企画書をよしみに返す)
よしみ: トドロ……
のり子: 先生のタバコは、あたしが買ってくる……何年さきになるかわからないけどね。
よしみ: トドロ……
のり子: そんな顔すんなよ。あたし、もう先生のことなんとも思ってない。もとどおり……ううん、尊敬してるよ。あんなバラバラなパッチワークみたいなアイデアを一つに縫いあげてしまうんだもん。
よしみ: だったら、戻ってくりゃいいじゃないよ。いつも隣同士で仕事してたから……となりのトドロがいなくなっちゃったら、ハンチクなあたしは、なにもできないよ。
のり子: 大丈夫だよ。よしみは十分にアシスタント……ううん、ピンのマンガ家にだってなれるよ……「トコロの森」お願いしますって……先生によろしく。
よしみ: どうしても……どうしても……行くんだよね……
のり子: 行く! 轟のり子はだんぜん行く!
よしみ: ……うん。
のり子: あ、バスが来た。
よしみ: トドロ……(バスの接近音)
のり子: よしみも元気で……じゃあね! あれ、バスがまがった。
よしみ: あ、上郷のトンネルが開通したんで、昨日からバス停は、下の道に移ったんだ。ほら、あそこでバスが停まっている。
のり子: そ、そんな。おーい、そのバス! 乗るよ、乗ります! ちょっと待ってぇ!
 
できれば花道を、なければ下手に駆け去る。テーマ曲FI。懸命に手を振るよしみ。
 
よしみ: トドロ! 元気で! 元気でねぇ! トドロ! トドロ!(バスの発進音。よしみの目線と手の振りようで、のり子がバスに間に合ったことが暗示される。テーマ曲FU)トドロォー……!
 
    幕
 
 
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