イエローフローライトを探して

何度も言うけど、
本当にブログなんかはじめるつもりじゃなかった。

密度 温度 深度

2009-05-09 21:40:21 | 昼ドラマ

先日の記事に続き、“昼帯ドラマにおけるテンポと話数の問題”について、いま放送中の『エゴイスト egoist~』を見守りつつ考察しようと思っていたら、同枠来月6月からの次クール作の情報がサンスポ東京中日スポーツと相次いで掲載されました。

 タイトルは『夏の秘密』。今年も夏クールのこの枠のメイン演出を手がけられる奥村正彦さんのブログでもすでに明かされていますが、61日~828日の3ヶ月13週、全65話と、今作は前クールまでのスケールに戻りました。

 奥村さんの演出とともに、脚本金谷祐子さん、こちらはこの枠07年『金色の翼』からほぼ2年ぶり。

満を持しての帰還と申し上げていいでしょう。金谷さんの06年『美しい罠』公式サイトインタヴューで「人物がそのとき、どう感じたか、どういう気持ちになったかという心情のリアリティさえ掴めれば、どんな展開でも書きます」と語っておられた、金谷さんのシナリオメイカーとしてのこの輝ける信条が実地に炸裂すれば、月河が先般の駄記事で書いた「“展開が遅い”と感じるのは、観客の喚起された情緒を劇中人物の言動やストーリーが掬ってくれないから」という問題はきれいに雲散霧消します。

この枠に限らず、不発に終わった連続ドラマのほとんどは、“イベント(≒出来事・アクシデント)数・局面転換数を隙間なく詰め込みさえすればテンポのいい、見逃せないドラマになる”と考え違いして、人物の心情をなおざりに上っ面だけの波乱万丈で視聴者をしらけさせ置き去りにしたことが敗因です。

心情を丹念に追い、追われて浮かび上がる情動のうねりが劇的な場面を演出し、ストーリーを深いところで衝き動かして、ストーリーの波乱がまた人物に新たな情動を惹起させる、途絶えない波濤の感じられる脚本を書いていただければ、3ヶ月だ2ヶ月だなどという些末な形式部分とは無関係に、必ず魅力的な作品になるはずです。

昨年の同クール作『白と黒』は金谷さんではなく、おもに2時間ドラマで実績ある坂上かつえさんを初めとする3人の複数脚本家体制で3ヶ月書き継がれましたが、視聴していて一再ならず、昼帯の勝手を熟知した金谷さんがこのテーマを書いていたら…と思うことはありました。状況や出来事の“基礎工事”は十分と思えるものでしたが、「あの人物がこう来れば、この人物はこう動くだろう」「自分が彼女(彼)ならばこう感じ、これこれな言動に出たいところ」という観客の心情に、実際画面で展開される場面場面、セリフセリフがなかなか寄り添ってくれず微動のままで、結果「展開が遅い」「飽きる」のそしりを免れませんでした。

また月~金の週日5日で2ヶ月という“容積”を、書き手が過小に見積もり過ぎていて、盛り込むイベント数、と言うより、脇・端役を含めた人物の人間性の凹凸・陰陽など、画素数ならぬ“話素(わそ)”数が絶対的に不足だったことも作品を残念にしていました。

毎話正味24分とあなどるなかれ、この器に盛り込み得る情報量は半端でないのです。セリフの片言隻句、フレームの四隅、人物の目線の向け方切り方ひとつで、夜時間帯の54分枠のドラマよりはるかに密に、高体温に物事を伝え、観客の心理の琴線を揺さぶり震わすことが出来るのに、時間を水道水のように使い流すところがやや多過ぎた。テーマ性や俳優さんの役配置は決して間違っていなかったと思えるだけに、“肉付け”の薄さで痩せてしまい、いささか損した作品でした。

2年ぶりの金谷脚本投入で、奥村監督によれば早くも“パワフル且つパッショネートな「愛」と「憎」のディアレクティーク”でスタッフを魅了してくれているとのこと。例年に増して期待できそうです。

キャストの中では、ヒロイン・紀保役の昼帯初主演山田麻衣子さんもさることながら、月河がいちばんシンパシー持って見守りたいと思うのは、不幸な事件からアクシデンタルに彼女と共闘することになる伊織役の瀬川亮さんですね。

03年~04年放送の『超星神グランセイザー』で主役の弓道天馬を演じた頃は“体当たりぶりが好感持てる新人さん”以上の何ものでもなかったのですが、その後NHK朝ドラ『ファイト』や大河ドラマ『風林火山』、あるいは土曜ワイド劇場『法律事務所』のゲスト出演などいくつかのドラマで出会いがしらにお顔を見かけると、すっかり役者の面構えになっておられて軽い驚きでした。

特撮ヒーロー俳優さんのこの枠来演はほぼ恒例になっていますが、雑誌・CMモデルやイメージボーイ出身が多いヒーロー組の中では、ガタイ的に“小ぶり”な瀬川さんは、俳優を志すまでの経歴とともにちょっと異色の存在です。そして奥村監督の言葉「“”と“”のディアレクティーク」というイメージに、気がつけば思いのほか嵌まりのいい俳優さんなんですね。

単なる“ヒーローっぽいカッコよさ”“催萌性”にとどまらない、目の中に“愛”と“憎”、“”と“”、“”と“”、“”と“”、“”と

”など相反する要素を両方宿すことのできる人だと思います。瀬川さんにも新境地作になる可能性十分。殻を一枚破るベクトルが、作品にとっても大きな推進力になってくれるといいですね。

コメント (2)
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