『エゴイスト ~egoist~』は主要キャストの誰よりも、綾女(あやめ)役の山本みどりさんがチャレンジングな演技をしているかもしれませんね。TBS系のポーラテレビ小説出身で、東海テレビ製作のこの枠でも80年代の『ふれ愛』シリーズなど昼帯と縁の深い山本さん、06年の『新・風のロンド』では一族唯一の良心ともいうべき温和で情愛深いお母さん、お祖母ちゃま役で長丁場で味を出してくれましたが、今作では実らなかった若き日の恋のトラウマを引きずったまま更年期=女としての晩年にさしかかってしまった、“母になりきれない女の怖さ痛さ”を披露してくれています。
綾女は突然、俄かに人格豹変して母親をかなぐり捨てたわけではありません。第1話ですでに、「スタイリストとして念願だったひとり立ちができた、大女優西条玲子(川島なお美さん)さんの担当を任された」と心はずませ報告する明里(吉井怜さん)に、芸能界の汚さを延々述べ立て、「元の堅いOLに戻ってほしい」とかき口説く姿は、“このお母さん、なりふり構わず働いて子育てしたっぽいけど、どっか狂ってるな”という説得力がじゅうぶんありました。
どんな理由や動機があるにせよ、我が子が幼い頃から好きで得意としている分野(明里は洋服)で就職して上を目指す夢に、露骨に嫌悪を示し全否定するような母親は、いくら身を粉にして働いて稼いでくれても、美味しいご飯を食べさせてくれても、いい母親、優しい母親とは言えないと思う。案の定、明里は綾女の実子ではなく、かつて結婚を約束した男を玲子が略奪してもうけた子でした。
“実の娘の香里(宮地真緒さん)ちゃんのようには、私を愛してくれていない”と気づいても、「お母さんはどこまで行ってもたったひとりの私のお母さん」と綾女を慕い続ける明里は、誕生直後に実親と切り離されれば、ゴムの玩具でも刷り込まれ親と思ってついて泳ぐアヒルの子のよう。
いまさら川島さんの西条玲子が“芸能界に君臨する大女優に見えない”、その実娘の、吉井怜さんの明里が“玲子を凌ぐ女優の資質を秘めた原石に見えない”なんてケチなツッコミを入れるのは止しときましょう。このドラマでは、事務所社長に扮する藤堂新二さん、玲子付きのマネージャーから明里について独立する近松寿美子マネ役・蘭香レアさんに出会えたのも大きな収穫。
藤堂さんは『相棒 season6』“正義の翼”以来久しぶりにTVでお顔を見たような気がしますが、実写版『スパイダーマン』で鍛えた持ち前の長身ガタイと“カッコつけてて偉そうだけど、ハラにいちもつ、ひとクセありそげ”以上に、これだけ“胡散臭&ナサケナコミカル”方向にツブしのきく俳優さんとは思わなかった。
蘭香さんは言うまでもなく元・宝塚スターで、ダンスに秀でた男役として鳴らし、同期には現・宙組トップ大和悠河さん、花組トップ真飛聖さん、元・花組トップ娘役ふづき美世さん、同雪組トップ娘役舞風りらさんらが顔を揃えている華々しいキャリアをお持ちです。劇中設定として、「昔、女優を目指してちょっと、いろいろやっていたことがある」けど、西条玲子と出会って「女優の才能ではかなわない」と悟り(………え?)、「この人を輝かせるためサポートに徹しよう」と決心した、その過程でZプロダクション善場社長とどういう具合に接点を持ち今日まで来たのか、社長役の藤堂さんとのやりとりを見ていると、そこばくと察しられるところがある。「○年前私がこれこれしたときアナタはああ言ってどうしてこうして、こうなったんだったわね?」式の説明台詞や、回想シーンがなくても人となりや、物語に入る前の時制での行動が想像できる、これぞドラマというものでしょう。
この枠ではナサケナ系の、善人よりむしろ小悪党役が多い野添義弘さんのエロプロデューサーも実にいいですな。シロウトがイメージする“ろくでもないギョーカイ人”の類型化としてこの上ない。脇役さんたちの過不足ない仕事っぷりで、かなり助けられているドラマです。